土曜日, 5月 24, 2025
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なみぐる×南ノ南が語り合う「ボーカロイドと海外シーン」 北京での公演を終えたふたりが思う“これからの戦い方”とは


 中国の音楽レーベルが主催し、2009年の初開催以来160回以上の開催と800万人以上の動員を誇る、中国最大級の音楽フェス『Strawberry Music Festival』。

 5月初旬にも中国・東莞&北京にて本フェスが開催され、日本からは倖田來未や新しい学校のリーダーズ、のん、Corneliusといった多彩なアーティストが出演。加えて今回のトピックのひとつともなったのが、VOCALOIDシーンで活躍するクリエイターたちによる「The VOCALOID Collection TIME」のステージだ。

 シーンの一大祭典であるイベント『The VOCALOID Collection(以下ボカコレ)』より、今回カルチャーを代表するボカロPとして北京の舞台に立ったのは南ノ南、なみぐる、夏山よつぎのボカロP3名と音楽プロデューサー/DJアーティストTeddyLoidの計4名。同フェス史上初となったボカロステージでは、それぞれのDJプレイによって会場も大いに盛り上がり、中国現地でのボカロ文化に対する高い熱量が明確に可視化された形ともなった。

 近年、ボカロシーンを巡ってはアジア圏におけるボカロイベントが多数開催されるなど、国際的な盛り上がりを見せている。そのなかでドワンゴは、シンガポールを拠点とするSOZO社と国際的なクリエイター連携プログラム「Asia Creators Cross」を始動するなど、国内のみならず、海外・アジア圏への「ボカロ文化拡大」へと歩みを始めている。

 そこで今回は、上記フェスへ出演した南ノ南&なみぐるの2人に、ボカロカルチャーの本格的な海外進出に関する対談を行ってもらった。中国から帰国直後の実施ともなった本インタビュー。長旅の疲労も蓄積したなかだったが、現地の感想や中華圏でのボカロ文化の興隆の様子、そして日本のシーンの現状や、その中枢にあるイベント・ボカコレについての見解など。様々な話題が2人の間で飛び交う、非常に意義深い対談となった。

「リスナーだけでなくイベント運営の雰囲気の違いも興味深かった」(なみぐる)

──タイトなスケジュール、本当にお疲れ様でした。まだまだ中国の余韻も冷めやらぬなかですが、ずばりイベントに出演してみて、いかがでしたか?

南ノ南:まずシンプルに、すごく楽しかったですね。中国との関わりでいうと、2年前ぐらいからでしょうか。僕の楽曲が『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』に収録された頃から、即売会で「CD、全部1枚ずつください」みたいに言ってくださる中国の方をよく見かけるようになって。なので、そういった方々(海外のファン)がいることも、うっすら体感はあったんです。今回のDJにはそうした熱心なリスナーさんたちが大勢来てくださって、中国ファンの熱量を本場で感じられたことがとても嬉しかったです。

なみぐる:僕もすごく楽しかったですね。加えて言うなら、今回出演させて頂いた『Strawberry Music Festival』は、イベント自体の体制がかなりしっかりしていた印象です。

 日本のイベントだとタイムテーブルが押したり、終演時刻がかなり後ろ倒しになることもよくあるんですけど、今回は全然そんなこともなくて。そこに結構ギャップを感じたりもしました。アーティストへの気遣いとか、音出しの確認作業もとても丁寧でしたし、ステージ周辺には警備の方が大勢いたり。あと、パフォーマンス中に残り時間が少なくなると演者向けのタイマーに「あと〇分」ってデカデカとカウントダウンが表示されるんですよ(笑)。そういった点の緊張感というか、日本のイベントとは違うプレッシャーも感じつつ、終始楽しくやらせて頂きました。

──オーディエンスのみならず、イベント運営面での雰囲気の違いという点はかなり興味深いですね。

南ノ南:イベントの盛り上がりでいうと、ボカロのみならず日中のいろんなアーティストさんが出ていたので、温度感を一概に言う事はできないんですけど。それでもボカロに関して言えば、日本と遜色ないぐらい熱心な聴き方をしている方が大勢いるんだな、という印象でした。

