土曜日, 5月 10, 2025
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ホームニュースゲームニュース『ニーア』が存在しなかった世界や『オートマタ』はスローライフゲームだった可能性も? 初めて明かされる話も満載だったシリーズ15周年記念座談会

『ニーア』が存在しなかった世界や『オートマタ』はスローライフゲームだった可能性も? 初めて明かされる話も満載だったシリーズ15周年記念座談会


『ニーア』が存在しなかった世界や『オートマタ』はスローライフゲームだった可能性も? 初めて明かされる話も満載だったシリーズ15周年記念座談会
 2025年4月に15周年を迎えた『NieR』シリーズ。『NieR:Automata』は世界累計出荷&DL販売数の1000万本突破も目前に迫ってきている。本稿では、そんな人気シリーズのエグゼクティブ・プロデューサー:齊藤陽介氏やクリエイティブ・ディレクター:ヨコオタロウ氏、コンポーザー:岡部啓一氏、さらには『NieR』シリーズ作品を手掛けた若手ゲームクリエイターの方々にお集まりいただき、同窓会気分で思い出を語っていただいた。場所は、『NieR』イベントのビデオ映像などで度々登場し、いまや『NieR』ファンの聖地となっている“居酒屋 まんま”。お酒も入り、居酒屋トーク的な余談も“ライブ感”としてお楽しみください。

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[IMAGE]※本座談会は4月上旬に実施し、週刊ファミ通2025年5月8・15日合併号(No.1896/2025年4月24日発売)に掲載したものに加筆したものになります。

齊藤陽介氏サイトウ ヨウスケ

『NieR』シリーズ エグゼクティブ・プロデューサー

ヨコオタロウ氏ヨコオタロウ

『NieR』シリーズ クリエイティブ・ディレクター

岡部啓一氏オカベ ケイイチ

『NieR』シリーズ コンポーザー

田浦貴久氏タウラ タカヒサ

『NieR:Automata』シニア・ゲームデザイナー

幸田和磨氏コウダ カズマ

『NieR』シリーズ コンセプトアーティスト

伊藤佐樹氏イトウ サキ

『NieR Replicant ver.1.22474487139…』ディレクター

松川大地氏マツカワ ダイチ

『NieR Re[in]carnation』ディレクター

大きすぎる『NieR』音楽の存在感

――15周年おめでとうございます! まずは、シリーズの当初から『NieR』シリーズを手掛けている齊藤さん、ヨコオさん、岡部さんに15周年の率直なご感想をおうかがいできますか?
ヨコオ
 自分たちは『NieR Replicant/Gestalt』の発売の3年くらい前から作っていて、もう18年くらい経つので、何があったか記憶が消えつつあります……。
――記憶が残っているうちに記事に残しておきましょう(笑)。当時、ヨコオさんは30代半ばくらいですよね? 初期企画書(下画像)を拝見させていただいたんですが、あの企画書はスクウェア・エニックス側に提案するためのものですか?

[IMAGE]

週刊ファミ通2025年5月8・15日合併号より
齊藤
 スクエニ社内提案用のものですね。
――世界を犠牲にしても愛する者を守る、といったようなテーマなど、初期のころから貫かれていた要素も多数確認できましたが、雰囲気は荒廃した世界でありながら温かいファンタジーな感じも受けました。
ヨコオ
 あれは企画を通すために無理やり作ったもので、実際に作り始めてからはいろいろと変えていきました。
――海岸の街が“人魚の海岸”となっていましたが、『NieR Replicant ver.1.22』で追加された人魚姫のエピソードは当初から考えていたということですよね?
ヨコオ
 はい。開発が遅れて、入れることを断念したエピソードだったんです。
齊藤
 ゲームエンジンがなかなか完成しなかったことで、1年半くらい開発が進まなかったことが響きましたね。
――『NieR Replicant ver.1.22』で本来あるべきエピソードが実装できたんですね。岡部さんはどの時期から参加されたのですか?
岡部
 自分はプリプロ段階(編集部注:プリプロダクション。企画を少人数体制で試作し、おもしろいかどうか検討すること)から参加させてもらっていました。
ヨコオ
 当時のMONACA(※)は神前さん(神前 暁氏。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』、『〈物語〉シリーズ』などの楽曲を制作)が手掛けるアニメの仕事がほとんどで、ゲームの仕事はあまりやってなかったんです。

※有限会社モナカ。ゲームやアニメなどの音楽制作を行う。

岡部
 たしかに、ちょうどそのころの仕事の割合はアニメがほとんどでしたね。
ヨコオ
 そんな状況だったから、岡部さんは思い出作りで『NieR Replicant/Gestalt』に参加したんだよね?
岡部
 まあ、そうだね(笑)。神前の名が売れたのもあり、『NieR Replicant/Gestalt』の後はMONACAの経営に注力しようと思っていました。
ヨコオ
 それが……。
――ゆくゆくはThe Game Awards(世界最大級のゲームアワード)で2回も“ベストスコア/ミュージック”を受賞するほどのコンポーザーになるとは。
ヨコオ
 許すまじ……。
岡部
 いやいやいや(笑)。人生はわからないものですね。出してもらえるかわからなかった『NieR Replicant/Gestalt』のサントラをキッカケにNHKなどゲーム業界以外からもオファーをいただけるようになって。
――東京五輪2020の開会式では選手入場のBGMに『イニシエノウタ』が。
岡部
 まさかの出来事ですよ。
齊藤
 私は事前に「使われるかも」という話だけは聞いていて、「でも本当に流れるのかな?」と疑いながら観ていたんです。自分的には『ドラゴンクエスト』の序曲が流れたので90%は満足していたんですけど(笑)。しかも流れたのは、お願いしていた『イニシエノウタ』。歌入りだったことにも感動しました。
――そして2024年は世界ツアーも。
齊藤
 どの国でもケイイチ・オカベとアナウンスされたときの盛り上がりがすごかったですよ。
――昨年の世界ツアー以外でも海外公演はされてきましたが、印象に残っている国はありますか?
岡部
 海外公演のとき、最初の挨拶はその国の言語でやろうと決めていたんですけど、コロナ禍前のタイでの公演では、覚えていた挨拶がステージ上ですべて真っ白になって。そのときは通訳さんに助けていただいたんですけど、それがトラウマでそれ以降、挨拶の練習は欠かさなくなりました。
――あらためて振り返ると『NieR』シリーズにとって音楽の影響力はとてつもなく大きいですね。
齊藤
 ヨコオさんと田浦くんは、岡部さんのお陰で『ゲームゲノム』(三浦大知さんがMCを務めるNHKのゲーム教養番組。なお、岡部啓一氏、高田龍一氏、帆足圭吾氏が音楽を担当した2022年度前期の連続テレビ小説『ちむどんどん』の主題歌は三浦大知さんの『燦燦』)に出演できたと言っても過言じゃないよ(笑)。
岡部
 やっぱりそうなっちゃいますかね~?(笑)
齊藤
 いまや引っ張りだこのエミさん(『NieR』シリーズのさまざまな楽曲でボーカルを務めるエミ・エヴァンスさん)も岡部さんが見つけてきたんだよね? 
岡部
 そうですね。エミさんが入ってくれたことで『NieR』シリーズにとってもよかったですし、エミさんにとっても世界が広がったと思います。
――いまや“世界のOKABE”ですが、そのキッカケを作った『NieR Replicant/Gestalt』で最初にできた曲は何だったのですか?
岡部
 崖の村の曲(『心閉ザセシ鉄棺』)だったかと思います。
田浦
 崖の村の曲が最初だったのはなぜなんですか?
ヨコオ
 崖の村のアートがすごくいいデキだったから、それで試しに作ってもらって。
齊藤
 でもその後、開発が進まず、作ってもらいたい曲の提示もできなかったので、しばらくはその一曲をずっと聴いていて、岡部さんには悪いけど、聴きすぎていい曲かどうかわからなくなった(笑)。
岡部
 作ってる側もそうですよ。一曲をずっと作っているとよくわからなくなってくる(笑)。
――『NieR Replicant/Gestalt』発売当時にインタビューさせていただいたとき、ヨコオさんは岡部さんに「声入りの曲をお願いした」と仰っていて、“歌”ではなく“声”なんだ、とその表現がすごく印象に残っているんですが、ヨコオさんの中で楽曲に入れる“歌”と“声”にはどういう区別があるのですか?
ヨコオ
 声と表現したのは「歌詞がない」という意味だったり、ボイスパーカッション(声で打楽器の音色を表現する音楽のスタイル)も含めたり、そういった意味ですね。
――なるほど。
ヨコオ
 そんな声入りの音楽がコンセプトだと言ったのに……サントラには声のない曲を混ぜやがって! 曲も短いし!!
岡部
 ちょっとそこは声を大にして言いたいんですが 、『NieR Replicant/Gestalt』のもともとの仕様としては、曲の中にふたつのメロディーをわざわざ作って、ゲーム中ではそれをリアルタイムで出し入れして尺をまかなう、という仕組みだと聞いていたんです。
――ふたつのメロディーをつなげて聴くとふつうに一曲の尺になる構成だったと。なかなか実験的な。
岡部
 そうなんです。その前提で作っていたのですが、実際のゲームではリアルタイムの出し入れをあまりやってなくて。結果、短い曲が多くなったんです。
田浦
 そのコンセプトを決めたのは誰なんですか?
齊藤
 ヨコオさんじゃない?
田浦
 それをやらなかったのは誰なんですか?
岡部
 ヨコオさんじゃない?
田浦
 それで文句を言ってるのは誰なんですか?
ヨコオ
 オレだね。
一同 (爆笑)。

