smart7月号のスタイリスト・熊谷隆志の連載『Tokyo Fashion Tribe』のゲストは、熊谷さんと親交のある小栗旬さんが登場。インタビューでは、小栗さんが主演を務める6月13日公開の映画『フロントライン』をフィーチャーします。
【小栗旬インタビュー】コロナ禍の“名もなきヒーローたち”を描いた主演映画『フロントライン』にかけた思いの画像一覧
今作品は、2020年に世界規模で人類が経験した新型コロナウイルスを、事実に基づくオリジナル脚本で映画化した日本で初めての作品。物語の舞台は、2020年2月に横浜港に入港し、日本で初となる新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンドプリンセス」。当時、日本には大規模なウイルス対応を専門とする組織は存在せず、この状況下に急遽(きゅうきょ)対応することになったのが災害医療を専門とする医療ボランティア的組織のDMAT(ディーマット)でした。小栗さんは未知のウイルスに立ち向かうDMATの指揮官・結城英晴を演じています。
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新型コロナウイルス禍の事実に基づく名もなきヒーローたちの物語
――出演を決めた理由は台本が大きかったとのことですが、台本を読んだときに感じたことは?
小栗旬(以下、小栗)「2020年という、かなり直近の出来事だったので、よくぞ映画にしようと思ったのがまずありました。その上で、自分も実際に報道などで見ていた船の中で、こんなことが起きていたんだというのを改めて知りましたね」
――この作品には出演する意義があるという思いで参加されたそうですが?
小栗「そうですね。なかなか日本ではこういった作品は作られる機会が少ないという印象があります。今回は実存するダイヤモンドプリンセス号という名前を使い、実際に船の中で起きていたことを明らかにしていくところに焦点を当てているのですが、そこで生じた国の問題点などを掘り下げていくことって、やはり物語として描くことを避けがちだと思うんですね。そういった部分に今回はだいぶ踏み込んで作っているものになっていると思うので、そこがすごく意味のあるものだなと感じました」
――小栗さんが演じた結城のモデルとなっている阿南先生にも直接お会いしてお話を伺う機会があったそうですが、どんなお話をされたんでしょうか?
小栗「DMATは災害医療を専門とする医療ボランティア的組織で、1995年に阪神・淡路大震災をきっかけに組織されました。2011年の3.11(東日本大震災)でも活動をされていて、そのときの反省点なども抱えていたそうなんです。ただ、地震や洪水などの災害対応のスペシャリストではあるけれど、未知のウイルスに対応できる経験や訓練はされていない医師や看護師たちで組織されているので、自分たちはウイルスに関しては専門外であるというところから始まっているんです。
けれど、過去の経験からとにかく人命を助けることを優先したと。この船の中で死を迎える人を作らないようにすることを一番に考えて動いたそうなんです。この作品の中でも描かれているのですが、人道的にどう判断するべきなのかということとの戦いだったというのをお伺いしました。やはり『絶対に誰も死なせない』という思いを持って動いていたというお話がとにかく印象に残りましたね。なので、そのためにはどういう選択肢が一番いいのかをその都度考えながら動いていたというお話をお伺いして、自分もその思いは大切にしながら演じたいなと思いました」
――今までの小栗さんですと、先導的な役を演じることが多かった印象がありますが、今回は“動”よりも“静”を意識されたそうですね。結城という役をどのように受け止め、どのように作り上げていったのでしょうか?
小栗「監督の関根(光才)さんが、物語が十分ドラマティックだから、役者たちでわざわざドラマティックに見せる必要はないということをおっしゃっていたのが、印象に残っていて。僕らは普段作品に入ったときに、“(この作品の中で)この台詞は大切なんだろうな”という作品の鍵を握る部分を意識したりするのですが、今回はそういったことはあまり考えずに会話として台詞のやりとりをするように心がけました」
――DMATを統括する結城のバディ的な存在として、直接ダイヤモンドプリンセス号に乗り、現場で指揮を取る仙道を窪塚洋介さんが演じています。この役に窪塚さんを推薦したのが小栗さんだとお伺いしました。
小栗「今回、この作品のオファーをいただいて、自分が結城という役をやるなら誰に仙道をやってほしいかなと考えたときに、(窪塚)洋介君にやってほしいなと思ったんです。それで、今回お声がけさせていただきました。実は、今までの作品でも、何かあるたびに洋介君には声をかけさせていただいていたのですが、なかなかタイミングが合わずで実現していなくて」
――窪塚さんとは、『GTO』(フジテレビ)で共演して以来だそうですね?
