日曜日, 6月 1, 2025
ホームレビュー映画『ミッション・インポッシブル ファイナル・レコニング』:いまの60代はひと昔前の40代小原 康平

『ミッション・インポッシブル ファイナル・レコニング』:いまの60代はひと昔前の40代小原 康平

🧠 あらすじと概要:

あらすじ

『ミッション・インポッシブル ファイナル・レコニング』では、暴走するAI「エンティティ」が人類に危機をもたらす中、IMFエージェントのイーサン・ハント(トム・クルーズ)が最後のミッションに挑みます。祖国から「エンティティ」のアクセスキーを引き渡すよう指示を受けたハントは、力を誰の手にも渡さぬよう、この脅威を葬り去る方法を模索します。彼は滅亡の危機にある世界を救うため、再び戦いに身を投じるのです。

記事の要約

本作は、30年以上続く『ミッション・インポッシブル』シリーズの完結編として、トム・クルーズが62歳にして驚異のスタントを披露。制作費は約577億円に達し、特に公開初週はシリーズ最高を記録しましたが、興行業界では不十分と評価されています。物語は前作との連動性が強く、過去の回想が多く含まれ冗長に感じられる一方、重大なアクションシーンは映画館でこそ真価を発揮します。総じて、シリーズの集大成としての深みがあり、重厚なテーマに裏打ちされたアクションは必見とされています。

『ミッション・インポッシブル ファイナル・レコニング』:いまの60代はひと昔前の40代小原 康平

いまや現代の60代はひと昔前の40代になった。それを身をもって証明するのがこの映画の役目。第1作で当時33歳だったイーサン・ハント(トム・クルーズ)は、62歳を迎えてもなお複葉機からぶら下がり、爆風の中で驚異のスタント・アクションをこなす。フランチャイズの完結編という売り文句で公開された『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』は…長くて、驚くほど生真面目なのが玉に瑕。重苦しいけれど、それでも映画館で観たい超級スペクタクル、か?

[概要]

全8作品、足かけ29年に渡って恒例のドル箱興行を実現した看板シリーズ作品ともなれば、スタジオがかけられるお金も時間も水準が変わってくる。しかし今作だけでも$400M(現為替で577億円…)の制作費へと膨らんでしまった『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』は、かけている金額の次元が違う。コロナ禍と俳優および脚本家たちのストライキによる延期の影響は深刻で、ゆえに本作の損益分岐点はすこぶる高い。

メモリアルデー(米戦没者記念日)三連休での公開で、初週$79Mを叩き出したのは同フランチャイズ史上でも最高記録。前作『デッド・レコニング パート1』の初週が$55M弱で振るわなかったことを思えば、V字回復したと見るのが正解だ。しかしチケット価格の高いIMAXなどもフル活用してこの水準では不十分な結果だと見るのが業界の主流。

口コミや評判次第で客足を維持できるかが、名優トム・クルーズのスターパワーを決める。そんな財政状況を抱えるシリーズ完結編の出来やいかに。

[物語]

暴走AI「エンティティ」が人類に牙を向きはじめて数ヶ月。真実は自在に捻じ曲げられメディアは混迷を極めている。人々は疑心暗鬼に陥り、各地で暴動や抗争が頻発し人類は自ら破滅の道を歩みはじめていた。

前作で「エンティティ」のオリジナルファイルへの唯一のアクセスキーを手にしたIMF(インポッシブル・ミッション・フォース)エージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は潜伏中のある日、アメリカ大統領直々の帰還要請を受け取る。

世界を破滅に追いやる力への「カギ」を引き渡せと命じる祖国の最高司令官だが、ハントは恐るべき力が誰の手にも渡らぬよう自ら「エンティティ」を葬り去る方法を探る。「最後にもう一度、信じてくれ」と告げ、ハントは滅亡の危機を迎えた世界を救うため、最後のミッション遂行に挑む。

[答え合わせ]

『ファイナル・レコニング』を観ると、ひとつの当たり前の事実に気づく。それは「パート1」と名のついた前作『デッド・レコニング』と合わせての一本の映画のはずだったということ。前後編での映画制作は発表時から決まっていたけれど「1本を2作に割った」ことは結果的に後編への皺寄せを生んだと見ていい。

なにせ十分に盛り上がった『デッド〜』と、完結編『ファイナル〜』の物語的な山と谷を俯瞰すると明らかに2作で1つの設計図に見える。これらがひとつに集約されていたらどんなに痺れる名作になっていたか、想像するともったいない気はする。「1粒で2度美味しいのがベター」と見るか「2粒をそれぞれ堪能できたからお得」と見るか、の違いではあるものの。

