「褒める力」が組織を育てる 〜50代からのマネジメント改革〜FUJIO

「マネジメントする上で『褒める』って大切ですか？」こんな質問を受けることがよくあります。答えはシンプルです。「はい、大切です」。しかし、その背景にはもっと深い人間心理が隠れています。コーチングの世界では、人間が持つ最も根源的な欲求のひとつを「承認欲求」と呼びます。人は誰しも「他者から認められたい」という本能を持っています。それは決して若手だけのものではありません。ベテランであろうと、管理職であろうと、さらには経営者でさえ、心の奥では「誰かに認めてほしい」という願いを抱えています。もしマネジャーである私たちが、その承認の機会を奪ってしまったらどうなるでしょうか？それはまるで、植物に水と光を与えないのと同じです。最初は見た目には変わらないかもしれません。しかし、じわじわと力を失い、やがて枯れてしまう――そんな現象が組織の中でも起きるのです。「褒める」とは単なるお世辞ではないここで大切なのは、「褒める＝おだてる」ことではない、という点です。コーチングでいうところの「承認（アクノレッジメント）」とは、事実を捉え、その行動や存在そのものを認めることを指します。たとえば、若手メンバーがプレゼン資料を一生懸命作ったとします。完璧とは言えない仕上がりだったとしても、こう伝えることができます。「この資料、非常にわかりやすかったよ。特にデータの見せ方に工夫があったね。時間をかけてよく練ってくれたのが伝わったよ。」ここでは、「成果」だけでなく、「努力」や「工夫」という行動を具体的に認めています。これが本当の意味での「褒める」です。そして、認められた側は、自らの存在意義を感じ、さらにチャレンジするエネルギーを得るのです。50代の私たちが持つ「見えない影響力」私たち50代のビジネスパーソンには、若手にはない「見えない影響力」があります。どんなに意識していなくても、発する一言、表情、態度が、周囲に大きなインパクトを与えているのです。特にマネジメント層に求められるのは「意図的な承認」です。「わざわざ言葉にするのは照れくさい」と思うかもしれません。しかし、そこをあえて乗り越え、意識的に「認める」言葉を発することで、組織の空気は驚くほど変わります。コーチングの理論でも、「言語化しなければ伝わらない」と言われます。心の中で思っているだけでは、相手には届かない。だからこそ、私たちは勇気を持って、言葉にしていく必要があるのです。小さな「承認」が生む大きな成果私がかつて支援したあるプロジェクトチームでは、朝のミーティングで「昨日一番頑張ったこと」を一人ずつ発表し、全員で拍手するというルールを取り入れました。最初は照れや遠慮がありましたが、数週間経つと、チーム全体の士気が目に見えて高まり、結果的にプロジェクトは想定以上の成果をあげることができました。大きな報酬や表彰だけがモチベーションを高めるわけではありません。日々の小さな「認める」という行為が、メンバーに安心感と挑戦意欲を与えるのです。50代から若手へのメッセージ私たち50代は、経験や知識とともに「人を育てる力」を磨いていくフェーズにいます。そしてその鍵は、「認める」という小さな行為にこそ隠されています。若手にとって、50代の私たちは未来のロールモデルです。「厳しさ」だけではなく、「あたたかさ」と「誠実な承認」を持って接することで、次の世代のリーダーたちは、より自立的に、しなやかに成長していきます。これからは、「何を教えるか」以上に、「どのように認め、引き出すか」が問われる時代です。ぜひ今日から、身近な誰かに「具体的な承認のひと言」を届けてみてください。未来の組織は、そこから確実に変わり始めます。