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概要
この記事では、デザインにおける「物語」の重要性について述べられています。著者は、物語が人々の心にどのように影響を与えるか、デザインにストーリーをどのように組み込むべきかを探求しています。物語は共感を呼び起こし、記憶に残り、ブランド認知度を高める力を持っていると紹介されています。
要約の箇条書き
- 単なる製品のスペックやメリットだけでは心に残りにくい。
- 人は感情的な物語に強く惹かれ、記憶に残る生き物。
- デザインにおけるストーリーテリングの重要性を強調。
- 物語が持つ力:
- 共感と感情移入: 登場人物に感情を重ねることで強い印象を受ける。
- 記憶への定着: ストーリーは記憶しやすい。
- 意味の付与: バラバラな情報に文脈を与える。
- 価値観の共有: 自然な形で価値観が伝わる。
- 行動の動機づけ: 心を動かされた物語が新たな行動を促す。
- デザインにおけるストーリーの形:
- 製品やサービスの背景にある物語。
- ブランドが紡ぐ一貫したメッセージ。
- ユーザー自身の未来の物語。
- デザイン要素が語る雰囲気や物語。
- デザインにストーリーを織り込む理由:
- 感情的な繋がりを築く。
- 記憶に残りやすくなる。
- 独自性と差別化を生む。
- 価値への納得感を高める。
- ブランドへの愛着を育む。
- デザインにおけるストーリーは特別な才能ではなく、誰でも表現できるもの。
- 語るべき物語の種は、製品やサービスの理念、価値観の中に存在する。
新しい製品のスペック一覧。サービスのメリットが箇条書きで並んだ資料。もちろん、そうした情報は正確で、分かりやすいことが大切です。でも、正直なところ、それだけを読んでも、なかなか心が躍ったり、深く記憶に残ったりすることって、少ないかもしれません。
一方で、どうでしょう。
心を揺さぶられた映画のワンシーン。登場人物に自分を重ねて、涙した小説の結末。誰かから聞いた、ちょっとした、でも忘れられない感動的なエピソード。僕たちは、なぜか理屈を超えて「物語」に強く惹かれ、それを記憶し、そして心を動かされる生き物のような気がします。
こんにちは、Gekkodesignの水口雅月(みずぐちかづき)です。
実は、僕たちが日々向き合っている「デザイン」の世界でも、この「物語の力」、つまりストーリーテリングが、ものすごく重要なのではないか、と僕は考えています。
今日のでは、なぜデザインに「ストーリー」が必要なのか、そしてそれが人の心にどんな魔法をかけるのか、僕なりに感じていることをお話しさせてください。
(結局のところ、良い物語は、相手への深い「共感」から生まれるのかもしれませんね。そのあたりは、以前こちらの記事でも少し触れました。)
「物語」が持つ、不思議な力 – なぜ僕たちはストーリーを求めるのか?
考えてみれば、僕たちは子供の頃から、たくさんの物語に囲まれて育ってきました。寝る前に読んでもらった絵本、ドキドキしながら見たアニメ、友達と夢中になった冒険小説…。なぜ、僕たちはこんなにも物語が好きなのでしょうか?