小栗「はい。なかなか一緒に仕事ができないまま気がついたら20年以上過ぎてしまって。今回は内容も内容だったので、また断られるかなと思いつつ、とりあえず“台本を読んでほしい”とお伝えしたんです。
洋介君もコロナに関しては思うところがあったと思うんですが、“台本を読んだら、そこに描かれていたのは描くべきものだ”と言ってくれて。そのときの洋介君の言葉を借りるなら、“名もなきヒーローたちの物語”だと。そこに洋介君自身も感銘を受けてくれて、“こんなにいい作品に声をかけてくれてありがとう”ということで、やってくれることになりました。そこからは、物語の通り、船に乗ることを決断してくれたので、お互い自分の仕事を果たそうという気持ちでそれぞれの役割を果たしていった感じでしたね」
――小栗さん自身、コロナ禍にダイヤモンドプリンセス号の報道を見ていたとおっしゃっていましたが、この作品に参加したことで、(報道として捉えていたときと)考え方などに変化はありましたか?
小栗「当時、報道を見ていた頃から現在に至るまで、僕らって情報に踊らされていたんだなという思いはあります。一つの切り抜き記事をあたかも真実だと受け止めてしまう部分がいっぱいあって。けれど、この作品に参加したことで、報道では伝えられていない僕らが知らない部分がたくさんあったんだと、改めて思いましたね。もちろん、物語の中にも出てくるように、それが(DMATの判断が)正しい選択だったかどうか、ということはいつになっても答えが出ることではないと思いますが、彼らはあの状況下で彼らなりにやるべきことを選択し、遂行したんだと思います。ただ、その部分って、なかなか僕らの耳には入ってこなかったですよね」
――この作品を見るまでは知らなかったですね。
小栗「結局、ネガティブでセンセーショナルなことばかり取り上げられていましたよね。僕自身、あの当時、あの船はある意味、“悪”なのではないだろうかと思って見ている部分もあったんですけど、そういう単純なことではなかったんだということに気付かされました。あの頃から5年経った今でも、SNSなどを見ると、船内での行動をとてつもない判断ミスだったと言っている人もいるんですよね。それは見る人によって、見る角度によって意見は分かれると思うんですけど、でもそれを言っている人も、報道されている上澄みの部分だけを見て言葉を発していると思う部分もあったり。なので、改めて報道やネットの言葉だけを信じて踊らされてはいけないなと感じる部分もありました。かといって、僕らが今回描いたものも全てが真実ではないとは思うので」
――安易に結論が出るものではないですよね。
小栗「特に(ネットがなかった時代に育った)僕らの世代って、情報を手に入れるためにはそこに行ってみるしかない時代を生きてきて。今はいくらでも情報が手に入る時代になったけど、本当の真実を掴むため、自分の中で揺るがない何かを見つけるためには、簡単に手に入るものだけで判断してはいけないなっていうことは改めて感じましたね」

映画『フロントライン』より/© 2025「フロントライン」製作委員会
DMATの方々の人間味あふれるギャップについて
――ちなみに作品に入る前にDMATという存在は知っていらっしゃいましたか?
小栗「医師や看護師で組織されたボランティアの方々が活動されている、くらいしか知識がなかったですね。災害が起きたときにそういう活動をされる方々がいることは認識していましたが、その団体がDMATで具体的にどんな活動をされていたのかについては知らなかったです」
――私たちもこの作品で初めてDMATという存在を知りました。
小栗「僕らがこの作品を撮影したのが2024年の1月、2月なんですが、そのタイミングで1月1日に能登半島地震が起きてしまったんです。なので、僕らが撮影を始めた頃には、DMATのみなさんは能登に入って活動をされていたんですね。それを見て改めてすごいなと感じました」
――能登でも(結城のモデルとなった)阿南先生は、活動されていたんですか?
