木曜日, 5月 15, 2025
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「秘密結社鷹の爪」の吉田くん、なぜAIVTuber化? 仕掛け人に聞く、AI×IPが生み出す“新たなエンタメのカタチ”


2025年3月17日から3月31日までの期間、Pontaパスのニュース動画を毎日配信するAI VTuber「吉田くん」の実証実験が実施された。AI技術と人気IPの融合により、単なる情報配信ではなく、キャラクターの個性や世界観を活かし、親しみやすさと面白さを追求した“楽しめるニュース”を目指したこの取り組みから、AI時代の新たなエンタメの可能性を探っていく。

 今回は本プロジェクトに関わったKDDIの川本大功氏、佐野学氏、AI VTuberの動画制作を担当したDLEの成島宏平氏、椎木秀樹氏、そしてFROGMAN氏にAI VTuberの将来性や新たなエンターテインメントのカタチについて、たっぷりと語ってもらった。

「ただのAIじゃない」。親しみやすさを追求した動画コンテンツ

ーーまずは、今回のAI VTuber「吉田くん」によるPontaパスニュース動画の実証実験について概要を教えてください。

川本大功(以下、川本):今回の取り組みは、DLEさんの人気アニメ『秘密結社 鷹の爪』のキャラクター「吉田くん」をAI VTuberとして起用し、Pontaパスに関するトピックを中心としたニュース動画を、3月17日から31日までの期間中に毎日1本ずつ配信するという企画でした。

 ただ、Pontaパスの情報を一方的に伝えるだけではプロモーションの側面が強くなりすぎてしまうため、「今日は何の日?」や「怪人占い」といったエンタメ要素のコンテンツを盛り込むことも意識しました。

 AI VTuberの企画背景については、もともと社内で「AIで何か面白いことをやりたい」という話もあったものの、やはりAIで合成音声を使っただけのコンテンツでは、どうしても共感やエンゲージメントが生まれにくいという課題を感じていました。

 そこで、キャラクターとしての魅力やファンとの関係性を持つ「吉田くん」とAIを組み合わせることで、“楽しめる情報”としてユーザーに届けられるのではと思うようになりました。今回、AI VTuber「吉田くん」の音声モデルにFROGMAN(小野 亮)さんを起用したことで、Pontaパスのユーザーだけでなく、鷹の爪ファンにも楽しんでもらえるように工夫しました。

 今後も、Pontaパスでは日々変化するクーポンや読み物コンテンツがあるので、こうした動画コンテンツを活用して、ユーザーにわかりやすく、親しみを持って情報を届けていきたいと考えています。

佐野学(以下、佐野):Pontaパスは、もともとauの会員様が約1500万人利用している「auスマートパス」を、KDDIからローソンさんへの出資・提携を受けて2024年10月にリニューアルしたものとなっています。以前よりも日常的にサービスを使いやすくなり、ローソンで人気の「からあげクン」などと引き換えられるクーポンを中心に、有料サブスクリプションとして新たな特典をご提供しています。

 しかし、サービスとして提供する情報が増えてきたことで、「お得な情報が多すぎて逆に伝わりにくい」という課題も出てきました。そこで今回、AI VTuberを使った動画というフォーマットを導入することで、ユーザーがわざわざ自分からクーポンを探しにいかなくても、動画を見るだけでお得なクーポン情報が分かるような体験を提供できたらと考えたのです。

 また、これまではauショップなどでの案内が中心でしたが、より広い層に向けて認知を獲得するべく、人気IPである「秘密結社 鷹の爪」の「吉田くん」とコラボすることで、サービスの認知を広げていくことを狙っていました。

川本:Pontaパスのプロモーションでは、いままでもweb3の技術を活用した取り組みなど、テクノロジーを積極的に取り入れてきました。ただし、「こんなすごい技術使ってます!」と声高にアピールするようなことはしておらず、あくまで“さりげなく”活用するスタイルを大事にしています。今回のAI VTuberも、AIチャットボットのような方向には振らず、親しみやすくて毎日気軽に見られるシンプルな動画コンテンツに仕上げたのがポイントです。

ーーDLEが今回の実証実験に関わった背景を教えてください。

FROGMAN:DLEは、よくアニメの会社と誤解されるんですが、我々が本当に大切にしているのは、新しい技術をいち早く取り入れ、まだ誰もやっていないことに挑戦するというスタンスです。これは創業以来ずっと変わっていません。たとえば20年前、「Flash」がネット上の遊びとして使われていたころに、我々はFlashを使ってテレビアニメを放送するという、当時では前例のない挑戦をしました。