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『NieR』ではなく超有名タイトルを開発した世界線もあった!? ヨコオ氏に賭けた齊藤氏の眼力

ヨコオ
 (ハイボールを飲みながら)でも、あらためて振り返ってみても『NieR Replicant/Gestalt』はみんな実験作のような気持ちで作ってたし、当たるとは思ってなかったですね。
齊藤
 (当たると)思って作ってよ(笑)。
――プロデューサーの齊藤さんとしてはヨコオさんの作品に可能性を感じて企画を通したんですよね?
齊藤
 そうですね。『ドラッグ オン ドラグーン』を作ったヨコオタロウという人間は才能があると思ったので、もう一作、チャレンジしてもらおうと。でもそのとき、自分の前にはふたつの選択肢があって。ひとつはヨコオさんの新作で、もうひとつは誰もが知っている超有名タイトルの二択
――なんと! 『NieR Replicant/Gestalt』を選ばなかった世界線が存在したんですね……。しかも、あの超有名シリーズ!
田浦
 そっちのプロデューサーをやればよかったのに!
齊藤
 そう思うじゃん!? でも、オレはヨコオタロウを選択したんだよ!
一同 おおぉ~。
――そっちは事情があってできなかったわけではなく?
齊藤
 そんなことはなく、「ヨコオさんでいきたい!」と言ったんです。でもあっちを選んでおけばよかったかなぁ(笑)。
ヨコオ
 いま聞いても、あっちのプロジェクトが正解だったと思います。

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――いやいやいや(笑)。でも、ヨコオさんを選んで正解だったですよね?
齊藤
 あっちがもっと大成功していた可能性もありますけどね(笑)。しかも、そのときヨコオさんから最初に出してもらった企画は『ソロモンの鍵』みたいな横スクロールのアクションパズルみたいなゲームでしたし。
――えっ!?(笑)

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『ソロモンの鍵』。1986年にテクモから発売されたアクションゲーム。画面は『アーケードアーカイブス ソロモンの鍵』から。
(C)1986 コーエーテクモゲームス All rights reserved.Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Co.
ヨコオ
 タイトルが『エコー』ってこと以外覚えてないな……。
齊藤
 すぐに「これじゃなくないですか……?」と返して再考してもらいました。
ヨコオ
『エコー』以外にも何回か企画を蹴られた記憶がありますね……。
――でも、齊藤さんの英断からいまやシリーズの世界累計出荷&ダウンロード販売本数は1000万本を超えているわけで、『NieR:Automata』単体でももうすぐ1000万本。この1000万本という数字はゲームクリエイターとしてはどんな数字なんですか? プロ野球選手でいうホームラン王みたいな?
齊藤
 もっとじゃないですか? 名球会入りみたいな。『NieR:Automata』はもう少しがんばれば名球会入りです。でも、『NieR:Automata』がジワジワ積み上げてきた数字を『モンスターハンターワイルズ』が約1ヵ月で抜いていったので「なんだよ~」とは思いましたけど(笑)。

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若手クリエイターはオカベチルドレンが圧倒的多数?

――今度は田浦さん、幸田さん、伊藤さん、松川さんにうかがいたいのですが、『NieR Replicant/Gestalt』が発売された15年前は何をされていましたか?
田浦
 プラチナゲームズに入ったか、入ってないかくらいのときですね。社内で「『BAYONETTA(ベヨネッタ)』(2009年発売)と似たゲームが出るぞ」と言われていた記憶があります。
――社内で話題に出ていたのがプレイのキッカケですか?
田浦
 いえ、曲がいい、という噂を聞いてサントラから入りました。
齊藤
 えっ!? ヨコオチルドレンじゃなく、オカベチルドレンなの!?
ヨコオ
 初耳だよ! 
田浦
 サントラから『NieR』に入るルートは、よくあるみたいなんですけど。
ヨコオ
 やってられないよ! でも、オレもよく聞く、そのパターン。
幸田
 自分もプラチナゲームズのサウンドチームに入った同期から「いい音楽のゲームがあるよ」と教えてもらったのが『NieR Replicant/Gestalt』を知るキッカケでした。15年前はまだ学生で、絵を描き始めたころで、『NieR Replicant/Gestalt』は知らなかったですね。
田浦
 絵を描き始めたのは何キッカケだったの?
幸田
 大学に入るために浪人していた時期に、勉強しなきゃいけないけど勉強したくない。でも机には向かわなきゃいけない。そこで机に向かいながら勉強するふりをして絵を描き始めました。
田浦
 幼少期から描いていたわけじゃなく?
幸田
 ぜんぜんで。音楽ばかりやってました。
齊藤
 浪人してなかったら絵の道に進まなかった可能性があったってこと?
幸田
 ぜんぜんありましたね。
松川
 だからペンネームが浪人なんですか?
幸田
 そうなんです(笑)。
伊藤
 音楽を続けていたらMONACAに入っていたかもしれないですね(笑)。
幸田
 いやぁ(笑)、それは無理だったと思います。でも、『涼宮ハルヒの憂鬱』のアニメとかは観ていましたし、音楽も好きだったので、MONACAはよく知っていました(笑)。
齊藤
 じゃあ幸田くんもオカベチルドレンじゃん(笑)。
ヨコオ
 今日の飲み会(※いちおう座談会です)おもしろくない!
田浦
 本格的に絵の道に進もうと思ったキッカケは?
幸田
 本当に勉強したくなかったんです(笑)。最初はひたすら模写をしていて、模写をしていると出来栄えはよく見えるんですけど、それを当時、イラストなどを投稿や閲覧が楽しめるネットの掲示板みたいなのに投稿して、反応を楽しんでいました。でも、自分の想像よりも反響があるようになって。「絵の道も可能性あるかな?」と思ったのがキッカケです。
齊藤
 それは才能だよね。
ヨコオ
 ふつうは模写もスッとはできない。
幸田
 でも、本格的な絵の勉強はしていないので、美術学校などを通ってきたエリート方々に嫉妬心というかコンプレックスはあります。
齊藤
 岡部さんも音楽学校などは入らずに音楽の道に入ったけど、そういう感情はあるんですか?
岡部
 音大コンプレックスはメチャクチャあります。
――でも、専門の学校や大学に行ってなくても、チャンスは掴めるんですね。
岡部
 あと聞いていて思ったのは、自分は美術系の大学に通っていて、趣味でやっていた音楽の道に進むことにしたので、幸田さんとは逆の道を進んだんだなと。
――別の道へ歩むという変化を恐れなかったことが、いい結果につながったんですね。松川さんは15年前は何を?
松川
 18歳で大学デビューしたくらいのときですね。
――ある意味、変化(笑)。
齊藤
 ムチャクチャやってた時期だ(笑)。
松川
 はい。ムチャクチャ遊んでましたね(笑)。
――テレビゲームなどは遊ばれていたんですか?
松川
 いえ、まったく。
齊藤
 「家でゲームなんてクソだ」くらいに思っていたんでしょ?
松川
 いやいや(苦笑)。 『NieR Replicant/Gestalt』も知らず、そもそもPS3は持っていませんでしたし。PS4は買って『FFXIV』はプレイしていました。
齊藤
 ゲーム業界に入るなんて考えてもいなかったの?
松川
 まったく考えてなかったです。社会人になるにしても、「こんな仕事がしたい」というより「年収2000万円くらいあればいいな」くらいのことしか考えていませんでした。
――なんというチャラさ……。
幸田
 就職の際、アプリボット以外にはどんなところを受けていたんですか?
松川
 みんながよく知る有名どころのコンサルタントの会社とか受けていました。でも、ひょんなことからアプリボットに入ってゲーム業界に関わることになりました。
――では、『NieR』シリーズに最初に触れた作品は?
松川
 『NieR:Automata』ですね。ソフト発売から1年くらい経ったときに、社内の誰かから薦められて。
ヨコオ
 では松川さんはタウラチルドレンなんですね?
田浦
 それはゲームが好きなのか、曲が好きなのかどっちかによりますね。
松川
 難しいですね(苦笑)。どっちも好きです。
――『NieR:Automata』をプレイした率直な感想は?
松川
 グラフィックもアクションも“美しい”と思いましたね。手触りも気持ちよくて。荒廃した世界も好きだったので世界観にもグッときました。
――それからしばらく経ち、『NieR Re[in]carnation』をアプリボットが開発することなって、『NieR:Automata』をプレイしていた経験が活きたわけですね?
松川
 そうですね。
齊藤
 でも、『NieR Re[in]carnation』の最初の打ち合わせのときは、“イヤイヤ連れて来られた人”みたいな感じでしたよ。
ヨコオ
 自分も思いました。「つぎはもう来ないだろうな」って。
松川
 たしかに机の端っこに座ってましたね(苦笑)。

