土曜日, 5月 17, 2025
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「職場で組織的に対応しなければ、非常に繊細で難しい問題なのに」…有名精神科医が”炎上”の発達障害本を読み解く



「職場で組織的に対応しなければ、非常に繊細で難しい問題なのに」…有名精神科医が”炎上”の発達障害本を読み解く

4月24日に刊行された『 職場の「困った人」をうまく動かす心理術 』(三笠書房)。

4月12日、著者である心理・産業カウンセラーの神田裕子氏が、Xで本書の告知をしたところ、「発達障害(ASD、ADHD)者を『困った人』として、サルやナマケモノなどの動物に分類するのは、当事者差別を助長する」などといった理由で、批判の声が殺到。

SNSでの炎上だけにとどまらず、「発達障害当事者協会」や一般社団法人「日本自閉症協会」なども同様に批判的な見解を表明した。

ただし、これらの騒動は本書が発売されていないときに起こったものだったが、炎上の背景について、精神科医で発達障害が専門の岩波明氏はどう捉えているのか。詳しい話を聞いた。

「職場によくいる困ったさん」を6タイプに分類

SNSで炎上したことで、4月18日、発行元の三笠書房はホームページで「事前告知の限られた情報の中で、ご不快な思いをされた方がいらっしゃった事実について、お詫び申し上げます」と謝罪。

著者である心理・産業カウンセラーの神田裕子氏も、『困った人』を動物にたとえたことについて、「愛おしいもの、ピュアなものの象徴としてとらえており、差別的な意図はまったくありません」としながらも、「動物にたとえたことで不快な気持ちになった方々がいることは事実であり、表現方法について、もう少し慎重に検討を重ねるべきであったと思っています」と見解を述べた。

また、装画を担当したイラストレーターの芦野公平氏も、謝罪した上で、今回のイラストに至った経緯などを自身のnoteで説明している。

本書は、性別・年齢を問わず、組織の中で、「能力があり、仕事を断らず、強い責任感を持つ人たち」を、周りを気づかうことができ、チームに貢献する意識を持つ「デキる人」「いい人」と定義。その上で、「自分の仕事を押しつけたり、無茶なことを言ったり、一方的に攻撃したりする人たち」=「職場によくいる困ったさん」を6つのタイプに分類している。

タイプ1「こだわり強めの過集中さん」

タイプ2「天真爛漫なひらめきダッシュさん」

タイプ3「愛情不足のかまってさん」

タイプ4「心に傷を抱えた敏感さん」

タイプ5「変化に対応できない価値観迷子さん」

タイプ6「頑張りすぎて心が疲れたおやすみさん」

相手のタイプや行動の傾向を知った上で、対応マニュアルやトリセツを活用し、「職場によくいる困ったさん」から身を守るテクニックを紹介する、という内容だ。

発達障害をアニメで描くのはOK?

「職場によくいる困ったさん」を動物にたとえた箇所について、岩波明氏はこう指摘する。

「実は本書では、『ADHD=サル』『ASD=ナマケモノ』とはっきり分類する記述はありません。『発達障害者=動物』と見立てたイラストを批判している意見もあったようですが、個人的には過剰反応だったように思います。

たとえば、ディズニーとピクサーによる映画『ファインディング・ニモ』の続編『ファイディング・ドリー』は、忘れんぼうのナンヨウハギ『ドリー』が、幼い頃に離れ離れになった両親を探しにいく物語。

ドリーは知能が高いものの、数秒前のことをすぐ忘れてしまうADHDのキャラクターとして描かれています。やがて、自分の弱点だと思っていた『忘れっぽさ』が自分の強みだと気づき、無事家族との再会を果たします。この作品のように発達障害の人を動物として描くこと自体は、おかしなことではありません。

ほかにも、1997年、精神科医の司馬理英子さんが、ADHDの特徴である『注意欠陥』、『多動性』、『衝動性』などの症状がドラえもんのキャラクターであるのび太とジャイアンにみられることから、『のび太・ジャイアン症候群』と命名して、ADHDをよりわかりやすいように紹介した事例もあります。

発達障害者をアニメのキャラクターになぞらえる手法は、これまで取られてきました。それらに比べて、今回動物のイラストで発達障害者を表現したことが、当事者を差別しているようには感じませんでした」(岩波氏、以下同)

中身を読まずに批判するのは不誠実

動物のイラスト問題以外にも、「『発達障害者=困った人』と分類すること自体が差別を助長する」といった指摘に対して、岩波氏が続ける。

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「本書は必ずしも『発達障害者=困った人』と言いたいのではなく、困った人の中にも発達障害の特性がある人もいるため、そのような場合、パターン別に分けた上でどう接するべきかを解説している本だと、私は捉えました。

これは現実として、仕事のパフォーマンスには差が出てしまうこともあることなので、そこを指摘してはいけないというのも逆に差別的と言えます。

また、根本的な問題として、私が監訳を務めた『トランスジェンダーになりたい少女たち』(産経新聞出版)のケースでも、発売直前に『トランスジェンダー当事者への差別を助長する』とのことで、放火予告までされる大騒動になりました。

もちろん批判するのは言論の自由の範囲内で当然認められることですが、そもそも本書の中身をしっかり読まずに批判するのは不誠実ではないでしょうか」

同僚にできることは少ない

「発達障害者に対する差別的な意図は感じられなかった」と語る岩波氏だが、本書のメインテーマである「職場の『困った人』への対応方法」に関しては、こう指摘する。

「『職場にいる発達障害者への対応方法を指南する本を書いてください』という依頼は、私も過去に何度も受けたことがあります。編集者からは、「同僚の視点で書いて欲しい」と言われたのですが、結論として、同僚の立場でできることは非常に限られているので、すべてお断りしてきました。

というのも、組織的に対応しなければとても繊細で難しい問題だからです。管理職の立場の人が労務評価をした上で、『病院に行きなさい』と指示することは場合によってはあり得ます。

しかし、権限もない同僚が「病院に行ったら?」などと勧めることはなかなかできないでしょう。本来の会社側の対応としては、発達障害や精神疾患の従業員がいる場合、まず産業医を受診することを勧めて、それから必要に応じて精神科に受診させるというルートが一般的。

同僚の立場で、対応策が書かれた書籍は、過去にも出版されているはずですが、あまり実用的ではありません」

本書が伝えようとしたのは、「困った人」への理解と対応策であり、発達障害や精神疾患を持つ人への差別を助長する意図ではなかったというが、そのいっぽうで、差別と感じた当事者がいたことも確か。炎上に流されるのではなく、その背景や原因についてあらためて冷静に分析・評価する視点が、現代社会において必要なことではないだろうか。



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🧠 編集部の感想:
このニュースを通じて、発達障害に対する意識の変化と、それに伴う表現の難しさを感じます。著者の意図が明確であっても、受け手の解釈には大きな差があることを実感しました。職場での理解促進には、より慎重で包括的なアプローチが求められると思います。

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