なみぐる:あとはとにかく、初音ミク人気がすごかったですね。南ノ南さんの「可不ちゃんのカレーうどん狂騒曲」や「星界ちゃんと可不ちゃんのおつかい合騒曲」にも勝るぐらい、とにかく南ノ南さんのミク曲「ミクちゃんのネギネギネギネギ幻騒曲」がすごく人気で。

 会場に入る前に見学した現地のショッピングモールでも初音ミクのグッズがいっぱい取り扱われていて、ボカロがちゃんと“文化”として浸透してる事をその光景からも感じました。

 実は今回、事前にbilibili動画を見てテトさんやずんだもんの人気を感じ取っていたので、セトリにミクさんの曲を一切入れてなくて。入れとけばよかったな~と現地でちょっと後悔しましたね(笑)。

──その辺はまさに、現地に行かないとわからない肌感ですね。ちなみにお二人はイベント前、中国での温度感をどのように予想していましたか?

南ノ南:僕、今年2月に台湾での即売会にお呼び頂いたんですけど、その前日に現地でDJイベント的な催しがあって。そこに近い雰囲気なのかな、と勝手にイメージしてたんです。その時は皆さんアンセム曲のリミックス等を流していたので、やっぱり大勢で盛り上がれる曲がいいのかな、と。なので事前にbilibili動画の再生数もチェックしつつ、比較的合いの手が多めの楽曲をチョイスしました。日本語でノってくれるかな、という不安もあったんですけど、言語の壁も全然感じることなく皆さん盛り上がってくれましたね。『マジカルミライ』みたいにペンライトを振ってくれる人もいて、ボカロDJの楽しみ方を含めて、文化がちゃんと定着しているんだな、と。

なみぐる:僕も先月、韓国のイベントにDJで出演させていただきまして。イベントの規模感こそ今回より全然小さく、いうなればサブカル寄りのものでしたが、日本人より日本の音楽を知っているような方々ばかりでやりやすかった分、今回の中国はどうなるかな、とも思っていたんです。

 一応、情報源として昨年原口沙輔さんとフロクロさんが行っていた上海公演(『textur3 meets 原口沙輔』)のお話を聞いたりして、「読谷あかねさんの『散り散り』がすごい盛り上がった」みたいな現地のアンセム情報も頂きつつ(笑)、今回のイベントに臨んだ形でした。bilibili動画でパロディが多い曲を中心に持っていったり、僕の曲だと簡単な振付の曲も結構多いので、その辺はノンバーバルで伝わった感触もあったかな。チャイナ感のある「電脳眠眠猫」は現地ですごく人気なので、客席に振付を煽ったらやってくれたりして。やっぱり振付のある曲は、なおさら盛り上がりが目に見えてよかったですね。

──お二人共、言語の壁を越えたリスナーの熱気を感じられたんですね。ちなみに今回、他のアーティストさんのステージも見たりされたんですか?

南ノ南:時間が結構カツカツだったので、僕はなかなか他の方をあまり見られておらず……。遠目に別のステージの盛り上がりを感じたり、現地のアーティストさんのかっこいいサウンドに耳を傾けてた形ですね。

なみぐる:僕は空き時間で、龚琳娜(ゴン・リンナ)さんのステージを少しだけ拝見しました。日本でいう和楽器バンドみたいな、中国の古楽器や古い言葉を使ってフュージョンやレゲトンのようなカッコイイ曲をやってる方なんですけど、こういうのはやっぱり現地じゃないと聴けないな、と思って。ボカロ曲を作る時の心情として、なるべく今までシーンになかったジャンルを持ってきたい気持ちもあるので、そういう面では向こうの音楽・エンタメを感じられてすごく刺激になりました。

南ノ南:その方、すごく気になりますね…。あとでぜひ詳しく教えて下さい(笑)。


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──少し前にはTVでの特番で欧米圏のボカロPさんがピックアップされたり、直近ではアメリカ在住のボカロP・SAWTOWNEさんの活躍もシーンで注目を集めています。今後中華・アジア圏でも、ユニークな作り手が増える機運が高まりそうですね。

なみぐる:自分が以前韓国に行った際、2024年にボカロPとしてデビューされたTAKさんのスタジオにお邪魔する機会があって。もともとサブカルチャーミュージックやK-POPシーンでバリバリに活躍されていた方なので、韓国ではやはりTAKさんへの支持がすごく高いみたいです。その影響もあってか、向こうでは徐々に作り手の人口も拡大してるらしく。TAKさんっていうわかりやすいスターがいて、そこに追随する形でボカコレや日本のサブカルに目を向ける方が増えているようですよ。

──そんな潮流のなか、まさにドワンゴが「Asia Creators Cross」を昨秋から始動しています。その一環として今回みなさんは『Strawberry Music Festival』へ出演された形ですが、こういった取り組みについて、いちクリエイターとしてはどう感じられていますか?

