
5月9日~11日、格闘ゲームの祭典「EVO Japan2025」が開催された。本大会でのメインタイトルは「THE KING OF FIGHTERS XV」、「グランブルーファンタジーヴァーサス -ライジング-」、「GUILTY GEAR -STRIVE-」、「鉄拳8」、「ストリートファイター6」、「STREET FIGHTER III 3rd STRIKE -Fight for the Future-」、「Virtua Fighter 5 R.E.V.O.」の7タイトル。
本稿で取り上げるのは、昨年1月に発売された「鉄拳」シリーズの新規ナンバリングタイトルの「鉄拳8」である。約9年ぶりの新たな「鉄拳」は、“アグレッシブ”をテーマに前作から大きくゲーム性を変化させた。新たなシステムである「ヒートシステム」により、強力な打撃技を繰り出せる「ヒートスマッシュ」や特定の攻撃をキャンセルし相手に向かって高速で突進する「ヒートダッシュ」により、大逆転劇が起こることも少なくなく、プレイヤーも観客も一瞬たりと気が抜けないゲームになっている。
そして本作は今年4月に大幅アップデートを実施。キャタクター追加、全キャラクターに新技を搭載し既存の技の性能も見直し。バトルシステムの大幅改訂と、「鉄拳8」の2年目シーズンを始めるために完全に新たなゲームとして進化をしている。
ただし、この「2年目の『鉄拳8』」は決して順風満帆とは言えなかった。テーマである「アグレッシブ」を追求しすぎたためか、あまりにも攻撃偏重なゲームバランスへ。普通ならば、じゃんけんのように自身が選んだ行動に対して相手がそれを打ち負かす行動が存在するが、あまりにも攻撃行動が強力すぎて何が来るのかわかっていても対処は困難、という事態が多数のキャラで散見された。そのため、多くの「鉄拳」ユーザーから怒りの声が噴出という異常事態となった。アップデートからEVO Japan開催まで残り1ヶ月と残された時間も少なく、1プレイヤーとして不安だったが、4月17日に前述の問題を解決するための緊急アップデートを実施。突出しすぎた性能の技を性能を修正、全キャラクターの体力を180>200に増加といった修正を行なった。
まだまだ修正の余地がある状態での戦いとなった本大会。「鉄拳8」の年間王者を決める大会「TEKKEN World Tour」(以下TWT)の開幕戦でもあるが、すでに波乱の空気をにおわせていた。
【Day 3 Main Stage | EVO Japan 2025 presented by Levtech】
日韓2強時代から三国鼎立へ変えたパキスタン勢。世界情勢のため今大会でも惜しくも参加できず
そして昨今の「鉄拳」事情を語るうえで外せない話題なのが日韓のライバル関係に突如乱入してきた新たな鉄拳大国・パキスタンだろう。EVO Japanのメインタイトルが「鉄拳7」の頃に急遽参戦、圧倒的な実力を見せつけ、日韓の包囲網を難なく突破、破竹の勢いで優勝を成し遂げ一気に鉄拳界の最強争いに名乗りを上げた。
当時優勝を果たしたのはArslan Ash選手だが、Atif選手のように、Ash選手オンリーワンの国ではないという層の厚さも鉄拳界に現われたダークホースというイメージを強くさせた。
そんなことから、本大会でも活躍が期待された彼らだが、国際情勢の関係で来日することは叶わず、不戦敗のアナウンスが流れていた。会場で理由を聞いていた筆者も肩を落とした。YEAR2の攻略を進めているパキスタン勢のヴェールが明らかになるのは今後のTWT予選や、EVO本場米国で開催される「EVO 2025」の辺りとなってくるだろう。今後の彼らの活躍に期待したい。
Day3に駒を進めた8選手。日本人選手は1人だが、日本勢は2人!?
