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概要
記事では、「みんなが良い」という商品が必ずしもヒットしない理由を、心理学、社会学、マーケティング、消費者行動の観点から分析しています。具体的なビジネス事例を挙げつつ、その要因を整理し、ヒット商品に必要な特性について考察しています。
要約の箇条書き
- 「みんなが良い」と評価される商品がヒットしない理由を探る。
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心理学的要因
- バンドワゴン効果:多くの支持を受けると、自分も支持しようとする心理。
- スノッブ効果:大家に流されることを避け、独自性を求める心理。
- アンダードッグ効果:劣位の商品やブランドを応援したくなる心理。
- 過度な期待と反動:期待が膨らむと、実際の評価が厳しくなる。
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マーケティングとブランディング
- 差別化不足:平均的な商品はインパクトが薄くなる。
- ターゲットの曖昧さ:明確なターゲット設定が必要。
- ブランド印象の弱さ:独自のストーリーや個性が求められる。
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消費者行動の視点
- 認知的不協和:過去の選択を正当化するため、新製品の良さを受け入れないこと。
- 選択肢過多:選択肢が多すぎることで、逆に迷いが生じる。
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実際のビジネス事例
- セグウェイ:期待は高かったが、ニーズを捉えられず低迷。
- ソニーのベータマックス:品質は高かったが、戦略的に劣り市場で敗北。
- クロックス:賛否が分かれたが、強い個性で大ヒット。
- 任天堂Wii:コア層には否定的な声もあったが、新しい市場を開拓し成功。
- まとめ
- ヒット商品には、大衆の支持を狙うより特定のファンを生む独自性が重要。「万人に良い」よりも「特定の誰かに愛される」商品が成功する傾向にある。
「誰もが“良い”と言う商品」が必ずしもヒット商品になるとは限りません。その理由を心理学・社会学、マーケティング、消費者行動といった観点から整理し、実際のビジネス事例も交えて考察します。
心理学・社会学的要因
まず、人々の心理や社会的な反応がヒットの成否に影響します。以下のような現象が関係します:
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バンドワゴン効果(同調現象): 多くの人が支持していると自分も乗り遅れたくなくなる心理現象です。「シリーズ累計○○万部突破!」や「SNSで話題沸騰」といった宣伝文句はこの心理を刺激します。商品に対する肯定的な評価が広がると、更に人々が「みんな買っているなら自分も」と感じるため、一見ヒットしそうに思えます。
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スノッブ効果(逆張り心理): バンドワゴン効果とは反対に、「他人と同じは嫌だ」「みんなが持っているものには魅力を感じない」という心理です。大衆迎合への反発とも言え、多くの人に受けている商品ほど興味を失う層が一定数存在します。希少性や限定性の高い商品に価値を見出す人々は、「皆が良いと言うなら自分はあえて別のものを選びたい」と考える傾向があります。
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アンダードッグ効果: 弱者や少数派を応援したくなる心理現象です。競合との争いで劣勢にある商品や、小規模な新興ブランドに共感し支持する消費者もいます。つまり、市場で圧倒的に支持されている主流商品よりも、あえて対抗馬を選ぶことで自分の個性や価値観を示そうとする人もいるのです。
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過度な期待と反動: 「みんなが良い」と評価する声が大きいほど、期待が膨らみすぎてしまい、その後の反動も大きくなります。発売前にメディアや有名人から「革命的だ」「世界を変える」と絶賛されたものの、いざ出てみると期待外れに終わった商品もあります。例えば後述するセグウェイは、スティーブ・ジョブズらが「個人用輸送の革命」と太鼓判を押したものの、実際には高価で使い道が限られ、大衆には受け入れられませんでした。このように前評判が良すぎると、消費者はかえって冷静になり「本当にそんなに良いのか?」と疑い始めることがあります。
マーケティングとブランディングの観点
商品がヒットしない要因には、その商品のマーケティング戦略やブランディング上の問題もあります。
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差別化不足で平均的すぎる: 「全員が80点をつけるような商品」を狙うと、かえって誰の心にも響かないとされています。万人受けを狙って特徴を丸くしすぎた商品は、確かに多くの人から「まぁ悪くないね」と思われるかもしれません。しかしそれでは熱狂的な支持を得にくく、市場での存在感が薄くなります。むしろ一部の顧客にとって120点の価値を持つ独自性こそが重要です。全員が「それいいね」と口を揃える平均的な商品より、少数でも「絶対にこれが欲しい!」と熱烈に求めるファンを生む商品の方がヒットする傾向があります。実際、「全員が『あれば欲しいかも』と思う商品より、少人数でも『絶対欲しい!』と思う商品」の方が成功するケースが多いのです。
