ホテルの客室にさりげなく置かれた一本のミネラルウォーター。それは旅の渇きを癒す、ささやかなおもてなしの一つだ。
しかし今、その姿が変わりつつあるのをご存知だろうか。大阪に本社を構えるサクラ食品工業が展開する紙容器入りミネラルウォーター「京乃水(きょうのみず)」シリーズは、美しい浮世絵をパッケージにあしらい、国内外の旅行者から注目を集めている。
これは、環境意識の高まりとインバウンド需要が交差する現代日本の、新しいおもてなしの形を提示するものかもしれない。
京の雅を手のひらに、石川真澄氏の浮世絵が彩る「京乃水」
サクラ食品工業が手がける「京乃水」シリーズの魅力は、まずその美しいパッケージデザインにあるだろう。容器には、現代の画家・絵師として国内外で活躍する石川真澄氏による浮世絵が描かれている。
一昨年の『清流咲良之舞』を皮切りに、『清流咲良納涼図』『清流咲良秋風』『清流咲良酉のまち』と、日本の美しい四季を表現した作品が季節ごとに登場した。そしてこの度、これら春夏秋冬の四つのデザインが揃ったことを機に、4本を詰め合わせた土産物セットが発売されたのだ。
ヒットの兆し:サクラ食品工業「清流咲良酉のまち」 「京乃水」シリーズ完結 – 日本食糧新聞・電子版 https://t.co/1WoglqvPnJ pic.twitter.com/O9uy8bctkb
— 日本食糧新聞 (@foodjournal2) February 7, 2025
使用されている水は、日本有数の酒どころとして知られる京都・伏見の良質な天然水。
そのまろやかな味わいは、旅の疲れを優しく癒してくれる。この水と美しいアートワークの融合は、日本を訪れる外国人観光客にとって、目と舌で日本の文化を感じられる格好の土産物となる。
実際に、従来のペットボトル容器の水の場合、宿泊客が飲み残して部屋に置いていくケースが少なくなかった。しかし、「京乃水」を導入したホテルでは、特に外国人観光客が記念として持ち帰る事例が増加。結果として、客室清掃の手間が軽減されるという副次的な効果も生まれている。
この動きの背景には、2022年4月に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」、通称「プラスチック資源循環促進法」の影響も大きい。
この法律は、プラスチックごみの削減とリサイクルの推進を目的としており、ホテル業界においても客室アメニティのプラスチック使用量削減などの取り組みが求められている。「京乃水」のような紙容器製品は、こうした社会的な要請に応える選択肢として注目されているのだ。
環境配慮が新たな価値に、旅行業界で拡がるサステナブルの波
「京乃水」の導入は、ホテルのおもてなしにも新しい風を吹き込んでいる。例えば、連泊する宿泊客が客室清掃を不要とした場合に、そのお礼として「京乃水」を一本提供するサービスを実施し、好評を得ているホテルもあるという。
これは、宿泊客の環境配慮行動に対するささやかな感謝のしるしであり、ホテルのサステナビリティへの意識を伝える良い機会にもなる。
その広がりはホテルだけに留まらない。
大阪・梅田の空中庭園展望台のような外国人観光客に人気の観光スポットや、開催中の大阪・関西万博会場内のコンビニエンスストアでも大々的に陳列されるなど、多くの人の目に触れる機会が増えている。特に環境意識の高い外資系ホテルや大手企業からの引き合いが強く、グローバルスタンダードとなりつつある紙容器入り飲料水の流れが、日本国内にも徐々に浸透しつつあることを示唆している。
サクラ食品工業の藤原拓社長は『食品新聞』への取材で、「グローバルでは紙容器の水は多いが、日本ではまだ少ない。この商品を通し、日本の文化を発信するとともに、日本の商品の認知度を高める一助としたい」と語る。この言葉からは、単に製品を販売するだけでなく、日本の美意識や環境への配慮を世界に伝えたいという強い意志が感じられる。
日本の伝統美である浮世絵を纏い、環境にも配慮した紙容器に京都の清らかな水を満たした「京乃水」。
それは、旅の思い出を彩る一品であると同時に、これからの時代の「おもてなし」と「サステナビリティ」のあり方を静かに問いかける存在と言えるだろう。
この小さな一本の水から始まる新しい波が、日本の風景をどのように変えていくのか、注目したい。
🧠 編集部の感想:
『京乃水』の紙容器は伝統的な浮世絵デザインと環境意識が融合し、美しさと持続可能性を兼ね備えた商品です。観光客へ日本の文化を体験させる一方で、ホテル業界の清掃負担も軽減する効果が期待できます。新しいおもてなしの形として、今後の展開が楽しみです。
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