Google本社を訪問
Google本社の日当たりのいいベンチで、Androidエコシステム担当プレジデントのSameer Samat氏は通称「ドロイドくん」の像と並んで座っていた。その時、近くを走ってきた男がSamat氏のスマートフォンをひったくる――Samat氏がスマートフォン「Pixel」を盗まれるのは、これが初めてではない。筆者が訪れた日だけでも、Samat氏は男に4度もPixelを奪われていた。といっても、これは「Android 16」でさらに強化された「盗難検出ロック」機能のデモだ。Samat氏のスマートフォンは、奪われるやいなやロックがかかり、ロック画面には盗難の可能性を検出したため自動ロックした、というメッセージが表示された。
盗難検出は「Android 15」で初めて導入された機能だ。Android 16は安全性やセキュリティに力を入れており、盗難検出の強化を含めて、さまざまな機能が追加・拡張されている。Android 16には大きく3つの柱がある。1つは「Material 3 Expressive」の導入によるUIの大幅刷新、「Gemini」対応デバイスの拡大、そして安全性とセキュリティの強化だ。Samat氏は米CNETの取材に応じ、Android 16に対する強い熱意と、この新OSがユーザーにもたらす価値を語った。
「Android 16は過去最大規模のリリースになる」とSamat氏は言う。「わくわくしてもらえる要素をたっぷり詰め込んだ」
Androidは世界最大のオペレーティングシステム(OS)だ。現在、Androidを搭載しているアクティブデバイスは30億台を超える。Android 16は、Googleにとっても大きな節目となる存在だ。初代Androidの登場から17年近くがたつが、このOSの重要性は2008年の初リリース時と変わっていない。Android 16の目玉として、特に注目されているのはGoogleの生成AI「Gemini」を活用したツールやサービスだ。Android 16は、数々の定番機能とAIが約束する未来を橋渡しする存在となるだろう。Samat氏は、AIはAndroidやアプリを置き換えるものではなく、むしろ、その機能や利便性を高めるものだと断言する。
「アプリは今後も重要だが、その形は変わるかもしれない」とSamat氏は言う。「今のアプリには、AIがサポートできそうな退屈な作業が含まれている。例えばタクシーを呼ぶ、特定のレストランでお気に入りの料理を再注文するといったタスクは何度も繰り返したいが、毎回3つのボタンを押すのは面倒くさい。そんな時、スマートウォッチなどに指示して、そのタスクを任せられれば便利だ」
Material 3 ExpressiveによるUIの大幅刷新
Android 16に関して、まず気づくのは見た目の変化だ。ロック画面、ホーム画面、クイック設定パネル、通知シェードなど、あらゆる場所がMaterial 3 Expressiveデザインによって一新された。といっても、これまでのUIをすべて捨てたわけではない。優雅で動的なアニメーションを追加することで、Android 16は快適かつ個性的な操作体験を実現している。

提供:Jesse Orrall/CNET
例えば音量を最大まで上げると、指に振動が伝わってくる。指に合わせて、画面上に表示された音量バーが通常よりも高い位置に移動し、これ以上音量を上げられないことを示す。クイック設定タイルのサイズ変更も簡単だ。長押しして、タイルの左右に表示されるハンドルを左右にスライドさせるだけで1×1サイズから2×1サイズに変更できる。そしてコントロールをタップすると、タイルのアイコンが反応して小さく動く。
「こうしたシステムを設計する際、実用性は当然欠かせない」と、Samat氏は言う。「しかし、どう機能するかだけでなく、ユーザーがどう感じるかも重要だ。美しさや美的な要素は、必ずしもユーザーが重要性を意識するものではないかもしれないが、デバイスを使っていくうちに心地よさや楽しさを感じる。それこそが、われわれの目指しているものだ」

提供:James Martin/CNET
Samat氏の意図を最も良く表しているのが、通知のスワイプに追加された新しいアニメーションだろう。これはGoogleのAndroidプラットフォーム担当上級プロダクトマネージャーのRohan Shah氏がデモしてくれたもので、通知をスワイプして消そうとすると、指の下で通知が小さく動く。その様子は、まるで通知シェードから消えたくないと言っているかのようだった。
「通知のスワイプなどの動作は1日に40回くらい繰り返すものだ。この何気ない動作に、ちょっとした反応を持たせた」とShah氏は語った。