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――では続いて伊藤さんは15年前は何を?
伊藤
 ちょうど20歳の学生だったんですけど、松川さんとは真逆で暗い青春を送っていました。所属していたサークルも文芸系のサークルでしたし、たまに参加する飲み会もテーブルの端のほうで『ポケットモンスター』の対戦をして、二次会には参加せずゲーセンに行くようなタイプでした。
――ゲームが相当お好きだったんですね。では、『NieR Replicant/Gestalt』は発売当時からプレイを?
伊藤
 はい。発売前にゲーム雑誌で見た下着姿のカイネが印象に残っていて気になる作品でした。プレイ後はずっとサントラを聴いていましたし、そういう意味では自分はオカベチルドレンなのかもしれないです(笑)。
ヨコオ
 チッ……。でも『NieR』シリーズは『NieR:Automata』がいちばん売れていて、『NieR Replicant ver.1.22』と『NieR Re[in]carnation』は、『NieR:Automata』をリファレンスした作品に過ぎないんです。そういう意味では、伊藤さんも松川さんもタウラチルドレンで、オレたちは田浦さんの傀儡政権でしかない、ということですね。
田浦
 くり返しますけど、そんな自分はオカベチルドレンなんです。
岡部
 結果、オレっすね。やっぱりそうなっちゃいますよねぇ(笑)。
ヨコオ
 おもしろくない! しかも、伊藤さんを含め、田浦さん、幸田さん、松川さんといった若手の方々がことごとくちゃんとしたイケメンなのはどういうことなのか……。イケメンを憎んでいるんだけど、無意識に選んじゃってるのかな?
岡部
 イケメンコンプレックスの裏返しにね(笑)。
齊藤
 側に置いて叩き落としたいと思っているんじゃない?
ヨコオ
 『NieR』っていろいろな種類のイケメンを取り揃えたなと。そんな15年でした。ありがとうございました。
――まだ〆ないでください(笑)。ちなみに、このメンバーで集まることってあるんですか?
齊藤
 ないですね。あったとしてもコンサートとか?
ヨコオ
 仕事上だけの付き合いです。
田浦
 でも、自分は一度、松川さんと伊藤さんの3人で飲みに行かせてもらったことがあります。
――おお。そのときはどんな話をするんですか? ゲーム作りの熱い話とか?
松川
 『NieR』関連の話はほとんどしなかったですね。『NieR』以外の仕事の話とかをしていました。
――皆さん、年齢はまだ三十代ですよね?
田浦・幸田・伊藤・松川 そうですね。
齊藤
 オレたちが三十代のころなんてフルマラソン走れたよね?
岡部
 そんな時期、ヨコオさんにはない(笑)。
ヨコオ
 生まれてこのかた、ハーフマラソンすら走れると思えた時期はないです(笑)。

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『NieR:Automata』は月の涙を育てるスローライフゲーだった!?

――では、ここからは『NieR Replicant/Gestalt』発売後についておうかがいします。2010年に『NieR Replicant/Gestalt』が発売されて、アレンジアルバムの発売記念イベントなどはありましたが、2012年くらいまではとくに動きがない時期でしたよね。
ヨコオ
 そうですね。『NieR Replicant/Gestalt』が終わってからは、続編が作りたいと思って、当時アシスタントプロデューサーだった横山さん(横山祐樹氏。『NieR Re[in]carnation』プロデューサー)に相談していたんですけど、そのときはポシャって、その後いろいろあって『ドラッグ オン ドラグーン3』(2013年12月19日発売)をやることになりました。
――その後、『NieR:Automata』の前日譚が描かれる舞台『ヨルハ ~自動歩兵人形』が2014年10月に上演されました。突然の舞台。
田浦
 その舞台ってもともと『NieR』につながるものとしては出してないですよね?
ヨコオ
 出してないね。そもそも『NieR』に関連するものとして作ってなかったし。そのころに齊藤さんが「いい話があるよ(ニヤリ)」って近づいてきて、プラチナゲームズさんといっしょに何かできるよ、という話をされて。
齊藤
 PS Vitaで『NieR Replicant/Gestalt』のリメイク版を作る、という案もあったんですけど、せっかくプラチナゲームズと何かできるなら『NieR』の新作のほうがいいよね? ってことでヨコオさんに企画を出してもらったんですが……。それが当時スマホで流行っていたファーム系の農場で何かを育てるゲームで。
――農場で野菜を育てるスローライフ的なゲーム? プラチナゲームズのよさが出にくいジャンルのような……。 
齊藤
 月の涙を育てます、みたいな企画で。それは検討すらしませんでした。
一同 (爆笑)。
ヨコオ
 当時、あの手のソーシャルゲームが流行っていて、齊藤さんもお金が好きだったからいけるだろうと……。
齊藤
 ふざけるな(笑)。
ヨコオ
 でも、『NieR Replicant/Gestalt』もそうですけど、企画のスタートは何でもよくて。企画を通して立ち上げることが大事で、実際にどうするかはその後に考えればいい、と思うんですよね。
ヨコオ
 それからヨコオさんに田浦さんの企画書も見てもらって。
――そこから舞台ヨルハの物語をベースに『NieR:Automata』という企画が生まれるわけですね?
ヨコオ
 だいたいそんな感じです。

