日曜日, 5月 4, 2025
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『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』発売までに安部公房を読んでみよう―小島監督に影響を与えた作家をやさしく解説 | Game*Spark


2025年6月26日に小島秀夫監督の最新作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』が発売されます。比類ないゲーム体験をもたらせてくれた『DEATH STRANDING』の続編とあって期待している方も多いでしょう。

『DEATH STRANDING』は冒頭で、とある小説の一節が引用されています。それは小説家、安部公房が書いた短編「なわ」です。“「なわ」は、「棒」とならんで、もっとも古い人間の「道具」の一つだった。”……安部公房と小島監督の“つながり”は確実にあり(『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』で安部公房の影響が強いかはわかりませんが!)、公房作品を読むことは『DEATH STRANDING』を理解する一助になるでしょう。

そこで、(木っ端ではありますが)大学院博士課程まで安部公房の研究をしていた筆者が、安部公房とはどういう作家かということを解説していこうというのが本記事の目的です。「研究していた」を言い換えれば「つまんないかもしれないが、間違いだと突っ込まれづらい見解」を持っていたことになります。

つまり「安部公房はこう!」と言って「ちゃうやろ!」と言われないことに特化した感じですね。自信を持って言える分、独自性にかけ「なんだかなぁ」と思うことも自分自身あります。

しかし安部公房が好きで研究していたので、きっと読んだことのないゲーマーにもオススメはできるはず! 『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』発売まであとわずかではありますが、それまでに「安部公房とはどんな作家だったのか」知るのもいいでしょう。

安部公房は戦後作家だけど、令和の人間に刺さるはず!

安部公房は、ざっくり言うなら戦後作家初めの世代と言えます。このくくりは「戦後にデビューした作家」のくくりであって、「戦前から戦後にかけて活動した作家」ではありません。実際に安部公房は戦後に満州に住んでいた日本人を本土に返す引揚船の中で処女作「天使」を書いたと言われています。

同年代の関わりがあった作家・芸術家は、有名なところでは三島由紀夫、岡本太郎などがあげられます。よく対比されるのは三島由紀夫で、同年代かつ「ノーベル賞候補だった」というフレームで比較されることが多いです。

さて、三島由紀夫が戦後に現れた「伝統的な日本(美)を描く」作家であるなら安部公房は「戦後、何もないところから新しく生まれた都市社会を描く」作家だったと言えます。対照的なふたりですが、私生活での交友関係は良好でした。この「戦後の日本が復興してビルだらけになる中で描かれた」という感覚が重要なのです。

もう少しかみ砕くなら「高度経済成長期でハッピー!」とかではなく「都会に出てきたけど俺って……」といった悩みを持つ人に向いているともいえます。安部公房が描いた作品の主なテーマは「アイデンティティ」や「都市における人と人との関係性」であり、『DEATH STRANDING』が取り上げた短編「なわ」でも、棒と縄をとりだして、人間社会の複雑さを描いていました。

今回は筆者の「『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』待ってる間にさぁ! 安部公房読もうよ!」という布教記事なので読む手が止まる面倒くさいことは……出来る限り……割愛しますが、安部公房作品の重要な要素は大きく2つあります。一つ目は「日々働いているけど、本当の俺って誰だよ」というアイデンティティの問題です。

たとえば代表的なものでは「他人の顔」という作品があげられます。「ケロイドで焼け爛れた顔を人口の皮膚で覆って「別人の顔」を装着したならどうなるか」という物語です。とはいっても変身願望にとどまらず、顔は社会と自分の間にあるもうひとつの存在だ、と言います。わかりづらいのでまとめます。

「自分―他人」

本来はこの関係性で捉えるところを、安部公房はこう読み解いたのです。

「自分―自分の顔―他の人の顔―他の人」

人は横にいる人に喋りかけているのではなく、自分の顔を通じて顔に喋りかけているのだ、ということですね。

この構図、今のSNS社会ではすごく理解しやすくなりました! 「自分―自分のSNSアカウント―他人のSNSアカウント―他人」と置き換えれば、理解しやすいはずです。自分以外に、自分の顔というアイデンティティがある。「自分―自分の顔―他の人の顔―他の人」、これを「自分―他人の顔―他の人の顔―他の人」とする、じんわりとした怖さの物語が展開されます。