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ターゲットが曖昧: 訴求すべきターゲット層が広すぎると、「結局これは誰のための商品なのか」が伝わりません。マーケティングの基本は明確なターゲティングであり、誰に価値を提供する商品なのかを絞り込まないと、メッセージがぼやけてしまいます。例えば「老若男女すべてにおすすめ」といった商品は一見理想的ですが、実際には広告やブランドイメージが散漫になり、競合に対して埋もれてしまいがちです。明確なターゲットと差別化されたポジショニングを欠いた商品は、「良い商品なんだけど何となく選ばれない」という状況に陥りやすくなります。
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ブランド印象が弱い: 差別化やターゲット設定が不十分な商品は、ブランドとしての印象も平均的で記憶に残りません。人々の心に残るブランドは何らかの独自の物語や個性を持っています。しかし「みんなにまぁまぁ良い顔をする」商品は、ブランドストーリーが希薄で消費者との感情的な結びつきも弱くなります。結果として口コミも広がりにくく、「良い商品だけど特筆すべき点がない」という評価に留まり、ヒットに至らないことがあります。
消費者行動の視点
消費者の意思決定プロセスにも、良い評価の商品が売れない理由が潜んでいます。
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認知的不協和と選好の固執: 人は自分の選択が正しかったと思いたい生き物です。すでに似た商品を持っていたり、お気に入りのブランドがある消費者は、新しい商品がどんなに評判が良くても、自分の過去の選択と矛盾する情報を無意識に避けたり軽視したりします。これを心理学で認知的不協和と呼びます。例えば、長年Androidスマホを使ってきた人は「iPhoneの方がみんな良いと言ってるよ」と聞かされても、心の中で「自分には今のAndroidで十分」「iPhoneは高いだけでは?」といった理由を探し、自分の現在の選択を正当化しようとする傾向があります。つまり、人は購買後に自分の決定を支持する情報ばかり集めるため、評判の良い新製品が現れても既存製品への愛着や習慣から乗り換えないことが多いのです。また、「みんなが良いと言う商品」を敢えて買わないことで「流されない自分」を演出し、心理的な一貫性を保とうとするケースもあります。
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選択肢過多(パラドックス・オブ・チョイス): 現代の市場には魅力的な商品が溢れ、消費者は常に多くの選択肢に直面しています。選択肢が多すぎると、かえって人は何も選ばなくなるという現象が知られています。ある研究では、ジャムの試食コーナーで種類を6つ用意した場合と24種類用意した場合を比較したところ、種類が多すぎると購買率が下がったという結果も報告されています。このように「良い商品」が市場に複数存在すると、消費者は迷ってしまい、そのうちのどれも買わずに終わるか、結局は知名度の高い定番品や以前から使い慣れた商品を選んでしまいがちです。結果として、個々には高評価でも競合ひしめく環境では突出したヒットになりにくくなります。また選択肢が多いと消費者は選んだ後に「別の方が良かったかも」と満足度が下がる傾向もあり、評判の割にリピート購入や熱心な支持につながらないこともあります。
実際のビジネス事例
最後に、「みんなに良いと言われたが売れなかった商品」と「賛否が分かれたがヒットした商品」の実例をいくつか見てみましょう。
セグウェイ:期待された革新的商品もニーズ不在で失敗
2001年発表の電動二輪立ち乗りスクーター「セグウェイ」は、発売前からメディアや著名人がこぞって称賛し、大きな注目を集めました。アップルのスティーブ・ジョブズが「パーソナルコンピュータと同等に世界を変える発明になる」とまで述べ、製品コード名「Ginger」の正体を巡って噂が過熱したほどです。まさに「みんなが良いという商品」の典型例でした。しかし蓋を開けてみると販売は低迷します。期待とは裏腹に、「5,000ドルもの高額な電動スクーターにそれほどの価値があるのか?」と多くの消費者は冷めた目で見ました。噂と注目は十分だったにもかかわらず、市場の需要を的確に捉えていなかったため、大きなヒットには至らなかったのです。
具体的には、セグウェイは「技術的には画期的だが日常での使い道が見えない」「価格が高すぎる」という課題を解決できませんでした。その結果、警備員や観光地のツアー用といったニッチな用途に留まり、一般家庭に普及することはありませんでした。セグウェイの失敗は、「どんなに事前評価が高くても、商品が実際の消費者ニーズを満たしていなければヒットしない」ことを示す象徴的な例と言えます。
ソニーのベータマックス:品質で勝っても戦略で負けた製品
ソニーのベータマックスビデオデッキ。高品質と評されたものの、録画時間の短さや市場戦略のミスでVHSに敗北した。
