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スマイルカーブ「上流」での,人間の価値の出し方Takashi Nakayama

🧠 概要:

概要

この記事では、AI技術の進化によってビジネスや働き方が変わる中、特に「スマイルカーブ」の「上流」部分に注目し、人間がどのように価値を出し、役割を果たすべきかが考察されています。著者は、AI時代においては創造性や共感を重視し、人間独自の「問いを立てる力」「対話する力」「構想する力」が重要だと主張しています。

要約の箇条書き

  • AIの進化: AI技術が業務自動化を進めており、人間の働き方に影響を与えている。
  • スマイルカーブの定義: 付加価値の分布を示す理論で、特に上流(企画・研究開発)と下流(マーケティング・サービス)が重要。
  • 中流工程の自動化: 中流(製造・作業)がAIに置き換わり、創造的な上流と顧客対応の下流に人間が集中する必要がある。
  • 重要な三つの力:
    1. 問いを立てる力: 現状を疑い、本質的な課題を発見する能力。
    2. 対話する力: AIや他者と深くコミュニケーションし、共創する能力。
    3. 構想する力: 未来のビジョンを描き、実現に向けての戦略を設計する能力。
  • 具体例: コールセンターの離職問題における「問い」の力を転換した事例や、AIを利用した業務改善のアプローチが紹介されている。
  • 結論: AI時代において人間は自身の問い、対話、構想を通じて自己価値を高め、新たなビジネスシーンで活躍することが求められる。

スマイルカーブ「上流」での,人間の価値の出し方Takashi Nakayama

Takashi Nakayama

2025年5月20日 09:34

 AI技術の進化は、僕たちの働き方やビジネスのあり方を根底から揺るがし始めています。

 「AIによる業務自動化」という言葉は日常的に聞かれ、人間の専売特許とされた知的作業の領域でも、AIはその能力を遺憾なく発揮しています。

 このような時代において、人間はどこに価値を見出し、どのような役割を担っていくべきなのでしょうか。

 今回は「スマイルカーブ」という考え方を用いて、AI時代のビジネスにおける「人間の役割」を考えていきましょう。

スマイルカーブとは?

 台湾のIT企業Acerの創業者、スタン・シー氏が提唱した「スマイルカーブ」とは、製品やサービスが顧客に届くまでの各工程における付加価値の分布を示す理論です。

 このカーブは、企画や研究開発などの「上流工程」と、マーケティングやアフターサービスといった「下流工程」で高い付加価値が生まれ、製造や組立といった「中流工程」では相対的に低い付加価値となることを、笑顔の口元のような曲線で表現しています。

 ※ですから「上流」「下流」というのはあくまでも工程のことで、優位、劣位という意味ではないことを、あらかじめ念押ししておきますね。

 近年、AI技術の急速な進化により、特に「中流」工程の効率化や自動化が進んでいます(上の図の「AIによるタスクの実行 成果物の作成」)。

 ビジネスの現場での「中流」工程といえば、定型レポート作成やプログラミングのソースコード作成といったものです。「中流」の作業は、人手を介さずとも成果を出せるようになりつつあります。リサーチもDeep Researchを使えば、コンサルタントが2週間かける作業が10分で終わります。

 これにより、人間の役割は、創造的なアイデアを生み出す上流工程(企画構想)と、顧客との深い共感を必要とする下流工程(アウトプット)に集中していく傾向が強まっていく……いや、せざるを得なくなっていくのです。

「上流」と「下流」に必要なのは?