悪びれず(?)締切を延ばすヨコオ氏の胆力

――『NieR:Automata』の大ヒットもあり、2021年2月には『NieR Re[in]carnation』、同年4月には『NieR Replicant ver.1.22』と立て続けに関連作はリリースされました。それぞれ『NieR』作品を通じてヨコオさんといっしょに仕事をしてみて、いかがでしたか?
田浦
 こんなに悪気もなく締切って延ばせるんだと思いました。
一同 (爆笑)。
齊藤
 何がスゴいって『NieR:Automata』以前の、まだ売れていないときからそうだからね。
ヨコオ
 権力を持ったからワガママになったんじゃないんです。もともとワガママだったんです!
松川
 自分はお伝えした納期からは遅れる、という前提で段取りをする能力が付きました。
――ヨコオさんには本来の締切より早めの締切を伝える、といったことは?
松川
 伝えるんですけど、ヨコオさんもそれをわかっているから、「本当の締切を教えてくれ」と言われることが多々ありました(笑)。皆さんはヨコオさんに本当のスケジュールって教えていましたか?
田浦
 言わないほうがいいです。このスケジュールが本当の締切、と言い張るべきです。
――遅れるのはシナリオですか? チェックなども遅れ気味に?
齊藤
 全部です。
ヨコオ
 『NieR Re[in]carnation』はチェックです。『NieR:Automata』はおもにシナリオですね。
――多忙だとは思うのですが、それ以外にも理由があったりするのですか?
ヨコオ
 仕事を抱えていても抱えていなくても遅れます。平等に。
齊藤
 甘えられる人の仕事だと遅い。知らない人との仕事だと早いと思います。なのでアニメの監修と執筆はメッチャ早かった。
田浦
 では、いったん縁を切りましょう。それで一年後くらいに初めましての感じで仕事をしましょう。
一同 (笑)。
ヨコオ
 遅れても問題ないから遅れるんです。
齊藤
 問題なくはないでしょう!
田浦
 たとえば、シナリオが3週間早くあがったら、その分、作り込めるじゃないですか。
ヨコオ
 早くできる要素もあれば、遅くなる要素もある……そこは、バランスだよね。
田浦
 違います!
――たまに早くあがることは?
田浦
 (食い気味に)ないです。絶対ないです。なのでヨコオさんのプロジェクトは、ヨコオさんのシナリオが完成してからスタートするのがいちばんいいと思います。
ヨコオ
 それだと一生書き終わらない気がする……。
田浦
 チェックの戻しに時間がかかるのもツラいんですよ。
齊藤
 そうだね。2~3週間寝かせた挙げ句、文句言ったりするから。早めに見てくれたら直せたのに、ということもあったよね。
ヨコオ
 そういうこともありますよね。
伊藤
 人ごとみたいに(笑)。
齊藤
 そろそろ若手にある程度は任せたら? 全部を書いたりチェックしたりは年齢的にも量的にももう無理ですよ。
田浦
 遅れたときに「本当にゴメン!」みたいに謝ってくれたら「しょうがないな」と思えるんですけど、悪びれないからしょうがないと思えない。ウソでもいいから悪びれてほしい!
ヨコオ
 (1ミリも悪びれず)スミマセンデシタ。でも、正直な話、書いていると「これで本当にいいのか」と正解がわからなくなってくるんですよね。
齊藤
 でも、それはクリエイティブの人はみんな同じじゃない?
田浦
 いったんゲームとして形にしたうえで、後から直せばいいだけの話じゃないですか。
ヨコオ
 ……。
伊藤
 そんな「何言ってるのかよくわからない」みたいな顔されても(笑)。
――『NieR Replicant ver.1.22』はオリジナルがあった分、ヨコオさんの締切でヤキモキすることは少なかったですか?
伊藤
 そうですね。田浦さんや松川さんほど苦労はなかったのかなと思います。
ヨコオ
 追加分も少なかったし、『人魚姫』のシナリオは和田さん(和田侑樹氏。『NieR Re[in]carnation』の“太陽と月の物語”のリードシナリオライター)で、自分が書くところは少なかったですからね。
齊藤
 でも、『NieR Replicant ver.1.22』は追加分以外はオリジナルに忠実に作ろうと言って始めたのに、途中で気になり始めたのか、ヨコオさんがいろいろ文句を言い出してきて。いちばんビックリしたのは、石の神殿の「草の生えかたが気に入らない!」って言い出して。
――(苦笑)。
齊藤
 あなたが作ったオリジナルを再現したのに。けっきょく背景もかなり作り直しています。
伊藤
 結果、草生やしまくりの蔦出しまくりです。
ヨコオ
 背景担当の方がすごく優秀な方で、幸田さんのコンセプトアートをゲーム内で忠実に再現してくれたり、「こうしてほしい」といったらすぐ対応してくれたり、それでいろいろと言っているうちにかなり描き直していただくことになってしまいました。
――『NieR Replicant ver.1.22』についてはアクションが『NieR:Automata』寄りになったじゃないですか。そこに関しては田浦さんからのアドバイスもあったとのことですが?
伊藤
 メチャメチャいただきました。
田浦
 たまにミーティングに参加させていただいて、できたものを見せていただき、「いいですね」という話をしたくらいです。
――それ以外でオリジナル版から変えた部分はあるんですか? たとえば、アイテムのドロップ率や月光草の花(白)が栽培できる確率とか。
伊藤
 いまの時代に合わせて少し緩和するかは悩んだところなのですが、そこは変えていません。いまだにそれでよかったのかは気になるところなのですが。
齊藤
 いや、よかったと思うよ。
――『NieR Replicant ver.1.22』のEエンドと『NieR Re[in]carnation』の“ヒトと世界の物語”ではどちらも“彼”と“彼女”という存在が登場します。“彼”と“彼女”の扱いについて、両作で齟齬がないように連絡を取ったりしていたんですか?
松川
 それはなかったですね。そのあたりは『NieR』のシナリオチームの方がチェックしてくれていました。

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苦労のわりに気付かれない要素も……

――それぞれの作品を振り返っての感想は?
岡部
 皆さんご存じかと思いますが、『NieR Replicant/Gestalt』のデボル&ポポル戦でバトル中にポポルがステージ上で踊りながら攻撃してくる演出になっているんですが、開発中は早めにモーションキャプチャのデータが必要で、「曲はそのモーションに合わせて後から作ってほしい」と言われていたんですね。それでモーションに合わせて曲を作るという、なかなか難しい作業だったにもかかわらず、実際のゲームになると、プレイヤーにポポルの演出があまり気づかれず、「あの苦労は何だったんだ」と思ったことはあります。

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ヨコオ
 スティーブ・ジョブズが、「見えないところもしっかりと縫製されているソファーがいいソファーだ」みたいなことを言ってたんだよね。
――“神は細部に宿る”的な。
岡部
 それとは違う!(笑)
田浦
 『NieR:Automata』でも音楽に合わせて攻撃をしてくる、という演出を入れたボスがいて。遊園地廃墟のボーヴォワールがわかりやすいんですが、最初のボスであるエンゲルスもじつは音楽合わせにしているんですが、ほとんど気付かれてないですね。気付かれないというのは自然にできていることなのかもしれませんが、その割りには苦労したので少し複雑な思いです。
幸田
 動きが大きいから余計にわかりづらいのかもしれないですね。
田浦
 モーションもそうですけど、途中で9Sが助けに来るところも完全にBGMに合わせているので、またプレイする際は「たしかに」と思っていただければうれしいですね。
――それはヨコオさんの指示で?
田浦
 はい。
ヨコオ
 (食べ物を口に運びながら)そうだっけ。いろいろ忘れてる。
田浦
 忘れられてるわ、結果、気付かれないわで……そういうもんです(遠い目)。
松川・伊藤 (苦笑)。
伊藤
 BGM関連で言うと、『NieR Replicant ver.1.22』のEエンドの最後に回想シーンのようなものが入るんですけど、その回想シーンと『カイネ』の曲がいいタイミングで流れるように、ということをリアルタイムでやっているんですけど、場合によっては多少ズレることがあって。実況者の方の動画で、ズレている映像を観ると申し訳ない気持ちになります。
ヨコオ
 それは自分ではなく、トイロジックさんがやろうって言って入れたやつですよね?
伊藤
 そうです。
田浦
 じゃあ、いいですね。忘れられるより(チラッ)。
ヨコオ
 今日、やたらオレに当たり強くないですか?
――悪びれずに締切を伸ばしたり忘れたりするから……。
松川
 『NieR Re[in]carnation』でママを100回タップする隠しミッションは遊び心で仕込んだもので、齊藤さんやヨコオさんにもお伝えしておらず、しばらくはバレないと思っていたんですけど、サービス2日でバレたのには驚きました。
齊藤
 100回くらいは誰かが叩くよ。
松川
 そうですかね……? でも、バレたのは内部リークだと疑っています(笑)。

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――そのほか、いまだから言えるみたいなことはありますか?
伊藤
 『NieR Replicant ver.1.22』は釣りのウキがイクラ弾のテクスチャを多少アレンジして使っています。あと、主人公の待機モーションで地面に足で何かを書く仕草をするんですけど、それも何パターンかあって、ひとつは“ヨ・コ・オ”って書くモーションがあります(笑)。
ヨコオ
 初めて聞きました。
齊藤
 そんなのカワイイものじゃない。ヨコオさんなんて『NieR Replicant/Gestalt』でセーブデータが消えるって仕様を隠していたんだから。
一同 (爆笑)。
ヨコオ
 プロジェクトのマネージャーさんが心配になって齊藤さんにこっそりとチクって発覚したんです。セーブデータの削除は隠し要素ではないですけど、昨今は隠し要素ってあまりなくなりましたよね? 入れちゃダメになったんでしたっけ?
齊藤
 プラットフォーマーの規定に触れるようなものはダメだし、隠し要素を入れたことでバグが発生したらマズイので、余裕がないとなかなか入れられないよね。
田浦
 上から指示されて入れるようなものでもないですし、開発の規模が大きくなって、みんな締切を抱えて納期ギリギリまで作業することが多いので、それで入れられないというのが正直なところじゃないですかね? 
――ヨコオさんがシナリオを早くあげれば、余裕ができるかもしれませんね?
ヨコオ
 シナリオを待っているあいだは余裕が生まれますよね?
田浦
 そのあいだは何を作っていいかわからないので時間が無駄になるだけです。
ヨコオ
 「入れるなよ? 絶対入れるなよ?」って言っておけば、余裕のある誰かが入れてくれるかもしれませんね。