1970年代後半の家庭用ビデオ規格戦争で、ソニーのベータマックス方式は画質や製品の作りで優れていると評判でした。当初、専門家や熱心なAV愛好家からは「ベータの方が映像が綺麗で良い」と高評価を得ていたのです。しかし最終的に主流となったのはJVCが提唱したライバル規格のVHSでした。その原因は技術的優位性だけでは覆せないマーケティング上の差にありました。ベータマックスは初期の録画時間が1時間と短く(VHSは2時間以上録画可能)、またソニーが規格を他社に積極的にライセンスしなかったため普及スピードで劣りました。一方のVHSは様々なメーカーが参入し、映画ソフトも含め幅広い品揃えを実現したのです。つまり、どんなに「良い製品」であっても、価格や利便性、エコシステム構築で劣れば市場で勝てないという例です。この“ビデオ戦争”の教訓は、技術や品質の高さだけでヒットは約束されず、タイミングや戦略、市場展開の巧拙がいかに重要かを物語っています。
クロックス:賛否両論の「ダサい靴」ほど大ヒット
クロックスのサンダル。その独特なデザインは「ダサい」と批判され賛否を呼びましたが、結果的に世界的なヒット商品となり累計3億足以上を売り上げました。
穴だらけの樹脂サンダル靴**「クロックス(Crocs)」は、2000年代半ばに登場すると瞬く間に話題になりました。その履き心地や実用性は高く評価されつつも、そのユニークで野暮ったいデザインからファッション界や一般消費者の間で賛否両論を巻き起こしました。「世界一ダサい靴」「奇妙なデザインだ」と酷評する声がある一方で、「履きやすくて手放せない」と熱烈に支持するファンもいたのです。この polarizing(評価の割れる)**商品はしかし、結果的に空前のヒットとなりました。クロックス社は2010年代に年商10億ドル(約1000億円)超えを連続して達成し、累計で3億足以上を売り上げています。なぜクロックスが成功したかというと、強い個性によって一部の熱狂的支持を獲得したことに加え、その後のマーケティング戦略で「ダサいけどクール」「機能的で自分らしい」というブランドイメージを確立したからです。限定コラボ商品やSNSでの拡散によって若年層の自己表現欲求に刺さり、一度は下火になった売上を見事に復活させました。クロックスの例は、賛否が分かれるくらい個性的な商品の方が、平均的で無難な商品よりも強い市場牽引力を持つことを示しています。
任天堂Wii:コア層には物足りなくとも市場を拡大
日本の事例では任天堂のWiiも、賛否の分かれたヒット商品の代表格です。2006年発売のWiiは直感的な体感コントローラーでゲーム未経験のファミリー層を取り込み、大成功を収めました。一方でハイスペック志向のコアゲーマーからは「性能が低い」「子供だましだ」と否定的な声も上がり、ゲーム業界で意見が割れたハードでもあります。それでもWiiは世界で1億台以上売れる歴史的ヒットとなり、発売当時任天堂史上最も成功したハードになりました。この例から分かるのは、商品に対する評価が一様に高いことよりも、明確なターゲットに刺さり新規市場を開拓できることがヒットにつながるという点です。Wiiはゲームに馴染みのない人々に「みんなで体を動かして遊ぶ」という新たな価値を提供し、大衆の支持を得ました。たとえ一部から批判されても、市場全体で大きな需要を掘り起こせばヒットにつながる好例です。
まとめ
以上のように、「みんなが良いと言う商品がヒットしない」背景には様々な要因が絡み合っています。人々の心理としては、流行に飛びつく一方で大衆に流されまいとする矛盾した動きがあり、マーケティング面では差別化や明確なターゲティングの不足が商品を埋もれさせます。さらに消費者行動として、認知的不協和による抵抗や選択肢過多による迷いが購入を妨げることもあります。実例からも、「万人にそこそこ良い」と思われる商品より、「一部に熱狂的に支持される」商品の方がヒットする傾向が見て取れます。商品開発やマーケティング戦略においては、このことを踏まえ、たとえ一部に賛否を呼ぶような尖った魅力でもコアなファンを生み出す独自の価値を打ち出すことが重要だと言えるでしょう。ヒットの鍵は、「みんなに褒められること」ではなく、「誰かに熱烈に愛されること」にあるのです。
参考文献・出典:ザ・レスポンス「みんなが売れるという商品が売れない理由」(2009): 菅智晃「流行に乗る?逆張りする?スノッブ効果とバンドワゴン効果の使い分け」(2025)Spaceship Earth「バンドワゴン効果とは?アンダードッグ効果・スノッブ効果との違い」(2025)Business Insider: Karlee Weinmann「Segway’s Notorious Product Failから学ぶこと」(2011)イーパフォーマンス: 「ターゲティングって何?」(2018)インパクトM: 「人は自分の決定が正しかったと思いたい(認知的不協和)」(2012)Barry Schwartz “More Isn’t Always Better,” Harvard Business Review (2006)CNNMoney: Rob Kelley “Top 10 product misses – Segway” (2007)Museum of Failure: 「Sony Betamax」(掲載日不明)The Washington Post: Abha Bhattarai “Crocs’ billion dollar strategy: Stay ugly” (2017)
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