 たとえばの記事なら、「どんなテーマで、どんな切り口の記事を書くか」が「上流」で、「出来上がった記事をどのように発信し、読者とどう繋がるか」が「下流」の工程ということです。

・上流工程(企画構想)→創造性
・下流工程(アウトプット)→共感性

 現在のビジネスにおける人材の上流~下流の割合は、「上流20%」「中流60%」「下流20%」のイメージとなります。

 上流20%とは、企画・構想・戦略立案など 何を作るかを決める部分。下流20%とは、アウトプットを世に出す最終的な仕上げと発信の部分。そして中流60%が、実際の作業工程やコンテンツ作成の部分で、ここがAIに置き換わっていくわけです、

 結果として、多くの人が従事してきた中流60%の仕事は人間の手から離れ、そこに居た人たちは、「上流」か「下流」に移動することになります。

今回のテーマ=スマイルカーブ「上流」の生き残り戦略

 本稿では、このスマイルカーブのうち、特に「上流」の部分に焦点を当てて深掘りしていきたいと考えています。スマイルカーブの「下流」における人間の価値については、次回詳しく論じる予定です

 さて、このスマイルカーブの「上流」において、人間がその価値を最大限に発揮するためには、どのような力が必要となるのでしょうか。僕は、大きく分けて3つの力が重要になると感じています。

問いを立てる力(質問力):現状を疑い、本質を見抜き、新たな視点や課題を発見する力。

対話する力(コミュニケーション能力):AIや他者と深く意思疎通を図り、共感し、共創を生み出す力。

構想する力(構想力):まだ見ぬ未来を具体的に描き、その実現に向けた道筋を設計し、周囲を巻き込みながら形にしていく力。

 これらは目新しい能力ではありません。しかし、AIという新たなパートナーを得た現代において、これらの人間ならではの力は、その本質的な価値を再発見され、ビジネスシーンでかつてないほどの輝きを放ち始めています。 これらがスマイルカーブの上流でいかにして人間の価値を高め、AI時代における新たな成長戦略を可能にするのか、具体的な事例を交えながら深掘りしていきます。

①問いを立てる力――“学習の苦痛”を“知的な楽しみ”に変える発想の転換

 多くの企業、特に顧客接点の最前線であるコールセンターなどでは、オペレーターの高い離職率が長年の経営課題となっています。

 その根深い原因の一つに、頻繁に更新され、かつ膨大な量の業務マニュアルを絶えず習得し続けなければならないという、オペレーターへの過度な負担が挙げられます。

 毎月のように数百ページに及ぶPDFマニュアルが改訂され、「来週までに習得必須」といった指示が飛ぶ。日中の業務で疲弊したオペレーターは、その後、自宅での自己学習を強いられ、ようやく覚えたと思えば、また新たな改訂版が…という、終わりの見えない学習のループ。

 この「追いつけない自分」への焦燥感や、「また覚えなければならない」という心理的圧迫感が、知らず知らずのうちに彼らのモチベーションを削ぎ落とし、結果として高い離職という形で現れるのです。

 顧客満足を追求するための知識習得が、皮肉にも従業員のエンゲージメントを著しく低下させるという、典型的なジレンマがここには存在します。

 このような状況に対し、一般的なアプローチとしては、「いかにしてマニュアルを効率的に学ばせるか?」「もっと分かりやすいマニュアルをどう作るか?」といった「問い」が立てられがちです。

 そして、その問いに基づき、eラーニングシステムを導入したり、AIを活用してマニュアルを要約したり、より洗練された検索システムを開発したりといった施策が実行されます。

 しかし、これらの改善策を講じても、オペレーターの離職率が劇的に下がることは稀です。なぜなら、問題の本質は「学び方の効率」や「マニュアルの質」以前に、「学ぶ」という行為そのものにオペレーターが「苦痛」を感じている点にあるからです。 ここで僕ならば、全く異なる角度から「問い」を立てます。オペレーターが苦痛を感じているのは、システムやマニュアルの内容以前に、「学ぶ」という行為そのもの、あるいは「学ばなければならない」という義務感に対してではないか。だとすれば、変えるべきは「学び方」の効率ではなく、「学ぶ」という概念そのものではないか、と。 この認識に基づき、僕は次のような「問い」へと転換します。

「マニュアルに書かれている内容を『学ぶ』という苦痛に満ちた行為を、オペレーターが自ら進んで関与したくなるような『アミューズメント』、すなわち知的な『楽しみ』へと変容させることはできないだろうか?」

