今使っているモニターは何年前のものだろうか?数年前に購入したものなら、あまり経年変化は進んでいないだろうから、まだまだ長く使えるはずだ。しかし、映像入力ポートやUSBポートなどのインターフェイスが不足気味、という悩みを持っている人はいるかもしれない。
映像入力ポートを豊富に備えていれば、複数台のPCを併用するのにケーブルをいちいち抜き差しする必要がなくなる。さらにノートPCとケーブル1本でつながって映像表示と給電を同時に実現するUSB Type−Cポートもあると、日常の使い勝手を大幅に高められる可能性もある。
最新装備で今よりもっと便利にしたい。けれど大きな出費はできるだけ避けたい。そんなワガママな PC 2台以上持ちのあなたにおすすめしたいのが、KVMスイッチ機能付きドッキングステーション(KVMドック)。今あるモニターとKVMドックを組み合わせれば、最新モニターに匹敵する、もしくはそれを超える機能や使い勝手を実現できるのだ。
KVMスイッチとドッキングステーション、そしてKVMドックは何が違う?
「KVMスイッチ機能付きドッキングステーション」と書くと長すぎるので、ここでは「KVMドック」と表記するが、これは文字通り「KVMスイッチ」と「ドッキングステーション」を合体させたようなものだ。
改めて簡単に説明すると「 KVMスイッチ 」は、ひと組のキーボード、マウス、モニターを複数台のPCで共用できるようにするデバイスだ。PCの台数と同じだけのそれら周辺機器を用意しなくていいので、設置スペースの節約になり、操作性の統一も図れる。
一方の「 ドッキングステーション 」(ドックとも呼ばれる)は、PCのUSBポートやThunderboltポートに接続して、USBポートの増設やマルチモニター出力、有線LAN、SDカードスロットなど多様な機能を使えるようにするデバイス。USBハブの豪華版と言えなくもないが、最近ではUSB PDでノートPCの充電機能を持つモデルもあったりして、利便性がどんどん高まっている。
というように、それぞれで役割が異なるのはご存じの通り。言い換えると、KVMスイッチは切り替えメインで、キーボード・マウス以外の周辺機器が使えない。ドッキングステーションは1台のPCの機能拡張がメインなので複数PCでの共用に向いていない。しかし、この2種類をがっちゃんこした「 KVMドック 」になると、互いの欠点を補い合っていいとこ取りができるのだ。
今回使用したKVMドック
今回はKVMドックの製品例としてTESmartの「デュアルハイブリッドKVMドッキングステーションキット」(HDC202-P23-JPBK)を取り上げるが、これに接続したキーボード、マウス、モニターは複数台のPCで共用できる上、USBポートや有線LANポート、音声出力端子なども備えており、それらのインターフェイスも複数台のPCで共用できる。
こうしたKVMドックの機能を内蔵したモニター製品も存在するが、価格はそのぶん底上げされる。それよりもKVMドック単体を導入したほうが安く済むことが多いし、今手元にあるモニターを引き続き有効活用できるというエコロジーな面もある。
また、KVMドックが1つあれば、将来的にモニターを新調するとしてもKVMドックの機能を内蔵する高価なモニターを選ぶ必要がなくなる。購入候補の選択肢が広がったり、本当に欲しい性能だけを追求してモニター選びできたりなど、メリットばかりなのだ。
KVMドックの選び方
KVMドックはTESmartのものだけでもさまざまなタイプがラインナップされていて、一見すると似たような外観、機能を持っているように思える。が、実際には明確に用途が異なるので注意して選びたい。
ということで、選び方のポイントを整理してみた。
【ポイント1】使用しているPC構成に対応できるか
購入するときに最初にチェックしておきたいのは、自分の環境に対応するものかどうか。 たとえば今回紹介しているモデルは、「ノートPC 1台とデスクトップPC 1台」の組み合わせに最適なものだ。KVMドックに対して、ノートPCからはType−Cケーブル1本で接続し、デスクトップPCからはDisplayPortまたはHDMIケーブルと、USBケーブルの2本を接続する形になる。
ほかには、デスクトップPC複数台構成の環境に向いたモデル、ノートPC 2台構成向けのType-C入力が2つあるモデル、4台のPCと4台のモニターなど多くの台数を一度に扱えるモデルなんかもあるので、自分の環境に合ったものをしっかり見極めたい。
【ポイント2】モニターに合う性能、映像出力ポートを備えているか
次にチェックしたいのは、KVMドックの出力解像度、リフレッシュレートといった性能や、映像出力ポートの種類だ。 当然ながら、今あるモニターの性能をフルに発揮できる仕様かどうかは大前提となる。4Kなどの高解像度や、100Hz以上を実現するゲーミングモニターを持っていても、KVMドック側の出力上限が4K未満、60Hzのようになっているとモニターの本来性能が生かせない。