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『NieR』アートの作りかた

――幸田さんは『NieR:Automata』以降、いろいろと『NieR』シリーズのアートを描かれてきましたが、その中でも印象的だったものはありますか?
幸田
 自分的な手応えやSNSの反応もよかったのは『NieR:Automata』の5周年のときのイラストですね。
――どういったところに手応えを?
幸田
 『NieR』の場合、白を基調とする絵が多いんですが、その中にあえて白じゃない別の色を混ぜているんです。たとえば、影にうっすらと暖色系の色や、逆に寒色系の色を混ぜてみたり。『NieR』のアートは、そうした色を混ぜて調整する作業にけっこう時間を費やすことが多いんですけど、それが自分の中でもうまくできるようになったと感じられたのが、5周年のイラストです。

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――どんなアートにするかは、基本はヨコオさんからのオーダーで決まるんですか?
幸田
 はい。「このシーンを切り取って絵にしてください」みたいなオーダーがあります。もっとアバウトなときもありますが。基本、ボツが出ないのでありがたいんですが、それはそれで不安になります(笑)。
――ほかの案件では、ボツになることってけっこうあります?
幸田
 ありますね。10案描いた中で1案だけ採用、みたいなことも往々にしてあります。
ヨコオ
 『NieR:Automata』では10案あったら10案とも全部使う、みたいなことをやっていました。それはアートに限らず、アイデアなどもそうなので、開発の後半は田浦さんは何も出してくれなくなりました。
幸田
 全部採用されちゃって、田浦さん自身の首を絞めることになりますからね(笑)。
ヨコオ
 でも、「もっとこういうイメージで」みたいなリテイクを出したことも1、2回ありますよね?
幸田
 そうですね。最近も一度ありました(笑)。でも、基本リテイクがないので、『NieR』のイラストは自分の素に近いものが出ているなと思います。
田浦
 幸田くんのアートの採用のされ具合は異常なので、傍から見ていてヨコオさんの好みと合致している部分が多いんだろうなとは感じます。
ヨコオ
 オレは幸田さんのアートに汚染されている気がする(笑)。
齊藤
 幸田くんがヨコオさんの好みに描いてくれているんですよ。
――幸田さんの中でヨコオさんの好みはどういったイメージですか?
幸田
 ヨコオさんは左右対称だったり、キャラクターが見やすく配置されていたりといったような“整頓された構図”を好まれる傾向があるかなと。自分もそういう構図が好きなので、『NieR』のときは、とくにそれを突き詰めた構図にしていることが多いです。
ヨコオ
 たしかに、テーマを決めたらそれをシンプルに見せたい、余計なものは極力省く、ということは意識していますね。
――彩度を抑え目に、という意識は?
幸田
 イラストに関してはあまり意識していないですね。
ヨコオ
 彩度はゲーム映像では言っていましたね。なので、田浦さんが自分に見せるときは、勝手に彩度を半分にして「これで満足だろ?」的な感じで見せてきます。
――言いかた(笑)。ゲームである『NieR Replicant ver.1.22』や『NieR Re[in]carnation』では彩度は意識されましたか?
伊藤・松川 しました。
伊藤
 ヨコオさんが「『NieR』シリーズは彩度を抑えているのが特徴だ」みたいなことをインタビューなどで発言されているのも見て、意識はしていました
松川
 『NieR Re[in]carnation』開発後はその弊害があって、彩度が低いことに慣れすぎて、彩度が高いと「目にやさしくない」と感じてしまって、ほかの作品でも彩度を抑え目な絵を求めがちな自分がいて。あと、白と黒を求めるようになりました(笑)。これはヨコオさんの呪いかなと思っています。
ヨコオ
 それはよかった。
幸田
 たしかに、ヨコオさんの作品の仕事の後に、カラフルな作品の仕事をやると頭が混乱することがあるので、『Splatoon(スプラトゥーン)』などカラフルなゲームをプレイして頭を切り換える、ということをやっています。
――リハビリが必要なんですね(笑)。幸田さんは『NieR:Automata』後は、『NieR』とは雰囲気の違うさまざまな作品でもご活躍されていて。
幸田
 ありがたいことに。
ヨコオ
 『NieR:Automata』の開発初期のころ、幸田さんのアートが上手いので、『NieR:Automata』で幸田さんを売り出すから、もっと前面に出てもらおうと決めて、実際『NieR:Automata』も売れて認知もされたので、「幸田和磨の才能を見出し、育て、世間に認知させたのはオレだ!」くらいの気持ちでいたんですけど、後に幸田さんの『ポケットモンスター』関連作品などのイラストを見たとき、「違う。この人はオレに関係なく世に羽ばたける人だった」と思いました。
――幸田さんの絵だとわかりながら、『NieR』とも違う雰囲気の作品にもしっかりマッチする絵が描けるのがスゴいですよね。
齊藤
 でも、『NieR:Automata』より前の絵は、どちらかと言うと原色多めのかわいらしいキャラクターも多かったよね?
幸田
 そうですね。
齊藤
 自分好みの絵柄はどっちなの?
幸田
 背景は『NieR』でキャラクターはかわいらしいのが好みですね。リアルな顔が苦手だったので、『NieR』ではキャラクターを小さくしてごまかしていたという側面もあるんですけど(笑)。でも最近、リアルなキャラもようやく描けるようになってきたかなと。
ヨコオ
 『NieR:Automata』は吉田明彦さんのキャラクターデザインがあったので、幸田さんには背景中心のアートをお願いしたい、という話はしていました。
幸田
 リアルなキャラも描けるようになって、岡部さんのイラスト(2024年12月29日に開催された“ニーア:ディナーショーみたいな何か 12024 ~素敵なお食事と音楽と岡部啓一と愉快な仲間たち~”のアート)も描けてよかったです。
岡部
 まさかのね(笑)。ありがたい。あのポスターは会社に貼っています。

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15周年やコンサートのコンセプトアートの意味とは!?

――15周年関連のアートや施策についてもうかがいます。まず、15周年のキーアートですが、描かれているのはA2ですよね? 真珠湾降下作戦と『NieR:Automata』の狭間の時期を描いたものなのですか? このキーアートのコンセプト(どの時代をイメージしたものなのか、またその理由など)を教えてください。

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幸田
 ヨコオさんの案件では、時折キャラと全体の雰囲気の指定だけがくることがあり、今回もそんな感じでした。きっと何らかの意図があるはずですが……。
ヨコオ
 これは『NieR:Automata』の後の世界を描いたものなんですが、意図はこれから考えます。
――夏のオーケストラコンサートは2024年の世界ツアーを日本国内向けに再調整したものとうかがっていますが。
齊藤
 そうですね。世界ツアーを日本で締め括るという感じですね。
ヨコオ
 もともと日本ではやるつもりはなかったんですけど、やってほしいという声があるということでやらせていただくことになりました。
――こちらのキーアートが不穏なのですが、これはどういったコンセプトの絵なのですか?
幸田
 たまには主要キャラなしにしましょうとお話をいただきまして、このようなアートになりました。初期案ではヨルハ隊員が300体近くいたのですが、最終的にもっと個々の隊員に寄ったものに変更しました。海外公演版のアートに出てくるエミールの頭と今回の球体で、絵に少しつながりをもたせています。

