水曜日, 5月 21, 2025
ホームレビュー映画【映画感想文】ジャニー喜多川性加害問題と人類の破滅と再生がつながっている意味わかんないけど意味がわかるヤバイ映画! いまの日本で誰かが作らなきゃいけない映画を作ってくれてありがとう - 『無名の人生』監綾野つづみ

【映画感想文】ジャニー喜多川性加害問題と人類の破滅と再生がつながっている意味わかんないけど意味がわかるヤバイ映画! いまの日本で誰かが作らなきゃいけない映画を作ってくれてありがとう – 『無名の人生』監綾野つづみ

🧠 あらすじと概要:

映画『無名の人生』あらすじ

『無名の人生』は、若者がジャニー喜多川の性加害の実態とその影響を考察する物語。事務所名が「スワンプロ」とされ、社長の名前は「白鳥」などと置き換えられているものの、実際のジャニー喜多川を想起させるキャラクターや出来事が描かれている。アイドルグループはSMAPを彷彿とさせ、主演の若者は周囲の期待に応えようとしながらも、自らの「無名」を求め、息苦しさから逃れようとする姿が描かれる。

記事の要約

この記事は、鈴木竜也監督による映画『無名の人生』を観た感想を述べたもの。映画はジャニー喜多川の性加害問題と、人類の破滅と再生をテーマに深く掘り下げており、視聴者に衝撃を与える内容になっている。特に、創造されたキャラクターたちが実際のジャニーズ事務所の構造を反映しており、社会の中の「ファミリー」の概念が問題の根本に関係していることを描いている。映画を通じて、無名を目指すことが現代社会への風刺であるという視点も持ち出されている。全体的に、監督のユニークな演出と深いテーマが評価されており、観客に強いメッセージを伝えている。

【映画感想文】ジャニー喜多川性加害問題と人類の破滅と再生がつながっている意味わかんないけど意味がわかるヤバイ映画! いまの日本で誰かが作らなきゃいけない映画を作ってくれてありがとう - 『無名の人生』監綾野つづみ

 本当は『サブスタンス』を見たかったのだけど、前の予定が押してしまって、上映時間に間に合わなかった。でも、映画を見たい気持ちは高まっていたので、いまからすぐに見れる作品をネットで探したところ、出てきたのが『無名の人生』だった。

 そんなわけで予告編も見ず、前情報も知らず、ただタイミングがよいというだけで劇場に行った。期待はしていなかった。だからこそ、度肝を抜かれた。

 ヤバ過ぎるだろ……。だって、ジャニー喜多川性加害問題と人類の破滅と再生がつながっているような物語なんだよ!

 映画の中で事務所の名前はスワンプロになっているし、社長の名前は白鳥さんになっているけど、キャラクターの見た目は創造以上にジャニー喜多川。まわりが困るほど自由な発想でプロデュースを進める姿もジャニー喜多川。未成年の男の子たちを合宿所に閉じ込め、自分と性的な関係を持てば芸能界で活躍することができると洗脳する手口もジャニー喜多川。あまりにもすべてがジャニー喜多川だった。

 その上、事務所の看板アイドルグループは名前は違うけどめっちゃSMAP。最初は6人だったけど、途中で1人抜けて5人になる歴史はめっちゃSMAP。歌って踊る曲は「シェイクシェイクブギーな胸騒ぎ」なあたりがめっちゃSMAP。髪の毛がくるんとしたメンバーだったり、細い目は角張った顔立ちのメンバーだったり、とにかくカッコいいメンバーだったり、めっちゃSMAP。

 なんだこれは! なんなんだこれは!

 ジャニーズ問題は世界的なニュースとなり、2020年代前半の日本を代表する出来事のひとつだった。にもかかわらず、これまで誰もそのことを総括してこなかった。

 特にテレビ業界・映画業界の事なかれ主義はひどく、活躍している人たちは見て見ぬふりを貫き通すつもりらしい。要するに自分たちもジャニーズ事務所の恩恵を受けてきたし、噂レベルでジャニー喜多川がそういうことをしていると聞いてはいたから、告発する側にまわることができないでいたのだ。でも、それって間接的な共犯者であり、そんなんじゃ日本のエンタメはダメだよねってことは火を見るよりも明らかだった。

 これからのエンタメを考えたとき、誰かがジャニー喜多川はクソ野郎だったとしっかりまとめる必要があった。誰かがジャニーズ事務所という仕組みは残虐だったと断言する必要があった。誰かがそういう映画を作らなきゃいけなかった。そして、鈴木竜也監督の『無名の人生』はそういう映画であり、ようやくジャニーズ問題とはなんだったのか日本人がちゃんとした意見を表明したのだ。これは本当に凄いことである。 

 帰りの総武線でいろいろ調べた。「ぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を受賞した鈴木竜也監督が、たったひとりで1年半を費やし描き上げた長編デビュー作」とあった。

 1994年生まれの仙台市出身の若者が長編デビュー作で孤独に描いた作品だから、なんのしがらみもなく、ジャニーズ問題に向き合えたのかもしれない。逆に言えば、現役で活躍している世界的な賞も取ったり、日本アカデミー賞の栄光に輝いている監督やプロデューサー、脚本家たちにそれができなかったということは、未だ、日本の芸能界にはジャニー喜多川の呪いが残っているのだと思えておぞましい。

