ある個人ゲーム開発者が、勢いで始めたゲーム開発の理想と現実について述懐。その切ない内容が話題を呼び、別のゲーム開発者からの共感の声やアドバイスなども寄せられている。
今回話題となった投稿をしたのは、ゲーム開発者のDan氏。同氏はデベロッパーのDream Wire Gamesとして、『ASPIS』というFPSアドベンチャーを現在までの3年間開発してきたという。同作は80年代後半の末期ソビエト連邦を舞台としており、レトロフューチャーな世界観のSci-Fiホラーとなるようだ。トレイラーを見る限り、丁寧に作り込まれているのがわかる。
Dan氏は、Redditのゲーム開発者コミュニティ「r/GameDevelopment」にて、本作開発に至った経緯と現状を投稿した。スレッドには「仕事をやめ、車を売って独りでゲームを作った。その価値はあったか?(I quit my job, sold my car, and making a game alone. Was it worth it?)」とシビアなタイトルが添えられている。
同スレッドではDan氏により、現実と理想の乖離といったゲーム開発の苦難が語られている。Dan氏ははじめゲーム開発について「すぐに終わる」と思っていたそう。「天才的なアイデアを思いついたし、一年以内に開発を終えて人生を変える」と決意し一念発起。開発に集中するため、Dan氏はなんと勤めていた会社を辞め、車を売り、持てるすべてを開発に打ち込んだという。
しかし、現実というつらい壁にDan氏は突き当たる。自身の完璧主義や、燃え尽き症候群に、個人制作であるための孤立感などだ。また、SNSなどでの情報発信についても積極的でなかったため、ユーザーからのフィードバックを得ることもできない。「ほぼ諦めかけた」とDan氏は言う。しかし、同氏は開発に復帰した。売れるためではなく、長い開発期間を経て、自分の作品が「自分そのもの」として感じられるようになったからだという。Dan氏は「今は自分の作品で、世界に重要なことを伝えようとしている」と、苦難を乗り越えた自身のゲーム制作のスタンスを語っている。

Dan氏はこうした苦い経験談を語りつつ、同じような個人開発者に対して「孤独な状況をどう乗り越えたか、どのようにモチベーションを保ったか教えてほしい」と呼びかけている。この投稿に対しては、本稿執筆時点で約145件のコメントが寄せられている。
同氏の健闘を称えるコメントが目立つ中、散見されたのは「個人開発者は仕事があるなら辞めるべきではない」という、アドバイスだ。あくまでも収入を確保し、生活基盤を保った上でゲーム開発に取り組むべきとの意見だろう。また、開発進捗を共有するDiscordサーバーを設立してはどうか、という意見も上がった。個人開発の大きな課題としては「予算のやりくり」と「フィードバックのなさ」があり、Dan氏はまさにその問題に直面していた。たった独りでのゲーム制作はどんなジャンルであれ困難な道のりであり、誰かと協力しながら進めていくのがよいのかもしれない。

また、Dan氏に寄り添う意見として「友人がまさにDan氏のような経験をした」と語るユーザーも見られた。また、「ゲームやコミックの脚本担当である」というユーザーは、同じような経験をしたりやドロップアウトしてしまった開発者を多く見たとコメント。「小さく始める」ことが重要だと気付いたとしている。成功は一発逆転で勝ち取れるものではない。だからこそ続けやすいよう、はじめは小さい規模から、コツコツと続けていくことが重要との見解だ。そして、小規模なファンベースとともに、徐々に大きな規模のプロジェクトへと展開していくのがよいという。まさにDan氏が取った方法とは真逆だろう。これはゲーム制作に限らず、あらゆる創作において重要なトピックだろう。
なお、Dan氏によれば『ASPIS』の開発はほぼ終わっているとのこと。同氏は現在、同作を取り巻くコミュニティを作ろうと画策しているようだ。また、いつかは小さなゲームスタジオを作ることを夢見ている様子で、もう独りで孤独に開発するのはごめんだ、と語っている。Dan氏の未来が明るく照らされることを願うばかりである。
Dan氏ことDream Wire Gamesが開発した『ASPIS』はPC(Steam)にてリリース予定。