『フロンティア』(2020/立教大学映像身体学科卒業制作)で京都国際学生映画祭《実行委員賞》を受賞した、服部正和監督の劇場デビュー作『フィクティシャス・ポイント』。服部監督は映像制作会社勤務の傍ら自主制作での映画作りを続け、この度念願の劇場デビューに漕ぎ着けた。ハリウッド・ブロックバスターへの想いが溢れる本作を、服部監督はいかにして作り上げたのか。話を伺った。
『フィクティシャス・ポイント』あらすじ
久坂部碧は幻影に囚われていた。それは光あふれる教室の窓辺で本を読む青年と「漣聖司」と書かれた檸檬色の栞で、いずれも碧には見覚えがない。しかし碧は突如として、漣聖司と架空犯罪調査局をめぐる連続殺人事件に巻き込まれてしまう。現実と虚構の狭間で事件は次第にエスカレートし、やがてひとつの真実にたどり着く。
索引
自分の作りたい映画に正直でありたい
Q:SF的世界が展開する物語ですが、着想のきっかけを教えてください。
服部:大学1年生のときに自主映画を撮っていまして、その撮影の移動中にひまつぶしで映画のタイトルを考えていたのがきっかけです。カッコイイ単語を色々と思い浮かべた中で、ふと出てきたのが“フィクティシャス・ポイント”という言葉でした。この言葉をタイトルにして何か物語ができるかもしれない。それで何でもいいから書いてみようと思ったんです。
Q:“フィクティシャス・ポイント”という言葉は、何か意味を持っているのでしょうか。
服部:無理やり翻訳すると“架空の地点”となります。映画のエンドロールに「この物語に登場する人物等は架空のものです〜」という文が記載されていることがありますが、そこに“fictitious”という単語が出てきます。多分それが無意識に残っていたんだろうなと。
『フィクティシャス・ポイント』© CIELOSFILM/Cinemago
Q:プロットや脚本はどのように作られたのでしょうか。
服部:最初は小説として書き始めたのですが、映像表現が好きな自分としてはどうしても小説が合わなかった。それで映画の脚本にしてみようと、プロットも作らずにいきなり書き始めました。とにかく思うままに書き、最終的には180ページくらいのボリュームで完成しました。ちょうど大学3年生のときだったので、それで卒業制作を作ろうとしたのですが、当時の教授だった篠崎誠さんに「これは映画に出来ない」と言われてしまいました(笑)。確かに、コンセプトが先行しすぎていて具体的な描写に落とし込めていなかったので、まぁ仕方がないかなと。それで卒業制作は『フロンティア』という別のSF映画を撮ることにしました。
その後卒業して映像制作会社に就職したのですが、入社直後にコロナ禍となり、一旦自宅待機になってしまった。ちょうど卒業制作を仕上げた後だったこともあり、燃え尽き症候群のような状態に陥っていました。ただ、当時はzoomを使って映画を作ったりする人たちも出てきていて、そういうのを見ると、自分も何かしなきゃなと。それで押入れから『フィクティシャス・ポイント』の脚本を引っ張り出してきて、タイトルだけはそのままに物語やキャラターを全部捨ててイチから書き直し始めたんです。
Q: 『フロンティア』『フィクティシャス・ポイント』と、自主制作でSFの世界観を作るのは大変かと思いますが、SFを選ぶことへの思いを教えてください。
服部:インディーズだから、予算がないからと言って、始めから制約を設けるのは面白くないし、自分の作りたい映画には正直でありたい。小さい頃から観てきた映画はブロックバスターばかりでしたし、9歳のときに初めて作った映画は、レゴブロックを使った『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(81)のパロディでした。自分で作る映画は、お金が掛かった作品と比べると小さなものかもしれませんが、自分たちの持っているものだけでも世界観を作りたい。それを常に模索していますし、今までもそうして映画を作ってきました。
編集部の感想:
服部正和監督の『フィクティシャス・ポイント』は、自身の作りたい映画に対する正直さが際立っています。SFというジャンルを選んだ背景には、子どもの頃からの映画体験が影響しており、彼の情熱が感じられます。劇場デビューに向けた彼の創作過程が興味深く、観客として楽しみです。
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