南ノ南:ついにニコニコ動画も世界進出か、という気持ちがまずありますね(笑)。それこそ、これらを通じて世界的スターになるボカロPが一人ポンッと出てくると、そこからこのプログラムの認知も広まってくると思うんです。さっきのTAKさんやSAWTOWNEさんみたいに、そこから各国で波及する盛り上がりを、それこそボカロ発祥の地・日本から代表してドワンゴさんがサポートできると、より面白い事ができそうですよね。

なみぐる:プログラム自体も素晴らしい取り組みですし、重ねて言うならこの取り組みを通じて、海外の方々が日本に憧れを持って遊びに来てくれるようになると、より理想的ですよね。

 個人的には実際にアジア圏への拡大を肌で感じるなかで「これ、このままだと日本負けちゃうかも」という焦りも強く感じていて。韓国や中国の方々って皆さんすごく勉強家ですし、各国の技術もどんどん進化していますし。そんな国々にあるボカロ文化への熱を絶やさないようこちらから仕掛けつつ、日本のクリエイターにも発破をかけるというか。そういうやり方はすごく面白いと思うので、最終目標をブレさせることなく、今後もいろんな取り組みが続いていくといいですね。

──重ねて、この取り組みの一端を担う『The VOCALOID Collection』について、直近でイベントに対してどのような印象を持たれていますか? 元々『ボカコレ』は各部門のランキング戦要素が強い投稿祭でしたが、近年はそれだけに留まらず様々な催しやコラボ、オーディションイベントなども多数併催されています。

南ノ南:僕個人としては、ランキング戦の部分にややマンネリを感じている所もありまして。ここ数回の開催は「TOP100」「ルーキー」「リミックス」ランキングの3部門で完全に固定されている印象もあるんですよね。少し前には自分がお手伝いしていたボカロP・子牛さん主催の「ネタ曲投稿祭」とのコラボも実施されましたが、あんな形で主要3部門以外にも何か真新しさのある特別枠や企画部門があると、イベントのエッセンスにもなるんじゃないかなと。

──直近のシーン全体で言えば、まさに「ネタ曲投稿祭」や「無色透名祭」の開催を奔りとした個人主催の投稿祭企画がかなり増えましたよね。こちらも各所で開催が点在していて、個人的には正直追いきれてない部分もかなりありまして。

南ノ南:同様にボカコレのランキング戦外の様々な催しは、僕個人も追いきれてない部分が結構ありますね。あとから「こんなの開催してたんだ」って知ることも多いです。他のユーザーさんでもそういう方はいるんじゃないかな。その点でも、『ボカコレ』然り個人の主催企画然り、今後どう大きくしていくかについては各々難しく感じているんじゃないかと思います。なみぐるさんも企画の主催とかされてましたっけ?

なみぐる:主催はしたことないですけど、以前『キラハピ』に携わらせて頂いたことがありますね。他にもいろいろ催し物や企画のお話や苦労を聞かせて頂く機会が時々あるんですが、『ボカコレ』に関しては近年特に、半年に1回の規模とは思えないほどのデカさで大変すぎないか、とも感じていて。イベントを支える皆さんが身を削りすぎているというか……(笑)。

 それこそ南ノ南さんとお話しているときに伺っていい案だなと思っていたのが、『ボカコレ』としてのビッグイベントは年1回にして、もう1回はユーザー企画の投稿祭の名前をお借りするとか、そういった小規模なイベント形式にしてみることで。メインイベントとスピンオフで、年2回の開催する形ですね。ボカロPも準備に丸一年かけてより火力の高い曲を用意できますし、ドワンゴさんはユーザー企画もマンパワーを使って面倒みられるし、確かにそれはいい落としどころだな、と思ってお話を聞いてました。