提供:Jesse Orrall/CNET
その結果、確認した通知を右にスワイプする操作がかつてないほど心地よいものになったとSamat氏は言う。この弾むような動きは、なめらかな動作を実現するMaterial 3 Expressiveの仕組みを活用したものだ。Android 16では、画面に出入りするオブジェクトが物理法則に沿った自然な動きを見せる。
Material 3 Expressiveによって、ロック画面やホーム画面、アプリも見やすくなった。例えばロック画面では、既読の通知は楕円形のボックスに格納され、先頭に各アプリのアイコンが表示される。これはスマートフォンの壁紙や、ロック画面から直接「Googleマップ」のナビゲーションを確認できる「Live Updates」機能にも反映される。
Geminiがさまざまなデバイスに拡大
Material 3 Expressiveと並んで、Android 16で大きな役割を果たしているのがGeminiだ。Android 16では、Geminiがデフォルトのデジタルアシスタントになった。「Googleアシスタント」に代わってGeminiを採用した理由を、より自然な対話を実現するためだとSamat氏は説明する。
「これまではユーザーがアシスタントに合わせて、特定のやり方で話しかける必要があった。しかし今はAIの進化によって、自然な文章で話しかけられるようになった。『えーっと』といった言葉を間に挟んでも、Geminiは問題なく理解してくれる」とSamat氏は語る。
これはスマートフォンに限った話ではない。Geminiは今後、自動車やスマートウォッチ、「Android XR」を搭載したヘッドセット、さらにはテレビでも利用できるようになるだろう。「Wear OS」の場合、Geminiはクラウド経由でのみ動作するため、インターネット接続(Wi-Fi、電話、またはLTE)が必須となる。
テレビでGeminiを使うデモを見せてくれたのは、「Google TV」担当グループプロダクトマネージャーのSal Choudhary氏だ。同氏はまずGeminiに天気予報をテレビに表示するよう指示した。次に「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」を見せてと頼むと、Geminiは該当映画のページを表示した。面白いのはここからだ。同氏がGeminiに「どのミッション:インポッシブルが一番おもしろいか」とたずねると、Geminiはこう答えた。
「これは楽しいテーマですね。『ミッション・インポッシブル フォールアウト』は、驚異的なアクションと説得力のあるストーリーが評価され、多くのユーザーの支持を集めています。しかし、サスペンスの要素と古典的なスパイの雰囲気を持つ初代『ミッション・インポッシブル』を推す人もいます。世界を股にかけた冒険と、(世界一の高層ビル)ブルジュ・ハリファでのスタントが印象的な『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』も有力候補です」

Wear OSもGeminiに対応するとGoogleは発表した
提供:Google
Geminiを利用できるデバイスは、数だけでなく種類も広がっていくだろう。Android XRを搭載したヘッドセットやGeminiを搭載したスマートグラスが登場するかもしれないとSamat氏は言う。Geminiはユーザーの言葉やディスプレイに表示された内容を理解できるだけでなく、カメラを使って周囲の様子をユーザーに伝えることもできる。スマートグラスをかければ他の人には見えないディスプレイを表示することも可能だ。フレームに内蔵されたカメラによって、視界をGeminiと共有することもできる。
Geminiを使える場所が増えても、Geminiが提供する情報が有益でなければ意味はない。Geminiの回答が不正確だったり、単純に間違っていたりすれば、スマートグラスのような新しい用途への展開計画も台無しになりかねない。Samat氏も、AIが抱えるこの問題を認識している。
「確かにAIが間違いを犯すことはある」とSamat氏は言う。「AIに関しては、使う場面を(ユーザーが)理解することが重要だ。もしAIをGoogle検索に活用するなら、情報が事実に基づいたものかどうかが決定的に重要になる。検索チームは、この問題の是正に全力で取り組んでいるところだ。一方、画像を認識し、それを説明することはAIの得意分野だ。実際、調整次第でかなり高い精度を実現できるが、同時に重要な判断を下す際、例えば購入を決める際は、事前に情報を再確認するよう促す免責事項も表示する必要がある」
それでもこの種のAIを使いたいという声は大きく、AIの限界への理解を求める必要があるとSamat氏は語った。
詐欺の検出
今回見た新機能のうち、特に印象的だったのは詐欺検出だ。ユーザーが「Googleメッセージ」アプリを使っている時に詐欺の可能性のあるやり取りを検知すると、画面に警告が表示される。デバイスで動作するAIモデルを活用して、個人情報の漏えいにつながりそうなメッセージやスレッドを検出する。この機能は、連絡先に登録していない相手と会話している場合にのみ有効になる。
「実際にオンデバイスのAIモデルを利用し、何がうまくいかず、何が問題になり得るのかについて多様なシナリオで訓練してきた」とSamat氏は述べ、「われわれが遭遇するこれらの詐欺について、何百万もの異なる可能性でテストした」と語った。
Androidユーザーも、詐欺検知機能を最新の状態に保つ役割を担う。誰かが詐欺を報告するたびに、Googleはその情報を使ってこの機能を更新していく。詐欺検知はAndroid 16に固有の機能ではなく、Googleメッセージを利用するすべての人が対象だ。
Android 16まとめ
Samat氏との対話は示唆に富んでいた。同氏が描くAndroidとGeminiの未来像は、これらがより良い世界につながるという希望を抱かせる。Android 16は近年で特に重要なリリースの1つだと感じられる。そして、われわれが触れたのはごく一部の主要機能にすぎない。Android 16 にはさらに多くのツール、ユーティリティー、アップデートが用意されている。詳しくはCNETのAndroid 16解説記事を参照してほしい。
Android 16は6月、Wear OSは今夏にリリースが見込まれている。この両方をテストし、新しいツールや機能に対する人々の反応を見るのが楽しみだ。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
🧠 編集部の感想:
Android 16の新機能には驚きと期待が感じられます。特に、AIの「Gemini」やUIの刷新が利便性と楽しさを向上させ、ユーザー体験を豊かにすることが期待されます。また、安全性の強化や詐欺検出機能は、デジタルライフをより安心にしてくれる要素です。
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