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概要
テレビ朝日は、伝統的なテレビメディアを基盤にしつつ、IP(知的財産)戦略を活用してブランド価値を最大化しています。人気番組やキャラクターを多様なメディアに展開することで、視聴習慣の変化に対応し、新規視聴者を獲得しています。また、同社のアプローチは他の企業にとっても再現可能であり、顧客にどのように支持されるかのヒントを提供しています。
要約(箇条書き)
- テレビ朝日は、IP戦略を通じてブランド価値を拡大。
- 人気番組(例:『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』)を多媒体に展開。
- YouTube、TVer、ABEMAなど新興プラットフォームへの戦略的なアプローチ。
- 若年層グループの獲得や視聴習慣の変化に対応。
- イベント、海外販売、グッズ展開で収益を強化。
- 統合型マーケティングへの進化を図り、収益の多角化を推進。
- テレビ朝日は「感動と信頼を届けるコンテンツ創造企業」と定義。
- 近年、若年層との接点減少や地上波視聴率低下が課題。
- IP資産の利用が限られ、収益源が単発にとどまる問題。
- 組織の縦割り構造がビジョンの実現を妨げていた。
- これらの課題に対し、事業再設計で対応している。
テレビ朝日は、テレビという伝統的なメディアを基盤としながらも、コンテンツの価値を多面的に拡張する“IP(Intellectual Property)戦略”によって大きな成果を上げています。
『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『仮面ライダー』『相棒』『アメトーーク!』『報道ステーション』など、時代を超えて支持される番組・キャラクターを数多く擁する同社は、これらの資産を単なる視聴コンテンツとして終わらせず、多媒体・多業態に展開することで、ブランド価値を最大化してきました。
特に近年は、YouTubeやTVer、ABEMAなどの配信プラットフォームにおいて自社IPの“見せ方”を戦略的に変化させ、若年層を含む新規層の獲得と視聴習慣の変化への対応を両立。
同時にイベント事業や海外販売、キャラクターグッズ展開などでマネタイズを強化し、“テレビコンテンツを軸とした統合型マーケティング”へと進化しています。
このようなIP活用型マーケティングは、メディア企業に限らず、“ブランド資産を持つすべての企業”にとって再現可能なモデルでもあります。
テレビ朝日の取り組みは、企業にとって「持っている価値をどう広げ、どう稼ぎ、どう愛されるか」を考えるヒントに満ちています。
テレビ朝日とは?
テレビ朝日の事業内容
株式会社テレビ朝日は、日本を代表する民間放送局の一つで、テレビ朝日ホールディングスの中核企業です。
「報道」「ドラマ」「バラエティ」「スポーツ」「アニメ」といったジャンルで多彩な番組を制作・放送し、関東圏に地上波を届けるだけでなく、BS朝日やCS放送、インターネット配信など複数のチャネルを活用した多層的なメディア展開を行っています。
代表的な番組には『報道ステーション』『相棒』『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『アメトーーク!』などがあり、視聴率だけでなく、IPコンテンツとしての資産価値の高さが特徴です。
また、テレビ事業に加えて、イベント企画、映画制作、音楽・グッズ販売、海外番組販売など、番組の二次利用やクロスメディア収益の拡大にも積極的です。
テレビ朝日は、今や「放送局」という枠を超え、IPプロデュース企業・ブランドエンターテインメント企業としての側面を強めつつあるメディア総合企業です。
テレビ朝日が掲げるビジョン
テレビ朝日は、自社の存在意義を「感動と信頼を届けるコンテンツ創造企業」と定義しています。
単に“情報”や“娯楽”を提供するのではなく、社会に対して前向きな影響を与える番組作りと、世代を超えて共感される作品群の創出を重視しています。
ビジョンの中心にあるのは、「時代の変化に柔軟に対応しながらも、“本質的な価値”を失わないこと」。
急激に進化するデジタル技術や視聴環境の中で、“どこで見ても、何度見ても、その中にあるメッセージや温度は変わらない”という、“一貫した信頼と熱量”をコンテンツに込める姿勢が明確です。
また、地上波から配信、海外展開まで広がる中で、「人と人との関係をつなぐ力としてのコンテンツ」を追求しており、
その姿勢は番組開発だけでなく、マーケティング・ブランド戦略・社会貢献活動にも反映されています。
テレビ朝日の歴史
テレビ朝日は、1959年に「日本教育テレビ(NET)」として開局し、1980年に現在の「テレビ朝日」へと社名変更されました。
当初は教育専門局としてスタートしたものの、その後は一般向け娯楽番組や報道番組に力を入れ、1980年代以降に多くの国民的コンテンツを生み出しました。
特に1990年代以降、『ドラえもん』『しんちゃん』『相棒』といった長寿番組が軒並み高視聴率を記録し、家庭や学校、ビジネス層を含む幅広いターゲットにリーチするメディアへと成長しました。
また、2000年代には六本木ヒルズに本社を移転し、最新設備を整えた放送センターと連動しながら、イベント・グッズ・映画などのクロスメディア展開を加速。
現在では、地上波放送を主軸としながらも、YouTubeやTVer、ABEMAなどの新興プラットフォームとも積極連携し、「テレビの未来像」を体現するリーディングカンパニーの一つとなっています。
