配達という営みに、宇宙論や人類学すらも内包する壮大なメタファーを読み込ませた『DEATH STRANDING』は、一般的なビデオゲームの枠組みを超えた存在であった。そこには「なわ」と「棒」という二項対立を通じて、人類が繋がることを問う思想的挑戦があり、それを支える基盤として「移動」という行為そのものを根底から問い直すゲームメカニクスが組み込まれていた。筆者は当時、この作品を「思想の濁流に圧倒される傑作」と評したが、今あらためて思えば、それは始まりにすぎなかったのかもしれない。
続編『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』は、いわばこの問題意識を引き継ぎ、さらなる次元へと開こうとする試みである。舞台はアメリカから違う地域へとまたがり、象徴としての「繋がり」は、より流動的で不確かなものへと変容していく。「なぜ再び繋がるのか」、「繋がるべきではなかったのか」、「伝説の配達人」サム・ポーター・ブリッジズの旅路は、我々に再びどのような問いを投げかけるのだろうか。
筆者はすでに、本作の冒頭からいくつかの印象的なカットシーンを経て、約30時間にわたるプレイセッションを体験している。今回プレイした『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』は、現時点では完成版ではないことが明言されているものの、プレイ可能な範囲においては、すでに製品版に迫る密度と完成度を感じさせた。特に移動、対話、演出といった基盤要素が高度に統合されており、前作で提示された体験をさらに拡張しようとする意志が、随所に見受けられた。
『DEATH STRANDING』から「ON THE BEACH」へ
前作『DEATH STRANDING』は、都市間の断絶をもたらした未知の現象「デス・ストランディング」を背景に、サムが人と人との〈繋がり〉を再構築しながら、その謎の現象の真相に迫っていく物語であった。プレイヤーは、物資を届けるサムの過酷な旅路を通じて、従来のゲームにおける「移動」という行為そのものを根底から問い直す体験を味わうと同時に、世界の背後に潜む死生観や宇宙論的ビジョンを少しずつ解き明かしていくことになる。
本作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の舞台は、再建された「UCA」(アメリカ都市連合)から離れ、メキシコ国境地帯へと移る。かつて配送業務を担っていた組織「ブリッジズはすでに配送から撤退し、代わって「APAS」と呼ばれる無人機による自動配送システムが稼働している。
サムは、前作と旅路を共にしたルーとともにメキシコの片隅で静かな日々を暮らしていたが、前作で登場した主要キャラクターであるフラジャイルからの依頼により、通信インフラが未整備のこの地域で再び配送任務に就くこととなる。こうしてデータのやり取りが可能になるカイラル通信を繋ぎ直すための新たな旅が始まる。

それと同時に、本作の独自性を強く印象づけるのが、メキシコの荒涼とした大地を精緻に描き出したフォトリアルなグラフィックである。乾ききった地表の質感、かすかに波立つ砂塵、そして遠景に浮かぶ岩山の存在感は、プレイヤーを否応なくこの新たな世界へと引き込んでいく。キャラクター表現においても、前作をさらに上回る精度でフォトリアルなモデリングと微細な表情の変化が実現されており、単なる写実を越えた存在感を生み出している。こうしたアートスタイルは、シュールレアリスティックな世界観と物語を支える強力な美学的基盤となっている。
このメキシコ編は、ゲームプレイの操作面に加えて、物語や設定の面でもチュートリアル的な性格を強く帯びている。前作では序盤から膨大な固有名詞と設定に圧倒される側面があったが、今作では前提知識がなくても入りやすい構成が意識されている。またそもそもスタート画面では、「デッドマン」の語りによるノベルスタイルのおさらいモード「Story of DEATH STRANDING 1」が用意されている。

前作では膨大な情報量によって、序盤から圧倒される強烈な印象を残した一方で、物語の理解においてそうしたハードな作風に慣れていないユーザーを混乱させる側面が否めなかった。これに対して本作では「コーパス」という用語解説の機能が導入されており、前作を未履修のプレイヤーや、設定の咀嚼に苦労したユーザーにも丁寧に配慮された作りとなっている
増水や時間経過、モノレールも加わった配達システム