SNS社会どころか、ネットのなかった時代にこの本質を語ったのだから凄いものです。2000年から四半世紀も過ぎますが、安部公房と関わりのあった作家・芸術家も少なくなく、今もって彼らの口から少しずつその記憶が語られるのですが……。小島監督と安部公房がもし邂逅していたなら相互にどういう影響を与えあったのだろうかと、両者のファンからするとそうした世界線も見てみたかったものです。

安部公房がよく描く要素の二つ目は「欠損」です。アイデンティティが欠損していたり、物理的な欠損であったり、あるいはどこかが欠けている人間というのも出てきて、独特の分析でその顛末を描きます。顔がひっくり返って、「デンドロカカリヤ」という木になったりね!

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話は逸れましたが、この「欠損」というものが接触恐怖症である『DEATH STRANDING』のサムと被りますし、SNS社会を生きる現代人にも刺さるでしょう。

普遍的な心理を突く作家は、時にこのように「え?この人何十年も前にこんなこと書いてるの?」と思わせることがあります。安部公房は間違いなくそのひとりでしょう。コロナ禍以前に『DEATH STRANDING』を作り始めた小島監督もそうであると、ぼんやり感じますね。ちなみに、安部公房はシンセサイザーを日本でいち早く入手した人間だったり、ピンクフロイドを好んでいたりとかなり柔軟な思考の持ち主だったようです。

筆者がオススメする安部公房作品

それではどれを読めばいいかという話ですが、最近公開された映画「箱男」を観て入るもよし、軽いところから入っていけば……と思いますが罠がひとつ。……短編は勧めません!

安部公房作品には短編も多いのですが、ストーリーが短い分抽象的で難解なものが多いのです。短編で「これは自分に合っている!」と思う人もいるでしょうが「ちょっとよくわかんねぇな?」と投げる危険性大です。

というわけで、長編小説がオススメ。特に「砂の女」「箱男」あたりがわかりやすいですね。彼の中期作品は私生活も含め、少し変化が起きているのが印象的です。

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短編はダメと言いましたが、わからない&複数読む前提で「がっつり興味出てきた」という方には、初期の短編集がオススメです。筆者が個人的に一番好きな「壁」や、「なわ」が収録されている無関係な死・時の崖もいいでしょう。これらの作品は安部公房の尖った部分が現れていて、もうたまりません!随筆ですが「笑う月」も安部公房を知れて楽しいですよ。

安部公房作品はシュールレアリスムに近い作風なので、抽象的な表現が多くわかりづらいものも多々あります。読み解きのポイントとしては「唐突に出てきた物質にも、意味がある」ということがあります……それでもわからないものはありますが……晩年、病魔の陰がある中で書いた「カンガルーノート」とかは最たるものです。

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作者自身もわからない無意識と意識的な表現が交錯する作風なので、わからないものはわからないと割り切りましょう。

Game*Sparkらしからぬ話が続いたので、少し『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』に引き寄せると、安部公房好きとして描きおろし楽曲「To The Wilder」に注目しています。というのも、安部公房作品の中で“荒野”というのは初期から頻出している単語で、大いに意味を持つものなのです。公房作品ではどうしようもない孤独感や、アイデンティティの欠落からくる「世界の果てに逃げたい願望」などを描くときに出がちですが……断言は難しく、その読解は読み手にゆだねられるでしょう。 もちろん安部公房以外でも「荒野」はシンボリックで示唆的なモチーフですが、この荒野という要素を小島監督ならどのように描くのか……気になるところです。

安部公房は、読者の思考を刺激してくれるタイプの作家です。そんな彼を「最も影響を受けた作家」と評する小島監督は、独立後の処女作である『DEATH STRANDING』の冒頭に短編「なわ」の一節を刻みました。単に安部公房の影響を受けた作品……ということではなく、安部公房が与えた刺激は“なわ”となり、小島監督へとつながっているのでしょう。そして我々はミーム媒介となり、遺伝子に刻んで受け継いでいくのです。

ゲーム三昧は連休の醍醐味ですが、小島監督が送るラジオ「コジ10」をBGMに安部公房作品も読んでみる……という休日の過ごし方もいいかもしれません。

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