私は「Apple Watch」にすぐ飛びついたわけではない。しかし5年前、この時計が重大な健康問題を知らせてくれたことで、常に着用するようになった。発売から10年が経った今も、ほかのウェアラブルやフィットネストラッカーが雨後の筍のように出てきても、Apple Watchは依然として際立った存在だ。

 Apple Watchが「iPhone」の単なるコンパニオンを超えて足場を固めるまでには数年かかった。この10年間で、サムスンやGoogle、Ouraなどの健康追跡デバイスによって競争は激化した。Counterpoint Researchの3月のレポートによれば、2024年の Apple Watch出荷台数は競争激化と買い替えサイクルの長期化により19%減少した。それでもApple Watchは世界で最も売れているスマートウォッチの座を保ち、いまやSeries 10、Ultra、SEというラインアップを揃える。

 多くの人にとって、そして私にとっても、Apple Watchはデータを個人的で意味あるものに変える手段になった。家族の状態を手軽に見守る方法でもある。そしておそらく何より重要なのは、文字どおり生活を変えてくれたことだ。

忘れられない「One more thing…」

 Apple Watch(当時はほとんどの人が「iWatch」と呼んでいた)のうわさは発売前から流れていた。2014年には「Fitbit」「Jawbone Up」「Samsung Galaxy Gear」などのフィットネストラッカーやスマートウォッチがすでに店頭に並び、競合していた。私はこれら初期のトラッカーやウォッチを試すのが好きだった。オフィスの外に出る口実になったからだ。しかし新鮮味はやがて薄れ、机の引き出し行きになるのが常だった。そもそも私は時計やブレスレットをほとんど付けないし、多くの初期スマートウォッチには、着け続ける動機を見いだせなかった。

 2014年9月、Tim Cook氏が「iPhone 6」発表時の基調講演でApple Watchを披露した(発売は2015年4月24日)。発表後のデモルームで初めてこれを手にしたとき、これまでで最も見栄えのいいスマートウォッチだと思った。ただし当時のウェアラブルはファッション性に欠け、実用品の雰囲気しかなかったので、その感想は大した褒め言葉でもない。Galaxy Gearはバンドにごついカメラ、留め金にマイクが付き、「オタク向けガジェット」感を放っていた。カルト的人気を誇った「Pebble Watch」はプラスチックのおもちゃのようで、とても時を刻む宝飾品には見えなかった(Pebbleファンには申し訳ない)。

 初代Apple Watchが私を惹きつけた理由は2つある。2010年の「iPad」以来、Apple初の新カテゴリー製品であったこと。そしてその発表の場が、ジャーナリストとして初めて取材した大きなテクノロジーイベントだったことだ。最終的にスペイン語版CNET向けのレビューでは、iPhoneの優秀なコンパニオンだが、私に必要かどうかは判断がつかないという結論に落ち着いた。

転機:私の脈拍が抜けた瞬間

 Series 4の頃になると、LTEと内蔵GPSが加わり、Apple WatchはiPhoneからの自立を始めた。それでも私は毎日着けていたわけではない。だがある機能がその状況を一変させた。

 「Series 4ではセンサーが一段飛躍し、われわれは転機を迎えた。転倒検出を可能にした高度なモーションセンサーと、ECGアプリを実現する電気式心拍センサーを搭載した」と、Apple Watchおよびヘルスケアのプロダクトマーケティングを担当するシニアディレクター、Deidre Caldbeck氏は述べた。

 これと同時に、高・低心拍数アラートや不規則心拍リズム通知なども登場した。光学式センサーで心房細動の兆候を検知し、ユーザーに知らせる仕組みだ。

 2018年12月、私はCNETの記事執筆のため、UCSFメディカルセンターで心臓専門医のGregory Marcus氏と新しい心電図機能をテストし、病院の医療用心電図と比較していた。まさかApple Watchが私の心拍リズムの異常を捉えるとは思ってもいなかった。

 しかし、それは実際に起こった。

 病院のEKGモニターから12本のリードを体に装着し、同時にApple Watchで指をデジタルクラウンに当ててECGを計測していると、Marcusがモニターのとある波形を指摘した。規則的でメロディーのようなリズムに小さな乱れが入り込んでいた。腕に目をやると、Apple Watchの画面にも同じおかしな波形が跳ねていた。脈拍が本当に1回飛んだのだ。

 当時はそれが何を意味するのか恐ろしくなった。しかし調査と再診の結果、Marcus氏は「期外収縮」であり重篤でも慢性でもない、と判断した。おそらく睡眠不足とストレスが引き金だろうとのことだった。私は1歳児を抱える母だったのだから。

 この出来事は私の体験を予想外の個人的ストーリーへ変え、腕に巻いたこのApple製品を見る目を一変させた。こんな微妙な心臓の状態まで拾えるなら、他に何を教えてくれるのだろうか。