コロナ禍に次いで二大労働組合のストライキも『ファイナル』の完成を遅らせた。一本分のスケジュールでは掲げた撮影メニューを撮り切れなかったことも公開を遅らせた。『デッド』が思うような成績を残せなかったことも、『ファイナル』の方針を大幅に変えてしまった。なにせ「パート1」はあるのに「パート2」はなくなってしまったわけだし。理論(物語)と実践(撮影)とが噛み合わず、時勢の混乱に巻き込まれた。

パート分けの代償

『ファイナル〜』は事件性の少なさに反比例して、長い。1996年の第1作以降、シリーズを重ねるにつれて総尺が伸びている点(以下参照)でいうと、良くも悪くも時代とシリーズ作品にありがちな傾向。前作の『デッド〜』同様、総尺は3時間弱。

『ミッション:インポッシブル』110分
『ミッション:インポッシブル2』123分
『ミッション:インポッシブル3』126分
『ミッション:インポッシブル -ゴースト・プロトコル』132分
『ミッション:インポッシブル – ローグ・ネイション』131分
『ミッション:インポッシブル – フォールアウト』147分
『ミッション:インポッシブル – デッド・レコニングpart 1』163分
『ミッション:インポッシブル – ファイナル・レコニング』169分

そのわりに多くのシーンがプロット自体を前に進めてくれない。

『デッド〜』と比較しても、頭の70分はとびきり冗長だ。全編を通して過去回想とシリーズへのおさらい解説が寄せ集められており、映画のスペクタクルよりも連続ドラマ的な目配せが目立つ。シリーズの常連でも初心者でも楽しめるように、というスタジオ側の強い要求を無理矢理飲まされたのかと思わせるほど野暮ったい。

もちろん29年も続けていれば予習復習の量も自然と多くはなる。続けていく分だけ「歴史」のお荷物が増えてしまうのがフランチャイズの一長一短だということは、むしろ息の長い漫画やアニメ慣れした日本人の方が親しみを覚える戦法だろう。逆に楽しめる要素かもしれない。

『ファイナル〜』にはシリーズそのもののブックエンドになろうと決め込むあまり、複数の伏線回収を仕込む後付け感がある。といっても、それ自体は前向きに受け取っていい。第6作『フォールアウト』でも同様の後付け回収を実施していたトム&マッカリー監督のコンビだし、その深謀遠慮は決して無益ではない。

真の課題は、それぞれ種明かしにかける尺が長いのでもったいぶった感が強くなり、過去作の「昔取った杵柄」でドラマを仕込んでいる印象が強まってしまうことだ。どの伏線も駆け足で処理してくれていれば気になることもなかっただろうに、長くかける分だけ重くなっている。

長尺はシーン重複にも起因する。お決まりのミッション解説シーンは振り返ると2度ある。タイトルコールの「シリーズおさらい&見どころ先取りコーナー」のダイジェスト的シークエンスも、冷静になると3度繰り返される。

(1)「エンティティ」の独白。(2)大統領からのミッション通達。(3)「エンティティ」との対話。(4)大統領ならびに米首脳陣とのブリーフィング。もっと言うと。(5)空母司令官とのツーハンドラー(=対面シーン)。(6)潜水艦長との探り合いの対話。

物語を前には進めるシーンだが。焦らされている感は拭えない。いずれも枝葉末節だと片付けたくなるからだ。

パート分けに罪があるわけではない。けれど前編の興行的な不振と公開時期の遅れにより、後編が前編をおさらいする手間を自ら増やしたことは確かだろう。鑑賞中、「今回の目玉アクションはいつくるのか」という思いに毒される。あるいはそれは、もはやリアル・アクションの王者トム・クルーズ作品のサガなのかもしれない。

それでも観たいスペクタクル

それでも。やがて訪れる、撮影時62歳のトムさまの生身のスタントは絶対的な見どころだ。今作で実現した海底での水中アクション。そして2台の複葉機を用いた目を疑うようなアクション・シークエンスは映画館で観なければ十分に堪能したとは言えない。いずれも20分前後にわたるスペクタクル。

生身でこなしているという事実があることで上乗せされる魅力は大きい。このご時世ではCGで表現できないショットなんてないのに。トムさまが一作一作で提供する、リアルで迫真のスタントには別格の衝撃がある。