さて、本大会のDay3に出場した選手は以下の通りだ。
【ウィナーズ】
・Mangja選手(韓国)
・Meo-IL選手(韓国)
・Knee選手(韓国)
・Mulgold選手(韓国)
【ルーザーズ】
・Ulsan選手(韓国)
・Rangchu選手(韓国)
・PINYA選手(日本)
・Shadow 20z選手(アメリカ)


登壇した8選手。1枚目がウィナーズブロックに勝ち進んだ4選手、2枚目がルーザーズブロックで戦う4選手だ。彼らによって最終日メインタイトル1種目めの覇者が決まる
出身国別で分けるとPINYA選手が日本、Shadow 20z選手がアメリカ。残りの6選手は全て韓国となっている。唯一の日本人選手はPINYA選手なのでいつもならば最後の日本勢・ラストサムライと紹介したいところだが、ここでもう1人のサムライとして紹介したいのがRangchu選手だ。
Rangchu選手は「鉄拳8」ではポールに対するライバルキャラ、クマとその2Pカラーキャラであったパンダを愛用する。クマとパンダは昨今ではカラー違いではなく、性能が似てるようでやや違うというような別キャラクターへ変化を遂げているので、彼はクマとパンダを使い分けるようになっている。実際、筆者がオンライン対戦で遭遇する際は全てパンダで対戦していたような記憶がある。性能の低さ、特に防御面の脆さからほぼネタキャラのような扱いを受けているクマとパンダだが、それを操ってTWTを2度制した職人プレイヤーでもある。
そして彼は韓国の生まれではあるが、現在の活動の拠点は日本で行なっており、日本語も操るため、ほぼ日本勢として「鉄拳」プレイヤーの中では認知されているため、今回あえて日本勢としても紹介したい。昨年の世界覇者であるRangchu選手と純粋な日本勢であるPINYA選手は2人共ルーザーズからの厳しい立ち上がりだが、彼らの奮起に期待したいところだ。
無敗で勝ち残ってきたウィナーズは全て韓国勢! 手の内を知り尽くした相手にどう戦う?
ウィナーズブロックは4選手全てが韓国勢。そんな手の内を知り尽くしつつ切磋琢磨した者同士で誰が勝ち残るかが気になるところだ。
最初のマッチアップとなったのはMangja選手とMeo-IL選手。MANJYA選手はマーシャルアーツ使いのロウを、Meo-IL選手はジャック8を操る選手だ。ロウは手数が多く、手数を活かした猛攻に特徴があるキャラクター。そしてしゃがみ状態からいきなり足元を掬うスライディングキックを意識させ、そこに中段攻撃を打つかの読み合いを迫る「スラ2択」が強力だ。対するジャック8は同じく攻めには定評があるキャラだが、ロウとは真逆で手数には乏しく、小回りも効かない。一撃の重さ、パワフルさから攻撃的なキャラクターと言われているので、同じ攻撃的なキャラクターといっても違いは明白だ。
Meo-IL選手のジャックはかなり早めにヒートを発動させて、ヒート中にだけ使えるバリアを発生させる技を用いて短期決戦をはかるが、Mangja選手は巧みなガードで防ぐ。攻めるゲームであると言われているが、バリアには被弾しないよう冷静に防御に徹していたのが印象的だ。そしてジャックがヒート状態を使い果たしたあたりから逆にMAJYA選手のロウがヒート状態を活かして反撃開始、というのが戦術面での工夫に感じられた。
特に1試合目の3ラウンド目ではお互いにこの戦いに修正を加えていっており、タイムアップ直前まで試合が進む大熱戦に。ここで今作では非常に珍しいタイムアップ決着か!? というところでロウの代名詞スラ2択の下段択、スライディングで決着したときは会場は大きく湧いた。
また、本大会で適応されているTWTルールの特徴として、毎試合ステージをランダムセレクトしなければならない。今回はARENA(UNDERGROUND)ステージ。光っている壁に触れると各箇所それぞれ1回だけ大爆発を起こすギミックがあるステージだ。
しかし試合開始直後にMangja選手に不幸なトラブルが発生。対戦に関係ないボタンを押してPS5の設定画面を開いてしまい、それによるペナルティで1ラウンドをMeo-IL選手に献上した状態で試合を再開することとなってしまった。ただ、このピンチを気にせず3ラウンドを連取して勝利。トラブルにも動じず、しっかりと結果を残す彼のメンタルの強さには脱帽ものだった。
もう1つのウィナーズセミファイナルは、韓国鉄拳界の大ベテラン、Knee選手と、新進気鋭のクラウディオ使い、Mulgold選手だ。
Knee選手といえば、ブライアンとスティーブを主に操るが、歴代作品においてランクマッチを全キャラクターで行ない、その全てで最高段位を獲得するというまさに弘法筆を選ばずを体現するような自由自在に無数のキャラクターを操ることができるプレイヤーだ。毎試合どのキャラクターをチョイスするのか気になる。また、すでに年齢は40歳を越えているのだが、最高齢でのEVO優勝記録を持っており、老いて益々盛んを体現している。
そんな2人の試合はKnee選手がブライアン、Mulgold選手はクラウディオを選択。どちらのキャラクターも条件を満たすと体力ゲージの下部にアイコンが点灯し、強力な技を使用できるようになるのが共通点である。その一方で、プレイヤーのプレイスタイルは対照的だ。ディフェンシブなスタイルで人読みを行なっていくKnee選手に対し、クラウディオの強力な突進力や強化中の打撃を多用してオフェンシブに戦っていくMulgold選手。この2人の対決は盾と矛なのではないだろうか?