 同じ年のクリスマスまでに、私は両親にもApple Watchを贈った。2人は70代で中米エルサルバドルに住んでいる。物理的に見守れないなら、少なくとも異変を知らせてくれるデバイスを持っていてほしかった。

 こうした体験談は、AppleがApple Watchの革新的技術の先を見据え、健康やウェルネス、早期発見に重きを置く方向へと舵を切るきっかけになった。

 「私たちにさらなる努力と、このデバイスが持つ可能性の限界に挑戦し続ける意欲を与えたのは、このデバイスを終日着けていたから、自分の健康について本来なら気づかなかった情報を得られたというユーザーの体験談だ」とCaldbeck氏は語った。

診断ツールとしてのApple Watch

 先日、あの取材からほぼ7年ぶりにMarcus氏に話を聞いた。現在、同氏はApple Watchのようなデバイスで記録されたECGを診断にどう活用しているのか。

 「ユーザーがEKGを取得すると、心房細動の可能性や正常などの判定が表示されるが、それだけでは不十分だ。記録はPDFなどで保存でき、医療従事者に送れる。そうすれば、医師がこれらのEKGを利用して心房細動かどうか診断できる」と同氏。

 ただし同氏は警告も発した。特に心拍アラートについて言えることだが、情報が多すぎると、健康で症状がなくても不安に陥ってしまう可能性があるという。

 「大規模なスクリーニングを行えば、必然的に偽陽性が一定数出る。偽陽性は不必要な不安や検査、治療につながる」(同氏)

ほかのバイタルサインへの出発点

 ECGと心拍通知は出発点にすぎなかった。今ではApple Watchは睡眠時無呼吸の兆候、全体的な運動量、聴覚の健康、月経周期の変化なども示せる。


睡眠データを表示したApple Watch
提供:CNET

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 私は長年Apple Watchでワークアウトを記録し、「ムーブ」リングで日々の活動量を把握してきた。その後、AppleはVO2 Max、心肺機能レベル、心拍ゾーン、トレーニングの負荷などを追加し、長期的な健康目標に集中できるようになった。トレーニングの負荷は運動のタイミングを決める助けになる。心拍ゾーンと通知は運動中のモチベーション向上に役立つ。VO2 Maxと心肺機能レベルは目標となる指標を与えてくれる。3児の母として、自分のための30分をひねり出すのも難しい私には、Apple Watchがもたらすこの集中力がワークアウトの質を高める鍵だ。

 出産直後に心肺機能レベルが下がったと通知されたときは毒づいたが、体形を元に戻すきっかけにもなった。今では誇らしい「高い」スコアを取り戻している。

 これらの機能はApple Watch専用ではない。実際、Appleが必ずしも最初に提供してきたわけでもない。それでもApple Watchが大量のデータを埋もれさせず、自分に関係する形に落とし込んでくれる点を私は評価している。

面倒な作業をシームレスにする

 Apple Watchはほかの面でも私の生活に影響を与えた。月経周期をテクノロジーで追跡することを、私は2019年にこの機能がApple Watchに搭載される前から実践していた。初めて妊娠した時はスマート体温計で基礎体温を測り、iPhoneに転送していた。起床後すぐ測る必要があり、完全にシームレスとは言えなかったが、紙とペンよりはマシだった。

 Apple Watchに周期追跡機能が搭載されると、体温計をやめてウォッチでログを付けるようになった。当初は体温の変化を追跡しないため精度はやや落ちたかもしれないが、腕で完結する利便性が継続を助け、排卵日の特定も正確になった。

 Series 8以降のApple Watchには体温のわずかな変化を測るセンサーが2つ追加され、周期追跡と組み合わせることで排卵確認がさらに確実になった。おかげで3人目の誕生にも一役買ったかもしれない。

私を引きつけ続けるもの

 いま着けているSeries 10は、2015年にレビューした初代Apple Watchと見た目も使い心地も大きく変わらない。失くしたiPhoneを鳴らす機能には相変わらず頼りきりだし、レジで財布やスマホを探す手間も減った。バッテリーは相変わらず悩みの種だが、少なくとも一晩の睡眠は確保できる程度には持つようになった。

 周期追跡と心肺機能レベルが今の私には魅力的だが、子どもが成長し睡眠が安定すれば、睡眠トラッキングか、Appleがその年に提供する新機能に興味を持つかもしれない。

 この10年におけるApple Watchの進化は、表面的な機能よりも内部にある。私と家族がApple Watchを使い続けるのは、重要な指標を個別に追跡し、必要なときに行動を促し、緊急時には本当に助けを呼んでくれる、そのパーソナルな在り方ゆえだ。

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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