🧠 あらすじと概要:
あらすじ
『侍タイムスリッパー』は、幕末の会津藩士・高坂新左衛門が、戦いの最中に落雷で現代の時代劇撮影所にタイムスリップしてしまう物語です。彼は、江戸幕府が滅んだことに驚きつつ、心優しい現代の人々に助けられながら少しずつ元気を取り戻します。そして、自らの剣術を生かして、撮影所で「斬られ役」としての新たな人生を歩む決意を固めます。
記事の要約
この映画は、コメディ、時代劇、SFを融合させた独特な作品であり、視聴者には感情的なドラマを提供しています。主人公は、過去にとらわれず新たな人生を生きようとし、歴史の遺産に向き合う姿が描かれています。戊辰戦争の背景を採り入れ、歴史的なテーマを現代に問いかけることで、深いメッセージを伝える作品です。また、真剣による殺陣がリアリティを持って描かれ、緊張感溢れるアクションシーンも見どころです。全体として、この映画は歴史や時代劇に興味がある人々にとって、誠実で魅力的な作品となっています。
おにぎり食べたくなるシーンだよね
前回、大作時代劇映画である【室町無頼】の紹介と感想を書いたが、今回紹介するのも時代劇にまつわる作品だ。昨年話題になった本作を皆さんはご存じだろうか?所謂インディーズの低予算の自主製作映画ながら、単館上映だったものが話題を呼び、全国上映が展開され大成功を収めた作品だ。元々上映されていたのが『ロサ会館』こと池袋ロサ。
私の第二の故郷ともいえる池袋での上映だったこともありかねてから興味を持っていたので、配信に来たタイミングで視聴を決めた。
1階の洋食屋とゲーセンにはお世話になりました
あらすじ
時は幕末、京の夜。会津藩士高坂新左衛門は暗闇に身を潜めていた。「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ少しずつ元気を取り戻していく。やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、
新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。
出典:Filmarks
本作の感想
コメディに時代劇とSFを融合させるというのは、視聴前は不安に感じていたが概ね満足できた。それは、想像していたよりもコメディに寄せず、タイムスリップしてしまった人間の心情に焦点を当てた「ドラマ」であったからに他ならない。
もちろん、コメディ要素はあるのだが、ノイズにならない程度の濃度であって、物語に集中できた。
時代劇の裏で咲いた、小さな矜持と大きな再生の物語
時代劇というジャンルに、どこか懐かしさや安心感を抱いている人は多いだろう。だが、どれだけの人間が人生を懸けてきたかを想像することは少ない。
本作は、一人の幕末の侍が現代にタイムスリップし、時代劇の“斬られ役”として生きることを選ぶ──そんな突飛な設定から始まる。だが、そこにあるのは決して軽いコメディだけではない。
むしろ、歴史に翻弄され、時代に忘れ去られた者が、もう一度“生きなおす”までの真摯な物語だ。
過去を知らない世界に、彼は何を遺すのか
本作は、戊辰戦争という歴史的悲劇を背景にしている。
戊辰戦争は、新政府軍と旧幕府側との衝突であり、単なる戦ではなく「近代化の痛み」が集約された内戦だった。
白虎隊の話は強烈すぎて小学生のころから覚えてる
主人公高坂が、現代の「斬られ役」として生きることを受け入れていく姿には、ある種の贖罪と再生が同時に描かれている。過去に囚われたままではない。しかし、忘れ去られてはならない。
「戊辰戦争」は彼の中で、まだ終わっていない。
物語の後半、主人公高坂は「自分の未来」を知る。彼がいた時代のこと。自分の故郷会津藩がどうなったか。
どんなふうに、歴史に処理され、消されていったのか──そのすべてが、撮影所の「台本」という形でさらりと突きつけられるのだ。
その瞬間、私の中で映画はフィクションを超えてしまった気がした。
タイムスリップという仕掛けが、ただのエンタメではなく、「歴史に忘れられた人間が、現代に問いかける」という強烈なモチーフになる。
これは「過去から来たヒーロー」の話ではない。むしろ「未来から捨てられた者」が、それでも誰かに届こうとする物語なのだと。
真剣による殺陣——作法と死のリアリズム
本作の中で特筆すべきは、やはり「真剣による殺陣」の描写だろう。クライマックスで、主人公高坂は出演する映画の殺陣を真剣同士で行う。
本作のアクションは、もちろんCGに頼らず、ひと振りごとに命が感じられるほどの張りつめた緊張感を湛えている。
高坂の剣は、ただのパフォーマンスではない。「敵を斬る」という死の現実を伴っている。
そこに現代の見せるための殺陣との乖離が生まれ、同時にそれが融合していく過程が、この映画の最大の見どころと言える。
この殺陣には、会津藩士としての武士道が刻まれている。命を懸けて鍛錬してきた者にしか出せない間と重み。
真剣勝負のリアリティは、観る者の感覚すら切り裂く。
最後に
本作は、決して派手な大作ではない。
しかし、会津藩、戊辰戦争、真剣による殺陣、そしてSFというテーマを、現代劇の中に違和感なく溶け込ませる手腕は、驚くべきものがある。
一人の「斬られ役の侍」が、歴史と向き合い、過去と未来に橋を架けるまでの物語。歴史好きにも、時代劇ファンにも、そして現代に息苦しさを感じている人にも観てほしい、誠実な傑作だ。
もし、戊辰戦争についての知識が乏しいようなら、少しだけ戊辰戦争について予習してからのほうが主人公の心情に寄り添えるだろう。
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