
「最近の若者は飲み会に来ない」「内向きだ」そんな声が聞かれることもありますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
社会が大きな変化を経験したコロナ禍を経て、特にZ世代と呼ばれる若者たちの価値観やコミュニケーションのあり方は、私たち大人が思っている以上に進化しているのかもしれません。彼らにとって飲み会とは、一体どのような場なのでしょう。
『AdverTimes』が紹介したリアルな声を通して、Z世代の飲み会の実態と、そこに潜む繊細な気配りの意識に迫ります。
「コンプラ意識、高すぎ?」パンデミックが鍛えたZ世代の自己防衛と他者配慮
声の主は、都内の私立大学に通うWさん(22歳、大学4年生)。
Wさんが参加する飲み会では、意外なほど活気があり、「お酒離れ」という言葉とは無縁の盛り上がりを見せていました。
しかし、その中で頻繁に聞かれる言葉が「コンプラ」でした。これは「コンプライアンス」の略で、誰かが過激な発言をしたり、羽目を外しすぎたりした際に、周囲が「コンプラだよ」とブレーキをかける合言葉のようになっているのです。Wさんによれば、この言葉は大学入学時にはすでに先輩たちが使っており、ごく自然に浸透しているとのこと。
この背景には、メディアで頻繁に報道される企業の不祥事や、SNSでの炎上事例などが影響していると考えられます。
若者の研究所の調査記事『Z世代の飲み会と気配り意識──コロナ禍で芽生えた飲み会の“マス目”意識』でWさんは、「特に最近はいろんなところで不祥事が起きて取り沙汰されてるな、って思います」と語っており、コンプライアンス違反が身近な問題として捉えられている様子がうかがえます。
さらに、コロナ禍という未曽有の事態も、彼らの意識に大きな影響を与えました。Wさんは、「自分がアルハラ(アルコールハラスメント)にならないかはかなり気にしています。
お酒が飲める相手であっても、いま飲みたいのか、飲みたくないのかって、状況によって変わると思うので、常にアンテナを張っています」と話します。
飲み会という場を楽しみつつも、他者に不快な思いをさせない、そして自らも不適切な行動を取らないという強い自己防衛意識と他者への配慮が、そこにはありました。グラスが空いている人に声をかけたり、会話が途切れないように気を配ったりする一方で、決して無理強いはしない。
この絶妙なバランス感覚は、パンデミックという特殊な環境下で培われた、Z世代ならではの危機管理能力と言えるでしょう。
他人の失敗は我が身の恥?「共感性羞恥」と「マス目」で捉えるZ世代の気遣い
Wさんは飲み会において、「飲み会を楽しんでいる自分と、それを俯瞰している自分がいる感じ」と表現します。
この客観的な視点は、どこから来るのでしょうか。
その一つに「共感性羞恥」という心理が挙げられます。これは、他人の失敗や不適切な行動を見た際に、まるで自分のことのように恥ずかしさや居心地の悪さを感じる心理状態のことです。「飲み会で、飲み過ぎてしまう人や飲みゲーで盛り上がる人を見て、ああなりたくない、周りの人もそのような状況にさせてはいけないと強く思うようになった」というWさんの言葉は、この共感性羞恥が、彼女の行動原理の一つとなっていることを示唆しています。
この共感性羞恥は、他者への過度な干渉を避け、節度ある行動を促す一方で、周囲へのきめ細やかな配慮にも繋がっています。
そして、コロナ禍における飲食店の変化も、Z世代の飲み会観に影響を与えました。多くの飲食店でパーテーションが設置された時期、Wさんは「自分がマス目で割り振られたような感じがして、物理的な距離がある分、自分の八方位にいる人が楽しめているか、全マス(個人)が均等に話せているか、かなり意識していた気がします」と振り返ります。
この「マス目」意識は、物理的な隔たりがあったからこそ、かえって個々の参加者への意識を高め、全員が疎外感なく楽しめるように場をコントロールする能力を育んだのかもしれません。
居酒屋では節度ある飲み会を、一方で気兼ねなく騒ぎたい時はAirbnb(民泊サービス)のようなプライベートな空間を利用するなど、状況に応じた場の使い分けも自然に行うようになったといいます。
一見すると大人しく見えるかもしれませんが、それは周囲への配慮と、状況を的確に判断するリテラシーの高さの表れなのでしょう。
新しい時代のコミュニケーションの兆し
Z世代の飲み会における気配りは、単に「大人しい」とか「内向き」といった言葉では片付けられない、彼らなりの合理性と繊細な感受性に基づいています。
「コンプラ」を意識し、アルハラを避け、「共感性羞恥」から他者の不快に敏感に反応し、「マス目」の中で全体の調和を考える。これらは、コロナ禍という特殊な状況を経験したからこそ研ぎ澄まされた、新しい時代のコミュニケーションスキルなのかもしれません。
私たち大人世代は、彼らのこうした特性を理解し、彼らが心地よいと感じる距離感やコミュニケーションのあり方を尊重することが、より良い関係性を築く上で重要になるのではないでしょうか。
Z世代が見せる飲み会の新しい風景は、変化する社会の中で生まれた、他者と共に心地よく過ごすための知恵と言えるでしょう。
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