国内初のゲーミングPCに特化したブランドとして、マウスコンピューターが「G TUNE」(当時はG-Tune)を投入したのが2004年1月のこと。それ以来、国内のゲーミングPC市場を牽引し、代表的なブランドの1つに成長してきた。
このほど同社では、21年目を迎えて、ブランドを「G-Tune」から「G TUNE」に刷新。ゲーム開発者やeスポーツチーム、プレイヤー、実況や解説、配信者など、ゲーミング分野のプロフェッショナルのためのPCとして進化を遂げていく姿勢を改めて強調した。これまでの取り組みを振り返るとともに、今後の「G TUNE」の未来について聞いた。
G TUNEの生い立ち
マウスコンピューターから、最初の「G-Tune」が登場したのは、2004年1月である。
その当時、同社では、「Tune」というブランドのPCを発売。BTOの強みを生かし、PCをチューニングするという意味を持たせて、ハイエンドユーザー向けに展開していた経緯があった。
そうした中、2002年に発売された「ファイナルファンタジーXI」の登場とともに、オンラインRPGを楽しむPCユーザーが増加。ハイスペックなPCを求めるゲーマーが増え、そのニーズに応える形で、新たなゲーミングPCブランドを立ち上げることにしたという。
マウスコンピューター取締役営業部門管掌兼第二営業本部本部長の氏家朋成氏は、「TuneブランドのPCに、ビデオカードを搭載し、ゲーミング用途で利用するユーザーが徐々に増加していることを感じていた時期でした。そうしたユーザーのための製品を用意したいと考えて製品化したのが、G-Tune。従来からのTuneブランドに、ゲーミングを意味するGを加えて、新たなブランドとして展開。ゲーミング用途のためにチューニングしたPCとして、最適な製品を用意しました」と振り返る。
1993年にPC事業を立ち上げ、1998年にマウスコンピュータージャパン株式会社が発足して以来、300ドルPCの投入に代表されるように、普及価格帯の製品が中心だったマウスコンピューターのPC事業が、TuneによってハイエンドPC領域にも拡大。その動きを「G-Tune」によってさらに加速させることに成功した。マウスコンピューターのイメージを大きく変えたエポックメイキングなブランドになったといえる。
当時は、「G-Tune」ブランドの中に、「MASTERPIECE」と「NEXTGEAR」の2つのサブブランドを用意していた。
「MASTERPIECE」はフラグシップとなるハイエンド向け製品であるのに対して、「NEXTGEAR」は、Tuneで展開していたサブブランドを、そのまま「G-Tune」に移行し、初中級向けのメインストリームゲーミングPCと位置付けた。
「ビデオカードを搭載すると、どうしても筐体が大きくなり、デザインも変わることになります。そこで、筐体が異なるハイエンド向けにサブブランドを用意した方がいいと考え、MASTERPIECEという新たなサブブランドで展開することにしました。また、NEXTGEARは、Tuneの時代から、ゲーミングユーザーの購入が多いPCだったため、G-Tuneの中で、製品ブランドをそのまま継承することにしました」と、当時のエピソードを明かす。
なお、NEXTGEARは、一時的に製品を終了していたが、2023年7月に、同社公式ECサイトで販売するゲーミングPCブランドとして復活し、現在も人気ブランドの1つとして、販売されている。
キーワードは国内設計、生産、サポートの「安心」
G TUNEの最大の特徴は、日本で設計し、日本で生産し、日本でサポートするという体制を敷いている点だ。日本で生まれたゲーミングPCといえる。
氏家氏は、「ゲーミングPCに求められているのは、高性能であったり、優れた筐体デザインであったりという点ですが、これらの要素で差別化するのはもちろん、『安心』を届けることができる点でも差別化しています。G TUNEの最大の特徴は、『安心』と言い切っても過言ではありません」と断言する。
マウスコンピューターでは、新たな技術を、いち早く、積極的に組み込む姿勢を持ちながら、国内ならではのこだわりの設計を行なえる体制を確立。日本のゲーミングPCのユーザーや、eスポーツに関わるプロフェッショナルの声を聞きながら、改善を加えてきた点を強調する。
