
「次代の柱はバイオ産業だ」。先代の李健熙・韓国サムスン電子会長が生前に放った言葉通り、韓国サムスンバイオロジクスの成長は著しい。コロナ禍を追い風に大規模な受託生産を請け負い、2024年は過去最大の売り上げ4兆5400億ウォン(約4500億円)を達成した。特集『サムスン 復活・衰退の分岐点』(全6回)の#5では、工場増設が進む韓国・仁川の工場に記者が潜入。現地の模様を届ける。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)
仁川に現れた豊洲のような工業団地
撮影はNG、スマホはビニール袋に
ソウル中心部から地下鉄を乗り継いで約2時間。仁川(インチョン)地下鉄1号線「テクノパーク駅」に降り立った。駅前には韓国五大財閥の一つである現代グループが運営する巨大なショッピングモールがあり、周囲には40~50階はある高層マンションが林立していた。その谷間には小中学校や大きな公園もある。
仁川市の南岸にある「仁川松島バイオ産業団地」。200万平方メートルもの広大な区画に、バイオ医薬品産業60社以上の施設が軒を連ねる。京浜工業地帯のような無機質な工業地帯かと思っていたが、街並みには生活感が漂っていた。東京でいえば、豊洲のような雰囲気だ。韓国政府が「国家先端戦略産業バイオ特化団地」として指定し、ここ数年で急速に発展した地域である。
近年、サムスングループの中で存在感を示しつつあるサムスンバイオロジクスの工場もここにある。正面ゲート脇には喫煙所があった。胸元に「サムスンバイオ」と書かれた作業着を着た男たちがスマートフォンをいじりながら一服している。敷地内は火気厳禁のため、ここが唯一くつろげる場所なのだろう。
受付で女性社員が出迎える。まず青色の「保安シール」を渡された。ノートパソコンのカメラに貼るよう促される。さらに「搬出入保安封筒」と書かれたビニール袋も渡され、そこにスマホを入れるよう求められた。さらに身分証の提出も。「撮影は絶対にできません」と笑顔で念を押される。取材といえど、情報漏えいを絶対に許さないというサムスン側の意思が強く伝わってきた。
「サムスン電子に次ぐ次世代の柱」と李健熙前会長は期待を寄せていた。実際、売り上げベースで見た成長は著しい。医薬品需要の増加を見越して2010年代後半に次々と工場が稼働した。直後、新型コロナの流行で業績が急成長する。
現在は五つの工場が稼働し、総生産能力は78万4000リットルを誇る。この圧倒的な生産能力を強みに、売上高は21年の1.5兆ウォン(約1500億円)から右肩上がりで伸び、24年通期決算は4.5兆ウォン(約4500億円)と、たった3年で3倍まで伸びた。
「韓国=バイオ産業」というイメージはまだ薄いが、受託生産でここまで成長したサムスンバイオロジクス成功の秘訣はいったい何なのか。入念なチェックをくぐり抜けた先の光景に、記者は驚きを禁じ得なかった。
次ページでは、同社が急成長した理由、工場内部の意外な様子を届ける。