水曜日, 7月 23, 2025
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『岸部露伴は動かない 懺悔室』感想(ネタバレあり)ヒメクリックス

🧠 あらすじと概要:

あらすじ

『岸部露伴は動かない 懺悔室』は、人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズのスピンオフ作品で、岸部露伴が主役の物語です。物語は、文化交流イベントに参加するためヴェネツィアを訪れた露伴が、偶然にも教会の懺悔室に入ってしまい、そこから呪われた人生を送る男の告白を聞くところから始まります。映画は前半と後半に分かれており、前半は原作に忠実な懺悔のシーン、後半はオリジナルの展開となっています。

記事の要約

この記事では、『岸部露伴は動かない 懺悔室』の感想が述べられています。特に、作品のオリジナル要素と原作の再構成がどう交わっているかに焦点が当たっています。著者は映画の雰囲気や美術、キャストの演技を高く評価しつつ、ストーリーの展開に意外性が欠けると感じています。高橋一生が演じる露伴や、井浦新の演技が特に印象的で、全体的には見る価値がある作品であるとしています。さらに、原作への愛情が強いため、一部のオリジナル要素には懸念を示しつつも、視覚的な美しさや演技、工夫されたシーンは楽しむことができたと締めくくっています。

『岸部露伴は動かない 懺悔室』感想(ネタバレあり)ヒメクリックス

ヒメクリックス

ジョジョが好きな人はいたるところにいて、みんなが好きなサブカルチャーの一分野として人気を博しているのがよくわかる。ジョジョとの出会いは人それぞれにきっかけがあろうが、やはり一番多いのはアニメが入り口というものだろうか。2012年のアニメ化以降、目に見えてジョジョ好きを名乗る人もグッズの供給量も爆発的に増えた。私のジョジョ入り口は『太蔵もて王サーガ』でした。
田舎の中高生だったころ、『スティール・ボール・ラン』の新刊発売日に書店に駆け込んでも店頭には並んでおらず、地方は入荷が遅いからねと諦めたくても同日発売の『ONE PIECE』は山のように積まれてて地団太を踏んだあの悔しさを今でも忘れることはない。当時を思えば、スピンオフがドラマ化して映画も二本も作られるなんて、誰に感謝すればいい? 小林靖子か?

文化交流イベントに招聘されて、ヴェネツィアにやってきた露伴。何気なく教会の懺悔室に入ってみれば、うっかり懺悔する側じゃなく懺悔される神父の部屋に入っちゃって、やってきた仮面の男の告白を聞くことになる。男はかつて犯した過ちのせいで、呪われた人生を送っていた……みたいなあらすじ。

この映画のストーリーはざっくりふたつに分けられる。前半は原作に沿って懺悔を聞くパート。後半は原作から飛躍して、呪われた男・田宮が娘を幸せの絶頂に押し上げないようがんばる中、娘のマリアは結婚式を挙げようとしてるもんだから必死こいて邪魔しようとするオリジナルパート。ちょうど一時間ずつくらいで原作とオリジナルに分かれている、けっこう珍しい構成な気がする。漫画原作を映像化する際の再構成がうまい小林靖子だが、今回はかなり難題だったのではなかろうか。原作は、放り投げたポップコーンを口でキャッチできるかチャレンジのくだりでドキドキのスリルを味わわせたうえで、実は顔を取り替えていたので呪いを別人におっかぶせていたという予想外のオチにもっていく、荒木飛呂彦の短編作家としての才能ドバドバな作品だ。これがよくできすぎている。ゆえに、ここで味わった意外性を、後半の田宮と露伴の化かし合いが超えてこない。

最大の絶望は自分の死ではなく最愛の娘を失うこと、というのは割と誰でも思いつくことだし、撃たれて死んだふりをするのもかなりベタなのでまったくハラハラしない。「たぶんこうなるんだろうな」という予想が全部その通りになった感じ。だから今作、展開の意外性を期待してはいけない。