「常に最新のゲーミング体験をしてもらうため、時代に合わせたCPUやGPUを搭載したゲーミングPCを開発してきました。CPUの進化に伴って、冷却性能をより高める必要があったり、ビデオカードが大型化したり、I/Oポートの変更に伴って、設計を大きく見直す必要が発生しても、開発部門では、柔軟に筐体デザインを変更していくことにも取り組んできました」とする。
G TUNEのユーザーにアンケートを取ると、同じ価格帯の製品であっても、グラフィックス性能の高さ、メモリ容量の大きさ、CPU性能の高さという点での評価が高く、そこにG TUNEを選択している理由がある。
そして、G TUNEの最大の特徴とする「安心」を実現する上で、見逃せない要素が24時間365日の電話無償サポートの実施だ。2005年10月から開始したもので、ゲーミングPCでは初めてのサービスだった。
「ゲーミングPCを初めて購入するユーザーにとって、いつでも問い合わせができるという体制は安心感の提供にもつながります。それがあるからこそ、知人にも安心してG TUNEを勧めてもらうことができます」と胸を張る。
マウスコンピューターのサポートは、同社が直接運営しているもので、同社製品を知り尽くした担当者が直接対応する。深夜にゲームをプレイしていて、PC本体になにかの不具合が発生した場合にも、G TUNEのユーザーであれば、すぐに問い合わせができる。ゲーマーにとっては、心強い存在だといえる。
さらに、現在では、ゲーミングPCに対しても、3年間の無料保証を標準で付属しており、これもG TUNEを安心して利用できる要因の1つになっている。ハードウェアの性能だけではなく、購入したあとも安心して利用できるトータルサポート体制を敷き、これらによって実現する「安心」が、G TUNEの最大の特徴というのは理解できる。
G TUNEのユニークさ
G TUNEの歴史を振り返ると、いくつかのユニークな取り組みがある。たとえば、G TUNEでは、何度もコンパクトなゲーミングPCづくりにも挑んでいる。「LITTLEGEAR」や「NEXTGEAR-C」で展開している製品がそれで、ATXの筐体にこだわらず、ノートPCのパーツなどを採用しながら、VRをはじめとした新たなゲーミングPCの可能性を追求。この姿勢は現在も継承している。
また、「G TUNEは、あまりギラギラしていない」(マウスコンピューターの氏家氏)というのもユニークな視点だ。LEDによる装飾などは、ゲーミングPCのトレンドの1つだが、G TUNEでは、この流れには追随していない。「G TUNEは、プロフェッショナルが利用したり、学校や企業に導入されたりした場合を想定したデザインにしています」と、その理由を明かす。
ゲーミングPC専門の直営店「G-Tune : Garage」の展開も見逃せない。
2013年に東京・秋葉原に第1号店をオープン。その後、大阪・難波に第2号店を開店。「マウスコンピューターの直営店とは別の専門店舗として展開し、ゲーミングPCを直接見てもらえる場としています。自分が欲しいゲーミングPCの仕様などについて、専門スタッフに相談することができ、これも安心してG TUNEを購入してもらえる取り組みの1つ」と位置付ける(秋葉原店はビル建て替えのため2022年に閉店)。
ゲーミングPCは、これまでにも口コミで製品の良さが伝わり、それが販売台数の増加に結びついてきた経緯がある。プロフェッショナル同士やゲーマー同士が、G TUNEの良さを伝えあうことで、それがG TUNEの信頼を高めることとなり、シェア拡大につながってきた。この好循環が長年に渡って繰り返されたことで、現在のG TUNEのポジションがあるといえよう。
パートナーとの協業戦略
G TUNEでは、さまざまなパートナーとの協業にも積極的に取り組んでいる。マウスコンピューター第二営業本部販売促進室主任の桑園勉氏は、「G TUNEは、2つの観点から協業を進めています」と前置きし、「1つは、ゲームを安心、快適にプレイしてもらうためのハードウェアに関する協業。もう1つは、ゲームを文化として捉え、それを高めるための活動における協業」と、協業の基本方針を定義する。
1つ目の安心、安全にゲームをプレイしてもらうための協業では、ゲームパブリッシャーとの連携による「動作確認済みPC」の提供がある。
