
企業経営における「絶対的な正解」とされてきたDEI(多様性・公平性・包摂性)推進。しかし、GoogleやAmazon、マクドナルド、PepsiCoなどの米大手企業も、DEI目標の撤廃や再編を進めており、「DEIの後退」が進行中です。さらに、トヨタや日産といった日本のグローバル企業が、アメリカにおけるDEI活動の見直しを始めています。では、DEIを進めるべき企業と、今は後回しにすべき企業の違いとは何か。そこには「DEIの弱点」が大きく関係していました。ベンチャーキャピタルANOBAKAで代表を務める長野泰和氏が解説します。(構成/ダイヤモンド・ライフ編集部)
「DEIの価値」は
歴史が証明済み
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
これは、ドイツ帝国初代宰相のオットー・フォン・ビスマルクの言葉です。
私は歴史が好きで、歴史の教訓を現代の経営に生かせないかという視点を常々持っています。なので、DEI後退という現代のニュースも歴史的な観点から分析してみることで、本質的な問題が見えてくるはずです。
DEIが推進される最初のきっかけとなったのは、おそらく南北戦争でしょう。1861年から1865年までアメリカ合衆国の南部と北部との間で繰り広げられた内戦です。奴隷制・関税問題をめぐり北部商工業者と南部綿花栽培業者の対立が激化しました。戦争はリンカーン大統領が率いた北部が勝利し、黒人が選挙権を獲得しました。
南北戦争以降、社会の発展と停滞を繰り返しながら、人類は「認知バイアス(経験などによる思い込みや先入観によって事実を誤認し、その結果として適切な判断や思考ができなくなる現象)」を是正するための社会実験を繰り返してきたと捉えることができます。
第2次世界大戦において、日本軍が始めた無謀な戦争も、ナチスの優生思想に基づいた迫害も失敗に終わりました。歴史の多くの場面からは「同質性が高く、認知バイアスが発生しやすい組織の意思決定は失敗する」という法則を読み取ることができます。
歴史的な経緯から合意を得たように見えたDEIが、なぜ後退するのか。これには、大きく2つの理由があります。