 その後も、YouTubeに日本のアニメを初めて公式にアップしたりと、常に一歩先の未来にトライしてきた歴史があります。

 そしていまAI時代が到来するなかで、エンタメ業界では「AIが自分たちの仕事を奪う」「著作権の問題がもっと複雑になる」といった不安の声が多く聞かれます。でも、私自身はAIによる変革をむしろ歓迎しています。というのも、僕のキャリアの出発点は実写映画で、しかもフィルム撮影が当たり前だった時代から、HDやデジタル技術への移行をリアルタイムで経験してきたからです。

 映画のデジタル化における転換期では「デジタルなんて使えない」と反発する声も多かったものの、いまではフィルムにこだわる人はほとんどいなくなりましたし、そもそもフィルム自体が市場に出回らなくなっています。そうした過去を踏まえると、AIも同様に「新しいスタンダード」になっていくと思いますし、それに対して前向きに付き合っていく姿勢が大事だと感じています。

 私もいままでずっと、いろいろな技術の登場をリアルタイムで見てきたからこそ、技術革新は新しい「仕組み」や「文化」そのものを作っていくものだという実感があります。今回のAIも、「これは絶対に乗り遅れたらまずい」と強く思っていたこともあり、ぜひご一緒したいと考えていました。

成島宏平(以下、成島):AIの技術は日々進化しており、アニメビジネスにおいてもAIは不可欠な存在となりつつあると感じています。私たちもその変化をしっかり受け止め、AIとどう共存し、よりよい未来を創っていけるかを探りながらチャレンジを続けているなかで、KDDI様と、「キャラクター×AI」の可能性を探るために今回の実証実験をご一緒するかたちとなりました。

 私たちがとくに注目しているのは「AIにキャラクター性を持たせること」が非常に重要だという点です。今回の実証実験もその一環ですが、私たちはすでにほかのIPでも、AIキャラクターがユーザーとリアルタイムで会話しながら配信を行う“完全自立型の雑談”のような取り組みも行っています。

 AI VTuber「吉田くん」の事例では、喋り方に個性を持たせたりと、AIにどうキャラクターの人格を反映させるか。AIが作るひとつのコンテンツとして、どこまで「吉田くん」らしさを出せるかというのが大きなテーマでした。

 今後、私たちが見据えている未来では、AIキャラクターたちが自らストーリーを考え、会話し、寸劇や番組のようなコンテンツを自動的に演出・生成していくようになると考えています。人間は、それを撮影するだけというような、制作のあり方そのものが大きく変わっていく時代が、もうすぐそこまで来ているのではと感じています。

 今回はPontaパスニュースのようなかたちで展開しましたが、さらに発展させてAIキャスターによる朝のニュース番組のようなコンテンツも実現できるのではと考えています。たとえば、「吉田くん」がメインキャスターとして登場し、ほかのキャラクターとともに、AI同士の自然な掛け合いで番組を進行する未来像も見え始めています。

 私たちは「秘密結社 鷹の爪」のキャラクターを使って、ニュースや社会問題をゆるく解説する動画も多く制作してきましたが、これまでは、人間がシナリオを書いて、声優の役割分担を決めていました。それが将来的にAIだけで完結できるようになれば、登場するAIキャラクターの個性や立場をより明確化して、それぞれ異なる意見を持ちながらディスカッションする「討論番組」を作ることも可能になるでしょう。


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ーーその一方で、バックグラウンドがあるキャラクターの設定は無視できないというか。「これは言わない」「政治的な言及は控える」などのクオリティコントロールは、まだまだAIには難しいと問題だと言われていますよね。

成島:まさにいま、課題に直面している事例ですと、YouTube登録者100万人を超える人気チャンネル「そろ谷のアニメっち」のVTuberキャラクターである「ケツアゴ姉さん」が、コンテンツの方向性について慎重な見直しを迫られているんですよ。過激な発言をしすぎたのが原因かと思うのですが、これは予想外の大誤算でして(笑)。

 本来であれば、すでに収益化が安定していてもおかしくない状況だったんです。そのため、現在は「いかに過激すぎず、キャラの魅力を失わないようにするか」というバランスのチューニングに日々励んでいます。

椎木:そうなんですよね。成島から話が出たように、「ケツアゴ姉さん」は面白さを追求しすぎるあまり、ちょっと“攻めすぎた”コンテンツになってしまっていて(笑)。その表現をどこまでコントロールするかがいまの課題になっています。

