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概要
この記事は、NVIDIAの2026年度第1四半期(2025年2月〜4月)の決算を解説し、同社の業績や今後の展望に焦点を当てています。特に、生成AIの普及が同社の成長を牽引している一方で、米中貿易摩擦による地政学的リスクにも触れています。
要約
- 過去最高の売上高: NVIDIAは2026年度第1四半期に441億ドルの売上高を記録し、前年同期比69%の成長を達成。
- セグメント別成績:
- データセンター: 391億ドル(+73%)
- ゲーミング: 37.6億ドル(+42%)
- プロフェッショナルビジュアライゼーション: 5.1億ドル(+19%)
- 純利益: 187億ドル(+26%)だが、地政学的リスクによる在庫評価損(45億ドル)が影響。
- 中国向け輸出制限: H20チップの販売停止により、約25億ドルの売上損失とシェアの減少が発生。
- 今後の見通し: 第2四半期には450億ドルの売上を予測し、H20輸出制限の影響が続く可能性。
- 成長戦略: Blackwellアーキテクチャ中心にAIファクトリー構築を推進し、グローバル市場への対応策を強化。
生成AIの爆発的な普及とともに、クラウドデータセンターやエンタープライズ分野でのAIインフラ投資が急拡大しています。この潮流の中心にいるのが、GPU(グラフィックス処理装置)で市場を席巻するエヌビディア(NVIDIA)です。
2026年度第1四半期(2025年2月〜4月)に発表された決算では、同社は売上高441億ドルという過去最高を記録し、市場予想を大きく上回る成果を示しました。AIモデルのトレーニングや推論処理に必要な高性能チップ「Blackwell」シリーズなどが旺盛な需要を集めており、まさにAI時代の“インフラプロバイダー”としての存在感を強めています。
一方で、米中対立の影響による中国向けのH20チップ輸出制限や、それに伴う在庫評価損(45億ドル)といった地政学的リスクも表面化。エヌビディアは、成長の裏側にあるリスクとも向き合いながら、次のステージに進もうとしています。
本記事では、エヌビディアの最新決算の中身をひもときながら、同社の強みと課題、そして今後の展望について詳しく解説していきます。
1. NVIDIA決算概要
2026年度第1四半期(2025年2月〜4月)のエヌビディア決算は、売上高、営業利益、純利益すべてで前年同期比大幅増というな内容でした。特に生成AIとデータセンター需要がけん引役となり、以下のような実績を叩き出しています。
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売上高:441億ドル(前年同期比 +69%)
AIインフラ向けGPU「Blackwell」やネットワーク製品の強い需要が背景。 -
営業利益:216億ドル(前年同期比 +28%)
輸出制限に伴う在庫評価損(45億ドル)を含んでもなお高水準。 -
純利益:187億ドル(前年同期比 +26%)
利益率の高さを維持しつつ、事業成長を実現。 -
調整後1株あたり利益(EPS):0.76ドル
市場予想の0.73ドルを上回り、サプライズとなった。 -
粗利益率:60.5%(前年同期の78.4%から大幅低下)
一時的な要因として中国向け在庫評価損の影響が大きい。
このように、収益の質自体は高いものの、中国への販売制限や在庫調整といった“外的逆風”も影響しており、次の四半期に向けた市場の注目点は、「この一時的なノイズがどれだけ早期に解消されるか」に移っています。
2.NVIDIA業績詳細
2-1. 売上高(Revenue)
売上高:440億ドル(前年同期比 +69%、前四半期比 +12%)
AIインフラ需要が牽引する強い成長を維持
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データセンター:391億ドル(前年同期比:+73%、前四半期比:+10%)
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ゲーミング:37.6億ドル(前年同期比:+42%、前四半期比:+48%)
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プロフェッショナルビジュアライゼーション:5.1億ドル(前年同期比:+19%)
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自動運転・車載:5.7億ドル(前年同期比:+72%、前四半期比 -1%)
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OEM & その他:1.1億ドル(前年同期比:+42%、前四半期比 -12%)
前年同期比および前四半期比での大幅成長は、当社の加速コンピューティング・プラットフォームの分野で強い需要がありました。
Blackwellの導入は全顧客に拡大し、大手クラウドサービスプロバイダーが依然として最大の顧客としてデータセンター売上高の約50%を占めています。また、ゲーム部門は記録的に伸び、プロフェッショナルビジュアライゼーション部門は前年同期比19%増、さらに自動車部門は前年同期比72%増の成長を示しています。
