“芸能界の光と闇を描く衝撃作”として、彗星の如く現れた『【推しの子】』(集英社)。
原作・赤坂アカさん、作画・横槍メンゴさんがタッグを組み、「転生モノ」「復讐劇」「芸能モノ」「ラブコメディ」といった複数ジャンルを融合させた本作は、2020年代の日本に大ブームを巻き起こした。
「中居正広氏・フジテレビ問題」をはじめ、これまで闇に葬られてきただろう芸能界の事件・不祥事が次々と社会問題化する今、改めて『【推しの子】』について語り合うネタバレ全開座談会を実施。
果たして、ポップカルチャーメディア・KAI-YOUのメンバーには、本作はどのように映ったのだろうか。
※この記事は『【推しの子】』原作コミックス最終16巻までのネタバレや感想が含まれます。
『【推しの子】』ネタバレ全開座談会登場人物
KAI-YOU広報担当。年齢非公開。「MANKAI STAGE 『A3!』」などの2.5次元舞台に通い詰める、KAI-YOUきっての「推し活」の実践者にして理解者。それゆえに『【推しの子】』の「2.5次元舞台編」については、戦々恐々しながら読んでいた。好きなキャラは有馬かな。
わいがちゃんよねや
KAI-YOU inc.のCEO。1986年生まれ。芸能界や情報社会の裏側を描くドキュメンタリーとしての側面を持つ本作を「小・中学生が読むべき漫画」と評価していたのだが、作画担当の横槍メンゴさんのとある発言に衝撃を受ける。好きなキャラは黒川あかね。
「KAI-YOU Premium」編集長/KAI-YOU inc.のCOO。1987年生まれ。赤坂アカ作品は『かぐや様は告らせたい』から読んでいて屈指の名作だと常日頃から主張してきた。だからこそ『【推しの子】』の作劇については思うところがあるようで……? 好きなキャラは星野アクア。
「KAI-YOU.net」ライター/編集。1996年生まれ。今回のネタバレ全開座談会の発起人。新見直と同じく、赤坂アカ作品は前作『かぐや様』からの読者。誹謗中傷への問題提起を描いた本作に対して、作者への人格攻撃や度を超えたヘイトとも取れる発言が飛び交ってしまったことに憤りを隠せないでいる。好きなキャラは有馬かな。
『【推しの子】』は『ヤングジャンプ』の読者層とマッチしていたのか?
都築 『【推しの子】』を、皆さんはどう読みました?
ちゃんよね 僕は正直『【推しの子】』の舞台である芸能界に昔から1mmも興味がないから、あまり感情移入できないところがまずあった。
でも、SNSとの向き合い方とか、芸能人や有名人が裏側で何を考えていて、何に葛藤しているとか、非常に時事的な社会問題ともいえる誹謗中傷の問題とかを取り上げていて、とても現代的で教養的な作品だとも思っていたんですよね。
ただ一方で、『推しの子』ってめちゃくちゃ流行った作品なのに、この作品が取り上げたテーマや問題意識が、ぜんぜん社会に浸透していないことで、漫画やアニメというコンテンツが持つ“及ばなさ”も感じてしまった。
例えば、僕が『推しの子』で一番好きなエピソードは「2.5次元舞台編」なんですけど……。
うぎこ 「2.5次元舞台編」はすごい良い話でまとまっていましたよね。メディアミックスに携わる人は全員こうであってほしいという願いというか、赤坂アカ先生の祈りが詰まってました(泣)。
都築 (祈り……?)
ちゃんよね 「2.5次元舞台編」では、メディアミックス化の舞台裏が描かれているんだけど。例えば今、漫画や小説が実写化される際、(それが失敗した場合)SNSだと「原作者が正義、ドラマや映画側の人が悪」みたいな構図で語られることが多いじゃないですか。
でも『推しの子』では、そんな単純化できない、人間同士の複雑な関係性を描いていて。劇中作『東京ブレイド』の原作者である鮫島アビ子がすごい横暴だったり、逆に作品を預かる側の舞台制作側の人たちが、すごい真剣に悩んだり取り組んだりしてる。
(書影右)『東京ブレイド』原作者・鮫島アビ子/画像はAmazonより
ちゃんよね 『推しの子』では、その原作側とメディアミックス側の力の均衡関係みたいな、傾斜みたいなものが描かれているんだけど、結局同じような問題が現実に起きても、そういう視点に立てるような風潮は感じなかった。
これだけ『推しの子』が大ヒットしたのに、世の中の“コンテンツの観方”や倫理観が良い方向に進んでなくて、ちょっと悲しかった……(泣)。
都築 そうですね、俺は『【推しの子】』は連載で追っていたんですが、終盤の読者たちの荒れ具合が凄まじくて……。コメント欄やSNS、掲示板では、作者への人格攻撃や度を超えたヘイト発言も飛び交っていて。
みんな、一体『【推しの子】』から何を学んだんだ(激怒)。
ちゃんよね ただ、返す刀にはなっちゃうんだけど、『【推しの子】』で描かれていることについて、僕は「こんなことわざわざ言われなくても別にわかるじゃん!」って、正直思っちゃった部分はある。
例えば小・中・高校生だったら『【推しの子】』から学ぶところは大いにあると思うんだけど。少なくとも、『【推しの子】』は僕みたいな大人が真剣に読み込むような作品ではないんじゃないかなというのは、素直な感想でした。
都築 え!?!??
新見 そうなんだよね。
うぎこ 私もそう思う。お仕事系漫画として『【推しの子】』を読むと、よねさんは芸能界の裏側を描いているって言ってたけど、それがあまりにも綺麗すぎる。
「恋愛リアリティーショー編」も「2.5次元舞台編」も、出演者たちが一生懸命自分の芸能人生だったり、役者人生に対して、真剣に向き合っていて。劇中ドラマ「今日は甘口で」で棒読み演技だったモデル/役者の鳴嶋メルトも、2.5次元舞台の殺陣のシーンで一矢報いようとしていて。
うぎこ 「いや、こんな綺麗なはずない」「そんなはずないじゃん」って、大人として私は思いました。現実ってもっと打算的で汚いんじゃないかな。
こうだったらいいな、こうだったらみんな幸せなのになっていう、祈りみたいなのを感じて、これはアカ先生の考える、「こうだったらいいな」なんじゃないかなって思いながら読んでました。
新見 よねさんは『【推しの子】』がSNSや芸能界の在り方に問題提起しているっていうけど、俺は、作品としては逆に現状の追認になっていた側面があると思ってました。
ちゃんよね 現状の追認?