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アルツハイマー病の原因物質の蓄積を「エスプレッソ」が阻害できる可能性


アルツハイマー病は、神経細胞が死んでいくことで記憶力や思考力を失っていく進行性の脳疾患です。

世界にはすでに5700万人を超える患者がおり、高齢化社会の波とともに更なる増加が懸念されています。

そんな中、伊ヴェローナ大学(University of Verona)の研究チームは2023年に、エスプレッソに含まれる化合物がアルツハイマーの発症原因の一つとされる「タウタンパク質の凝集」を阻害できることを発見しました。

エスプレッソを飲むことがアルツハイマー病の予防になるかもしれません。

研究の詳細は2023年7月19日付で学術誌『Journal of Agricultural and Food Chemistry』に掲載されています。

目次

  • アルツハイマー病を発症する原因とは?
  • エスプレッソがタウタンパク質の蓄積を阻止!

アルツハイマー病を発症する原因とは?

アルツハイマー病の発症メカニズムはまだ完全解明されていませんが、研究者たちはその要因の一つとして、脳内でのタウタンパク質の凝集と蓄積を挙げています。

健康な人ではタウタンパク質は脳の構造を安定させるのに役立っており、まったく有害なものではありません。

ところが脳に何らかの問題が生じると、異常な量のタウタンパク質が凝集して蓄積し始め、神経細胞死を引き起こします。

そうなると、神経細胞間の正常なコミュニケーションが妨げられ、アルツハイマー病の症状である思考力の低下、記憶障害、無意識的な徘徊などが生じると考えられるのです。

実際、アルツハイマー病患者の脳を調べると、タウタンパク質が神経細胞内に異常に蓄積していることが分かっています。

タウタンパク質の蓄積で神経細胞死が起こる / Credit: canva

そのため研究者らは、タウタンパク質の凝集や蓄積を防げば、アルツハイマー病の発症予防や症状の緩和につながるのではないかと考えているのです。

しかしこれまで、血液や髄液検査によってタウタンパク質を特定できる手段は確立されているものの、タウタンパク質の凝集と蓄積を止めたり、解消する方法は見つかっていません。

一方で近年の研究では、コーヒーに含まれるカフェインなどの成分がアルツハイマーを含む神経変性疾患に対して、有益な効果を持つ可能性が示されつつあります。

そこで研究チームは今回、コーヒー豆の成分を高濃度で抽出する「エスプレッソ」を対象に実験を行いました。

エスプレッソがタウタンパク質の蓄積を阻止!

エスプレッソは、コーヒー豆を細かく挽いた粉をお湯に通し、高い圧力をかけて短時間で抽出したものです。

一見すると色が濃くて苦そうに見えますが、時間をかけずに素早く抽出するためコーヒーの嫌な雑味がまったくありません。

コーヒーの旨味を高濃度で抽出しており、酸味と苦味のバランスが取れたコク深い味に仕上がっています。

エスプレッソは濃い味の好きな人に最適であり、日本ではエスプレッソにミルクを混ぜたカプチーノやカフェラテも人気です。

エスプレッソ
エスプレッソ / Credit: canva

さて、研究チームは市販のコーヒー豆(15g)からエスプレッソ(80mL)を抽出し、その中からカフェイン、トリゴネリン、ゲニステイン、テオブロミンという化合物を単離しました。

実験では、エスプレッソの抽出物全体と、カフェイン、トリゴネリン、ゲニステイン、テオブロミンを別々のペトリ皿に入れ、そこに短鎖型のタウタンパク質を加えて40時間培養しています。

その結果、エスプレッソ抽出物全体、カフェイン、ゲニステインの3つを入れたペトリ皿で、タウタンパク質の凝集が阻害されていることが判明したのです。

ここでは短鎖型のタウタンパク質が互いに寄り集まって長い鎖を形成する繊維化ができなくなっていました。

中でもエスプレッソ抽出物全体の効果が最も著しく、タウタンパク質の繊維化が損なわれるだけでなく、逆に短くなったと研究者は説明します。

さらに、この短くなったタウタンパク質はヒト細胞にまったくの無害であり、加えて、凝集を起こすタウタンパク質の「種」としても機能しなくなっていることが確認されました。

エスプレッソ抽出物がタウタンパク質の繊維化の阻害に成功!
エスプレッソ抽出物がタウタンパク質の繊維化の阻害に成功! / Credit: Roberto Tira et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry(2023)

また以前の研究で、コーヒーに含まれるカフェインやゲニステインなどの化合物は、消化器系で処理された後に、血液と脳の間のバリア(血液脳関門)を通過して脳に到達できることが分かっています。

つまり、エスプレッソを飲むことで、脳内におけるタウタンパク質の凝集と蓄積を止められるかもしれないのです。

ただしこれはまだ可能性の話であり、それを確かめるにはヒトを対象とした臨床試験を実施しなければなりません。

それでも研究チームは今後の実験を通して、エスプレッソがアルツハイマー病の新たな予防や治療法の開発につながることに大いに期待しています。

結果が出るまではとりあえず、エスプレッソを楽しんでおいて損はないでしょう。

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参考文献

Espresso can prevent Alzheimer’s protein clumping in lab tests
https://www.acs.org/pressroom/presspacs/2023/july/espresso-can-prevent-alzheimers-protein-clumping-in-lab-tests.html

Italian Study Shows How Espressos Keep Alzheimer’s Protein Clumps In Check
https://www.sciencealert.com/italian-study-shows-how-espressos-keep-alzheimers-protein-clumps-in-check

How Coffee Could Protect Against Alzheimer’s: Espresso Found To Inhibit Tau Proteins
https://www.iflscience.com/how-coffee-could-protect-against-alzheimers-espresso-found-to-inhibit-tau-proteins-69915

元論文

Espresso Coffee Mitigates the Aggregation and Condensation of Alzheimer′s Associated Tau Protein
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.3c01072

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。



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🧠 編集部の感想:
アルツハイマー病の予防にエスプレッソが寄与する可能性があるという発見は非常に興味深いです。特に、日常的に飲まれているコーヒーが脳に良い影響を与えることが確認されたのは嬉しいニュースです。今後の研究で実際の効果が示されることを期待したいです。

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