そこには、いくつかの理由があるように思います。
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共感と感情移入: 物語には、必ずと言っていいほど「登場人物」がいますよね。僕たちは、その登場人物が直面する困難や喜び、葛藤に、無意識のうちに自分自身を重ね合わせ、まるで自分のことのように感情移入します。そのプロセスを通して、物語は僕たちの心の深い部分に触れ、強い印象を残すのです。
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記憶への定着: 単なる事実の羅列や、抽象的な概念よりも、具体的なエピソードや登場人物のいるストーリーとして構成された情報の方が、僕たちの脳ははるかに記憶しやすいと言われています。これを心理学では「エピソード記憶」と呼んだりしますが、感動的な物語は、何年経っても鮮明に覚えていることがありますよね。
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意味の付与と理解の促進: 世界は複雑で、たくさんの情報で溢れています。物語は、そうしたバラバラに見える出来事や情報に「意味」や「文脈」を与え、それらを理解しやすく、そして受け入れやすくしてくれる役割を果たします。「なぜこうなったのか」「これからどうなるのか」という繋がりが見えることで、僕たちは安心感を覚えるのかもしれません。
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価値観の共有: 物語は、作り手や語り手の持つ「価値観」や「世界観」を、直接的な説明ではなく、登場人物の行動や物語の展開を通して、自然な形で伝えてくれます。そして、その価値観に共感した時、僕たちはその物語や語り手に対して、強い親近感や信頼感を抱くようになります。
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行動の動機づけ: 心を動かされた物語は、時に僕たちの考え方を変え、新しい行動を促すほどの強い影響力を持つことがあります。歴史上の偉人の物語に勇気づけられたり、社会問題を扱ったドキュメンタリーに心を揺さぶられて何か行動を起こしたり、といった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
このように、「物語」というのは、単なる娯楽を超えて、僕たちの認知や感情、そして行動にまで深く影響を与える、不思議で強力な力を持っているのです。
デザインにおける「ストーリー」とは? – 見た目だけではない、奥行きを生むもの
では、この「物語の力」を、デザインの世界ではどのように捉えればいいのでしょうか? デザインにおける「ストーリー」は、必ずしも起承転結のある長大な物語である必要はありません。それは、もっと多様な形で、デザインの様々な側面に宿り得ると僕は考えています。
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製品やサービスの背景にある物語:
例えば、その製品がどんな想いから開発されたのかという「開発秘話」。創業者がどんな苦労を乗り越えて事業を立ち上げたのかという「創業ストーリー」。使われている素材への並々ならぬ「こだわり」。あるいは、実際にその製品やサービスを使った顧客との間に生まれた「心温まるエピソード」など。これらは全て、そのデザインに深みと人間味を与える、かけがえのない物語です。 -
ブランドが紡ぐ物語:
企業やブランドが、どのような価値観を持ち、どのような世界を目指しているのか。その一貫したメッセージや姿勢もまた、一つの大きな「物語」と言えるでしょう。広告、ウェブサイト、製品デザイン、顧客対応… それら全てが、そのブランドならではの物語を語るための要素となり得ます。 -
ユーザー自身の物語:
そして、デザインは、ユーザーがその製品やサービスを使うことで、どんな新しい体験をし、どんな風に日常が少し豊かになり、どんな新しい自分に出会えるのか、という「未来の物語」を予感させるものでありたい。ユーザーが、そのデザインを通して、自分自身の物語を紡いでいけるような、そんな可能性を感じさせることが重要です。 -
デザインそのものが語る物語:
時には、色使い、フォルム、素材感、タイポグラフィといったデザイン要素そのものが、言葉にならない「物語」や「雰囲気」を醸し出すこともあります。例えば、あるロゴマークの曲線が優しさや繋がりを物語っていたり、ウェブサイトの配色が先進性や信頼感を物語っていたり。言葉を介さずに、直感的に伝わるストーリーもあるのです。
このように、デザインにおける「ストーリー」は、実に様々な形で存在し、それらが絡み合うことで、デザインに奥行きと豊かな意味を与えてくれるのだと思います。
なぜ、デザインに「ストーリー」を織り込むべきなのか? – 共感がもたらす魔法
では、なぜ僕たちは、デザインにこうした「ストーリー」を意識的に織り込んでいくべきなのでしょうか? それは、ストーリーが持つ「共感」の力が、ビジネスやコミュニケーションにおいて、まるで魔法のような効果をもたらしてくれるからです。