桑園氏は、「ゲーミングPCを長年利用していたり、PCを自作したりするユーザーは、ゲーム利用のためのPCを購入する際にどんな点に気をつければいいかを熟知しています。しかし、初めてゲーミングPCを購入する際には、どんな仕様にすればいいのかが分からないケースが多いです。そこで、やりたいゲームがある場合には、それに最適なスペックのPCを選択してもらえるようにしています。
ゲームパブリッシャーとの連携によって、「『動作確認済みPC』を用意することで、ユーザーが持つ不安を潰すことができます。これからもゲームパブリッシャーとの連携によって、人気ゲームをプレイする際に、安心して買ってもらえるゲーミングPCを投入していきます」と語る。
最新モデルでは、2025年2月に発売となった「モンスターハンターワイルズ」の動作確認済みPCをラインナップ。安心、快適なプレイができるようにしている。「モンスターハンターワイルズ」の発売に前後して、量販店などにも、快適に動作する仕様に関して問い合わせがあったといい、量販店スタッフの間でも、G TUNEの動作確認済みPCは、安心して販売ができるゲーミングPCとして定着している。
もう1つの協業の狙いと位置付けているゲーム文化の醸成については、いくつかの観点から取り組んでいる。
たとえば、G TUNEは、2024年8月に開催された「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」に協賛し、大会の運営およびライブ配信にG TUNEが利用された。また、2024年9月に開催された東京ゲームショウ2024では、ゲームパブリッシャーや周辺機器メーカーのブースで使用するPCとしてG TUNEを提供するといった取り組みがあった。
さらに、プロeスポーツチームへのスポンサードも強化。VARRELや、DetonatioN FocusMeとスポンサー契約を締結して、プレイヤーなどに、最適なゲーミング環境を提供することで、ゲーム文化の発展に貢献しているという。
また、新たな取り組みとしては、静岡県伊東市にオープンしたゲーミング別荘「VILLA ORB(ヴィラ オーブ)」への機材提供も行なっている。
「ゲームコミュニティでBBQをしたり、泊まりに行ったりすると、参加者全員がゲームから切り離される生活となり、楽しさが半減してしまう。旅行をしながらずっとゲームをしていたいというわけではないが、宿泊しても、ゲームをプレイする環境が整うゲーミング別荘であれば、少しの時間だけプレイするのにも、ノートPCを持ち込まず、好きな時にゲームができる。ゲーミング別荘は、非常に好評であり、ゲーマーの行動範囲を広げる新たな提案になる」とした。
ブランド刷新の狙い
2025年1月、マウスコンピューターは、21年間使用してきた「G-Tune」のブランドを、「G TUNE」に刷新した。その狙いについて、氏家氏は、「G TUNEらしさを核に、誰もがプロフェッショナルになれる時代に合わせて、進化し続けるブランドの姿を表現しました」という。
従来のロゴの使用は、PC本体や店頭POPなどに使われる程度だったが、eスポーツチームへのスポンサードやゲーム大会への協賛などが増えたことで、ユニフォームや大会会場のポスターなどにも使われるようになり、ロゴを掲出する場面が増加。より視認性を高めるために、大文字を採用し、太い文字フォントに変更した。
「従来のロゴは、当時のトレンドを捉えながら、シャープで切れ味のあるフォルムと、洗練されたデザインを採用していました。このエレメントを引き継ぎ、高性能モデルにふさわしい力強さと品格を融合したロゴとしました。右上に向かって斜めにカットされたエレメントは、さらなる成長と上昇を象徴しています」という。
G-Tune時代から使用してきた赤のイメージカラーを踏襲。横組みでの表記だけでなく、縦組みで表記する際のパターンも新たに用意した。新製品から新たなロゴに変更しており、2025年内にはG TUNEブランドのすべてのPCが新たなロゴに変わることになる。
また、タグラインのメッセージも、従来の「すべてはゲーマーのために」から、「ゲーミングシーンを共に、前に。」へと刷新した。「ゲーマーという範囲に留めるだけでなく、ゲーミングシーン全体を取り巻くあらゆる人たちに関わっていくブランドになることを示しました。プレイヤーだけでなく、開発者や配信者にとっても、最適なブランドであり、それによって、ゲームシーン全体を盛り上げていくブランドになることを目指します」と位置付けた。
