「行動経済学」とは、経済学に心理学の知見を取り入れ、「人は自己利益のために完全に合理的な意思決定をする」という従来の経済学の仮定を、より現実的な仮定に置き換えて分析する学問――。

「売れる」のウラ教えます 武器としての行動経済学』(弓削 徹 著、あさ出版)の著者は、本書の冒頭でこう述べています。

端的にいえば、「特定の条件下で、人々がどのような経済行動をとるのか」を研究するものだということ。とはいえ実際のところ、人は買い物などの日常的な行動において、必ずしも合理的な判断をしているわけではありません。

たとえばコンビニでスナック菓子を選ぶ際には、どれにしようかと悩んだとしてもせいぜい数分程度であるはず。多くの場合は、「これを食べたい」といった直感や習慣に基づいて購入するわけです。

つまり、人の行動やその行動の起点となる心理には直感や習慣に基づく一定の法則性があり、それを実験や研究をしデータ分析によって実証することで体系化したのが「行動経済学」なのです。(「はじめに」より)

人がモノを買う行為(購買行動)は意思決定に基づくもの。そのため意思決定のメカニズムを知ることができたら、モノを売るうえでのメリットとなります。そのメカニズムこそが行動経済学であるため、活用することでビジネスは伸びていくわけです。

そこで本書は、「商品を販売するプロセスにおいて、商品開発や販路開拓、営業などで実践できるように」との思いを軸に、行動経済学を「いつ、どのように活用したら成果につながるのか」を平易な表現で解説しているのです。

きょうは、そんな本書の第1章「売り方/商談 売り方の視点を変えると売上は激伸びする!」のなかから、「バンドワゴン効果」についての興味深いトピックスをご紹介したいと思います。

売れはじめた商品の拡散は人気を演出する[バンドワゴン効果]

[定義]

多くの人が支持していると知らせると、さらに支持を集めやすくなる現象。いわば勝ち馬に乗るような心理傾向のこと。(32ページより)

[事例]

Apple社では新型iPhoneの発売日をイベント化している。店頭に行列をつくって熱狂する多くの購入者(ファン)をテレビのニュースで報道してもらうことで、その人気を繰り返し印象づけてきた。

報道のおかげもあり、ブームに乗ることが好きで同調圧力が強い日本でのiPhone所得率は約7割程度と高く、世界平均の約3割を大きく上回っている。(32ページより)

Advertisement

みんな“人気者”だとアピールしたい

量販店などの棚に飾られた特定の商品に、「売れてます!」と書かれた“既製品”のPOP(店頭広告)がついていることがあります。キャッチコピーとしてはいくぶん雑な印象がありますが、それでも一定の効果が見込めるのは「バンドワゴン効果」のおかげ。

また、最寄り品(最寄りの店でこだわりなく買うような、日常的に使用する商品)の購買では直感的に選択することが多いため、「当店人気ランキングNo.1」のようなランキングを提示すると、「いちばん売れている商品なら間違いないだろう」とお客様は考えてくれるものでもあるようです。(32ページより)

混んでいる店を選びたい「ハーディング効果」

「ハーデつィング」は動物などの群れを意味する言葉です。

エドガー・アラン・ポーの小説『群衆の人』には、多くの人のなかにいることを求めてさまよう人が出てきます。

ゆったりした空間で食事したいという人もいる一方で、混雑してごった返しているなら美味しい店なのだろうと考える人も少なくありません。(34ページより)

同じことは、展示会やイベントなどのブースについてもあてはまります。人だかりができていると、つい寄りたくなるという心理が人にはあるわけです。

ブースが無数に出展している大きな展示会では、自社ブースに立ち寄ってもらうのは至難の業。そういったときに著者は支援企業に対し、「誘引の仕掛け」を提案するのだそうです。それは、「展示ブースで、商品の魅力や価値を実感できる試用などの体験をしてもらいましょう」というアプローチ。

試用体験をしてつい夢中になった来場者は、ブースでの滞在時間が長くなります。そして「どのブースに立ち寄ろうか」と考えている他の来場者にとって、人だかりができているブースは「なにか新しい価値や情報を紹介しているのでは?」という興味の対象になります。

ここからわかるのは、「人」が最良のPOPであるということ。上記の事例にある新型iPhone発売日のイベント化も同じで、つまりは「人」をPOPにした好例なのです。

新規店舗のオープン時などにおいては、たくさんの人が集まったタイミングで写真を撮り、XなどのSNSに「たくさんの人に来ていただいて感謝です」というようなメッセージをつけて投稿すれば効果的。それを見た人は、「すごい人気だ。これなら私も行ってみたい」と感じるものだからです。

また、人気商品であることを「ベストセラー」「売上ナンバーワン」といった表現で強調したり(上記の「売れてます!」という既製POPもこの範疇に収まるでしょう)、流行しているトピックやニュース、キーワードを使ってSNS投稿やコンテンツ作成を行うケースもよく見かけるのではないでしょうか。

それは、トレンドのテーマを活用してハッシュタグ発信などをすることによってインプレッション(表示回数)を上げ、話題性に便乗しようとする施策。目にしたお客様は、「とにかく売れていて流行っている商品を買っておけば、失敗することはないだろう」と考えるわけです。(34ページより)

「バンドワゴン効果」の実践テクニック

▶︎人気があり、売れていることをアピールして安心して買ってもらう

▶︎売上実績を数値で伝えるPOPを設置する

▶︎行列を意識的にアピールする

(例)新規開店のラーメン店がわざと店内の椅子を少なくして行列を演出する

(36ページより)


本書は行動経済学の「学術書」ではなく、あくまで「活用書」。知識は活かしてこそ価値を発揮するものなので、存分に活用し、結果につなげていきたいところです。

>>Kindle unlimited、500万冊以上が楽しめる読み放題を体験!

Source: あさ出版

Advertisement