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① 感情的な繋がりを築く:
機能や価格といった理性的な側面だけでは、なかなか顧客との深い繋がりは生まれません。製品やブランドの背景にあるストーリーに触れ、そこに「共感」することで、顧客は単なる「モノ」や「サービス」を超えた、感情的な愛着を抱くようになります。 -
② 記憶に残りやすくなる:
情報が洪水のように押し寄せる現代において、単なるスペックやメリットを伝えるだけでは、すぐに忘れ去られてしまいます。でも、心を動かす「物語」として語られたメッセージは、人々の記憶に深く刻まれ、口コミやSNSでの共有を自然と促します。 -
③ 独自性と差別化を生む:
製品の機能や価格は、競合に簡単に真似されてしまうかもしれません。でも、その製品が生まれた背景にあるユニークなストーリーや、作り手の譲れない想いは、決して誰にも真似できません。それこそが、他にはない強力な「差別化要因」となるのです。 -
④ 価値への納得感を高める:
なぜ、この製品はこの価格なのか? なぜ、このサービスはこれほど手間をかけているのか? その理由を、スペックだけでなく「物語」として伝えることで、顧客は価格以上の価値を感じ、納得して対価を支払ってくれるようになります。 -
⑤ ブランドへの愛着(エンゲージメント)を育む:
物語に共感し、その世界観を好きになった顧客は、単なる「消費者」ではなく、そのブランドを心から応援し、支えてくれる「ファン」へと変わっていきます。このファンとの強い絆こそが、長期的なビジネスの成長を支える最も大切な資産です。
スペックで選ばれるのではなく、ストーリーで愛される。それが、物語の持つ魔法なのだと僕は考えています。
僕がデザインで「物語」を紡ごうとする時 – 大切にしていること
僕自身が、デザインを通して何らかの「物語」を伝えようとする時、いつも心がけていることがいくつかあります。
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「誰」の物語なのかを明確にする: この物語の主人公は誰なのか? 企業の創業者なのか、製品の開発者なのか、それとも、それを使う一人のユーザーなのか。誰の視点で、誰に向けて語るのかを最初に明確にすることが大切です。
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「本物」の感情や体験から出発する: 作り話や、どこかで聞いたような美談では、人の心は動きません。実際にあった出来事、そこに関わった人々のリアルな想いや葛藤、喜びや苦しみ。そうした「本物」の感情や体験に根差したストーリーこそが、強い共感を呼ぶのだと思います。
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「起承転結」だけが物語ではないと知る: 必ずしも、壮大な物語である必要はありません。短いキャッチコピー、一枚の写真、ウェブサイトのちょっとしたインタラクション、製品の触り心地…。デザインを構成する様々な要素の中に、小さな「物語の断片」を散りばめることだって可能です。
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「余白」を残すことを恐れない: 全てを言葉で説明しすぎず、受け手が自由に想像したり、自分自身の経験や感情を重ね合わせたりできるような「余白」を残すことも、時には大切です。その余白こそが、物語をより深く、パーソナルなものにしてくれます。
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一貫性を保つ: 語られるストーリーが、ブランド全体のメッセージや、他のデザイン要素と矛盾しないように、常に一貫性を意識すること。バラバラな物語は、受け手を混乱させてしまいます。
完璧な物語を語ることよりも、伝えたい想いが、ほんの少しでも相手の心に届き、何かを感じてもらえること。それを何よりも大切にしたいと思っています。
結論:あなたのデザインにも、「語るべき物語」がきっとある
デザインに「ストーリー」を込めること。それは、何か特別な才能を持った人だけができることではありません。
あなたの製品やサービスが、どんな想いから生まれたのか。あなたが大切にしている価値観は何なのか。それを通して、誰かを少しでも幸せにしたい、社会を少しでも良くしたいという願いがあるのではないか…。
それら全てが、語られるべき、尊くてユニークな「物語」の種です。
その物語の種を丁寧に見つけ出し、掘り起こし、そして相手の心に届くように、愛情を込めて表現していくこと。それこそが、人の心を動かし、世界をほんの少しだけ豊かにしていく、デザインが持つ素晴らしい力なのだと、僕は信じています。
あなたのデザインにも、あなたの活動にも、きっと「語るべき物語」が眠っているはずです。
ぜひ、その物語を、私たちにも聞かせてください。
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