 この「問い」の転換は、その後に続く具体的なアクションや、開発されるAIシステムの内容を全く異なる方向へと導きます。例えば、この新しい「問い」からは、次のような具体的なアイデアが生まれるかもしれません。

アイデア1:「耳で楽しむマニュアル・ポッドキャスト」
 マニュアルの内容を、専門のDJが面白いトークで解説するポッドキャスト番組として制作し、オペレーターが通勤時間や休憩中に気軽に聞けるようにする。新商品の特徴や業務プロセスの変更点などを、ラジオドラマ仕立てにしたり、クイズ形式を取り入れたりすることで、「勉強」ではなく「エンタメコンテンツの視聴」へと変容させる。

アイデア2:『AIアバターとの対話型ゲーミフィケーション学習』 
 
オペレーターが自身のスマートフォンやPCからアクセスできるAIアバターを開発する。単にマニュアルの内容を説明するのではなく、オペレーターとの雑談や相談に応じながら、自然な流れで業務知識に関するクイズを出したり、ロールプレイングの相手になったりする。

 学習の進捗に応じてポイントが付与され、アバターの見た目や機能がグレードアップするなど、ゲーム感覚で楽しく知識を習得できる仕組みを構築する……。

 重要なのは、AIアバターとの「対話」を通じて、孤独な学習ではなく、誰かと一緒に目標を達成していくような感覚を醸成することです。

 これらの「問い」と、そこから生まれる具体的なソリューションは、当初の「いかに効率的に覚えさせるか」という問いからは決して生まれ得なかったものです。

 そして、実際にこのようなアプローチ転換によって、オペレーターの学習に対する心理的ハードルが劇的に下がり、エンゲージメントが向上し、結果として離職率が大幅に改善したという事例は、決して少なくありません。

 この事例が示すように、スマイルカーブの上流における「問いを立てる力」とは、単に問題を発見する能力ではありません。問題の本質を見抜き、時には問題そのものの定義を大胆に組み替えることで、全く新しい解決策への道筋を照らし出す力なのです。

 どのような「問い」を立てるかによって、その後の実行プロセスも、生み出されるAIやシステムの姿も、そして最終的なビジネス成果も、全く異なったものになります。

 この「問い」の戦略的重要性は、変化の激しい現代のビジネス環境において、ますます高まっていると言えるでしょう。

②コミュニケーション力――AI、組織、顧客との「対話」が織りなす価値増幅の三重奏

 第二の力として、「コミュニケーション力」、すなわち「対話する力」の重要性がますます高まっています。3つの側面から探っていきましょう。

①AIとの対話:「何を」AIに任せるかを共創するプロンプト・クラフティング
 AI、特に生成AIとの協働において、的確な指示を出す能力、すなわち「プロンプトエンジニアリング」の重要性は広く認識されるようになりました。しかし、スマイルカーブの「上流」における価値創造を考えるとき、僕たちはさらに一歩踏み込む必要があります。

 それは、AIに具体的なタスクを指示する「前」の段階、つまり「そもそも何をAIに任せるべきか」というタスク定義そのものを、AIと対話しながら共創していくという視点です。

 単にAIに明確な指示を与えるだけでなく、AIからの初期提案や応答を解釈し、人間が持つ洞察や暗黙知をフィードバックとして与え、さらに問いを重ねる。この反復的な対話を通じて、AIと人間が一緒になって、取り組むべき課題の本質や、AIが貢献できる最適なタスク領域を見極めていくのです。

 例えば、ある消費財メーカーのR&D部門が新製品開発にAIを活用しようと考えたとします。ここでいきなり「新製品のアイデアを10個出して」とAIに指示するのではなく、まずはAIとの対話を通じて、「我々の技術シーズと市場の潜在ニーズを掛け合わせると、どのような製品カテゴリーに可能性があるか?」「競合が見落としている、特定の顧客セグメントの未充足ニーズは何か?」といった、より上流の問いを探求するのです。

