【金曜日、せんべろとキャリアプラトーと僕】せいんと大家

――サラリーマン営業マンの本音と、静かに描くもう一つの地図

金曜日、ただ疲れていた

今日は金曜日。世間的には「花金」なんて言葉もあるけれど、最近の自分にそんな浮かれた響きは似合わない。所属しているのは、誰もが名前を知るような大手エネルギー会社の営業職。ありがたいことに給与水準は高めで、歩合制でもないから、成績が多少悪くても給料は変わらない。でも、だからこそ、モヤモヤする。自分の担当顧客数は多い。数値目標も高い。負荷も重い。でも隣の席の同僚は、もっと気楽な担当範囲で、同じ給与。頭では「そんなもんだ」と理解していても、心のどこかでは「なんか損してないか？」って思ってしまう。キャリアの先も見えにくい。昇格の枠は狭くて、何年頑張っても「下っ端」のまま。実績を出せば何かが変わると思っていた。でも、変わらなかった。周りも変わらない。そんな現実が、ジワジワとモチベーションを蝕んでいく。

一人で、せんべろの夜

で、今。金曜の夜10時すぎ。ひとり、駅前の立ち飲み屋でハイボールを片手に、1000円でどこまで楽しめるか試している。いわゆる「せんべろ」ってやつ。酔っ払いの笑い声に混じって、ポツンといる自分。スマホには社内のチャット通知がいくつか。でも、もう今日は見ない。

働くって、なんなんだろう。

誰かと競って、数字を追って、なのに報われるわけでもない。自分だけが無駄に力を使っている気がして、やる気も次第に空っぽになる。でも、目の前のビールは冷たくて美味い。新鮮な刺身とわさびは、疲れた舌にしみる。なんだかんだ、こうやって一人で飲んでる時間は嫌いじゃない。むしろ、少しだけ救われてる。モチベーションがゼロでも、体が会社に向かってしまうのは、もうクセみたいなもの。だけど、せめて週に一度くらいは、こうして「誰にも見られず、誰にも求められず」一人になれる時間があるから、なんとか続けていられるのかもしれない。

そして、もう一つの人生

…それで、いいのかもしれない。でも、実はそれだけじゃない。こんなふうに愚痴をこぼしながらも、心の奥底ではちょっとした「余裕」も感じている。なぜなら、自分にはもう一つの顔があるからだ。サラリーマンとしての顔とは別に、こっそりと動かしている「もう一つの人生」がある。

それが、不動産。

数年前に思いきって始めた副業。誰も見向きもしないようなボロ戸建を買って、自分で修繕して、賃貸に出している。安かった分、リスクも大きかったけれど、今はちゃんと家賃が振り込まれてくる。地味だけど、確かに動いてる。自分の力で。もちろん、まだ本業の収入には遠く及ばない。でも、あの戸建てを持っていること、そして次の物件を探しているこの瞬間だけは、周囲の誰よりも「先に行っている」ような気がする。会社の中では、役職もない、ただの営業の一人。でも心の中では、「こっちはすでに別ルートで人生を設計してるんだ」って、密かにほくそ笑んでる。言わないけどね。言えば笑われるだろうし、嫉妬も買う。でも構わない。これは自分の戦い方だ。

静かに歩く、出口への道

いつかこの会社を出る時が来る。決して「辞めてやる！」なんて感情的なものじゃない。ただ静かに、でも確実に、準備を進めているだけだ。資産を少しずつ積み上げて、自分の足で立てるようになる日を待っている。その日が来たら、金曜日の夜はこうして一人で飲むんじゃなくて、好きな時間に、好きな仲間と、好きな場所で語り合えるようになるかもしれない。そんな未来を想像しながら、今日もせんべろで静かに杯を重ねる。モチベーションなんて、他人から与えられるもんじゃない。自分の内側に火を灯せるかどうか、それだけだ。