ではこの映画の優れた点は何かというと、めっちゃ頭悪い言い方でアレだけど「雰囲気」です。「雰囲気」。
全編これぞヴェネツィア!なゴージャスなオシャレさに満ちている。それでいてどこか不気味な静謐さ。ヴェネツィアが舞台の映画ということで、『赤い影』をめちゃくちゃ連想したよ。

美術でいえば、マリアのお店に無数の仮面が並んでるのが美しいのと不気味なのでとても好き。言うまでもなく「仮面」というアイテムはジョジョとは浅からぬ縁があるし。

また、今さらながら高橋一生の露伴は素晴らしい。三次元の岸部露伴を違和感なく表現してるのすごい。漫画のキャラクターをそのまま再現するのではなく、現実に存在する岸部露伴という人間に翻案してる感じがグーよグー。冒頭でスリに「ピンクダークの少年は漫画というより芸術だ!」と言われて「芸↑術↓と言ったよな? 漫画じゃあなく芸↑術↓だと」と返すその「芸↑術↓」のイントネーション。こういうイントネーションを高橋露伴はよくするが、なんか癖になるよね。

とはいえ、露伴が「漫画を芸術扱いされたくない」と思ってるというのは個人的にはちょい解釈違いだったかも。露伴はたぶん、気軽に読める漫画も美術館に飾ってある芸術品も等しく価値のあるものだと思っているんじゃないか。あそこでキレる理由は「そもそも漫画は芸術の一種なのに、漫画が芸術に劣るみたいな言い方をされたから」だと思う。露伴は人間の技術と歴史にもっとも敬意を持つ人なので。

演技でいえば、なんといっても田宮を演じる井浦新。
高橋一生がオリジナルの解釈を加えたリアル寄りの露伴を演じてるのに対して、井浦新はド直球に激烈な「ジョジョっぽさ」を投げつけてくる演技。漫画の中にあっても、ジョジョのキャラにはある種の「異物感」があるけど、それをうまく実写に持ってきてる。ジョジョっぽい佇まいとか言動をしながら過剰におかしいわけじゃない、この演技力が見事すぎる。ここまで意識の高いジョジョっぽさを見せつけられると、ジョジョ好きっぷりでは誰にも負けない俺もちょっとこれは負けを認めざるを得ない。「あなた…教会にいた神父様ですよねェ…神父様じゃなかったんですねェ…」のシーンとか、荒木漫画って現実に存在しうるんだ…と謎の感動があった。ちょっとブラックモアっぽいよね。

荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン』カラー版 第7巻より

それから優れている点としては、ポップコーンチャレンジも原作をよく再現していた。大東俊介の追い詰められ演技は凄まじく、彼もまたジョジョ好きなんだろうなぁと思わされたし、「放り投げたポップコーンを口でキャッチする」という演技が相当難しいであろうことは素人でも想像にかたくない。あと散らばってるポップコーンが大量すぎ、明らかに1人分の量じゃないのもなんかハッタリ効いててよかった。
ただし、悪霊に取り憑かれたマリアの姿はあんまり怖くなく、ここは明確に原作に負けている。まあ実在の子役をあんまり化け物にしちゃうのどうなんだってことなのかもしれんけど、大東俊介があんなにビビるんだからもっと迫力あるビジュアルが欲しかった。それことエクソシストみたいな。

考えてみれば、岸辺露伴シリーズの中でも原作にない要素がメインになる挑戦作なのが今回の映画。オリジナル要素は個人的にはほぼうまくいってないように感じたけども、俺があまりに原作好きすぎる厄介オタクなだけかもしれない。その割に実写映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』は好きなんだから基準がよくわからない。いつまでも第二章を待ってます。
思い入れの強い作品なだけに気に入らないポイントもややあったけど、それでも凝りに凝った美術やキャスト陣の名演のおかげで見る価値は充分にある。これからも定期的に新作が見られるシリーズであってほしいです。おわり。

ヒメクリックス



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