 AIが提示するデータや分析結果に対し、人間が持つ経験や直感をぶつけ、議論を深める。このプロセスを経て初めて、「では、この特定された有望領域において、具体的な製品コンセプトをAIと共に考えてみよう」という、より的確で価値のあるタスク設定が可能になるのです。

 このように、AIとの対話は、単に指示を出すという一方向の関係ではなく、AIを思考の壁打ち相手、あるいは発想の触媒として活用し、人間とAIが互いの強みを活かしながら「何をすべきか」を共に見つけ出していく「共創的チューニング」のプロセスとなります。この粘り強い対話こそが、AIを単なる作業実行ツールから、真の戦略的イノベーションパートナーへと昇華させるのです。

②組織内での対話:AI活用のための「根回し」と「合意形成」の重要性 AIに具体的なタスクを依頼する前段階として、組織内における人間同士のコミュニケーションもまた、スマイルカーブの上流における重要な価値創造プロセスです。どんなに優れたAIソリューションを構想しても、それに関わる社内の人々、特に現場の理解と協力なしには、絵に描いた餅に終わってしまいます。

 AI導入プロジェクトにおいては、関係部署との事前の調整や、AIによって業務が変化する可能性のある従業員への丁寧な説明、そして彼らの不安や懸念を解消するための「根回し」が不可欠です。これは、AIには決してできない、人間ならではの共感力や交渉力が求められる領域です。

 例えば、ある中堅物流会社が、配送ルート最適化のためにAI運行管理システムを導入しようとしたケースを考えてみましょう。経営陣はコスト削減と効率向上を期待しますが、現場のベテランドライバーからは、「AIに長年の勘が否定されるのか」「結局、監視されるだけではないか」といった反発が予想されます。

 ここで重要なのは、AIシステムの技術的優位性を一方的に説明するのではなく、まずドライバーたちの声に真摯に耳を傾けることです。

 「皆さんの経験と知恵は会社の財産であり、AIはそれを奪うものではなく、皆さんの業務をサポートし、負担を軽減するための賢い相棒です」といったメッセージを伝え、彼らの感情に寄り添うことが求められます。

 さらに、システムの設計段階から現場の代表者を巻き込み、彼らの意見を反映させる「共創ワークショップ」などを開催することも有効です。

 AIが提案するルートに対する最終判断はドライバーに委ねる、現場のリアルタイム情報をAIにフィードバックすることでシステムを「育てる」役割を担ってもらうなど、彼らがAIを「使わされる」のではなく、「使いこなし、育てる」主体となれるような仕組みを共に考えるのです。

 これは、AIがサブだということではなく、あくまでAIを使って人が働くためには、納得感が必要というお話しです。

 意外かもしれませんが、AI共存時代だからこそ、僕たちは、人とよく話をし、説得したり、論理的に説明することで、AIシフトをしないと、何も動きません。そこには、感情と論理の両方を使いこなせる、高度なコミュニケーション力が必要なのですね。

③顧客との対話:AI活用の前提となる「真の課題特定」
 もう一つの重要な側面は、顧客との対話です。

 特に、顧客の課題解決のためにAIを活用しようとする場合、AIに具体的なタスクを依頼する「前」に、顧客が本当に抱えている課題は何か、その本質的な原因はどこにあるのかを、深い対話を通じて正確に特定することが不可欠です。

 顧客が口にする要望は、必ずしも真の課題を反映しているとは限りません。例えば、ある老舗和菓子屋の店主が「若い顧客向けのSNS映えする新商品をAIで開発したい」と相談に来たとします。

 しかし、コンサルタントが対話を深める中で、「伝統の味と新しい顧客層への訴求のバランスに悩んでいる」「オンライン販売を強化したいが、店の『おもてなしの心』をどう伝えればいいか分からない」といった、より根源的な課題や想いが見えてくるかもしれません。