筆者の考えでは、小島秀夫作品には「メタルギア」シリーズにおける「潜入・危険・回避」や「立つ・しゃがみ・匍匐」といったように、プレイスタイルを3段階に分節する「3モードの美学」とも呼べるゲームデザインの哲学が一貫して存在している。
前作『DEATH STRANDING』でも、オドラデクによる地形センサーが「青・黄・赤」の3色で地形の危険度を可視化する仕組みとして、この思想が巧みに取り入れられていた。本作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』でも、移動システムは基本的にその流れを踏襲している。
プレイヤーは、荷物の重量やバランスを管理しながら、不安定な自然地形を踏破していくことを求められる。たとえば、斜面では足場を確保し、急流では流されないよう重心を制御する必要がある。この過程で、転倒による荷物の損傷というリスクが常に付きまとい、移動そのものに絶え間ない緊張感をもたらしている。
ロープや梯子といった建造物を駆使して地形を克服する行為も求められる。さらに重要なのは、これらのインフラ整備がプレイヤー個人の問題にとどまらず、オンライン上で他プレイヤーが設置した構造物が「ソーシャル・ストランド・システム」として世界に共有される点である。孤独だった移動は徐々に他者との緩やかな連帯へと変容し、誰かが残した梯子や橋が、次の誰かの旅路を支えることになる。
『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACHでは、より移動を円滑にするための「国道復旧」に加えて、「モノレール復旧」も導入されている。こうした復旧には進行に伴ってより多くの素材が要求されるため、プレイヤーは素材調達のための「採掘場」を活用することになる。こうした素材集めによって、前作以上に交易路の形成がゲームプレイの中心となっている。

一方で、配達環境は大きな困難を伴うものとなった。時雨による増水で川幅が倍増したり、「ゲート・クエイク」と呼ばれる地震、砂漠地帯での砂嵐、さらには前作にはなかった朝昼夜の時間経過による変化が、サムの旅路を苛烈なものにしている。増水や地震による足場が崩れ、砂嵐や夜による視界の悪化など、自然はさまざまな形でプレイヤーの行動に干渉してくる。
こうした過酷な状況を乗り越える手段として、サム自身の成長要素も拡充されている。経験値によるレベルアップともいえる「配達人グレード」は、サムの「熟練度」としてより可視化されたほか、「APASエンハンスメント」というスキルポイントを使って能力を強化できるシステムが加わっている。これらは武器の威力向上、天候解析、足跡の消去など、配達・移動・戦闘のいずれかに特化した成長が可能になっている。こうした要素は、配達する荷物の準備だけでなく、能力の準備というカスタマイズ性が加わっている。

つまりこの成長システムにおいても、再び「3モードの美学」の輪郭が浮かび上がる。プレイヤーは「配達・移動・戦闘」という3つのプレイスタイルを軸に成長の方向性を選択が可能であり、なかでも「戦闘」に関しては、さらに「直接的な戦闘・ステルス・逃亡」という前作以上に重層的なアプローチになっているわけだ。
新たに立ちふさがる敵、深化した戦闘システム
『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』では、明確に戦闘要素の比重が増している。本作がよりシステム面での違いが明白な点は、戦闘の柔軟性に他ならないだろう。

前作『DEATH STRANDING』では、戦闘はあくまで限定的な手段であり、物資の確保や拠点の通過に際して発生する例外的な行為に過ぎなかった。『DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT』では、ミュール守備している拠点への潜入ミッションが追加されていたが、本作はその延長線上に、よりバリエーション豊かなステージ、体系化された戦闘システムをオープンワールドにおいて築き上げている印象だ。
新たな人間の敵としては、「バンデット」や「武装サバイバー」など複数の勢力が登場し、彼らの拠点は単なる立体的な構造を持ったステージとして設計されている。プレイヤーはこうした多層的な空間での戦闘を強いられることになる。デス・ストランディングという現象によって現れたクリーチャー「BT」の種類も増加しており、特に大型のBTは、攻撃が強力になっているため、歯応えのある戦闘が強いられることになった。