小栗「作品と同じように洋介君の演じる仙道のモデルになっている近藤先生がすぐに能登の現場入りして、阿南先生が本部で指示を出すというようなことをされていたとお伺いしました」
――窪塚さんが演じた仙道は、かなりファンキーというか、型破りなキャラクターと言う印象を受けました。モデルとなった近藤先生もそういう方なのでしょうか?
小栗「洋介君が演じている100倍くらい変わった人です(笑)。ただ、命を扱っている人たちなので、とにかく頭がよくて的確。それでいて達観している部分もあったりとか。DMATの方々にお会いしたときは、「みなさん怖い目をしているな」という印象を受けました。やはり命の最前線で戦っている方々なので、そういう環境に身を置いている人にしか出せない雰囲気は感じましたね。
でも、災害の最前線で戦っている中でも、現場を離れた時間にはお酒を飲んでリラックスする時間もあったりして。なので、先生方に先日お会いしたときも“能登に行くことがあったら、おいしいお店をいっぱい知っているので言ってくださいね”ってお声がけいただいたり。そういうギャップも人間としてすごく面白いし、魅力的だなと感じました」
――そのような人間味があふれるお話を聞いて、(厳しい環境の中でもそういう時間を持てることに対して)ちょっとホッとしました。
小栗「今回の作品で“私は人道的に正しいと思ったことをやっている。人道的に考えたらこうなったんだ”というセリフがあるんです。それを(仙道のモデルの)近藤先生は“あの言葉は阿南先生が言ったんじゃなくて、僕が言ったんだ”と。映画では小栗さんのセリフになっていたということをずっとおっしゃっていて(笑)」
――(笑)。史実に基づいてと言っても、いろいろ調整はあるでしょうからね……。
小栗「“あれを言ったのは僕のはずなんです”ってずっとおっしゃっていましたね(笑)」
――結城とともに国との調整を行う厚生労働省の役人・立松は、松坂桃李さんが演じてらっしゃいました。役人というと、杓子定規でお堅いイメージがありますが、船の状況に応じて、結城とともに人命救助に尽力をされていました。助けるために、役人らしからぬずる賢さや腹黒さなども発揮されていましたが、そういった役人さんが実際にいらっしゃったということなのでしょうか?
小栗「そうですね。松坂君の役に関しては、二人ぐらいの方がモデルになっているのですが、お一人は本当にアグレッシブで。“怒られるのは俺じゃないでしょ”くらいなテンションで臨機応変さを持っている方だったそうです」
――いろいろな立場の方々が、人命救助という目的に向かって、厳しい状況を打破していったということなんですね。
小栗「プロデューサーの増本(淳)さんが、みなさんにさまざまな取材をして、この作品にたどり着いているんですけど、それでもやはり描かれた物語は実際よりも少しオブラートに包まれている部分もあって。本当はもっと過激なことも起きているんですね。この船って、日本に到着した時点で、ここの埠頭までは日本だけど、この船(の停泊している場所)は海外なので、日本が検疫に入るというだけでも、さまざまな許可が必要になるんです。
DMATの人たちが臨時検疫官として船に乗り込むには、本来なら国を通して1回ずつ許可を取るために時間がかかるんだけど、そんなところに時間をかけてられないって押し通してしまったりとか。みんなで作品に入る前、顔合わせをしたときに話したことがあって。『フロントライン(最前線)』という言葉って、戦争を思い浮かべる言葉だけど、実際にこの作品の舞台となったあのときのあの埠頭は、間違いなく戦争状態だったというか。いろんな手続きを踏んでいたら人が死んでしまうから、そんなことをしていられないという判断で全てが進んでいったことは、やはりすごい出来事だったなと思いましたね」
――そんな大きな出来事が、こんな早いタイミングで映画化されるというのも異例なことではないかと思います。ただ、コロナ禍を超えて、あまり時間は経っていないですが、すでに遠い昔の記憶となり、平穏な日常を過ごしている人が多いのも実情ではあります。
小栗「やっぱり今思い返してもあの時期ってちょっとおかしかったですよね。みんなマスクをして、人に近づいちゃいけないって異常な事態になっていたのに、5年経ったらすっかり忘れて日常を取り戻していて。あの頃は、いつ日常が戻ってくるのかっていう不安の中で過ごしていたのに」

映画『フロントライン』より/© 2025「フロントライン」製作委員会
こんなヒーローたちがいたことを知ってほしい
――それを改めて思い返すという意味でも、今、この作品を通して振り返ることがとても意義のあることなんじゃないかと思います。smart読者は20代の男子がメイン。彼らの中にはコロナ禍でやりたいこともできない青春時代を過ごした方もいるのですが、この作品からどんなことを感じてほしいと思いますか?