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ヨコオ氏と仕事して影響を受けたこと

――ヨコオさんといっしょに仕事をして、いまの仕事に活かせていることはありますか? もしくは影響を受けたこととか。
伊藤
 何だろう……。開発チームのメンバーに対して怒るようになりましたね。
齊藤
 悪いディレクターになっちゃった?
伊藤
 傲慢なディレクターになりつつあります(笑)。
田浦
 何の影響を受けてそうなったんですか?
伊藤
 ヨコオさんや田浦さんもそうですが、クオリティーに妥協しないじゃないですか。ダメなものはダメだとハッキリとおっしゃるし。妥協せずダメ出ししていると、つい強い口調になることもあるんです。でも、作品のクオリティーは高いものを開発できていると思うので、多分いい影響だと思います。
松川
 自分は伊藤さんとは逆に、やさしくなりました。
ヨコオ
 松川さんは『NieR Re[in]carnation』でディレクターのとき、暴れまくってましたよね?
松川
 そうですね(苦笑)。当時はスタッフにきびしいことを言い過ぎたと反省して、いまは気を遣うようにしています。
――でも、そうせざるを得ないほど、松川さんご自身も追い込まれていた時期があったから、ということですよね?
松川
 自分なりにクオリティーの高いものにしようとがんばってはいたんですけど、それが空回りしちゃった感じですね。クオリティーを高めるために強く言えばいい、というわけではないことに気付いて、接しかたや言いかたなどを変えました。
田浦
 けっきょく強く言ってもいいものは生まれないんですよね。
松川
 そうなんですよ! 前向きに気持ちよくやってもらったほうがいいものが出来るので、そうなるように意識するようになりました。
ヨコオ
 でも田浦さんは、ゲームデザイナーやプランナーといった自分と近しい部門のスタッフにはやたらときびしかった印象があります。それ以外の人には大人の対応をするのに。
田浦
 ゲームのプランナーは何もできなかった人がたどり着くところなんです。言い換えると何か一芸に秀でていなくても誰でもできるところなんです。
ヨコオ
 言ってるそばからきびしめの発言が!
田浦
 自分はプログラマーになりたくて専門学校に行ったけど挫折して、絵も描きたかったけれど、まわりに上手な人はたくさんいる。でも、何とかゲームを作ることに携わりたくて、そんな自分がなれるのはプランナーしかなかったんです。そこで自分は一芸に秀でている人たちの迷惑にならないようにと心掛け、努力しているつもりなので、自分と同じように芸がないのに努力を怠っているプランナーには、厳しめに指導したりはしてしまっていましたね……。
松川
 自分も中学生くらいまでは絵やマンガを描いたりしていたので、その気持ちわかります。そしてやっぱり自覚のないプランナーには「しっかりしろ」と言っちゃいますね。
ヨコオ
 この座談会で伝えたいのは、プランナーへのきびしい視線からおわかりいただけるように、田浦貴久という人間がどうかしている、ということです。
田浦
 いえ、社会人として締切を守らないヨコオさんのほうがどうかしています(笑)。

『DOD3』や『NieR』シリーズに登場する花の意味とは!?

――この機会にヨコオさんに聞いてみたいことはありますか? 仕事のことでもゲームのことでも。
伊藤
 『NieR Replicant』で魔王の城の奥へ向かうときにマモノの舞踏会があるじゃないですか。あれは何なんですか?
ヨコオ
 ゲシュタルトたちにもちゃんとした生活やコミュニティーがあって、本来はあの姿なんですけど、主人公やカイネには敵として見えている、ということを示す演出です。
齊藤
 人類の痕跡はデータ以外に、DNA細胞でどこかにあってほしいんですけど、その可能性はないの?
ヨコオ
 それはオレにダチョウ倶楽部的な問いかけで言ってます? 「残しておけよ? 絶対に残しておけよ?」みたいな。わかりました。
齊藤
 わかりましたって、どっちの意味でよ(笑)。
――ネタバレなので詳細は書けないですけど、『NieR Replicant ver.1.22』のEエンドでカイネが●●している●●●はなぜ●●の●●●じゃないんですか?
ヨコオ
 あれは(割愛)……でとくにハッキリした答えはないです。
田浦
 明確に意味はありますけどね。
ヨコオ
 え!? 田浦さんの中で?
田浦
 あれはヨコオさんのおねショタ願望が出ちゃったんです。
ヨコオ
 あー、『NieR:Automata』のときもSNSなどでそれを言われたんだけど、まったくその願望はゼロなんです。なぜゼロだとわかるかというと、これまでいろいろなAVを観てきて……(割愛)だから。でも、その願望が潜在的にあるかもしれないね。
――いろいろなAVがあるものなんですね。
田浦
 AVに存在しないジャンルはないです。
――今日いちばんの名言っぽい(笑)。
ヨコオ
 そのジャンルの中で田浦さんの好みは……(割愛)。あと巨乳好き。
齊藤
 えっ!? 田浦くんはお尻派じゃないの?
田浦
 僕は二次元と三次元で好みが真逆なんですよ。二次元はお尻で三次元は胸、二次元はショートヘアで三次元はロングヘアが好みです。
――力説されていますが、いちばん使えない話かもです(苦笑)。
田浦
 これは別にNGじゃないです。
幸田
 スゲー(笑)。
――田浦さんも酔いが回ってらっしゃる……。ええと、何の話でしたっけ(笑)。ああ、あとヨコオさんのゲームには月の涙を筆頭に、巨大な花だったり、強大な敵として出てきたり、異質な花が出てきますが、ヨコオさんにとって花とは?
ヨコオ
 もうかなり酔っ払っているんで本当かどうかわからないですが(他人ごとのように言う)、月の涙は違いますが、花は異星人の兵器という側面があるんです。『NieR:Automata』のエイリアンが植物みたいと言われるんですけど、そのエイリアンになれない者が花になるっていうイメージで、エイリアンの亡骸が植物っぽいというのも、そういう理由です。
齊藤
 『ドラッグ オン ドラグーン3』のゼロの花もエイリアンと関係あるの?
ヨコオ
 寄生されている、ってことです。たぶん。
齊藤
 花に対して何か思い出とかは?
ヨコオ
 まったくないです。だから花に幻想を抱いているんでしょうね……。

