
どうも、まろん亭奏字でございます。
世の中には、実在の人物を題材にした映画やドラマがたくさん作られております。
毎年NHKで一年間に渡って放送される大河ドラマもそうですね。
そういった、いわゆる「伝記映画」と呼ばれるものには二種類ございます。
ひとつは織田信長やナポレオンといった、現代人が生身の本人を誰も見たことがないもの。
そして、もうひとつはその人をメディアを通して見たことがあるというもの。
2018年にヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」などは、後者のパターンですな。
前者は本人を誰も見たことがないので、役者さんも割と自由に演じることができます。
「おい、全然、信長に似てないじゃないか」と文句を言う人はいませんからね。
でも、後者は違います。
先ほど挙げた「ボヘミアン・ラプソディ」なんかは主演のRami Malekがかなり頑張ってロックバンド「Queen」のボーカル、 Freddie Mercuryを演じ、高い評価を受けました。
タレントのビートたけしさんのお若い頃を描いた、NETFLIXの「浅草キッド」も、柳楽優弥さんが本当に上手に演じておられましたね。
今回はマーベルのヒーロー映画でウィンター・ソルジャーを演じているSebastian Stanがなんと今、お騒がせのアメリカ合衆国現役の大統領、Donald Trumpを演じた「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」を題材に伝記映画の創り方についてお話します。
ルール1 時間を無駄にするな
アメリカ合衆国第45代、そして第47代の2期に渡って現在も大統領をなさっているトランプさんですが、お生まれになったのが1946年1月20日。
太平洋戦争が終戦直後、日本では新しい憲法が公布された年です。
ニューヨークのクイーンズという場所でお生まれになったそうですな。スパイダーマンもクイーンズ出身という設定でしたね。
ニューヨーク市クイーンズ区
お父さんは不動産会社の社長だったそうです。まあ、いいところのボンボンですね。
ごきょうだいは5人いらっしゃるそうで、ドナルドは次男坊。
私の周りを見ますと、次男というのはなかなか野心家の方が多いように見受けられます。上とどれくらい離れているかによりますが、やはり常にライバルとしてお兄さんの存在があるので、「負けてたまるか」という気持ちから競争心が強くなる傾向があるからなんじゃないかと思います。次男の方を見ていると、感情の幅がとても大きい人が多いですな。優しい時はとことん優しく、怒る時はとことん怖い。私などは長男でございますから、「何もそこまで怒ることはないだろうに」と、ちょっと怖かったりするんですが、何か事を成そうという力は次男にお生まれになった方のほうがおありになる気がしております。それに比べると、長男はダメですな。時に私のような男兄弟のいない長男になりますと、なんかこう、ボーッとしていて迫力に欠けます。ただ、調整するという力に関しては長男勢は優れておりますよ。
基本的には「みんな仲良く」という価値観で生きておりますからね。
さて、映画はドナルドが上流クラスの人しか会員になれないクラブを訪れるところから始まります。
どんな映画でも主人公の登場のさせ方というのは重要ですが、特に伝記映画ですと長い期間に渡るお話を二時間程度で描き切らなくてはならないので、余分なところに時間を割いているヒマはありません。
その点、この映画はすばらしいです。
最初のシーンで「トランプが上流階級の出身であること」「でも、超一流というわけではなく、まだ駆け出しで上昇志向が強い」といったことがわかるようになっております。
さらに、冒頭のこのシーンでさっそく、彼の人生を変える「重要な出会い」まで描いています。その出会う相手とは弁護士、ロイ・コーン(Roy Marcus Cohn)です。
1927年生まれで、反共、つまり共産党系の人たちを敵対視する言動で有名だった方だそうです。
そのロイをJeremy Strongという俳優さんが演じているのですが、これが強烈なキャラクターで、この映画の裏主人公とも言える役どころとなっております。
一言で言えば、精力的で、タフな人物。
そして、前半、このロイがメンターとなって、パッとしない不動産経営者のトランプを「一流」へと仕立て上げていきます。
その関係性を見て、私は「スター・ウォーズ」のアナキン・スカイウォーカーとパルパティーンのようだと思いました。野心だけはあるけど、まだ実力の伴わない若者。そして、そんな若者のまだ開花していない才能を見抜いて力を貸す権力者。銀河帝国で力をつけていくアナキンのように、若きドナルド・トランプはロイの後ろ盾で富と力を手に入れていくのです。トランプの父が抱えている訴訟問題で弁護士を務めることになったロイが「金はいらない。友情で返せ」というシーンはドキッとさせられましたね。ただ、やっぱりお金は払ったほうがいいです。こういう関係って、上手くいっている時はいいんですが、与えられた側が出世すると途端にうまくいかなくなりますから。特に与える側が「あんなによくしてやったのに」と思い始めたら終わりますね。