 このような場合、AIにいきなり「SNS映えするレシピを考えて」と指示するのではなく、まずは顧客との対話を通じて、「店の独自の価値は何か」「ターゲット顧客が本当に求めている体験は何か」といった本質を掘り下げます。

 その上で初めて、「顧客の購買履歴や嗜好をAIで分析し、パーソナライズされたおもてなしを提案するシステムを構築する」「熟練職人の技をAIで可視化し、若手への技術伝承とブランドストーリー発信に活用する」といった、真の課題解決に繋がるAI活用タスクが見えてくるのです。 AIにタスクを依頼するという流れは、あくまで顧客の課題を特定し、その解決策を構想した「後」に来るべきものです。その大前提となる顧客の真のニーズを掘り起こすためには、表面的な言葉に惑わされず、共感を持って相手の立場を理解し、本音を引き出す高度なコミュニケーション能力が求められます。これこそが、AIトランスフォーメーションを成功に導くための、人間ならではの重要な「事前処理」と言えるでしょう。 このように、「対話する力」は、AIとの協働を深化させ、組織変革を円滑にし、そして顧客に本質的な価値を届けるための、スマイルカーブ上流における不可欠なエンジンなのです。

③構想力――AIと共に描き、創造する、自律分散型の未来図

 ①「問いを立てる力」で現状の壁を打ち破り、②「対話する力」でAIや人々と深く繋がり、新たな価値の共鳴を生み出す様を見てきました。いよいよ本稿の締めくくりとして、スマイルカーブの上流で人間が発揮すべき第三の力、そしておそらく最も人間らしい創造性が求められる「構想する力」を見ていきます。

 この「構想する力」とは、単に未来を予測したり、トレンドを分析したりする能力とは一線を画します。それは、「こうありたい」「こんな未来を創り出したい」という主体的な意志に基づき、まだ見ぬ未来の姿を具体的に心に描き、その実現に向けた道筋や戦略を設計し、さらには周囲の人々を巻き込みながら、情熱を持ってそのビジョンを形にしていく力のことです。

 AIが過去の膨大なデータから最適なパターンを見つけ出し、未来予測の精度を高めることはできても、人間のように「意志」を持ってゼロから新たな未来を「構想」し、その実現に向けて情熱を傾けることはできません。これこそが、AI時代において人間が持つべき、そしてAIには代替できない、極めて重要な価値の源泉と言えるでしょう。

 スマイルカーブの上流でこの「構想する力」がなぜ重要なのか。それは、AIに何を指示し、どのようなタスクを実行させるかを考える以前の、最も根源的な段階に関わるからです。

 そもそも「僕たちは何をやりたいのか」「どのような価値を創造したいのか」という、事業やプロジェクトの根本的な方向性を定めるのは、人間の「意志」であり「構想」です。

 AIは強力なツールですが、そのAIに「何をさせるか」という目的意識そのものをAI自身が生み出すことは極めて難しい。ビジネスの舵取りをし、経営判断を下すのはAIではなく人間であり、その根底には「こうしたい」「こうあるべきだ」という強い「思い」や「ビジョン」が存在します。AIには、この「思い」そのものがありません。

「ああしたい、こうしたい」という内発的な欲求や情熱は、人間に固有のものであり、これを持つことこそが人間の責務であり特権だと僕は考えます。だからこそ、この「構想する力」が、スマイルカーブの上流で活躍するために不可欠なのです。

 では、この「構想する力」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。それは、例えば、AIと人間が共存する未来の働き方や社会のあり方について、既存の枠組みにとらわれず、新たなモデルを思い描く力です。

 現代の多くの組織が抱える縦割り構造やタコツボ化による非効率性は、AI時代においても見過ごせない課題です。これに対し、個々の人間やAIエージェントが、それぞれの得意とする「役割」や「機能」をジョブ・ディスクリプションのように明確に担い、それら「機能」がタスクのプロセスに応じて柔軟に繋がることでプロジェクトを完遂していく――そのような働き方が構想できます。

