🧠 あらすじと概要:
あらすじ
『ガール・ウィズ・ニードル』は、第一次世界大戦直後のデンマーク・コペンハーゲンを舞台にした物語で、北欧史上最も物議を醸した連続殺人事件を背景にしています。戦後の貧困や抑圧の中で、生き残りをかけて強く生きる主人公カロリーネの姿が描かれています。彼女は過酷な状況に直面しながらも、自らの意思で進む姿勢が、ハードなストーリーの中で印象的に描かれています。
記事の要約
映画に強く惹かれた感想を書いた記事では、ビジュアルの美しさと同時に、深い物語の重さについて触れています。主人公カロリーネの強さが際立ち、戦争や貧困による理不尽さの中でも生き抜こうとする女性たちの姿が描かれています。この映画はサスペンスホラーとしても高い評価を得ており、観る者に考えさせる内容になっています。また、登場する女性キャラクターが力強く描かれている点や、彼女たちの運命が切実に伝わる点が強調され、全体を通してのテーマが明確に示されています。ラストには希望の光が見え、アウトローのコミュニティが唯一の救いとして描かれています。全体として、戦争や貧困、女性の抑圧を描きながらも、力強い物語となっていると感想が述べられています。
北欧史上最も物議を醸した連続殺人事件。第一次世界大戦直後にデンマークのコペンハーゲンで起きた殺人事件とその背景を描く『ガール・ウィズ・ニードル』の感想です。
予告での映像の美しさに惹かれて、それ以上の情報は入れぬまま観に行ったのですが、とても良かったです。もちろん、ビジュアルの印象通りとても重く辛い内容なんですが、その地獄のような状況の中で生きる主人公カロリーネの強さ(というかしたたかさというか)に釘付けになり、引っ張られ、そのまま気が付けばエンドロールが流れていて、「え、ちょっと待って」何の話?と全編を振り返るという経験をしました。じっとりと重いのに目の前で起こっていることがにわかに信じがたく、その度に、「え、ちょっと待って」となるんです。
「ちょと待って」となるのは展開の悲惨さだけではなくて、出て来る女性がみんなパワフルに描かれてるからなんですね。戦後、貧困、戦地から帰って来ない夫となった場合、これまでの映画であれば夫の帰りを待ちながら健気に暮らす婦人。その中で理不尽な目に合うもこれまた健気に乗り越える。それが女性の強さでもあるのだ的に描かれてきたと思うんですよ。それが、いや、そりゃそうなんですよね。戦争とか個人の意に介さぬことで不幸にさせられてるわけなんで、そんな健気になんかいられるわけないんです。まずは”やってられるかよ”っていう精神性。そして、それでも生きて行くっていう決意と、”でも、どうして”っていう逡巡。これらが一緒くたになって、なんといいますか、地獄に生きる鬼神のような精神性を持った女性キャラクターが生れてるんです。そして、それがこの現実的にはあり得ないくらい悲惨な話をホラーというジャンル映画に昇華させてるんだと思うんです。
同時期に公開された『サブスタンス』や『ノスフェラトゥ』と同じ様に抑圧された女性性(と、それは何が原因なのか)というのがテーマになってると思うんですけど、この3作品の中でもっとも女性が強く描かれてるのはこの『ガール・ウィズ・ニードル』でした。第一次大戦直後という時代をモノクロで描写してるのに登場人物たちの実在感が凄いんです(モノクロにしたことで逆にその当時のリアリティが増してるんです。)。そして、だからこそ、その女性たちが辿る運命が切実さを持って迫って来るんですけど。これほどまでに強くならざるを得なかった女性たちに世界っていうのはどこまで追い打ちを掛けてくるんだっていう。そして、序盤でそういう理不尽極まりない世界を嫌というほど見せられるので、その後描かれる連続殺人という事象(ストーリーに翻弄されながら「ちょっと待って」となって欲しいので詳しい事件の内容には触れませんが。)にむむむむ…となってしまうのです(この事件の描き方も秀逸でサスペンスホラーとしてちゃんと面白いんですよね。面白いと思っていいのかっていうのとの葛藤ではあるんですけど。こういう観てる方の感情をむちゃくちゃにしてくる感じも『サブスタンス』と近いかもですね。)。
で、このむむむむ…がむむむむ…でちゃんと留まってお涙頂戴にまで至ってないのがサスペンスホラーになっているとても良いところだと思ったんです。要するに観る者を泣かせてスッキリさせない。なんでこんなことに…って考えさせる。そして、ここまで地獄をきっちり描いてるんでね、ラストの(これはどう見てもフィクションなんですけど)ちょっとした希望にほんとに救われるんです。そして、このふたりが向かうのはきっとあのサーカス団なんだろうと思うんです。なぜなら、この映画の中で、唯一まともなコミュニティーとして描かれるのが、世間からつまはじきにされたアウトロー集団だけなんですからね(戦死したと思ってた夫が帰って来るところから、このサーカス団に繋がるまでの経緯もとてもいいんです。)。
ということで、『ガール・ウィズ・ニードル』。戦争、貧困、差別、女性の抑圧を描きながらとても力強いサスペンスホラーになっててめちゃくちゃ良かったです(と、これを書いてる時にちょうど高畑勲監督のインタビューが無料公開されてたので読んだんですが、この映画と『火垂るの墓』、もしかしたら同じことを言ってる映画かもしれないですね。特に「誰もが、あの西宮のおばさんのような人間にすぐになっちゃうんじゃないか、と。見た人は、そこに怯(おび)えてほしいんですね。」というところ。)。
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