小栗「当時10代、20代だった彼らは卒業式ができなかったとか、修学旅行に行けなかったとか、空白の時間ができてしまったと思うんですよね。その時期に体験すべきことができないままの時間があったと思います。彼らに向けてだけでなく、この作品においてという意味では、僕らが日常を取り戻せたのは、こういった人たちの頑張りがあったおかげだし、この方々がいなかったら、このスピードで僕らは日常を取り戻せていなかったかもしれない。そういったことを感じながら見ていただけたらいいなと思います。
でも、そんなことは知ったこっちゃない、僕らの(楽しめたはずの)時間を返してくれ、という気持ちもあるかもしれない。そこにはかける言葉が見つからないのですが……」
――この作品に出会ったことで、私たちと同じようにDMATという存在を初めて知る人も多いと思うんですよね。だから、「僕もこういう“ヒーロー”になりたい」と思ってくれる人が出てきたら嬉しいですよね。
小栗「この間、『フロントライン』のキックオフイベントがあって、そこで、日本体育大学の救急救命隊になろうとしている人たちに作品を見ていただいたんですけど、すごく意義のある時間だったなと思いましたね。そこに阿南先生や近藤先生もいらっしゃって、DMATについてや医療についてお話をしてくださったんですけど、洋介君の言う“名もなきヒーロー”になろうとしている学生がこの作品を見ることで、目指すべき道がより明確になったんじゃないかなと。
彼らは救急の仕事に携わるので、今後、DMATが出動するような場所に派遣されるかもしれない。この作品を通してある程度の覚悟がないとやっぱり成し遂げることのできない仕事なんだというのも伝わったと思います。smart読者全員が当てはまる話ではないかもしれないですけどね」
――報道されていないところで、自分たちにも危険が及ぶかもしれない状況で、心配する家族を顧みず、人命救助に命をかけた人たちがいたことは知るべきことだと思います。
小栗「日本は災害の多い国なので、彼らの存在があるということを知り、その活動に思いを馳せるだけでも、彼らの存在意義もまた変わってくるのかなと思います。正しかったのかどうかという答えが出るわけではない物語ではありますが、報道もされていない中、自分の命をかけて人命救助に携わったヒーローたちがいたと言うことを知ってほしいなと思います」
Profile/小栗 旬(おぐり・しゅん)
1982年生まれ。東京都出身。 子役として活動を始め、1998年『GTO 』で連続ドラマに初のレギュラー出演。主な出演作として、『人間失格 太宰治と3人の女たち』『罪の声』がある。22年大河ドラマ『鎌倉殿の13人 』では主演を務めた。Netflix作品『匿名の恋人たち』『ガス人間』の公開が控えている。
Profile/熊谷隆志(くまがい・たかし)
1994年スタイリストとして活動を開始。1998年フォトグラファーとしての活動もスタート。 広告・雑誌等で活動するかたわら、様々なファッションブランドのブランディングやショップ内装、植栽のディレクションなど、幅広い分野で活動。
公式Instagram@takashikumagai_official
小栗旬さん主演映画『フロントライン』が6月13日(金曜日)より全国公開!
日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」での実話を基に、未知のウイルスに最前線で立ち向かった医師や看護師たちの闘いをオリジナル脚本で描いたドラマ。
STORY
横浜港に入港した乗客乗員3711名を乗せた豪華客船。乗客のひとりは新型コロナウイルスの感染が確認されており、船内では100人以上が症状を訴えていた。国内に大規模なウイルス感染専門の機関がない中、災害派遣医療専門組織のDMATが急きょ出動する。
企画・脚本・プロデュース:増本淳
監督:関根光才
キャスト:小栗旬、松坂桃李、池松壮亮、窪塚洋介ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト FRONTLINE-MOVIE.JP
公式 X @frontline2025
© 2025「フロントライン」製作委員会
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