テレビ朝日が直面した課題
テレビ朝日は、長年にわたり多くの国民的コンテンツを生み出してきましたが、メディアを取り巻く環境の急激な変化により、既存の放送モデルや視聴者接点の在り方が大きく揺らぎました。
スマートフォンの普及、配信サービスの台頭、若年層のテレビ離れ、広告主の多媒体分散など──これらは全て、テレビ朝日の“地上波至上主義”を根本から問い直すものでした。
以下では、テレビ朝日が直面した代表的な4つの課題について詳述します。
1. 地上波の視聴率低下と“リアルタイム視聴”の終焉
かつては家庭の中心にあったテレビも、今ではスマートフォンやPCに視聴の主導権を奪われつつあります。
テレビ朝日も例外ではなく、ゴールデンタイムにおける視聴率の低下、特に若年層のリアルタイム離れが顕著になりました。
録画や配信で“後から見る”という視聴スタイルが浸透したことで、「放送時間=視聴機会」という従来の常識が崩壊。
その結果、番組内容がどれほど面白くても、“その瞬間に見てもらえなければ”視聴率という指標には反映されないというジレンマが深刻化しました。
広告主の出稿も「テレビ=最大リーチ」から「ターゲティングが効く媒体」へとシフトし、テレビ広告のROI(費用対効果)に対する疑念も拡大。
これにより、広告単価の維持も難しくなり、“高コスト・低視認性”と見なされる局面すら出てきました。
このように、放送メディアとしての中心的役割が揺らぐ中で、テレビ朝日は“テレビらしさ”を残しつつ、“視聴の新たな形”に対応する構造転換を迫られたのです。
2. 若年層との接点消失とブランド距離の拡大
テレビ朝日が抱えていたもう一つの大きな課題は、10代〜20代の若年層との接点が著しく減少していたことです。
スマホネイティブ世代にとって、テレビは“時間を拘束される不便なメディア”という印象が強く、Z世代の間では「そもそもテレビを見ない」ことすら一般化しています。
さらに、若者が支持するYouTuberやインフルエンサーが日常的に発信する“共感性重視のコンテンツ”に比べ、テレビ番組は「演出過多」「作られすぎている」などのイメージを持たれがちで、エンタメとしての魅力よりも、“距離感”がブランドへの障壁となっていたのです。
これにより、テレビ朝日は若年層の間で「信頼されているが親しみがない」「番組は知っているが能動的には見ない」という矛盾したポジショニングに陥っていました。
視聴者としての獲得だけでなく、将来的なファン育成、グッズ購入、イベント参加といった“エンゲージメントの起点”を失っていたのです。
3. IP資産の活用が“単発収益”にとどまる構造
テレビ朝日には『ドラえもん』『仮面ライダー』『しんちゃん』『相棒』など、国民的IP(知的財産)が多数存在します。
しかしこれまで、それらの多くは「地上波で放送→映画化→DVD発売」という限定的な活用ルートに留まっていたという問題がありました。
IPの強さは持続的に価値を発揮できることにありますが、テレビ朝日では“番組終了とともに収益源も終了する”という番組依存の構造が根強かったのです。
また、YouTubeやSNSでの再編集・切り出し配信、イベント・コラボ商品の展開など、IPをマルチチャネルに展開する設計思想が弱かったため、持っている資産の“稼ぐ力”が十分に引き出されていませんでした。
このような状況では、いかに強力なIPであっても“時間とともに風化する”リスクを抱えることになり、「資産はあるのに利益が出ない」状態に直面していたのです。
4. 組織構造の縦割りと“メディアを越える発想”の欠如
テレビ朝日の組織は、報道・制作・編成・営業・技術といった部門ごとに縦割り構造が強く、コンテンツを“事業”として俯瞰する視点が持ちにくい状態にありました。
番組単位での評価、放送時間に合わせた業務体制、編成局の指示による改編──こうした構造では、「視聴率を取ること」が最優先され、コンテンツのライフサイクルを長期で捉える思考が育ちにくいのです。
また、SNS活用、EC連携、海外展開、IPライセンスなど、“放送外”の施策は新設部門に依存していたため、現場と連携した全社的な取り組みになりにくいというジレンマもありました。
結果として、「番組を作るチーム」と「広げる・売るチーム」が分断されている」構図となり、総合力が発揮できていない現実が浮き彫りに。
変化に対応できる柔軟性とスピード感のある横断体制が、テレビ朝日にとって急務となっていたのです。
テレビ朝日は、地上波の衰退、若年層との接点消失、IPの活用不足、組織構造の硬直といった多層的で構造的な課題を抱えていました。
これらは単に「視聴率が落ちた」という表面的な問題ではなく、“テレビ”というメディアの存在意義そのものが問われる転換点を意味していました。
今後も競争が激化する中で、テレビ朝日がブランドとして再定義され、コンテンツ企業としてどのように変革を遂げたのか──
次のセクションでは、その具体的な打ち手を見ていきます。
テレビ朝日はどうやって課題を乗り越えた?
従来の「テレビ番組を放送する会社」から、「IPを起点にブランドと収益を多方面で拡張するコンテンツプロデューサー」へ──。
テレビ朝日は、自らの強みと時代のニーズを重ね合わせることで、“放送局”という枠を超えたマーケティング的発想による事業再設計を行ってきました。
以下では、テレビ朝日が直面した複合的な課題をいかに解決し、どのような戦略によって再成長を実現したのかを、5つの取り組みを通して解説していきます。
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