フロッグデザインの創設者ハルトムット・エスリンガーは、ほとんどの人が実際にはイノベーションは起こせないと言っています。

エスリンガーとフロッグデザイン(今年は祝創業50周年)は、Appleのノートパソコン、ソニーのウォークマン、数々のWebサイト、アプリ、ガジェット、それに高品質な医療・歯科用機器のデザインを手掛けてきました。

今回は、そんなエスリンガーのイノベーションの原則をご紹介します。

既存のものに基づいている

イノベーションを起こすには、アイデアは既存のものに基づいていることを理解する必要があります。

エスリンガーがデザインを手がけたソニーのウォークマンは、NASAのジェミニ計画のために開発されたテープの技術を使った、より大きな既存の製品を元にしています。

基盤となる技術は基本的に同じです。「イノベーションは何もかもがまったく新しいわけではない」と言います。進化の過程を飛躍させるものです。

iPhoneは、最初のスマートフォンになるのではなく、スマートフォンを変化させたことで有名です。既存のスマートフォンの進化だと誰もが知っています。

しかし、(初期のMacのデザインを手がけた)エスリンガーは、Macの延長でもあったと言います。Appleの必要最小限でありながらも使いやすいデザインは、スマートフォンに対する人々の前提を変えました。

競合他社は、タッチスクリーンに切り替える以外に生き残る術がありませんでした。携帯電話は、パソコンの機能をできる限り再現することが求められ、また同時に新しい機能も発明される必要もありました。

この12年の間に、どのデバイスメーカーも(Apple含め)そのような大規模な変革を起こしてはいません。

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目的を明確にする

また、イノベーションは目的が指針となります。

ウォークマンが生まれたのは、ソニーの共同創業者である井深大が、出張先でも音楽を聞きたいと思ったからです。

井深は、同社のカセットデッキTC-D5を出張に持っていっていました。

スーツケースに入るという意味では持ち運びができますが、井深は洋服のポケットに入るようなカセットプレイヤーが欲しかったのです。

目的が指針となり、ソニーのエンジニアはテープレコーダー(カセットデッキ)の基本前提を見直しました。

その目的に沿い、ウォークマンは事前に録音された音楽を再生するだけで、録音ができません。

また、ポケットに入るようにするため、ヘッドホンのジャックがあるだけで、スピーカーはありません。

持ち運びができるよう極力小さくするという、主要な目的に沿わないものは、犠牲にすることをいとわなかったのです。

ハルトムット・エスリンガー
Photo: Courtesy of frog design
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全員がイノベーターになることを期待しない

「主にアメリカでは、誰もがイノベーティブになれると人々は考えています。実際にはそうではありません。統計的にも、10人に1人、よくても8人に1人はイノベーションを起こすことができます。天才はどれくらいいると思いますか?そんなに多くはいないでしょう」とエスリンガーは言います。

エスリンガーは、大量の応募者の中から選ばれた、15人の学生のクラスでデザインを教えています。

この成績優秀者の選ばれしクラスでも、全員が伝説的な人間になれるわけではありません。

天才はクラスに1人か2人です」。

フロッグデザインには、他の人の優れたアイデアに基づいて進められれば、素晴らしい仕事ができる素晴らしい人たちがたくさんいます。

クリエイティブな仕事をする人は、最初の段階では非常に重要ですが、その後の過程では実行する人が重要です。

エスリンガーは、米国女子サッカーチームのディフェンス陣の“縁の下の力持ち”の例をあげます。

ディフェンス陣が自分の仕事をしなかったら、オフェンス陣の輝かしい仕事ぶりは意味をなしません。

嫌味なく伝えるのは難しいですが、このことからクリエイティブな天才をどれほど賛美しているかがわかります(特にアメリカでは)。

エスリンガーは、これをヒエラルキーだとは考えていません

「クリエイティブな人間だけでは機能しません。大事なのはそれぞれの個性を尊重することだ」と言っています。

あらゆる役割が尊重されている場合のみ、その役割にピッタリの才能ある人が見つかります。

そして、クリエイティブな役割を果たし、自分のアイデアだけを活かそうとする人たちばかりになることを避けられます。

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人が欲しいと思うものを当てにしない

「市場調査業界はでたらめみたいなものだ」とエスリンガーは言います。市場調査のプロセスは崩壊しています。

「何ができるかなんて、世間の人にはわかるわけがありません」。

たとえば、自動車の新しい機能を考え出すことができるのは、限られた人たちだけです。

しかし、そのような人たちは、最先端の研究や世界経済、そのような発明を形にする方法を知らないので、電気自動車の動力となる燃料電池の開発はできません。

世界を変えるようなものがつくりたいのであれば、自分の持っている知恵を活かさなければなりません。

芸術の世界では、“自分のために書いた真実”が他の何百万もの人の格言となります。

世間の人たちが求めているとわかっているものをつくろうとしたら、流行に左右されたものや、すぐに忘れ去られるようなものをつくることになります。

自分自身を驚かすようなものをつくろうとすれば、個人的な経験や知識を利用して、大事なものをつくる機会を得られるかもしれません。

エスリンガーは、iPhoneの考え方とは対照的なモトローラの例をあげます。

「モトローラにはシンプルな携帯電話があり、それをより“女性に受ける”ものにしようとしました。研究に10万ドルも費やし、技術的なイノベーションには一銭も使いませんでした」

モトローラは、女性にどのような携帯電話が欲しいかを聞き、10の異なるデザインのものをつくりました。

「結果どれも最悪でした!誰も欲しがらなかったのです」。

ただし、独自の調査はする

エスリンガーは、イノベーターは市場調査をしないほうがいいと言っているのではありません。

今の市場調査業界は、間違っていると言っているのです。

外部の調査会社を雇い、すでに持っている情報を共有しません

エスリンガーは、旅行保険会社が実施したアンケートについて不満を言っています。

「最初の質問は“近いうちに旅行に行く予定はありますか?”で、次の質問は“どこに行きたいですか?”でした、そんなことは調査会社にはわかっていることで、保険会社の人たちが知らないだけです!(保険会社は)馬鹿みたいなものにお金を払っています。業界内がバラバラで、詐欺みたいな仕事をしています」。

調査をする場合は、最初に誰と話すべきかを尋ねましょう。

エスリンガーは、KaVo Dental社と共に何十年も歯科用の椅子のデザインをしてきました。

KaVo Dental社との最初の打ち合わせをした時、変えられないものについてしか聞けなかったように感じました。

しかし、ラッキーなことにエスリンガーの家族は歯科医だったので、歯科大学に行って学生と会った方がいいと言われました。

そこで、歯科大学の学生の70%が女性で、前時代の男性の歯科医に合わせてデザインされた、サイズの大きな歯科用機器に悩まされていることがわかりました。

また、学生は感染を避けるために手袋をしていましたが、現在の器具は素手で使うようにデザインされていました。

専門的な仕事や業界は変化しており、KaVo社にも変化が必要でした。エスリンガーはそう伝え、KaVo社もそれを認め、イノベーションを起こしました。これが、本当の意味で「独自の調査をする」ということです。

プロジェクトのパートナーからできる限りの情報を得たら、その情報に対して疑問を持たなければなりません

他の誰もが知らないことを知らなければなりません。

あなたが10人に1人の本物のイノベーターであれば、自分がそれを知った時にわかります。

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Source: KaVo Dental, フロッグデザイン, YouTube

翻訳: 的野裕子

——2019年11月29日の記事を再編集のうえ、再掲しています。