 このモデルでは、従来の「会社」や固定的な「組織」という概念すら相対化され、個々の能力が最大限に活かされる、より流動的でフラットな協業体制が生まれる可能性があります。

 このような未来像においては、人間とAIは、上下関係ではなく、それぞれの役割に応じた対等なパートナーとして存在します。特定のタスクを実行する「機能」として並列に繋がり、Web3におけるDAO(分散型自律組織)のような、中央集権的な管理者を必要としない、自律的で効率的な連携が実現されるかもしれません。

 そこでは、誰が偉いというピラミッド構造は希薄になり、プロジェクトの目的達成に向けて、誰もが主体的に貢献し合う、よりバランスの取れたAIとの共存社会が実現するのではないでしょうか。

 僕自身、このような「AIエコノミーのハブとなる」という個人的な構想を抱き、その実現に向けて現在の会社の在り方、組織の在り方、そして、仕事のあり方を見直そうとしています。

 このように、自らが「こうありたい」と強く願い、未来の具体的な姿を構想し、それに向けて行動を変革していくことが「構想する力」の実践です。

 なぜ、このような構想力がAI時代に不可欠なのでしょうか。

 それは、斬新なアイデアや、強い意志に基づく未来へのビジョンを想起し、それを実現しようと情熱を傾けることは、過去のデータから平均的な解を導き出すことを得意とするAIには、本質的に難しいからです。

 人間が持つ、未来を「こうしたい」と願い、創造する力、それこそがAIにはない人間の特権であり、AI時代における競争力の源泉となるのです。だからこそ、この「構想する力」を磨き、発揮していくことが、僕たち人間にとって極めて重要になると考えられます。

エピローグ:問い、対話し、構想する――AI時代の羅針盤を手に、終わらない知的冒険へ

 本稿で探求してきた①「問い」②「対話」③「構想」の三位一体の力は、AIが進化し続ける現代において、僕たちが人間ならではの価値を創造し、未来を切り拓くためのまさに鍵となるものです。

 その具体的な機能と価値創出の物語を、改めてここで総括し、その今日的意義を強調したいと思います。

 コールセンターで「学習のボトルネック」を「エンゲージメントの源泉」へと転換させた、戦略的な「問い」。 AI、組織、そして顧客との間で、共感と共創の化学反応を 촉발した、多層的な「対話」。

 そして、AIという強力なパートナーと共に、固定的な組織の枠を超えた、自律分散型の未来の働き方を描き出した、大胆な「構想」。

 これらの力は、一部の天才や特別なリーダーの専売特許ではなく、僕たち一人ひとりが意識的に磨き、実践することで誰もが高められる普遍的な人間力です。そして、これらはAI時代において受け身でいるための能力ではなく、むしろ自ら価値を能動的に生み出し、スマイルカーブの上流で主導権を握るための強力な武器となります。 スマイルカーブの「上流」、すなわち高付加価値領域で輝きを放つとは、突き詰めれば、AIを単なる効率化の道具として使うのではなく、AIという知的な鏡に自らを映し出すことで、僕たち自身の人間性――問い続ける探究心、他者と深く繋がる共感力、そしてまだ見ぬ未来を創造する構想力――を再発見し、開花させていくプロセスそのものなのかもしれません。

 AIと共に、より豊かな未来を築くためには、僕たち一人ひとりが、日々の実践を通じてこれらの力を意識的に鍛え、自らの可能性を拡張し続けることが重要です。

 この記事が、読者の皆さんにとって、AI時代の荒波を乗りこなし、自らの手で未来を切り拓くための「問い」「対話」「構想」という羅針盤を手に、それぞれの価値ある「知的冒険」へと踏み出す、新たな気づきや勇気を得る一助となれば、これ以上の喜びはありません。

Takashi Nakayama

AI Business & System コンサルタント。総合商社、ECベンチャー、コンサルティングファーム、小売業CIO役員、AIベンチャー顧問を経て現在に至る。生成AIによる企業価値向上に資するビジネスイノベーション、システム導入に取り組む毎日です。



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