そんな両者の対戦だが、基本的には戦前予想の通りになっていった。だが、紙一重のところで細かくダメージを与えていたのがKnee選手。しきりにしゃがみ状態となることでクラウディオの攻撃を回避していき、じわじわとダメージを与えていく。この試合でも本作ではレアな残り時間わずかでの攻防が行なわれ、ここでは防御に徹していたと思われたKnee選手がまさかのタイミングでトゥースマッシュ暴れで残りタイム1カウントでの勝利をもぎ取っていた。
だがこの拮抗したラウンドを制したものの、昨年・YEAR1よりアグレッシブな方向へ進化した本作では最高のディフェンススキルを誇る彼であっても守ることも困難で、2−2のフルラウンドから制したのはMulgold選手のクラウディオだった。
2試合目も先程と同じく、「鉄拳8」らしからぬ長期戦が展開されていった。Mulgold選手のオフェンシブさも必見だが、彼は決して攻め一辺倒のプレイヤーでもない。高い防御テクニックも兼ね備えているため、互いに大きな被弾をすることは避けているがゆえの珍事である。
そしてややここからKnee選手の動きに変化が加わる。今まではガードと横移動としゃがみによる防御を軸としていたが、あえて手を出すことで相手の出鼻を挫く、格ゲー用語で言う「暴れ」を防御手段として取り入れていったのだ。お互いヒート状態で殴り合うド派手な打撃戦も展開され、ここではKnee選手が3ラウンドを続けざまに取り圧勝。2試合先取で勝ち上がりとなるこの試合は最終戦にまでもつれた。
決着戦で選ばれたステージは比較的このゲームではスタンダードな形状にあたるURBAN SQUARE(EVENING)ステージ。ここでとうとうKnee選手の真骨頂である人読みスタイルの「鉄拳」が牙を剥く。お互いに高いディフェンス率を誇るのだが、猛攻を仕掛けるクラウディオの攻撃をあれよあれよと回避し、そこに確実に反撃を入れていくKnee選手のブライアン。毎回ド派手な浮かせ技をあてているわけではなく、必ず入る技をチクチクと当てていき、その体力差が大きく開いていくさまは実況をして「冷たい」と言わしめるほど。2ラウンド目にはパーフェクト勝利を獲得。完全に対応を完了したKneeブライアンはヒート状態からの大逆転勝利を決め、この試合でも3-0で勝利。大ベテランの強さを知らしめた。
もう負けは許されないルーザーズラウンド、日本の希望はラストニンジャの妙技に託された!