舞台裏の職人仕事を意識させる努力。「どう撮ったのか」「どうしてそこまでできるのか」ー。制作者への尊敬を促すのも立派な魅力の積み上げ方だし、それが結果的に物語への共感度を高めてくれる。『ファイナル〜』はこの2つのスペクタクルを見届けるだけで、映画チケット分の元が取れてお釣りがくる。誰と観に行ったって鑑賞後、話題が尽きることはない。

その上でさらに、いくつか。

愛嬌少なめ、真剣度マシマシ。救世主度MAX

シリーズ最終(?)作はトレードマークともいえるエッセンスのバランスが他作と大きく異なる。愛嬌ともいうべき要素が目に見えて減退している一方、物語のステークス(危険度/危機度)はノッチがめいっぱい上げられている。結果、一介の特殊工作部員であるイーサン・ホーク「だけ」が解決できるタスクに強烈なハイライトがあたる。

これを、映画大国アメリカの衰退とトム・クルーズ自身の関係にあてはめる者は多い。廃れゆく映画産業そのものを救わんとする「最後の映画スター(ザ・ラスト・ムービー・スター)」=トム・クルーズその人の使命と重ねるのは、むしろ舞台裏の本人が自他共に認めるところでもある。

言ってしまうとそんなスクリーン内外の暑苦しさゆえに、トムをあえて弱者に仕立て上げることでめいっぱいの愛嬌を押し出していた前3作『ゴースト・プロトコル』『ローグ・ネイション』『フォールアウト』のような身軽さが『ファイナル〜』にはなく、重い生真面目さばかりが目立っている。

ボンド映画とはまた違うセクシーさもまた目玉のシリーズだが、今回はトム様本人のご老体だけが鑑賞対象。2度ならず3度までも、下着姿のトム・クルーズの格闘アクションを見せつけられるのはあとにも先にも『ファイナル〜』だけかもしれない。もちろん前作から続投しているヘイリー・アトウェルとフランス人女優、ポム・クレメンティエフの静かな魅力はありながら、絵的にはトム一点押しな構成だ。そもそも主演陣が歳を重ねてしまっていて、全体的に加齢臭が漂っている。

その他のキャスティングにも小粒感がある。悪役を演じるイーサイ・モラレス、空母艦長役のハンナ・ワディンガム、米閣僚のニック・オファーマンらには役不足感、あるいは役者不足感がのぞく。モラレスは役不足、ワディンガムは役者不足(イギリス人のアメリカ英語は耳に辛い)。オファーマンは笑いを取れる俳優なのでもったいない印象も。どちらかといえば全体的にTV畑のキャストが多く、前作までのキャストにはない小規模な印象が残る。

ただし今作のキャスティングの光明があるとすれば、潜水艦長役を演じるトラメル・ティルマンがそれ。AppleTV+のオリジナルTVシリーズ「セヴェランス」でブレイクした彼の演技そのままなので、同じ売りをこすっている感は否めないが、初登場時のセリフ回しには会場中が笑った。たったひとことでキャラクターを印象付ける力は見事。

愛嬌と色気を減らし、生真面目さをマシマシに。現実世界と物語世界との両方にとって、60代を迎えたハリウッド・スター、トム・クルーズの救世主感を最高値へ。それが『ファイナル・レコニング』のレシピなのだろう。

まとめ

とはいえ。シリーズへの期待値が高いだけに、重箱の隅をつつくことはいくらでもできる。理屈が通らなければ納得もしにくいシーンばかりなのに、アクションのスペクタクルがはじまってしまえばすべての疑問が吹き飛んでいってくれる。

欠点と思しき要素を承知の上で、大スクリーンで鑑賞してなんぼ。そういう映画はたくさんあってもいい。

クレジット

監督:クリストファー・マッカリー
プロデュース:トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー
原作:ブルース・ゲラー作「スパイ大作戦」
脚本:クリストファー・マッカリー、エリック・ジェンドレセン
撮影: フレイザー・タガート
編集:エディ・ハミルトン
音楽:マックス・アルージ、アルフィ・ゴッドフリー
出演:トム・クルーズ、ヴィング・レイムス、ヘイリー・アトウェル、サイモン・ペッグ、ポム・クレメンティエフ、ヘンリー・ツェニー、アンジェラ・バセット
製作:パラマウント、スカイダンス、TCプロダクションズ
配給(米):パラマウント
配給(日):東和ピクチャーズ
:169分
ウェブサイトhttps://missionimpossible.jp/

『Mission: Impossible – The Final Reckoning』★★☆・。
世界公開
:2025年05月23日
鑑賞日:2025年05月23日



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