また、「前に。」という言葉には、日本のゲーミングPC市場を牽引してきた自負と責任が込められているとも言え、同時に、ゲーミングシーンに関わる人たちとともに、市場全体を成長させていくという意味も含まれている。マウスコンピューターには、「前のめり」の姿勢で、新たなことに挑戦していく文化がある。こうした思いも、この言葉の中には含まれていると言えそうだ。
そして、このタグラインには、G TUNEブランドが掲げている3つのミッションである「最新のゲーミング体験を実現するスペック」、「プロフェッショナルに応えるハードウェア」、「ゲームを愛するすべての人を応援する」に基づいて制定したものだという。
加えておきたいのは、G TUNEのリブランドとともに、新たなG TUNEを象徴するフラグシップとなる新型タワーケースによる新製品を、同時に発表した点だ。
アルミ素材を使用した直線的なスリットデザインと、G TUNEのブランドカラーであるレッドのLEDライティングを採用した新型タワーケースは、最大で7個の空冷ファンと2基の大型360mm 水冷ラジエータを搭載可能で、引出しタイプのヘッドフォンホルダーや、アクセスしやすい本体上面に配置したインターフェイスなど、使いやすさを向上させる独自機構を採用しているのが特徴だ。
新製品の同時公開で、G TUNEの方向性を具体的な形で示すことができたと言える。
新たな一歩を踏み出したG TUNE。今後の事業方針
では、新たな一歩を踏み出した2025年度のG TUNEは、果たしてどんな事業方針を打ち出すのか。
氏家氏は、「まずは、新たなG TUNEブランドのPCをしっかりとラインアップすることに力を注ぎます。2024年度にはデスクトップPCの構成比が上昇しており、2025年度もミドルレンジへの展開を含めてデスクトップ領域に注力し、徐々にノートPCにも力を注いでいくことになります。また、G TUNEブランドの周辺機器についても展開を検討しています」と語る。
ここでは、スポンサードしているプロeスポーツチームと連動したモノづくりも進める考えを示す。
「eスポーツチームの要望を反映したモノづくりに加えて、選手と同じPCや周辺機器を使いたい、チームを応援したいという人たちを意識したモノづくりも進めていきます」(桑園氏)という。
さらに、新たなブランドおよびロゴの認知度を高める活動にも取り組むことになる。
「新たなブランドを象徴する製品や、ブランドの狙いを表現する製品を増やしていきます。加えて、これらの製品をリアルのイベントを通じて体験する場を増やし、直営店や量販店でも、新たなG TUNEを訴求していく活動を進めます」(氏家氏)と語る。
国内PC市場において、ゲーミングPCの存在は重要だ。ゲーミングPCは、プロフェッショナルやクリエイターのほか、ハイスペックのPCを求める法人にも最適なPCであるとともに、若年層を開拓するという点でも重要な役割を担う。
現在、G TUNEでは、20~30代の購入者が約半分を占め、約2割が女性。リブランド後には、女性比率が高まっているという。また、ECサイト専用のゲーミングPCであるNEXTGEARは、購入者の約半分を10~20代が占め、女性比率が約3割を占めている。
「G TUNEは、若年層にPCを使ってもらうきっかけになり、若年層開拓の切り札とも言えます。PCユーザーの裾野を広げる役割も果たすでしょう。そこに向けて、インパクトのある製品を出します。ゲーミングPCの楽しさを知ってもらうための製品であり、PCならではの高性能を体験してもらいたいです」(氏家氏)とする。
新たなG TUNEで目指しているのは、単に高性能を追求するだけでなく、安心して選べる、安心して使えるゲーミングブランドであり、同時にゲーミングシーン全体を盛り上げていくことも重要な役割に位置付けている。リブランドによって、その役割を果たす準備が着実に進んでいる。
🧠 編集部の感想:
マウスコンピューターの「G TUNE」ブランドの刷新は、進化と安心感を両立させた新しい方向性を示しています。特に、日本設計・生産・サポートの強調が、ユーザーに信頼を与える一因となっています。今後の展望として、eスポーツやゲーム文化への貢献が期待されるため、注目が集まるでしょう。
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