H20チップの対中輸出制限による出荷制限がありながらも、売上高全体は大幅増。未出荷分のH20製品による約25億ドル分の売上機会損失があったが、それでも記録的な成長を実現。
2-2. 純利益(Net Income)
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純利益:187億ドル(前年同期比 +26%、前四半期比 -15%)
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Non-GAAP純利益:198.9億ドル(+31%、前四半期比 -10%)
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営業利益:216億ドル(前年同期比 +28%)
第1四半期のGAAPおよび非GAAPベースの粗利益は、前年同期および前四半期と比べて減少しました。
主な要因は以下の2点です:
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H20チップの過剰在庫と購入契約に関連する費用:約45億ドルのコストが発生
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データセンター部門での高性能システムの初期導入:これにより採算性が一時的に低下
3. セグメント別業績
3-1. データセンター部門
売上高:391億ドル(前年同期比:+73%、前四半期比:+10%)
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コンピューティング:342億ドル(前年同期比:+76%、前四半期比:+5%)
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ネットワーキング:50億ドル(前年同期比:+56%、前四半期比:+64%)
NVIDIAは、世界各地でAIインフラの整備と拠点構築を加速しており、国ごとに戦略的なパートナーシップと施設の整備を進めています。
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サウジアラビア:現地のスタートアップ「HUMAIN」と提携し、AIファクトリーの建設を発表。
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アラブ首長国連邦(UAE):G42、OpenAI、オラクル、ソフトバンクグループ、シスコといった世界的企業と共同プロジェクト
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台湾:電子機器大手フォックスコンおよび台湾政府と連携し、AIスーパーコンピュータの構築計画を進行中。
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日本:世界最大級の量子研究用スーパーコンピュータを収容する研究センターの設立を発表。
3-2. ゲーミング部門
・売上高:37.6億ドル(前年同期比:+42%、前四半期比:+48%)
NVIDIAのゲーム部門は、第1四半期に過去最高となる37.6億ドルの売上を達成しました。
これは前四半期比で48%増、前年同期比で42%増という圧倒的な伸びで、同社の主力GPU製品が引き続き市場から強い支持を得ていることを示しています。
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新製品RTX 5000番台が本格投入:NVIDIAは最新のGeForce RTX™ 5070および5060を発表。Blackwellアーキテクチャを採用しながらも、手頃な価格帯で提供され、ゲーマー層の裾野を広げています。
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DLSS 4の進化と採用拡大:NVIDIAのAI超解像技術「DLSS 4」は、最新ゲームタイトルに急速に採用が進んでおり、125以上のゲームが対応しています。
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Nintendo Switch 2にNVIDIAのAI技術が搭載:話題のNintendo Switch 2には、NVIDIA製プロセッサとDLSSによるAI画質処理が搭載され、最大4Kゲーミングに対応することが明らかにされました。
3-3. プロフェッショナルビジュアライゼーション
・売上高:5.1億ドル(前年同期比:+19%)
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プロフェッショナル分野も堅調に成長:第1四半期のプロフェッショナルビジュアライゼーション収益は5億900万ドルで、前四半期と横ばいながらも、前年同期比では19%増と着実な成長を見せました。
