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ホームレビュー映画「疎外と共鳴の中で咲く花――恩田陸『Spring』の読んでの感想」らいざ(Hitoshi.H)

「疎外と共鳴の中で咲く花――恩田陸『Spring』の読んでの感想」らいざ(Hitoshi.H)

🧠 あらすじと概要:

あらすじ

恩田陸の『Spring』は、バレエダンサー兼振付師の少年、萬春(よろず はる)を中心に描かれる物語です。春はその才能ゆえに学校のコミュニティの中で疎外感を感じ、居場所を探し続けます。本作は、個が協調し合い、競争ではなく“共鳴”による成長をテーマにしており、春と周囲の仲間たちが互いを高め合う過程を描いています。また、性別やステレオタイプを超えた表現の美しさも重要な要素となっています。特に、他者との協力や、共に創り上げる喜びが強調される構成が特徴的です。

記事の要約

この記事では、著者が『Spring』を通じて感じたことをまとめています。主人公の春の疎外感は、学校の協調性重視の環境と重なり、特異性を活かすことの重要性を強調しています。また、作品が描くバレエの舞台は仲間との共鳴の場であり、競争ではなく互いを高め合う関係の大切さを示唆しています。さらに、春を通じて伝えられる「変わらずに変わり続ける」こと、そして性別を超えた身体表現の美しさが述べられており、学校現場における個性や多様性の重要性も強調されています。全体を通じて、共同創造の喜びや過程の大切さを再認識させてくれる作品として締めくくられています。

「疎外と共鳴の中で咲く花――恩田陸『Spring』の読んでの感想」らいざ(Hitoshi.H)

らいざ(Hitoshi.H)

2025年6月3日 06:37

今日も 本屋大賞ノミネート作品の読書感想を記事として書いていこうと思います。

いくつか書いてるので過去記事もどうぞ!

お気に入りの習慣としての読書と出会い

ジム帰りにプロテインを飲みながら恩田陸さんの『Spring』を読み終えての感想をぼーっと考えていました。

これで本屋大賞ノミネート10作品のうち9作品を読み切ったことになります。

いやー、本当にどれも読み応えがありましたが、『Spring』は特に違う景色を見せてくれました。

今日はその感想をまとめます。

異質な才能のもたらす疎外感と魅力

主人公は萬春(よろず はる)という、バレエダンサー兼振付師の少年。

春のように中性的で圧倒的なセンスを持つ人は、学校というコミュニティの中でしばしば「居心地の悪さ」を感じますよね。

僕も教員として日々、児童生徒の「協調圧力」に触れる機会が多く、「みんなと同じでなければならない」という呪縛に苦しんでいる子を見かけることがあります。

春もまた、そうした環境で居場所を探し続けるひとりでした。

同時に、彼は「才能」という他者にない希少性を持つがゆえに、クラスの「普通」とは違う見え方をされます。

現代の日本の学校では、とかく協調性や画一的なルールを重視しがちですが、その枠組みからはみ出す子どもが「浮いてしまう」こともあります。

春が感じた疎外感は、学級集団の中で息苦しさを抱える生徒たちと重なる部分があると感じました。

協奏──競争ではなく“共鳴”による成長

『Spring』の面白さは、バレエの舞台が「仲間と共鳴し合う場」として描かれていること。

主人公だけでなく周囲の同期や師匠、おじさん、作曲を担当する仲間……誰もがライバルというより「スプリングボード」として互いを高め合っていく。

学校でも、部活動や行事などで切磋琢磨しつつ、誰かを蹴落とすわけではなくお互いを伸ばし合う関係があると、子どもたちの目は生き生きします。

でも同時に、中には勝ち負けを気にしすぎて仲間に対する嫉妬や差別意識を抱く子もいます。

『Spring』ではむしろそうしたネガティブな競争を排し、創造の喜びだけを純粋に描いている。

まるで「部活動における理想郷」を垣間見せてくれるかのようでした。

「変わらずに変わり続ける」という生き方

作品中でも度々出てくるフレーズ、「変わらずに変わり続けていく」。

僕は普段からこれを大事にしていると言っているので、思わず膝を打ちました。

学校現場でも、「なんとなく合わない」「集団からはみ出す」子ほど、自分にしかない感性を秘めていることがあります。

まさに、その独自性こそを深め続けることで人は成長するのだというメッセージを、春は体現していました。

目先の結果や順位でなく、内面の深さを追い求める「縦方向の成長」という考え方を、学校教育に取り入れられたらいいな、と感じます。

バレエ×多様なジェンダー観

『Spring』にはジェンダーへの言及もありました。

春は性別を超越する美を体現しており、バレエ界では「王子でも妖精でも演じられる」存在です。

学校の体育やダンスの授業で「男子はこっち、女子はこっち」と区別されることに違和感を持つ子どもたちは少なくありません。

僕のクラスでも過去に「ダンスが好きだけど、男子だから笑われるかも……」と悩む子がいて、その子にとって春は励みになる存在のはずです。

性別やステレオタイプに縛られず、自分の身体表現を追求することの美しさを、恩田さんは自然に描いてくれています。

学校で抱える「多様性」と「競争」のはざま

僕が教員として感じるのは、「〇〇しなければならない」という価値観が学校現場でも強く、肝心の個性や多様性が置き去りになってしまうことです。

例えば、体育祭で全員リレーに出ないといけないとか、部活動で先輩後輩の序列が厳しすぎたり……そういう圧力があると、本来の才能や「好き」で動く子どもたちの足かせになってしまいます。

でも『Spring』の舞台では、誰もが自由に自分だけの表現を追求し合い、そこに喜びを見出している。そんな理想郷が小説の中にあることが心強かったです。

まとめ──競争原理を超えた新しい共同体

『Spring』は「他人を打ち負かす」のではなく「他者を踏み台にする」ことで各々が高みへと跳び上がる物語です。

現実の学校では刻々とテストや進路のプレッシャーが襲いかかり、どうしても順位や合否が重視されがちですが、この本を読むと「共同で創る喜び」「仲間と響き合う喜び」のほうが大切なんじゃないかと思えてきます。

僕自身、子どもたちには「結果だけじゃなく過程を大事にしよう」と伝え続けていますが、『Spring』はまさにその「過程の喜び」を描き出してくれる一冊でした。

舞台が終わった後の余韻のように、心に静かな満足感が残る作品です。

というわけで、今日の記事はここまでになります。朝井リョウさんの「生殖紀」も読んだのでその感想も記事に書きたいと思います。

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