 現在、LLM(大規模言語モデル)を制御する手法としては外部のデータベースを参照させるRAG(検索拡張生成)を用いるやり方のほか、ファインチューニングによって専用のモデルを作る方法やプロンプトを調整する方法などがあります。

 「ケツアゴ姉さん」はIPとして立ち上がったばかりで情報量も少なく、まずはプロンプトベースで状況の設定だけを行い、会話を制御しているというのが現状です。そのぶん、制御が難しいところもありますが、できる範囲で面白さとバランスを模索している段階ですね。

 ですが、すでに長く運用しているIPついては、RAGのデータベースを併用し、よりキャラクターらしい応答を返すように工夫しています。もちろん、レスポンス速度やコスト面ではデメリットがありつつも、キャラクターらしさや制御の精度は大きく向上します。

 今後は適切なファインチューニングも含めて、IPの成長度合いや事業の将来性を見ながら、どういった技術をどのようにして取り入れていくべきかを適宜判断していこうと考えています。

ーー今回のAI VTuber「吉田くん」の動画は、自動生成で作られていると伺っていますが、制作において工夫した点や心がけたことはありますか?

川本:今回の流れとしては、まず私たちが「伝えたい内容」を企業様とも相談しながら文章にまとめ、それをDLEさん側でキャラクターに落とし込み、さらに合成音声で喋らせることで音声ファイルを作成しています。そして、その音声をベースに動きを加えて動画を完成させる制作フローになっています。

 この仕組みによって、ひとりのキャラクターがニュース番組のような形式で企業の伝えたい情報を自然な語り口で話すというスタイルが実現できたと感じています。こうしたかたちで、「企業の情報を日常生活のなかで親しみやすく届ける」という新しい情報発信のスタイルをさらに広げていきたいと思っています。

 また、AI×動画コンテンツが、これからより日常的に活用されていくなかで、「通信」というインフラの重要性が、これまで以上に高まっていくと感じています。そうなってくると、5Gのような高速かつ安定した通信環境が、ユーザー体験の質を大きく左右していくんですよね。今回のプロジェクトでも、動画を毎日配信するという運用を想定している点から、コンテンツの「量」と「質」の両面を通信環境で支えていて、AI技術と通信インフラの連動性というのも、大事なテーマとして意識していました。

AI時代にはすべてのコンテンツにエンタメを融合させていく「EoT」の考え方が重要

ーーありがとうございます。最後に 将来の展望についてお聞かせください。

川本:これまでの弊社の取り組みとしても、「スマパ課長」や「スマパ部長」といった実在の社員をキャラクター化し、映画館で上映されるコンテンツに登場させるケースもありました。そうした例のように、新たにオリジナルキャラクターを立てて情報発信を行うという展開も視野に入れていければと考えています。

 日本の優れたキャラクター資産やIPとテクノロジーを掛け合わせ、国内外の企業に「日本のコンテンツは面白い」と感じてもらえるような、魅力的なコンテンツを生み出していきたいですね。

椎木:今回はPoC(実証実験)の位置づけで取り組んだこともあって、音声生成や原稿の部分は基本的に自動化されている一方で、一部の動画部分はどうしても人の手が入っているというのが前提になっています。しかし、システム的にはほぼ組める状態で、「ケツアゴ姉さん」で開発した仕組みを応用すれば、すぐにでも自動化のフローを回せる手応えを感じています。

 最終的には、原稿を入力すれば音声が自動で生成され、その音声に連動して動きも自動で反映されて動画が出来上がるという、一連の流れを一気通貫で完結する仕組みを目指しています。

FROGMAN:うちの元代表が「IoT(モノのインターネット)」になぞらえて、すべてのコンテンツにエンタメを融合させていく「EoT(エンターテインメント・オブ・シングス)」という言葉を使っていました。

 AIが進化してくる時代において、そういったアプローチがより一層求められると思っています。今回のKDDIさんとの取り組みもその一環で、原稿の生成などAIを多方面に活用し、僕らがどこまで省力化できるかという実験的な挑戦でもありました。その中でたくさんの気づきと学びが得られて、本当に価値のある取り組みになったと感じています。これからも、常に時代の先端をいく姿勢を大事に、新しいエンタメのカタチを追求していきたいですね。

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古田島大介

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、ライフスタイル、エンタメ、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。

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編集部の感想:
AI VTuber「吉田くん」の登場は、エンターテインメントの未来を感じさせる新しい試みですね。人気キャラクターを活用することで、親しみやすさと情報提供を両立できる点に期待が高まります。AI技術の進化が、今後どのようにコンテンツと融合していくのか見守りたいです。

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