 とはいえ、この映画の凄いところはジャニー喜多川の性加害問題がクライマックスではないということ。事務所という檻でなにも知らない若い子たちを閉じ込め、外敵から守ってあげると甘い言葉で囁きながら、ゆっくりと翼をもぎ、奴隷に仕立て上げようする支配構造自体にフォーカスを当てている。故に、ジャニー喜多川の蛮行は悪質ホストクラブに重なり、カルト宗教に重なり、戦争に重なり、人類の滅亡に重なっていく。

 皮肉なことに、その支配構造は映画の中で「ファミリー」と呼ばれていた。

 みんな、悪意なく「家族になろう」「家族のようなものだから」と口にし、それは幸せになるための条件であると他意なく信じているのだ。でも、家族を形成した瞬間から家族以外の人間は敵となり、家族は指揮者たる長の言うことを聞かなければいけなくなってしまう。

 タイトル『無名の人生』とはうらはらに主人公は絶えず有名であり続けた。学校では無口なイジメられっ子として、アイドル事務所に入ってからはダンスの天才として、ホストになってからは接客下手として、山奥で暮らしてからは神様として、首都直下型地震が起きてからはスーパーボランティアとして、日本が復興してからは『アイアンマン』みたいなスーパーヒーローを演じた国際派俳優として、戦時下では日本の発展を支えた素晴らしい先人として、戦後はみんなのお父さんとして、人類が滅亡してからは「人間」として、有名であり続けた。

 結果、彼は意図せずファミリーに組み込まれた。場合によっては長として祭り上げられてきた。その息苦しさから逃れるため、彼は無名になろうと走り続けた。その記録が『無名の人生』なのである。

 無名を目指す物語って、現代社会に対する最大の風刺だと思う。SNSでもYouTubeでもTikTokでも、みんながみんな有名になろうと頑張っている。でも、有名になるってそんなにいいことなんだっけ? むしろ無名の方が自由でいいよ。

 かつて、アンディ・ウォーホルは「将来、誰でも15分は世界的な有名人になれるだろう」と言った。ウォーホルはそれを希望として語ったのか、絶望として語ったのか、いまとなってはわからない。わからないけど、有名になればなるほど苦しくなるのは絶対だ。日本プロ野球界の歴史的盗塁王・福本豊が「立ち小便ができなくなる」と国民栄誉賞を辞退したように社会的凄さは足かせとなる。なのに、どうして人は有名になろうとしてしまうんだろう。

 たぶん、寂しいのだ。誰にも見られていないとしたら、自分の人生ってなんなんだろうと不安になってしまうのだ。観測されなければないのと一緒。哲学の教科書によく出てくる例だけど、誰もいない森林で大きな木が倒れたとしても、バサァーンという音は存在しないという。なぜなら、その音を音として受信する人間がいないから。同じようにわたしがわたしであるために、わたしはわたしを知ってくれている他者を求めてしまう。わたしを知っている人が一人もいなければ、わたしはこの世界にいないのと一緒なのだ。そのため、誰かにわたしを知ってほしいと願ってしまう。

 寂しさを忘れるために人はファミリーを作る。そこに血のつながりがあってもなくても、究極、どうでもいいのである。自分を知ってくれている。その安心感が重要だから。でも、家族を作ると今度は忘れられたくないという執着が生まれる。もっと言えば、自分を愛してほしいという欲が湧いてくる。これが反転し、自分を知らないやつらが憎くなる。

 ジャニー喜多川性加害問題と戦争は根っこのところでつながっている。それだけ言うと意味がわからないと思うし、映画『無名の人生』は意味のわからない超展開が何度も繰り返されるけど、なんとなく意味がわかるから面白い。

 もちろん、それだけぶっ飛んだストーリーが成り立っているのは鈴木竜也監督の演出が巧みであるということを忘れてはいけない。全編、ウェス・アンダーソンを思わせる画角を採用し、一気に時間が進む場面ではトランス状態に入れる音楽を流し、『2001年宇宙の旅』みたいなワープ効果が見事に発揮されていた。声のトーンは抑えめになっているので落ち着いて見れた。また、ちょっとしたワードがグッとくる。日本が戦争になったとき、国民のほとんどが徴収命令を既読スルーしたというフレーズは笑ってしまった。つまり、なにもかもがセンスいいのである。

 特にセンスが爆発しているのは宣伝用の著名人コメントの中に、監督のお母さんのコメントが置いてあるところ。

■ 監督のお母さま コメント
まさかウチの息子にこんな事ができるとは! 1回、頭の中を調べさせておくれ…映画を観て「展開はやっ!」と置いてかれながらも、気づけば台所でエンディングを口ずさんでいる母より…♪

 こんな映画を撮るなんて、親の顔が見てみたいと親が思ったんだろうなぁ笑

 本編中にもそんなセリフは出てきたけど、現実では微笑ましくて好きになってしまう。ファミリーの悪い面が強調されている映画だったけど、監督はとてもいい家族に恵まれているんだろうなぁ。

 そう。家族って最高で最悪なんだよね。故にとっても難しい。

マシュマロやっています。匿名のメッセージを大募集!質問、感想、お悩み、読んでほしい本、見てほしい映画、社会に対する憤り、エトセトラ。

ぜひぜひ気楽にお寄せください!! 



続きをみる


Views: 4

RELATED ARTICLES

返事を書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

- Advertisment -

インモビ転職