読者のみなさんはお気に入りの曲はありますか。
それはどのようなテーマを謳った曲で、どれくらいのテンポの速さでしょうか。
過去の研究によると、好みの曲の種類はリスナーの性格を反映しており、お気に入りの曲から性格を推測できるようです。
たとえば、外向性が高い人はカントリーなどのゆっくりなテンポの音楽を好み、好奇心の強い人は、オペラなどの複雑で、活力に満ちた音楽をを好み、テンポが遅い曲は好まない傾向があります。
カナダのトロント大学のラヴィン・アラエイ氏(Ravin Alaei)らの研究チームは、お気に入りの曲の歌詞から性格だけでなく愛着スタイルを推測できることを報告しています。
研究の詳細は、学術誌「Personal Relationships」にて2022年6月13日に掲載されました。
目次
- お気に入りの曲の歌詞から愛着スタイルを推測できるのか
- 好みの曲の歌詞から自分の内的な状態がわかる
お気に入りの曲の歌詞から愛着スタイルを推測できるのか

カナダのトロント大学のラヴィン氏らの研究チームは、お気に入りの曲の歌詞と愛着スタイル・性格の関係性を検討しています。
研究チームは、オンラインで募集した一般人502名を対象に、人間関係をテーマにした、お気に入りの曲、愛着スタイルと性格を尋ねる質問紙に回答してもらいました。
愛着スタイルは、以下の4つの種類があり、最も近い人との人間関係の維持の仕方を調べています。
回避型:感情を表さず、警戒心が強く、親密さを避ける
不安型:相手からの拒絶を心配し、関係性において安心感を常に求める
混合型:回避型と不安型の特徴を持ち、接近と拒絶を繰り返す
安定型:人間関係に楽観的な見通しを持ち、相手を信頼できている
さて好みの曲と愛着スタイル・性格にはどのような関係があったのでしょうか。
現代社会では「回避型」の感情を表す歌詞が増えている

調査の結果、「回避型」の愛着スタイルを持つ人が、もっとも自身の感情と関連性の高い歌詞を好む傾向が見つかりました。
研究者たちは、「不安型」の人ほど自分の感情と曲の歌詞との関連性を重要視すると考えていたため、これは意外な結果だったと述べています。
そのため研究では特に「回避型」の特性について着目しています。ここで改めて「回避型」とはどんな人達か確認してみましょう。
「回避型」とは、主に人間関係に対して悲観的な考えを持つ人であり、具体的には、関係が続かない、パートナーが自分を裏切る、愛されていないなどの悲観的な予測を持つことで、人間関係で傷つくことを恐れ親密になることを避ける傾向を指します。
こうした関連は個人レベルの話ではなく、社会レベルでも結びついている可能性があります。
つまり世間で流行する曲がどんな傾向の歌詞を歌っているか調べることで、社会がどのような方向に向かっているか予測できる可能性があるのです。
そこで研究チームは、1946年から2015年までのビルボードに載った828曲の歌詞を分析しました。
すると、最近の曲になるほど、歌詞の表現が「回避型」の感情を反映している傾向がより多く確認されたのです。
この結果は、現代社会では、多くの人々が独立性に重きを置き、孤立感が強まっている可能性を示唆しています。
確かに最近の世の中で流行る話題のテーマは、一人で楽しめるものにスポットが当てられ、独立心を煽る話題や、結婚や恋愛などは避けて生きる人達の話題が多いように感じます。
これは実際に曲の歌詞の傾向からも読み取れる事実のようです。
好みの曲の歌詞から自分の内的な状態がわかる

今回の研究からは、特に「回避型」の愛着スタイルを持つ人が、自分の感情と結びついた曲の歌詞を好むと示されています。
しかし、この研究は自己申告のデータであり、因果関係を推測するには限界があります。
研究チームは自分の内的な状態に沿った曲を好む傾向は自己認識を助ける可能性がある一方、感情の負の側面を助長する恐れもあると述べています。
不安傾向が強い人は、自分の否定的な感情に囚われやすく、マイナスの感情が徐々に大きくなってしまう思考の癖を持っています。
もし自分の内的な状態を反映した曲が、個人の性格・愛着スタイルの負の側面を悪化させるのだとすれば注意が必要でしょう。
ただいずれにしろ、その効果を確認するのは研究の次のステップです。
研究チームは「特定の愛着スタイルや性格を持つ人は、自分の内的な状態を正当化する歌詞を聴いてしまうのかもしれない。しかしもし自分の負の側面を強化していると感じたときは、別の音楽を聴いた方が生産的かもしれない」と提案しています。
近年の音楽の歌詞は「悲しみ」や「怒り」などのネガティブな表現が多くなっている

今回の研究では、社会レベルにおいても歌詞の表現が拒絶や恐怖などの「回避型」の愛着スタイルを反映していることが多い傾向を示しています。
この傾向は本研究に限らず、他の研究でも確認されています。
2018年の学術誌「Journal of Popular Music Studies」に掲載された、ローレンス工科大学のキャスリーン・ネイピア氏(Kathleen Napier)の研究チームは、1951年から2016年までのビルボードのTop100に選ばれた曲の歌詞を分析しました。
分析では、約6500曲以上の歌詞をテクストマイニングし、感情表現に関わるワードが時代ごとでどのように変わったのかを調べています。
結果、喜びや自信、素直さなどのポジティブな感情表現は時代の経過とともに減少し、悲しみや嫌悪、恐怖などのネガティブな感情表現が、時間の経過とともに徐々に増加する傾向が確認されました。
この研究結果は、各年代の最も人気のある曲を分析したため、時代とともに音楽が変化しことを示しているわけではなく、音楽のリスナ-の好みが時代とともに変化したことを意味しています。
研究チームは「曲の歌詞の感情表現の変化はミュージシャンやソングライターが表現したいことを反映しているだけでなく、リスナーがその年に聴きたかった音楽と関係があるのかもしれない」と述べています。
リスナーの内的な感情が聞きたい曲とリンクすると示される以上、この傾向は社会全体がネガティブな方向へ向かっている可能性を示唆しているかもしれません。
できれば明るい曲が流行る時代が来て欲しいものですね。
参考文献
Favorite songs’ lyrics reflect individual attachment styles
https://www.news-medical.net/news/20221111/Favorite-songs-lyrics-reflect-individual-attachment-styles.aspx
元論文
Individuals’ favorite songs’ lyrics reflect their attachment style
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/pere.12448
Musical Preferences Predict Personality: Evidence From Active Listening and Facebook Likes
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0956797618761659
Quantitative Sentiment Analysis of Lyrics in Popular Music
https://online.ucpress.edu/jpms/article-abstract/30/4/161/106385/Quantitative-Sentiment-Analysis-of-Lyrics-in?redirectedFrom=fulltext
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
ナゾロジー 編集部