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若手クリエイターたちの目標、そして田浦氏の気になる今後

ヨコオ
 自分からも田浦さんや幸田さん、伊藤さん、松川さんたち若手のクリエイターに聞きたいんですが、今後、どういう目標を立てているんですか? ちなみに、自分や齊藤さん、岡部さんはいま五十半ばですけど、こんな状態を1ミリもまったく想像してなかったです。
伊藤
 自分はチヤホヤされたいです(笑)。
ヨコオ
 イベントとかやればチヤホヤされるんじゃない? やりましょうよ。
伊藤
 ありがとうございます(笑)。
齊藤
 チヤホヤされたいのは女の人? ゲームファン?
伊藤
 ゲームファンですね。作ったものを「いいね」って思ってくれる人。
ヨコオ
 なるほど。松川さんは若くして取締役なのでお金には興味ないじゃないですか。
松川
 社会を動かせたら楽しいんじゃないかなと思っています。
齊藤
 スケールでかっ。帝王学の世界じゃん!(笑)
松川
 最近の子どもの頭がいいのは、『ポケモン』の影響もある、というのをテレビか何かで知って。その理由としては、『ポケモン』によって個体値計算とかいろいろなものを確率論で考えるとか、数学的な考えかたが自然と身につくらしいんですね。これも『ポケモン』が社会を動かしているというか、日本の発展に役立っているということじゃないですか。ゲームじゃなくてもそういったコンテンツを何か生み出してみたいですね。
ヨコオ
 『ちいぽけ』(『ちいかわぽけっと』。アプリボットが開発した『ちいかわ』初の公式スマホアプリ)がそうなるといいですね。
松川
 そう……ですね。自分は直接開発に関わっていないですけど(苦笑)。
ヨコオ
 今度、『ちいぽけ』について飲み屋で2時間くらい話しましょう。では、幸田さんはどうですか? いま幸田さんはわけのわからない成功を収めてますけど、今後どうなりたいとかありますか? 
齊藤
 若くしてゴールを迎えているよね?(笑)
ヨコオ
 これまでコンセプトアートが表に出ることってあまりない、メジャーじゃなかった時代から、幸田さんによってコンセプトアートにスポットが当たり、ある種、コンセプトアートの第一人者みたいになっていますけど。
幸田
 いえいえ……。自分は自分だけで完結できる範囲で物語を作ってひとつの作品を作りたいです。その作品はマンガでも小規模なゲームでもいいんですけど。
齊藤
 すぐできそうじゃない。
幸田
 いまは忙しくさせていただいているので、なかなか取りかかれないんですけど……。フリーだとつながりが途切れるのが怖くて、ついつい仕事を受けすぎになっちゃうんですよね。
――ゲームだと難しいですけど、紙モノなら連載で少しずつ進められますよ? ちなみに、この座談会が掲載される号からヨコオさんのコラムも始まります。
一同 おお!
齊藤
 こっちの仕事もしろよ!
田浦
 シナリオ書けよ!!
ヨコオ
 その通りだね。
――何だかヨコオさんの時間を割いてしまってスミマセン(笑)。
ヨコオ
 (何事もなかったように)じゃあ、今後の目標について田浦さんはどうですか? お金には恵まれてない人生だったけど、女性には恵まれている人生だったじゃん。
田浦
 間違……ってはいない。
伊藤
 うらやましい(笑)。
田浦
 あこがれは『Minecraft(マインクラフト)』です。『マイクラ』みたいなゲームを作りたいというよりは、小人数で作りたいゲームを作って大成功するのは夢ですよね。
齊藤 
『マイクラ』は突き抜けた大成功じゃない? どのくらいの成功を目指しているの?
田浦
 つぎに作りたいゲームが作れる程度の成功であればいいかなと思っています。
ヨコオ
 チヤホヤされなくなるよ。
田浦
 別に構わないです(笑)。家に引き籠もってゲームを作っていたいタイプなので。
ヨコオ
 自分もそのタイプだったんですけど、齊藤さんとかが生放送に呼んでくれたりして出演しているうちに、ベラベラしゃべれるようになった気がする。
田浦
 僕もそうです。お酒も飲めるようになったし。いま振り返って思えば、それがしゃべる訓練になって、チームのメンバーに説明したりするときにも活きた気がします。
齊藤
 田浦くんに申し訳なかったのは、一度、『NieR』の生放送当日にオレが体調不良になって、急遽、進行を代わってもらったんだよね?
田浦
 司会させられました(苦笑)。でも、けっこう回せてましたよね?
齊藤
 田浦くんはあれでひと皮向けたよ。
田浦
 たしかに、人生のターニングポイントはあれかもしれないです(笑)。
――ターニングポイントと言えば、田浦さんはプラチナゲームズは退職されたんですよね?
田浦
 はい。隠してはいないんですが、わざわざ公にもしていません。
――公にしない理由は何かあるんですか?
田浦
 何か作品を発表できればいっしょに名前が出ると思いますので、そのときで良いと思っています。
――開発スタジオを立ち上げられた?
田浦
 はい。立ち上げメンバーのひとりです。Eel Game Studioと言います。
――なるほど。では、いまはそれ以上はおうかがいしませんが、作品が発表できるタイミングでぜひお話しを聞かせてください。
田浦
 わかりました。よろしくお願いします。
――ちなみに、以前、イベントで齊藤さんが、それが『NieR』かどうかは別として、ヨコオさん、岡部さん、田浦さんという『NieR:Automata』のコアメンバーで何かを作っている、という発言がありましたが、そのプロジェクトは変わらず?
齊藤
 変わってないです。
――安心しました。

齊藤さん、ヨコオさん、岡部さんらベテランがこれから目指すもの

――若手の方々の目標を聞いたところで、齊藤さん、ヨコオさん、岡部さんの今後の目標もうかがいたいです。
ヨコオ
 希望だけで言うと、社長室を作ってそこで愛人を(割愛)……ってことをやりたいです。
齊藤
 勝手にやりなさいよ! でも、肉体年齢的にもう愛人がいてもしょうがないでしょう?
ヨコオ
 ギリギリです。もうアウトの可能性もありますが。
田浦
 そういうプレイができるお店に行ってください。
――あの……始まってからすでに3時間くらい経って酔いも回っていらっしゃると思いますが、まだ取材中です(笑)。
ヨコオ
 ぜんぜん書いてもらっていいですよ! あ、そうだ。仕事の話で言うと、自分は他社さんから相談を受けた際に、それだったら●●さんが向いているので紹介しますよ、みたいなことで田浦さんや岡部さんの名前を挙げることがあって、それで実際に仕事につながっていることがあるんですが、長年付き合いのある岡部さんからは、一度も仕事を紹介されたことがないんですけど、どういうこと?
齊藤
 締切守らない人は紹介できないよ!
ヨコオ
 ……謎は解決しました。
――スパッと解決。
ヨコオ
 でも、いつか岡部さんや田浦さんから仕事を紹介してもらう。これが目標です。あとは、もともといまやっている仕事が趣味みたいなものなので、今後も似たようなことはやっていると思います。同人誌を作ったりとか。
齊藤
 うどん屋は?
ヨコオ
 いずれやりたい。岡部さんは何かある?
岡部
 これまで好き勝手やらせてもらって、「できたらいいな」と思っていたことも『NieR』でひと通り実現してもらったので正直、思い浮かばないですね。
ヨコオ
 岡部さんの代わりに答えると、大河ドラマの音楽です。NHKの。
岡部
 無理です無理です(笑)。
齊藤
 朝ドラはやってるんだから可能性はあるよ。
岡部
 朝ドラはいい勉強になりましたね。
ヨコオ
 齊藤さんは?
齊藤
 オレは人混みが苦手なので、人がいないところで暮らしたい(笑)。
幸田
 隠居ですか?(笑)
岡部
 ガチの田舎に移住ですか?
齊藤
 そうですね……。ネットワークがつながってさえいればどこでもいいかな。

あらためて『NieR』の15年を振り返って

――いまさらですが、15年間で何か印象的な出来事はありましたか?
齊藤
 書けないかもしれないけど、『NieR』に関わってくれた若手クリエイターの伊藤さんと松川さん、そして田浦さんが●●しました!
――おお!
ヨコオ
 えっ!? 書けないの?
田浦
 書けなくはないですけど、ゲーム情報サイトに●●情報はいらないんです。
齊藤
 オレなんてパリのゲームイベント用のビデオコメントでヨコオさんに離婚情報を暴露されたんだからね? 大ウケだったらしいけど。
ヨコオ
 パリの皆さんに第一報をお届けしました。
――スクウェア・エニックスの偉い人なのに、身を削ったネタを……。
ヨコオ
 あ、あとこの機会に宣伝担当の高野さんにも聞きたいんですが、最初に会ったときに、「仕事だからやります」みたいな、『NieR』にまったく興味がなかったですよね?
宣伝高野 『NieR Replicant/Gestalt』をプレイしてなかったですし、そのときはまだ気後れをしていました。
ヨコオ
 高野さんは英語がしゃべれるんですけど、海外に行ったときも、英語で困っている自分たちを助けるでもなく半笑いで見ているという、ちょっと不思議な方なんです。
齊藤
 そうそう。英語がしゃべれない自分がコンシェルジュにレストランの場所を聞いたりしてたんだから。
ヨコオ
 そもそも高野さん、『NieR:Automata』をどう思っていたんですか?
宣伝高野 当時、社内からもユーザーさんからも大ヒットは期待されてなかったですし、前作を未プレイだったので、あまりピンときてなかったというか……。
齊藤
 たしかに、日本や海外の営業部署に、企画書ベースでこのゲームは何本売れそうか、というのを聞く会議があるんですけど、そこからはきびしい数字予測があがってきて。でも、ヨコオさんと岡部さんは、絶対に世界で通用するはずと信じて、吉田明彦さんやプラチナゲームズさんに参加してもらい、100万本を目標に「売れなかったら会社を辞めてやる」くらいの覚悟で企画を通したんです。
一同 おお!
ヨコオ
 そんな齊藤さんの企画に巻き込まれた高野さんは、「興味がないけど仕事だからやるか」というテンションで2015年のE3(※当時開催されていた、北米最大級のゲーム見本市。2015年の同イベント期間中に『NieR:Automata』が“NieR New Project”という仮題でティザー発表された)に同行していました。
宣伝高野 そこから愛着が湧いてきたんですよ。
ヨコオ
 そこから!(笑)
宣伝高野 その後、2016年に東京・六本木にあるEX THEATER ROPPONGIでのコンサート“NieR Music Concert & Talk Live 滅ビノ シロ 再生ノ クロ”で演奏を聴いて感動して。そのときもまだ『NieR Replicant/Gestalt』をプレイしていなかったので、プレイしていればこの感動がもっと何倍にもなったのに、と後悔しました。
ヨコオ
 聞きたくない話だった。
齊藤
 高野くんもオカベチルドレンじゃん!
一同 (笑)。
岡部
 結果ね、うんうん(ご満悦)。
田浦
 ゲームを知らなくても、音楽だけでこんなに感動させられる作品ってなかなかないですよ。
ヨコオ
 じゃあ今度、岡部さんと仕事するとき、クソみたいな物語を書くので、それでも音楽で感動させられるか試します! 「やっぱヨコオの物語は必要だったんだな」ってなったら反省してください。
田浦
 その場合はサントラだけ買います。
――でも最近、ヨコオさんは岡部さんの音楽を褒めることもありますよね? ようやく認めざるを得ない感じになってきたんですか?
ヨコオ
 実際、『SINoALICE(シノアリス)』とか『NieR Re[in]carnation』あたりから岡部さんの曲がよくなってきたんですよ。
齊藤
 前からよかったよ。
ヨコオ
 みんなそう言うんですけど違うんです! 岡部さんの曲はあのころから明らかによくなっている。
松川
 『NieR Re[in]carnation』の開発時、最初に『Inori – 祈リ』があがってきたんですけど、ヨコオさんが「褒めたくないけどムチャクチャいい!」とおっしゃっていたのは記憶しています。
齊藤
 『NieR Replicant ver.1.22』の『泡沫ノ言葉』もよかったよね。
幸田
 あれ好きです!

