誰もが避けたがるアンチコメント。
それを逆手にとって、音楽として昇華させてしまったのがアメリカの飲料ブランド、「Liquid Death」だ。企業のイメージを守るどころか、攻めに転じるその姿勢が注目を集めている。
SNSの中傷がそのまま歌詞に、カントリーソングで再生された怒りの声
SNSに投稿された心ない中傷。それを“そのまま”歌詞にしてしまうという発想に、驚かされた人も多いだろう。
リキッド・デスは、そんな否定的なコメントを集め、実在のカントリーシンガーCarter Faithの歌声で“アンチコメント集”を情感たっぷりに歌い上げるという、異色のプロジェクトを公開した。
楽曲のタイトルは『Greatest Hates』。アーティストの代表曲集である“Greatest Hits”を皮肉ったものだ。
「こんな商品、絶対に飲まない」「早く倒産してくれ」といった怒りの声が、哀愁漂うカントリーソングとして流れ出すその光景はかなりシュール。
炎上に悩まされる企業が多いなか、ここまであけすけにヘイトと向き合った企業も珍しいだろう。
ただのジョークではない、戦略としての「炎上活用」
このプロジェクトは、ただ奇をてらっているわけではない。
彼らのマーケティングは一貫して「攻め」だ。以前もSpotifyにて、批判コメントを読み上げた音源を“プレイリスト化”したことがある。今回のカントリーソングもその延長線上にあり、狙いは明確だ。
「ネガティブな声を恐れないブランド」としての立ち位置を確立すること。そしてその姿勢に共感する“濃いファン”を育てること。これこそが、Liquid Deathが目指すブランディングのコアである。
特定の層に深く刺さることで、ブランドへの愛着やロイヤリティは高まる。一部に嫌われても構わない。むしろ、それすら武器にしてしまう。そんな覚悟が透けて見える。
批判を逆手に取る、新しいクリエイティブのかたち
多くのブランドが「嫌われないこと」を第一にマーケティングを組み立てる中、Liquid Deathは真逆のアプローチを取っている。SNSの批判をあえて拾い上げ、それを「物語」として再構成する。その過程に、単なる炎上商法以上の意義が見える。
アンチコメントは誰にとっても不快な存在だが、それを“見せ方”ひとつでクリエイティブに転換できる。笑いに変えたり、感動に昇華させたりできるのだということを、今回の事例は示している。
Liquid Deathのようなブランドが増えれば、批判すらも価値ある表現へと変わるかもしれない。ネガティブから始まる物語が、時代の空気を映し出している。