古代ローマの剣闘士(グラディエーター)たちが、ライオンを筆頭とする猛獣と戦っていたことは、歴史的な文献などから十分にわかっています。

その一方で、実際にライオンと戦ったことを物語る剣闘士の遺骨はこれまで見つかっていませんでした。

そんな中、英メイヌース大学(NUIM)の研究チームは最近、イングランド北部の都市ヨークにある古代ローマ時代の墓地から、ついにライオンの咬み傷を持つ剣闘士の遺骨を発見したのです。

これは剣闘士とライオンが本当に戦っていたことを示す初の考古学的証拠となります。

研究の詳細は2025年4月23日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されました。

目次

  • ライオンと戦った物的証拠はなかった
  • ライオンと決闘したグラディエーターを発見!

ライオンと戦った物的証拠はなかった

古代ローマの剣闘士、通称グラディエーターは、人々の前で戦いを演じる「見世物」の主役でした。

彼らの存在は映画などのフィクション作品にもなっており、長い歴史の中でも非常に人気の高い題材です。

グラディエーターたちは人間同士で戦うだけでなく、クマやライオンなどの猛獣と戦う場合もあったことが文献やモザイク画によって明らかになっています。

しかし実際にそうした戦いがあったことを示す「物理的な証拠」は、これまで見つかっていませんでした。

研究主任のティム・トンプソン(Tim Thompson)氏はこう話します。

「これまで古代ローマ時代の剣闘試合についての理解は、主に歴史文献や美術的表現に頼っていました。

今回の発見は、そうしたイベントが実際に行われていたことを示す初めての直接的・物理的証拠であり、この地域における古代ローマ時代の娯楽文化の理解をさらに深めるものです」

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ジャン=レオン・ジェローム画、1872年/ Credit: ja.wikipedia

研究チームは今回、イングランド北部の都市ヨークにある古代ローマ時代の墓地「ドリフィールド・テラス」から回収された遺骨を新たに調査しました。

この墓地では2010年に、屈強な若い男性82体の骨格が見つかったことで知られ、主に剣闘士たちの遺体が埋葬された場所として知られます。

当時の専門家たちは歯のエナメル質の分析から、これらの剣闘士たちがローマ帝国のさまざまな属州から来ていたことを突き止めています。

そうした背景の中で、チームは驚くべき遺骨を発見したのです。

ライオンと決闘したグラディエーターを発見!

チームは注目したのは「6DT19」と呼称される約1800年前の遺骨です。

6DT19の遺骨は26歳から35歳と推定される男性のもので、別の2人とともに1つの墓に埋葬され、その上には馬の骨が重ねられていました。

彼は生前、背中への過度な負担による脊椎の問題、肺や大腿部の炎症、幼少期の栄養失調などを経験していたようですが、いずれも回復していたと見られます。

そしてチームが最も注目した点は、6DT19の骨盤に大きな穿孔痕(せんこうこん)があったことです。

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骨盤に見られた大きな穴/ Credit: Maynooth University(2025)

チームはこの穿孔痕を3Dスキャンし、ネコ科、イヌ科、クマ類の噛み跡パターンと比較。

その結果、この穿孔痕はライオンに噛まれたことでできた傷であることが特定されたのです。

さらに穿孔痕には治癒した痕跡がなかったため、この剣闘士はライオンと戦った直後に死亡した可能性が指摘されています。

もしかしたらライオンに骨盤を噛まれて、そのまま引きずられながら絶命したのかもしれません。

あるいは”肉を切らせて骨を断つ”ように、ライオンが体に噛み付いている隙に、剣を突き刺して相討ちになった可能性もあります。

いずれにせよ、この発見は剣闘士がライオンと実際に戦っていたことを示す世界初の物的証拠となりました。

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Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

同チームのマリン・ホルスト(Malin Holst)氏はこう語ります。

「これは非常に興奮すべき発見です。

これにより、剣闘士たちが生前どのような戦いを経験していたのかについて、より具体的なイメージを構築できるようになります。

またライオンなどの大型肉食獣、あるいは他の外来種の動物が、ヨークのようなローマ以外の都市の円形闘技場にも実際に登場していたことが裏付けられました。

ライオンたちもまた、死の脅威から自らを守らなければならなかったわけです」

これまでの調査から、イングランドの都市ヨークでは、4世紀頃まで剣闘士イベントが開催されていた可能性が指摘されています。

これは当時、この都市に多くの高位軍人や政治家がローマから赴任していたことと関係していると考えられます。

ローマの有力者たちがヨークに駐在していたことで、豪奢な社交生活が求められたはずであり、それに伴って、ローマと同じくらい過激で興奮する剣闘試合が求められたことでしょう。

剣闘士「6DT19」はまさに、その求めに応じてライオンと本当に戦った勇敢な戦士だったと見られます。

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参考文献

Study reveals skeletal evidence of Roman gladiator bitten by lion in combat
https://www.eurekalert.org/news-releases/1080670

Scientists Discover First Probable Evidence of a Roman Fighter Mauled by a Lion
https://www.sciencealert.com/scientists-discover-first-probable-evidence-of-a-roman-fighter-mauled-by-a-lion

元論文

Unique osteological evidence for human-animal gladiatorial combat in Roman Britain
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0319847

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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