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田浦
 岡部さんの曲はずっといいので、変わったのはヨコオさんなんですよ。
――岡部さんの中で変化した自覚はあるんですか?
岡部
 じつはあります。『NieR:Automata』はSFっぽいというか、ハリウッド的な方向に寄せたのもあって、いい曲だと言われづらい方向性になっちゃったのかなとは思っています。
田浦
 思えば僕は『NieR Replicant/Gestalt』が好きで続編が作りたいと思って企画書を書いたのに、いざ作り始めると世界観も違うし、曲も違うし、いいと思っていたものが何もないと思いながら開発していました。
一同 (爆笑)。

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田浦
 自分がいちばん衝撃だったのは、エイリアンの母船でのアダム・イヴ戦の曲(『異形ノ末路』)ですね。それまでの『NieR』の曲と圧倒的に曲の毛色が異なっていたので、聴いたとき膝から崩れ落ちそうになりました(笑)。
岡部
 あの曲はヨコオさんからそれまでの『NieR』の曲とまったく異なるエレクトロニックなイメージでやってほしいというオーダーだったんですよね。自分もその意図がよくわからないまま、提出した気がします。
伊藤
 たしかに唐突感はありましたけど、あれはどういう意図で?
ヨコオ
 宇宙船だから。異質な曲を鳴らしたかったんです。
齊藤
 楽曲でオレがいちばん引っかかっていたのは、『NieR:Automata』はキャラ曲がなかったこと。『NieR Replicant/Gestalt』では『カイネ』や『エミール』など名曲があったじゃん。それがなかったのがいちばん心配だった。
岡部
 それはヨコオさんが意図的に外したんですよね。
――『NieR:Automata』は意識して変えた部分が多かった分、『NieR Replicant ver.1.22』や『NieR Re[in]carnation』の岡部節がより際立ったんですかね。
岡部
 そうかもしれません。あと、じつは『泡沫ノ言葉』と『Inori – 祈リ』、そして『Voice of Cards ドラゴンの島』のテーマ曲の『竜を追いかけて ~旅立ちの声~』は同じようなタイミングで同じようなオーダーがきたんです。同じようなオーダーの中でも自分では違いを出そうと思って作ったんですけど、同じ時期に作ったのでどうしても自分の中の順位みたいなものができちゃうんですよね。
――出来不出来じゃなく、この曲がいちばんいい、みたいな?
岡部
 そうです。そのとき自分の中でいちばんよくできたと感じたのは『泡沫ノ言葉』でした。これは『NieR Replicant ver.1.22』に使ったほうがいいかなと。
ヨコオ
 えっ!?(笑) じゃあ、同じような曲を3曲同時に作って、どの曲をどの作品に振り分けるかは後から決めた感じ?
岡部
 そう(笑)。
ヨコオ
 スゴいことするね(笑)。でも、結果として合ってたよ、全部。
岡部
 『NieR』の曲はメロディーを先に考えているので、曲を作品に振り分けた後はそれぞれの作品のテイストに合うようにアレンジはしているんですけどね。
齊藤
 『NieR』の曲も膨大になってきたので、一度、原曲をインストルメンタルにしたベストアルバムを出したいですね。
ヨコオ
 原曲の歌ないバージョン?
齊藤
 そう。いまそういうのもけっこうあるし。
幸田
 ドラムパートだけやベースだけバージョンとかも欲しいです。そういうシンプルなものを聴くと作業がすごく捗るんですよ(笑)。
田浦
 ニッチすぎる(笑)。
ヨコオ
 あと、これはファミ通さんに聞きたいんですが、先ほど齊藤さんも言っていたように、『NieR:Automata』ってスクウェア・エニックスの社内でも売れるとは思われていない中で、ソフトが発売される1年前の2016年にどうして表紙にしてくれたんですか?

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――ヨコオさんの物語にプラチナゲームズのアクションが加わる期待感があったところに、NieR Music Concert & Talk Live 滅ビノ シロ 再生ノ クロでの田浦さんの実機プレイのお披露目があったじゃないですか。そのときにいいゲームになりそうな確信があったのと、吉田明彦さんのキャラクターもいい。ちょうど、プラチナゲームズさんでの開発現場も取材できるということで、まとまった特集も組める、ということもあったので、宣伝担当の高野さんに、表紙のご提案をさせていただきました。先ほどのお話であったように、ちょうど高野さんが『NieR:Automata』に愛着が湧いてきたころだったためか(笑)、トントン拍子で話が進んだ感じです。
ヨコオ
 『NieR:Automata』が表紙ということを聞いたときは、うれしいというより、まず「ファミ通さん大丈夫?」と思いました。
――表現が適切じゃないかもしれないですけど、1年はだいたい50週ですから、週刊雑誌だと50回のうちの1なんです。その中にはチャレンジでやってみようといったこともあるので、あのときは『NieR:Automata』のデキがいいのでファミ通で1回プッシュしてみよう、という感じでした。
ヨコオ
 なるほど。
――そんなこんなで、我々も追いかけてきた『NieR』の15年ですが、もう終電も近いことですし、最後にこの座談会を齊藤さんとヨコオさんで締めていただけますか?
齊藤
 再来年の2027年は『NieR:Automata』が10周年を迎えるんですけど、そのときまでに自分を含め、ヨコオさんと岡部さんが生きていて、『NieR』としての何かをお伝えできるといいなと思っています。
一同 おお~!
齊藤
 その前にまずは『NieR:Automata』の世界累計販売&ダウンロード販売本数1000万本突破を目指したいですね。ダウンロード版の1円セールには頼らずに。
田浦
 売れるごとに支払うお金(※ロイヤリティなど)がありますよね?
齊藤
 ある。なのでヨコオさんがよく言っている1円セールだと1本売れるごとにウチは赤字だよ!(笑)
ヨコオ
 『NieR』の今後については、この座談会が掲載されるファミ通さんの自分のコラムで徐々に明かしていきますのでご期待ください!
――すでに10回分の原稿をいただいていますが、そんな気配すらなかったような……。
齊藤
 もう10回分!?
田浦
 シナリオあげろよ! 
ヨコオ
 そうだね……。わかるぅ~☆
田浦
 いま殺意が湧きました。
ヨコオ
 あははは。でも死ぬのがいちばん怖い。HDDに隠してあるエロ動画を処分する前に死にたくないし。
岡部
 そこ!?(笑)
ヨコオ
 世界ツアーで乗った飛行機が揺れたときもそれを考えてたし(笑)。他にも衝動的に買った(割愛)を処分するのがたいへん(割愛)……で、それを……(割愛)。
『NieR』座談会の夜はまだまだ終わらない――

※撮影協力:
居酒屋 まんま

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『ニーア』が存在しなかった世界や『オートマタ』はスローライフゲームだった可能性も? 初めて明かされる話も満載だったシリーズ15周年記念座談会

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