だから、私も若手に何かしてあげる時は、見返りは期待しないようにしています。
あと、伝記映画において、「時代背景」というものはかなり重要です。信長はあの時代だからこそ生まれた英雄であり、それはビートたけしさんにもフレディ・マーキュリーにも言えること。
名のある人物は生まれてきた時代が大きく関係してきます。
映画がすばらしいのは、音楽ひとつかけるだけでいつ頃の話なのかを一瞬で観客に伝えることが出来ます。
開幕流れるノリノリなロックミュージックで、観ている人はこの物語が1970年代の話だというのがなんとなくわかるようになっています。
ルール2 テーマを絞れ
「人生いろいろ」と歌にもありますように、生きているといろんなことが起こります。
その一つ一つをダラダラと描いていては二時間なんてあっという間に経ってしまい、結局、何の話だったんだということになってしまいます。
なので、伝記映画はテーマを絞り込むというのが重要なのではないでしょうか。
作り手はあのエピソードも入れたい、このエピソードも捨てがたいと欲張りになりがちですが、ここはぐっとこらえて一つのテーマに絞ったほうが良いように思います。
それでいうと、この映画は「トランプとロイの関係性」を軸に描かれています。
「ビジネスの成功」「恋愛」「結婚」「家族」いろんなエピソードが描かれますが、どれも「トランプとロイの話」に絡んでいます。
例えば父親とのエピソード。トランプの父親は威圧的で子供たちに対しても支配的です。面白いのは、トランプはそんな父親に反発しながらも、同じようにタイプのロイに魅かれていきます。
つまり、「父親からの脱却」を目指しながらも、その実、「新しい父親」に支配されていくのです。
このようにあらゆるエピソードが、あくまでもトランプとロイの関係を描くためのリトマス試験紙であったり、映し鏡になっているところが秀逸です。
そして、必ず「トランプとロイの話」に戻ってくるので、いろいろある人生を描いていても軸がブレず、観ているほうは何の話なのかを見失わず、最後まで興味を持ち続けることが出来るのです。
ルール3 何を得て何を失ったかを明確にする
人生というのは何かを得たり、何かを失ったりの繰り返しです。
伝記映画にとって、エンディングは決算書類と言ってもよいでしょう。その人が何を得て、何を失ったかを明確にする必要があります。
失うのは何でしょうか。「愛」なのか「家族」なのか「金」なのか「名誉」なのか。
あるいは「命」ということもありますね。
この映画は「トランプとロイの話」なので、最後にトランプが失うのはロイです。
ロイが亡くなるところでこの映画はエンディングを迎えます。
アナキンとパルパティーンがそうであったように、ドナルドとロイの関係もまた、ドナルドが事業に成功し、出世していくにしたがって変化していきます。
あんなにも高圧的で支配的だったロイですが、やがてドナルドに疎まれ、最後は大病の末、生涯を終えます。
しかし、この映画はロイの死をそこまでセンチメンタルに描いていません。
それどころか、ロイに教えてもらった三か条をまるで自分が思いついたかのように吹聴し、ロイを失うことによって、彼は本当に「怪物」になっていくのです(まあ、あくまでも「映画」の話なんで、トランプ大統領が本当に怪物なのかどうかはわかりません)
アナキンはパルパティーン皇帝を殺すことでダース・ベイダーという闇から解き放たれますが、ドナルドはロイを失って、いよいよ本当のベイダー卿として覚醒するのです。
なので、この映画に「救い」はありません。
ただ傲慢な若者がメンターの力で権力者として力をつける一方で、メンターはだんだんと力を失い、さびしく死んでいくだけです。
でも、私はそこに人生のワビサビを感じ、心が震えました。
高校の同級生的な「いつまでも変わらぬ関係」というのはそれはそれでよいものですが、人間関係というものは常に変化するもので、それが人生の「味わい」となっていく。
お酒の熟成みたいなものかもしれません。
新人の頃、破天荒な行動で私を困らせていた後輩が、この間、会った時、「若手との人間関係に悩んでいる」という話をしていて、感慨深いものがありました。
というわけで、今回は「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」についてお話させていただきました。
実は私はあまり伝記映画が好きではありません。というのも、この映画でもそうですが、大抵の伝記映画って、夫婦喧嘩のシーンがあるじゃないですか。夫婦仲が悪くならないと偉人になれないのかというくらい、夫婦喧嘩のシーンがある伝記映画が多すぎて、あれがちょっと苦手なんです。しかも、結婚前はめちゃめちゃラブラブだったりして、なんともいたたまれない気持ちになってしまうのです。
何が悲しくて他人の家庭の揉め事を見せられなきゃならんのかという気分になりませんか?
でも、この作品は伝記映画というよりは、2人の男が出会い、別れるまでを描いた人間ドラマとして楽しめました。
それでは、また。
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