金曜日, 5月 16, 2025
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チンパンジーが仲間同士で「傷口に薬を塗り合う」行動を発見!


人類の医療行動の起源は、私たちが思うよりもずっと昔から始まっていたのかもしれません。

英オックスフォード大学(University of Oxford)の最新研究で、東アフリカ・ウガンダの森林に生息するチンパンジーのグループが、仲間同士で傷口に薬草を塗りあって応急処置をしている行動が確認されました。

この発見は、チンパンジーが自分自身だけでなく、仲間にも“薬”を用いてケアを行うという初めての確かな証拠です。

人類の医療行動の進化的起源への理解を深めてくれるものと考えられています。

研究の詳細は2025年5月14日付で科学雑誌『Journal Frontiers in Ecology and Evolution』に掲載されました。

目次

  • 仲間同士で薬を塗り合っていた
  • 血縁関係のない仲間も助けていた

仲間同士で薬を塗り合っていた

本調査では、ウガンダにあるブドンゴ森林にて、ソンソ群ワイビラ群という2つのチンパンジーの群れを観察対象としました。

研究チームは30年以上の記録やビデオデータに加え、2021年と2022年の4か月間の現地観察を通して、合計41件のケア行動を記録しています。

そのうち34件が自己ケア(self-care)、7件が仲間へのケア(prosocial care)でした。

自己ケアでは、チンパンジーが自分の傷を舌でなめたり、葉を使って傷口をポンポンと叩いたり、噛み砕いた植物を傷に塗ったりする様子が観察されました。

特に興味深いのはチンパンジーたちがちゃんと科学的に薬用効果のある植物を選んでいたことです。

チームが応急処置に使われた植物を後で回収し、成分を調べてみると、抗菌・抗炎症・鎮痛作用があることが確認されました。

こちらはチンパンジーが自分で傷口のケアをする様子を捉えた映像。

※ 視聴の際は音量にご注意ください。

さらに驚くべきことに、チンパンジーたちは仲間同士でも傷のケアをしていたのです。

他の個体の傷をなめたり、指をなめた後に傷口に押し当てたり、噛み砕いた植物を塗る行動が複数回記録されました。

また研究者は衛生行動にも注目しました。

チンパンジーは交尾後に葉で性器を拭き、排便後に葉で肛門を拭くなど、感染症予防に役立つと考えられる行動を行っていました。

このような行動は社会的絆の強さや群れの衛生環境の維持に寄与している可能性があり、動物界でも高度なコミュニティケアの存在を示しています。

血縁関係のない仲間も助けていた

チームは、この発見が人間の医療行動の進化的ルーツを考える上で非常に重要だと指摘しています。

人類が本格的な医療システムを築く以前から、霊長類の祖先は自らや仲間の健康状態を認識し、対処していたのかもしれません。

論文では親兄弟だけではなく、血縁的に遠い仲間たちにもケアを施す行動が特に注目されました。

7件の仲間へのケアのうち4件は血縁関係のない相手へのケアで、2件は人間がしかけた罠にかかった仲間を助ける行動でした。

これは「利他行動」が進化してきた証拠の1つと考えられています。

特にソンソ群では母娘ペアや兄弟間、さらにはオスからメス、メスからオスへのケアも見られ、性別や年齢、血縁に関係なく行われていました。

使用された植物の多くは、ヒトの伝統医学でも傷の治療や皮膚病、感染症の治療に利用されている種類であり、チンパンジーが経験則に基づいて植物を選択している可能性が示唆されています。

こうした行動は単なる偶然ではなく、学習や経験の蓄積によるものであるとチームは考えています。

特に重症の場合は植物を使う傾向が見られ、単なる舌なめや指なめによる物理的清掃と、薬効を期待した植物の併用という高度な判断が存在している可能性があります。

傷口のケアをするチンパンジーの様子/ Credit: Elodie Freymann et al., Journal Frontiers in Ecology and Evolution(2025)

今回の研究は、野生のチンパンジーが人間に似た医療文化の萌芽を持っていることを初めて本格的に示した貴重な成果です。

この行動は人間の医療行動の起源を探るだけでなく、動物たちの認知能力や社会性の奥深さをも浮き彫りにしています。

人類の医療のルーツは、遠い祖先が森の中で仲間の傷に植物をそっと塗ってあげた瞬間から始まったのかもしれません。

今後もこの分野の研究が進むことで、「治すこと」「助けること」という行動の進化がどのように形成されてきたのかがさらに明らかになることでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

Chimpanzees use medicinal leaves to perform first aid
https://www.frontiersin.org/news/2025/05/14/chimpanzees-medicinal-leaves-first-aid-frontiers-ecology-evolution?utm_source=semafor

元論文

Self-directed and prosocial wound care, snare removal, and hygiene behaviors amongst the Budongo chimpanzees
https://doi.org/10.3389/fevo.2025.1540922

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部



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🧠 編集部の感想:
チンパンジーが仲間同士で傷口に薬草を塗り合う行動を発見したというニュースは、動物の社会性や認知能力の深さを示しており、驚きです。人類の医療行動の起源がより古くから存在していた可能性を感じさせ、研究の重要性が増しています。この発見が、今後の進化研究に新しい視点を提供することを期待しています。

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