──ネタ曲投稿祭との共同開催は、いわば投稿するボカロPのみならず、イベント企画主催者へのサポートでもありました。そういう意味での“多角的なユーザー参加型”が実現した事例でしたよね。

なみぐる:個人的に、今年のニコニコ超会議の「まざろ」ってテーマが、一言でニコニコ動画を体現していて、すごく良いなと感じたんですよ。そういう風に、『ボカコレ』にもあらためて「多角的にユーザーが“まざれる”催し」がまたあるといいな、とも思います。個人投稿祭についても、僕も最近数が多すぎるなと思っている節もあって。イベントが多すぎるとそれ自体の価値が薄れてしまう側面もあるので、たとえば投稿祭テーマや部門を公募して、それをボカコレの一環として開催する、とかでもいいんじゃないかと。

──ボカコレのみならず、シーン全体への提言としても非常に興味深いお話でした。ありがとうございました。最後に今日の総括として、今まさにボカロ文化が世界へ進出するなかで、お二人の今後の活動抱負やシーンへの期待についてお聞かせ頂けますか。

南ノ南:やっぱり、世界中で面白いものと感じるものを作っていきたいですね。目下の具体的な取り組みとしては、楽曲の英語字幕実装でしょうか。世界に伝わるものが出せたらいいなという一方で、とはいえ先ほどなみぐるさんが仰っていたように、あくまでボカロはやっぱり日本が主軸の音楽文化だとも思うので。日本で楽しまれることを大前提にしつつ、世界にもユニークさやシュールさが伝わることを落とし所にできたら面白いんじゃないかと思うので、今後はそういう作品作りにも挑戦したいですね。

なみぐる:僕は、ボカロカルチャーが世界に進出していくなかで、日本から見た海外とか、海外から見た日本とか、そういう“他者から見た世界”が垣間見える瞬間がすごく面白いと思っていて。SAWTOWNEさんの「Confessions of a Rotten Girl」とか、ブラジリアンミクのミームとか。ボカロの世界拡大でそういったものがたくさん観測できることへの期待と、あとは世界中にライバルがいっぱい現れることにもワクワクしています。競争社会のようになりすぎて欲しくないとも思いますが、そうした切磋琢磨を通じて世界の文化とVOCALOID・音声合成ソフトの繋がりがより強固になって、面白い作品がたくさん生まれて欲しいな、とも思います。

──となると、音声合成ソフトの多言語対応などはかなり火急の課題となりそうですね。

なみぐる:それも今後どんどん進んで欲しいですね。外国語で歌う子はたしかに元々いますし、『Synthesizer V』や『VOICEVOX』は少しずつ対応している子も増えていますが、まだまだ少数派な印象なので。海外の方でも、なかには、母国語に対応していないからソフトウェアの使用を渋る人もやっぱりいるみたいなんですよ。実際、自分たちも曲の歌詞に英語を使おうとすると結構大変で。

南ノ南:言葉というより、音として入力する形になってしまうというか。こうすると英語っぽく聴こえるかな、って毎回試行錯誤しながら打ち込んでますもんね。

なみぐる:それがスムーズになると、海外への売り込みもよりしやすくなる気もしますし。開発はかなり大変な作業かとは思いますが、ぜひ各社メーカーさんにも今後より注力して頂きたいですね。

■なみぐる&南ノ南のパフォーマンス映像をチラ見せ!

 ドワンゴが推進する、日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。

 本イベント・中国最大級の音楽フェス『Strawberry Music Festival』におけるクリエイターの出演もその一環となっています。

 今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。

■関連リンク

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Lin Zhixing

2015年 フリーランスとして活動

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三沢光汰

93年生まれの編集者/ライター。インターネットにどっぷりの学生時代を送ったせいか、いまでも余暇時間はPCゲームとYouTube動画の視聴で溶けがち。最新ガジェットにも目がなく、ついつい欲しくなってしまうのを日々我慢している。

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編集部の感想:
ボカロシーンが海外進出を果たしたことに興味を持っています。特に中国の音楽フェスでの盛況ぶりは、国際的なファンの熱量を感じられ、嬉しい展開です。これからのボカロ文化の拡大に期待しつつ、日本と海外のクリエイターの連携がより進むことを望みます。

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