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最新ハードウェアの展開:プロフェッショナル向けGPUの中核となる製品を新たに発表し、エンタープライズ用途でもAI活用の裾野がさらに広がる見通しです。
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Omniverseと“産業のデジタル化”:NVIDIA Omniverse™プラットフォームの採用も広がっています。大手企業が自社ソリューションに統合し、「物理AI」による産業DXを推進中です。
Omniverseは、リアルタイムの3Dシミュレーションや、デジタルツインによる設計・運用最適化を可能にし、製造業・建設業・エネルギー業界などでの活用が加速しています。
3-4. 自動運転・車載
・売上高:5.7億ドル(前年同期比:+72%、前四半期比 -1%)
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ゼネラルモーターズと提携:ゼネラルモーターズ(GM)と提携し、次世代の車両や工場、ロボットの設計・開発において先端プラットフォームを活用すると発表しました。
この提携により、車両の開発から生産ライン、物流ロボットまでを一気通貫で仮想空間上に再現・最適化することが可能になります。
NVIDIA Halos AIによる統合安全システム:自動車領域では、NVIDIAの持つハードウェア/ソフトウェア/AI研究を結集した新しい安全性フレームワーク「NVIDIA Halos」を発表しました。1:自動運転車(AV)における先進的なAI安全管理を実現2:実世界の走行データと仮想環境を組み合わせてリスクを事前に検出
3:各社の自動車安全設計の“中核”となることを目指す構想
3-5. ヒューマノイドロボットの新時代へ
ロボティクス分野でも、NVIDIAは画期的な新技術を次々と投入しています。
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NVIDIA Isaac™ GR00T N1:世界初のオープンなヒューマノイド基盤モデル
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N1.5 / GR00T-Dreams:合成モーションデータ生成などで動作訓練を効率化
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NVIDIA Blackwellベースのロボット開発環境:大規模なAIモデルを高速に実行可能
これらは、ヒューマノイドロボットの「学習・行動・環境理解」を大幅に前進させ、次世代AIロボットの開発スピードを加速させる基盤となります。
4. 中国向け輸出制限の影響と対応策
NVIDIAは、米国政府による中国向け先端AI半導体の輸出規制に直面し、売上や市場シェアに影響を受けています。しかし、同社は柔軟な対応策を講じ、グローバルでの成長を維持しています。以下に、輸出制限の影響とNVIDIAの対応策をまとめます。
4-1. 輸出制限の影響
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H20チップの販売停止:米国の輸出規制により、中国向けのH20チップの出荷が停止され、2025年第1四半期に約25億ドルの売上損失と45億ドルの在庫評価損を計上しました。
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中国市場でのシェア減少:CEOのジェンスン・フアン氏によれば、NVIDIAの中国におけるAIチップ市場シェアは、バイデン政権初期の約95%から現在は50%に低下しています。
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第2四半期の売上予測:同社は、引き続き輸出制限の影響を受け、第2四半期に最大80億ドルの売上損失を見込んでいます。
4-2. NVIDIAの対応策
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中国向け新製品の開発:NVIDIAは、輸出規制に適合する新たなGPU「RTX Pro 6000D(B40)」を開発中です。この製品は、HBMメモリやTSMCのパッケージングを使用せず、GDDR7メモリを採用し、規制を回避する設計となっています。
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グローバル市場への注力:NVIDIAは、サウジアラビアや台湾などでAIインフラプロジェクトを展開し、米国ではテキサス州にAIスーパーコンピュータの製造施設を建設する計画を進めています。
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CEOの見解:フアン氏は、輸出規制が中国の半導体産業の自立を促進し、米国の競争力を損なう可能性があると警告しています。
NVIDIAは、輸出規制による短期的な影響を受けつつも、グローバルでの需要拡大や新製品の投入により、長期的な成長を目指しています。特に、AIインフラへの投資が世界的に加速する中で、同社の技術力と柔軟な対応力が鍵となるでしょう。
