たばこ税の引き上げが、子供の死亡率を低下させる。
そんな研究結果がスウェーデン・カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)によって報告されました。
この研究は、世界94の低・中所得国における5歳未満の子どもの死亡率とたばこ税の関連を13年間にわたって追跡したもので、たばこ対策が子供の命を守る強力な手段であることを裏付けています。
研究の詳細は2025年5月の医学雑誌『The Lancet Public Health』に掲載されました。
目次
- 受動喫煙で年間20万人の子供が亡くなっている
- たばこ税の増加で、子供の生存率がUP
受動喫煙で年間20万人の子供が亡くなっている

たばこは喫煙者本人のがんや心臓病の原因になるだけでなく、妊娠中の母親や家庭内、あるいは公共の場での受動喫煙を通じて、子どもの健康にも深刻な影響を及ぼすことが知られています。
実際、たばこ由来の受動喫煙は、年間およそ20万人の5歳未満児の死因になっていると推定されており、多くの人が「大人の問題」として捉えがちなたばこの影響が、実は最も弱い立場にある子どもたちに降りかかっているのです。
特に低・中所得国では、子供たちが受動喫煙にさらされやすく、死亡率が高まっていることが懸念されています。
世界保健機関(WHO)は、たばこ税を小売価格の75%以上に設定するよう推奨していますが、この基準を満たしている国は世界の21%しかありません。
例えば、日本ではたばこ1箱580円中、約62%(約357円)が税金とされており、WHOの水準には近づきつつあるものの、特別消費税の割合は依然として課題です。
では、たばこ税を引き上げることで、子どもの命を守ることはできるのでしょうか?
たばこ税の増加で、子供の生存率がUP
今回の研究は、「たばこ税の引き上げが社会経済的格差を超えて子供の死亡率に影響を与えるのか」という問いから出発しました。
従来の研究では、たばこ税が喫煙率を下げる効果は知られていましたが、それが子供の生存率にも寄与しているのかは、あまり明らかにされていませんでした。
このような背景を踏まえ、研究チームは2008年から2020年までの13年間にわたって、94の低・中所得国における5歳未満の死亡率を所得階層ごとに追跡し、たばこ税の水準と子供の死亡率との関連性を分析しました。

その結果、たばこ税が小売価格の10%増加するごとに、すべての所得階層において子供の死亡率が約2%ずつ低下するという明確な傾向が見られたのです。
とりわけ、WHOが推奨する75%以上の税率を達成している国では、最貧層の子供の死亡率が約6%も減少しており、税の高さが命を救う尺度になっていることが示されました。
また分析によれば、今回の研究対象となった94か国のうち、84か国がまだWHOが推奨するたばこ税の基準に達しておらず、もしすべての国が税率を75%以上に引き上げていれば、2021年の1年間だけで28万人以上の子供の命が救えた可能性があると推定されています。
税金というと、つい「取られるもの」としてネガティブに捉えがちですが、この研究は、税金がいかに人々の命や未来にポジティブな影響を与えるかをデータで示した貴重な例です。
特に子供という、自己防衛できない存在にとって、社会がどのような制度を選ぶかは生死に関わります。
日本を含めたすべての国にとって、この研究は子供の命を守るために何ができるのかを改めて問い直す重要な機会となるでしょう。
参考文献
Higher cigarette taxes may improve childhood survival
https://medicalxpress.com/news/2025-04-higher-cigarette-taxes-childhood-survival.html
元論文
Cigarette taxation and socioeconomic inequalities in under-5 mortality across 94 low-income and middle-income countries: a longitudinal ecological study
https://doi.org/10.1016/S2468-2667(25)00065-9
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
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