戦術面においては、しゃべる人形「ドールマン」を投擲することで、頭上から拠点内部を観察することが可能になり、事前に敵配置や動線を把握した上で戦闘に臨むことができる。近接戦闘は引き続き重要だが、これに加えて遠隔からステルス攻撃を行う「ブラッドブーメラン」や、スナイパーライフルによる精密射撃、さらにはアサルトライフルやグレネードランチャーでの積極的な攻撃も選択肢として用意されている。
特筆すべきはバックパックを下ろすことが可能になっており、荷物を完全に切り離すことによって、より軽快で俊敏な動きが可能となっている。重量管理がそのまま機動性に直結するこのシステムは、戦術の柔軟性を大きく高める要素となっている。
直接的な戦闘に臨むか、ステルスによる隠密行動を選ぶのか、あるいはそもそも戦闘を回避するのか。いずれにしろ、選びなおしが可能な強化システム「APASエンハンスメント」を用いつつ、「配達・移動・戦闘」という3つのプレイスタイルのバランスを取りながら、攻略していく自由度が増している。

難易度設定は、ストーリー重視の「ストーリー」、気軽なプレイ向けの「カジュアル」、筆者もプレイした標準的な挑戦を提供する「ノーマル」、そして高難度を志向する「ブルータル」の4段階に設定されており、本作の拡張された戦闘に対しても柔軟に対応できるよう配慮されている。
ルカ・マリネッリの存在感に惹きつけられた
トレーラーでも一部が明かされていたとおり、物語は波乱の展開を経て、サムはフラジャイルが立ち上げた「跳ね橋部隊」に協力することになる。
舞台はメキシコからオーストラリアへと移り、世界一周を果たした探検家マゼランの名を冠する移動基地「DHVマゼラン」(Deep-Tar Hunting Vessel=深部タール狩猟船)を拠点に、再びカイラル通信網を広げる旅が始まる。
「DHVマゼラン」という名前が示唆するように、物語は植民地支配を思わせるテーマに踏み込んでいく。さらに、APAC(Automated Public Assistance Company、自動公的支援会社)という民間政治組織の台頭も示されており、かつて『メタルギア・ソリッド4・ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』で描かれたPMC(民間軍事会社)のテーマを想起させる構造も垣間見える。ただし筆者は、物語を最後まで見届けていないため、これらのモチーフがどのように結実していくのか、その真意を推察するにはまだまだ情報が足りない。

前作『DEATH STRANDING』においては、人々が孤立し、外の危険な世界を配達人だけが往来している状況は、コロナ禍を予見していたかのような側面が多くの人から言及されている。そして今作におけるAPACの存在は、アメリカのDOGE(政府効率化省)の動きと呼応しているようにも感じられた。こうした現実との不気味な一致点を背景に、どのような「繋がり」が再定義されていくのか、改めて現代において注目すべき意義が宿っているように思えてならない。
特筆すべきは、ルカ・マリネッリ演じる「謎の男」の存在感である。演技力、登場シーンの演出ともに、強烈な印象を残しており、彼が何者なのか、なぜサムの前に立ちはだかるのかという謎は、想像を掻き立てる。前作における「クリフ」に相当する新たな敵役として登場することが確認できたが、その強烈な印象はマッツ・ミケルセンに勝るとも劣らないものになっている。

今回の30時間強に及ぶプレイ体験において気になった点として、すでに公開済みのトレーラーがかなり本編に踏み込んだ内容を含んでいることだ。筆者は通常、ネタバレを極力避け、プレイ後に読み返してもらうことで初めて伝わるような記事構成を心がけている。しかし今回は、トレーラー自体に相応の情報が開示されていたと感じたため、レギュレーションを遵守しつつ、通常よりもやや踏み込んだ記述を行うことにした。
こうした情報公開の積極性にも、作品のある種の「勝算」が込められているのかもしれない。その全貌が明かされる『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』は、2025年6月26日に発売予定だ。
『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』についてもっと詳しく知りたい人は、本作を小島秀夫監督へのインタビューや、主要スタッフインタビューもチェックしよう。
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