好評放送中のアニメ『片田舎のおっさん、剣聖になる』(以下、『おっさん剣聖』)。ますます盛り上がる本作の魅力をさらに深掘りするため、本作の主要スタッフが集結しました!
参加者は、原作者の佐賀崎しげる先生、鹿住朗生監督、シリーズ構成の岡田邦彦さん、ハヤブサフィルムの別府洋一アニメーションプロデューサー、NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパンの日野 亮プロデューサーの5名。ここでしか聞けない制作のあれこれをうかがい、前後編にわたって大特集します!
後編では、ベリルを“魅力あるおっさん”として描くためのこだわりや工夫、そしてアフレコやOP&ED主題歌の制作秘話についてたっぷり語っていただきました。
──後編では、まずベリルの魅力について掘り下げていければと思います。ベリルの描き方について、シナリオや演出上で意識したことを教えてください。
岡田:ベースとなる魅力はすべて原作ノベルに書いてあるので、その魅力を損なわずにいかにシナリオに落とし込むかが課題でした。
小説のテキストをそのままアニメにすることはできません。たとえば、二往復、三往復かけて表現される会話の面白さを、一往復に縮めたうえでどうやって伝えるか。あるいは、ベリルの人柄をセリフだけでなく、行動でどう伝えるか。そういった点を意識しながら構成していきました。
鹿住:特に悩んだのは、モノローグの処理ですね。ベリルのモノローグは“愚痴”になってはいけなくて、おっさんらしい“ぼやき”でなければならないんです。ベリルの魅力のひとつはそのぼやきにあるので、岡田さんともモノローグについてはしっかり話し合いましたよね。
岡田:そうですね。愚痴になってしまうとただの不快要素になってしまいますが、ぼやきは“味”になるんです。視聴者がふふっと笑って流してくれるような、共感を得られるようなモノローグのトーンこそがぼやきであり、それが重要だと思っています。
佐賀崎:今の話、すごく面白いですね。アニメのセリフや絵を見ると、アリューシアやスレナに対するベリルの内心は、“ぼやき”なんですが、父モルデアやルーシーに対してはちょっと“愚痴”が入っているんです(笑)。この辺のベリルの機微は面白いなと思って見ていました。
岡田:モルデアに対して愚痴っぽくなるのは……まぁ、しょうがないですよね(笑)。
──ベリルは弟子たちに非常に慕われていますが、その理由づけや描き方で、大事にされたことはありますか?
岡田:弟子たちはベリルの人柄をしっかりと理解していて、だからこそ彼を慕っています。つまり、理由もなく好かれているわけではないんです。
ベリルは常人離れした剣の達人ですから、もちろん技術的な意味での尊敬の対象ではあります。でもそれだけではなく、人としての魅力――人柄があるからこそ、あれだけ慕われる存在になっている。それがすごく重要だと感じたので、アニメでも彼の人柄を丁寧に表現したいと考えていました。
鹿住:ベリルは譲れない一線を持っているのも魅力ですよね。人間としての強さというんでしょうか。普段は優しいけれど、譲れない一線を越えると厳しさを見せる。それが第5、6話ですね。子どもを食いものにするような大人への怒り。それがベリルという人物の軸になっていると思います。
──アクションや3DCGの面ではいかがでしょうか?
鹿住:最初に現場のスタッフに「剣の持ち方は絶対にちゃんとしてくれ」と口を酸っぱくして伝えました。僕自身、剣道の経験があり、強い人は構えを見るだけで、「あ、負けた」とわかってしまうんです。そういうこともあり、たとえモブキャラであっても剣の持ち方が雑だと気になってしまって、何度も修正をお願いしたことがあります。
別府:アクションに関しては、YAMATOWORKSさんに3DCGの剣戟シーンをお願いしています。「剣戟といえばYAMATOWORKSさん」というくらい実績のある凄腕のスタジオです。彼らが手がけた過去の作品でも、迫力あるアクションを見せてくれていたので、本作でもぜひお願いしたいと、すぐに連絡を取った記憶があります。
──YAMATOWORKSさんには、どのような依頼をされたのでしょうか?
別府:依頼時には、「リアルな剣戟アクションを見せたい」「スローモーションや表情のリアクションを丁寧に描きたい」という希望をお伝えしました。その結果、想像を超える物凄い3DCGアクションが仕上がってきたんです。後半も含めてぜひ注目していただきたいです。
佐賀崎:先ほど鹿住監督が剣道のお話をされていましたが、僕は剣道の経験はなく、格闘技をしていました。実際に格闘技を見ると、「この構えの人は強そうだな」「肩に力が入りすぎてるな」といった印象を持つことがあります。
構えだけである程度の実力が伝わるという点は、剣術も格闘技も共通しているのかなと思いました。そういう意味で、ベリルの構えが「気張っていない」「自然体である」というのがすごくいいんです。2Dでも3DCGでも、自然な構えがきちんと描かれていて、ベリルの強さを的確にとらえていただいているなと感じます。
──佐賀崎先生は、アクションに関して何かリクエストされたのでしょうか?
佐賀崎:ひとつだけ、「バット握りはやめてください」とお願いしたことは覚えています。右利きであれば右手が上にくるのが基本で、逆手での持ち方は避けてほしいとお伝えました。監督が率先して修正してくださったようで、とてもありがたかったです。
──では、キャラクターデザインについてもうかがいたいと思います。早坂皐月さんにオファーを出したのは別府さんですか?
別府:そうですね。早坂さんは男性の骨格や筋肉を描くのがとても上手で、本人もそういった描写が好きというのも大きな理由でした。ベリルの弟子たちも、強さを備えながらもかわいらしさがあり、肉感や品もある。狙い通りのデザインになりました。
また、本作はシリアスだけでなくコミカルなシーンも重要なので、“キャラの崩し”のバリエーションを多めに用意してもらっています。難しいオーダーではありましたが、うまく応えていただけました。
鹿住:ベリルのような歳を重ねた主人公は、実はアニメで描くのがかなり難しいんです。たとえばシワは線で表現しますが、線が多すぎると実際の年齢以上に老けて見えます。さらに、アニメーションになると線が抜けたり、ブレたりするリスクがあるんです。だからこそ、線を減らしながらも、自然体で魅力的なおじさん感を出すことが大きな課題でした。
崩し顔もただ崩せばいいわけではなく、面白いと思えるようなニュアンスを出す必要があります。特に、ベリルに関しては人間性をしっかりと感じられるようなデザインにしてほしいと早坂さんにお願いしました。
佐賀崎:僕はベリルの顔については、何も言っていなかったと思います。どちらかというと、細かいパーツの色分けのような、視覚的な差異を極力なくすための調整でしたね。
──ヒロインたちについては何かありましたか?
鹿住:早坂さんが完璧に仕上げてくださったので、僕から言うことはほとんどなかったですね。
佐賀崎:フィッセルについては一度大きな修正をお願いしました。僕の中では、フィッセルの髪の色は真っ黒なのですが、内側が赤くなっていたんです。確かに、書籍の第4巻の表紙や第1巻の口絵などは、髪の内側に赤の照り返しが入っています。ですが、これはあくまで鍋島(テツヒロ)先生の演出的なもの、見映えのためのもので、実際の髪の色は黒だとお伝えしました。
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🧠 編集部の感想:
『おっさん剣聖』のスタッフ座談会後編は、作品制作の裏側やキャラクターの魅力について深掘りされていて興味深かったです。特に、ベリルの「ぼやき」と「愚痴」の違いや、アニメーション表現の工夫が印象的でした。熟練したスタッフのこだわりが、作品のクオリティに大きく寄与していることを再確認しました。
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