そうだ アニメ，見よう：第231回はミステリアスな大人の恋物語「九龍ジェネリックロマンス」。名作「クーロンズ・ゲート」から着想を得た作品

　第63回「小学館漫画賞」の一般向け部門を受賞し，TVアニメ化もされた「恋は雨上がりのように」（関連記事）。その原作者である漫画家・眉月じゅん氏が，「週刊ヤングジャンプ」で連載中の「九龍（クーロン）ジェネリックロマンス」（ヤングジャンプ・コミックス/既刊10巻）は，累計発行部数が140万部を超える人気作だ。アニメ化に加え，吉岡里帆さんと水上恒司さん主演の実写映画（リンク）もこの夏に公開される。
　というわけで，「そうだ アニメ，見よう」第231回のタイトルは，同作をアニメ化した「九龍ジェネリックロマンス」（毎週土曜日23：00〜テレビ東京ほか）。制作はアルボアニメーション，シリーズ構成・脚本は「ゆるキャン△」や「【推しの子】」の田中 仁氏が担当。監督は「ゼロの使い魔F」や「ぼくたちは勉強ができない」の岩崎良明氏が務めている。

「九龍ジェネリックロマンス」

　空にもうひとつの地球「ジェネリック地球（テラ）」が建設される時代。ノスタルジー溢れる街「九龍城砦」で暮らす鯨井令子（CV：白石晴香）は，小さな不動産屋「旺来地産」で働く32歳のOLだ。先輩の工藤 発（CV：杉田智和）は，遅刻の常習犯にして何事にも大雑把な性格だが，九龍の街をこよなく愛している。
　ある日，「九龍から懐かしさは特に感じない」と言う令子に，その魅力を伝えようと工藤は彼女を街に連れ出した。さまざまな店舗で食べ歩いた2人は，最後に工藤行きつけの不思議な喫茶店「金魚茶館」にたどり着く。その店で令子は店員のグエン（CV：坂 泰斗）に工藤の恋人と間違われる。

　工藤に心惹かれていた令子は胸を高鳴らせるが，1枚の写真から彼にはかつて婚約者がいたことを知る。しかも，その婚約者は自分とまったく同じ姿だった。
　そんな中，九龍に大企業「蛇沼製薬」が運営する「蛇沼総合メディカル」が大々的にオープンした。令子と友人の楊明（CV：古賀 葵），小黒（CV：鈴代紗弓）は美容と健康のため，無料カウンセリングを受診する。
　令子はそこで，蛇沼製薬の社長である蛇沼みゆき（CV：置鮎龍太郎）と出会い，「今のあなたのことをもっと教えてほしい」と詰め寄られるのだった。

「クーロンズゲート」から着想を得た作品

　九龍城砦は，かつて香港の九龍城区に存在した巨大なスラム街だ。東洋の魔窟“九龍城”とも呼ばれ，香港返還に伴い1994年に解体された。最盛期には，0.026平方キロメートルの土地に5万人もの人々が暮らしていたとされている。
　本作の舞台となるのは，この九龍城砦のあとに再建されたもので，正式名称は「第2九龍寨城」となる。迷路のような街路にエネルギッシュな住人たちが暮らす“どこか懐かしい街”だ。

　原作者の眉月氏は，中学生のときに遊んだPlayStation用ソフト「クーロンズ・ゲート」で，この街のことを知ったという。舞台作りには写真集だけでなく，かつて旅行した台湾の雰囲気が反映されているそうだ。
　九龍城砦で暮らしている主人公の令子は，実は過去の記憶を持っていない。金魚茶館での一件をきっかけに，彼女はそのことに気づく。自分は何者で，工藤と一緒に写っていたのは誰なのか。なぜ工藤はそれを隠しているのか。

　さまざまな疑惑が渦巻く中で，どんどん工藤に惹かれていく令子。2人の微妙な関係を軸に，「九龍城砦」で生きる人々の人間模様と，この街に隠された謎をミステリアスに描いているのが本作「九龍ジェネリックロマンス」だ。

九龍城砦のくすんだ街並みを丁寧に再現

　本作は，全13話（1クール）で終了することが事前にアナウンスされている。そのため第1話は，単行本1巻をまるまる詰め込んだ，急ぎ足の構成となっていた。ところが，いわゆるダイジェスト風ではなく，しっかりと要所を押さえたシナリオが展開され，物語の導入をすんなりと楽しめた。
　令子の「スイカを食べた後に，タバコを吸うとおいしいんですよ」という，後の伏線となるセリフはもちろん，工藤が“八”という文字を壁に見つけるとつい触ってしまうなど，物語の重要なキーワードも不足なく盛り込まれていたのも好印象だ。

　また，巨大な看板が並ぶ街路や，10〜15階建てのビルが密集する九龍城砦のくすんだ街並みを，丁寧に描写している。その一方，令子の飼っている金魚や，彼女の着ている服の色鮮やかさをビビッドに描き出し，街と対比させているのも，さすがベテランの岩崎監督ならではの演出だと感心させられた。

　制作にあたっているアルボアニメーションは，2019年放送の「ぼくたちは勉強ができない」など，丁寧な作品作りで定評のあるスタジオだ。今後もクオリティの高い映像を期待できそう。

ジェネリックとは“代替品”の意味

　タイトルのジェネリックとは本来，“一般的な”という意味だが，“代替品”の意味合いも含んでいる。本作のテーマは，おそらく後者のほうだろう。空に浮かぶ「ジェネリック地球」以外にも隠された“代替品”があるようだ。
　“過去と未来が交差するラブロマンス”が謳い文句となっているだけに，令子と工藤の恋の行方は気になるところだが，この街に隠されている謎の真相も見逃せない。原作の先を読むのは，放送終了後にしたほうがよさそうだ。

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［2018/03/15 11:00］

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