そしてここからは残る4選手+ウィナーズで敗北した選手による過酷なルーザーズサイドの様子をお届けする。最初に登場したのは昨年のTWTを制した年間王者であり、韓国生まれの日本勢(?)であるRangchu選手と、韓国のプレイヤーUlsan選手だ。Ulsan選手は昨年は新キャラクターである麗奈を主に使用していたが、今大会ではドラグノフを使用。麗奈使いである筆者からすると少し悲しい情報だ。
Rangchu選手が使うのはクマとパンダ。性質の似ている2キャラクターだが、最近ではパンダの使用率のほうがやや高く感じられる。ポールと因縁があるクマは三島平八のペットであったことから三島平八を彷彿とさせる技が幾つかみられる。それに対しパンダはシャオユウというキャラクターと仲がいいキャラクターで、一部の技がシャオユウのモーションに似ている。そのためか、シャオユウの強力な投げ技を搭載しており、この技でのリターンが高いため、Rangchu選手はパンダをピックする可能性が高そうだった。
しかしここで出てきたのはクマとドラグノフのマッチアップここでの作戦の意図は読めなかったが、パワフルな攻撃力はクマ・パンダの共通項である。しかし、この試合ではドラグノフの壁を使った攻めの強さが光り、あえなく敗戦。
その後すぐさまキャラクターチェンジをし、ここで待望のパンダ投入。しかし、ここで選ばれたステージはゲーム中最も壁までの距離が遠いステージ・YAKUSHIMA。「鉄拳」で高い攻撃力を活かすには壁の活用が欠かせないのだが、YAKUSHIMAでは壁を頼りにはできない。「鉄拳」としては異質といえるステージだ。
ここでもドラグノフの猛攻が牙を剥く。ジャブでパンダの飛び上がりを捉えた際は、全ての体力を削り切る完璧なアドリブコンボを披露。これが決定打となり、早々に昨年の世界大会王者が姿を消すという事態となった。
そして本当の意味で最後の日本勢となったのはレイヴンを操るPINYA選手のみ。この試合の前に、若干のインターバルが設けられ、筆者は化粧室へ向かったが、そこで偶然試合直前のPINYA選手と遭遇。あまりプレッシャーも与えるのも良くないと思ったが、日本人最後の希望としてつい「ラストニンジャ、期待しています!」と声をかけた。PINYA選手は「もう後がないですからね、負けられないっす」と返事をしつつ、己を鼓舞しているようだった。
そして開始されたラストニンジャの初戦は、こちらもアメリカ最後の希望Shadow 20z選手。彼はザフィーナを使用するプレイヤーだ。
PINYA選手のレイヴンは、3D格闘ゲームではハイリスクな状態である相手に背を向けた状態から様々な攻撃が出せることが特徴のキャラクターだ。そしてShadow 20z選手のザフィーナは様々な構えから攻撃を放ったり、自分の体力をコストとして支払いつつ強力な技を使用する。どちらも3D格闘ゲームとしても、「鉄拳」としてもセオリーからやや外れた特徴を持つキャラクターである。
そんなレアキャラクターの対戦だが、ここはPINYA選手がキャラクターの特性を対策に取り入れたような戦い方をしていた。ザフィーナは体力を消費した分を回復させるには、ヒート状態を活かしたり、そもそも攻撃をレイヴンにヒットてダメージを奪う必要がある。なので、そこで体力コストを支払った攻撃はしっかりガード、猛攻を防いでコストを支払いすぎて体力を大幅に消耗したところを攻撃してKOへ持ち込むというクレバーな作戦を展開していた。これが功を奏し、SHADOU 20Z選手を2試合連続で撃破し次の対戦へ駒を進めた。
一番の山場をくぐり抜けたPINYA選手はそこからも快進撃を続け、次の試合ではウィナーズから転落してきたジャック8使い、Meo-IL選手との対決。ここで両者が見せたのは今回のEVOから実装された新ルール「コーチング」である。今大会の様々な種目で実装され、「鉄拳」では、
・選手はセット中、コーチとして1名指名することができる
・コーチングは、前の「ゲーム」(ラウンドのBO5が決するまでのこと)で負けたプレーヤーのみ許可される
・プレーヤーがコーチに相談できるのは、そのセットで1回のみとする
・プレーヤーがコーチに相談できる時間は1分以内とする
・ゲーム中のコーチングは禁止され、ゲーム没収の対象となる
というもので、この試合では両選手がすでに敗れた選手からアドバイスを双方受けていたのが印象的だった。Meo-IL選手はMangja選手から、PINYA選手はRangchu選手からアドバイスを受けていた。双方「鉄拳」仲間の力を借りて戦った試合は、PINYA選手が制した。
結果、この試合を制したのは決死の左アッパーからの空中コンボでリーサルを決めたPINYA選手だった。前述の化粧室で軽く言葉をかわしたときはクールな印象だったが、勝利するたびに感情を爆発させていたのが印象的だった。残念ながらルーザーズセミファイナルにてMulgold選手に敗れ、今大会では4位入賞で終わってしまったが、その勇姿は日本プレイヤーに大きな勇気を与えたことだろう。
🧠 編集部の感想:
韓国勢が「鉄拳8」部門で圧倒的な強さを見せる一方、日本からはPINYA選手の頑張りが際立っていて感動しました。アグレッシブなゲーム性は迫力満点でしたが、バランス調整の難しさも垣間見え、今後の進化に期待大です。大会を通じて、国際的な競技力向上を実感させる素晴らしいイベントでした。
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