映像出力ポートがモニターの入力ポートと合っているかどうかも確認したい。4K 60Hz対応までのKVMドック製品だとほとんどがHDMI出力(またはUSB Type-C)しかないので要注意。今回紹介しているTESmartの製品もHDMI出力のみで、4K解像度の場合は60Hzに対応する。ほかは1080p 240Hz、1440p 120Hz(3,440×1,440ドット時は100Hz)といった仕様だ。DisplayPort出力が欲しいならTESmartの場合は8K対応モデル(デスクトップPC構成向け)から選ぶと良い。
ちなみに、筆者が使用するウルトラワイドモニター(解像度3,440×1,440ドット、最大120Hz)はDisplayPortとHDMIの2つを備えるものの、HDMI接続だとリフレッシュレート上限は50Hzまでという制約がある。こういったケースで、KVMドックからフルに性能を発揮できるDisplayPortに接続したいのであれば、変換アダプタが必要になることも頭に入れておこう。
【ポイント3】「EDIDエミュレーション」機能を搭載しているか
最後の1つが、KVMドックに「EDIDエミュレーション」機能があるかどうか。 PCとモニターを直に接続している環境だと通常気にすることはないが、その2つの間では「EDID」(Extended Display Identification Data)と呼ばれる情報がやり取りされており、それによってモニターの解像度やリフレッシュレートなどを認識するようになっている。
KVMドックのようなデバイスを間に挟んで映像出力する場合、そのデバイスがPCとモニターの間でEDIDを橋渡ししなければならず、ここで「EDIDエミュレーション」という機能が効いてくるのだ。
もしEDIDエミュレーションの機能がなければ、正しいEDIDをやり取りできず、認識に時間がかかるなどしてスムーズに画面が切り替わらないことがある。また、モニターごとにウィンドウの配置を記憶して接続時に再現してくれるOSの機能が使えなくなる可能性もある。日常の使い勝手に大きく影響する部分なので、EDIDエミュレーションは必須の要素と考えておきたい。
KVMドックで得られる具体的なメリット
KVMドックのメリットの1つは、複数台のPCの切り替えが圧倒的に楽になり、2台以上のPCで並行作業したり、場合に応じて使い分けたりするのが簡単になること。
本記事で紹介しているTESmartのKVMドックの場合、2台のPC間の切り替えは正面にあるスイッチに加えて、付属のリモコンからも行なえる。当然ながら2台で同じキーボード、マウス、モニターを使えるのでデスク上が混雑することはない。
映像入力ポートは、Type-Cが2基にDisplayPort+HDMIという組み合わせ。つまり、ノートPCとデスクトップPCの2種類を使い分けるのに便利なモデルだ。
このパターンはビジネスユーザーにとって活用方法がイメージしやすいかもしれない。たとえばマシンパワーが求められない作業が多く、できるだけ静かな環境で集中したい業務時間はノートPCを使い、重い処理をこなしたり趣味でゲームをプレイしたりするときはより高性能なデスクトップPCを使う、といったスタイルだ。
ノートPCを外出時やオフィス出勤時に持ち運ぶことがあるとしても、Type-C接続できるこのKVMドックなら、ケーブルを1本脱着するだけなので手間はなし。有線LANポートによる安定した通信、2台のマルチモニター出力も可能で、ノートPCであってもデスクトップPC並みの機能をフル活用できる。
さらに、このKVMドックにはキーボード・マウス用のUSBポート2基のほかに、USB Type-Aポート2基とType-Cポート1基も用意されている。背面にあるType-AはWebカメラを接続しておくのにちょうどいいし、前面のType-AとType-Cは外付けストレージなど抜き差しが多いデバイスで使いやすい。
そして、ノートPCとデスクトップPCという組み合わせは、節電を意識した使い分けにも有効だ。デスクトップPCだとアイドル状態でも数十W、場合によっては100Wを超える電力を消費してしまったりするが、ビジネスノートPCの場合は(満充電の状態であれば)せいぜい数Wで済む。
自宅でテレワークをしているなら、処理速度に不満がない限りは積極的にノートPCを使ったほうが同じ仕事効率でも電気代を抑えられる。気軽に、すばやく切り替えられるKVMドックだからこそ、そうした使い分けがちゃんと実用的に行なえるのだ。
KVMドックがあればモニター選びに幅ができる
高機能な最新モニターに買い替えたいと思っても、予算が合わない場合もある。今使っているモニターがまだまだ現役だと、リプレースに踏み切りにくいのも確か。そうしたときの代替手段としてKVMドックは有用だ。
将来的にはモニターを新しくするとしても、KVMドックがある時点でどのモニターを選んでも高機能さを損なうことがないのは大きい。機能や装備は必要最小限でいいけれど、ゲーム向けにとにかく高リフレッシュレートのモニターを選びたい、というようなこだわりも突き詰められる。結果的に低予算で理想の環境に近づけられる可能性もあるだろう。
PCを複数台所有していて、まだ使えそうなモニターを新しいものに買い替えようかどうか迷っている人は、ぜひKVMドックも候補に入れてみてほしい。買い替えるよりも低コストで、今のPC環境の悩みを解決できるかもしれない。