5. 今後の見通しと戦略
NVIDIAは、AIの第2波とも言える「エージェントAI」や「ファクトリーAI」の到来に向け、次世代GPUアーキテクチャ「Blackwell」を中核とした包括的な戦略を打ち出しています。2025年4月の米政府による対中輸出制限によって、主に中国市場向けの「H20」製品で約80億ドル規模の収益損失が第2四半期に生じる見通しですが、同社はそれを補って余りあるグローバルAIインフラの構築と多国籍なパートナー戦略を展開しています。
5-1. 第2四半期見通し(FY2026 Q2)
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売上高:450億ドル(±2%)を予想。H20輸出制限による約80億ドルの売上逸失を含む。
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粗利益率(Non-GAAP):72.0%(±0.5ポイント)
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営業費用(Non-GAAP):40億ドル
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税率(Non-GAAP):16.5%(±1%)
5-2. 中期戦略の注力ポイント
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Blackwellの拡大展開:各国のクラウド(AWS、Azure、Google Cloud、Oracle)にBlackwellインスタンスを導入し、世界中の開発者にAI計算資源を提供。
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AIファクトリー構築:米国、サウジアラビア、UAE、台湾、日本で次世代スーパーコンピュータ拠点の開設やパートナー協業を発表。
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AIエージェント・創薬領域の推進:Google、Alphabet、Oracleなどとの連携で、創薬、ロボティクス、ヒューマノイドAIへの応用を加速。
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Omniverse / Cosmosの展開強化:産業界の物理AIやシミュレーションを推進し、次の成長市場を見据えた取り組みを拡大。
産業界向けに柔軟なAIインフラを構築、数百万単位のGPU接続を可能にするネットワーク技術も発表されました。これにより、NVIDIAはAIファクトリーを“インフラレベル”で構築・拡張する土台を提供しています。
ソフトウェアおよびクラウドの統合面でも進展が見られます。AWS、Azure、Google Cloud、Oracle Cloudといった主要クラウドサービス上でBlackwellインスタンスが利用可能になり、あらゆるクラウド環境でNVIDIAのAI能力を活用できるようになりました。また、OracleとのAIインフラ統合や、Google/AlphabetとのエージェントAI・創薬領域における連携も発表されています
NVIDIAは、中国向けの一時的な逆風にもかかわらず、「AIインフラのOS」たる地位を世界規模で固めようとしています。Blackwellを軸としたAI戦略の進捗と、各国政府・企業との密な連携が、今後の収益ドライバーとして強力に作用することが期待されます。
米国では、NVIDIA自身がAIスーパーコンピュータの国内生産を開始し、自社工場の建設にも着手。AI時代の“ものづくり”を自国で完結させる体制を整えつつあります。
6. 総括:AI時代のインフラ覇者、NVIDIAの現在地と未来
2026年度第1四半期決算で、NVIDIAはAIインフラの中核企業としての地位を再確認させる圧倒的な成績を示しました。生成AIやエージェントAIの台頭によって、世界中のクラウド事業者や産業プレイヤーが“加速コンピューティング”への移行を急ぐ中、NVIDIAはGPU・ネットワーク・ソフトウェアの三位一体で、インフラレベルの競争優位を築いています。
一方で、中国市場におけるシェア縮小やH20チップの出荷規制といった地政学リスクも顕在化。第2四半期には約80億ドル規模の売上減少が見込まれるなど、短期的な揺り戻しも予想されます。
しかしNVIDIAは、こうした逆風を乗り越えるべく、北米・中東・アジアにおけるAIファクトリー構築、クラウド統合、ロボティクス・創薬分野での協業強化といった多面的な成長戦略を加速させています。もはや同社は、単なるGPUベンダーではなく、**“AI社会のインフラ・オーケストレーター”**としての道を歩み始めたと言えるでしょう。
中国リスクを懸念する声も一部ありますが、NVIDIAの未来を決めるのは、世界中に広がるAI投資の“熱量”と、それを支える同社の技術力と供給力です。
次世代の計算基盤を誰が握るのか──その問いに対する最も有力な答えのひとつが、今のNVIDIAです。
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