
常に高い成果と自己実現を求められる現代では、無意識に膨らむ欲望を制御しきれず、精神的な苦悩に直面することが少なくありません。そこで参考になりそうなのが、古来より続く仏教の知恵を生かしたアプローチです。欲望がもたらす苦しみの根源を明らかにし、老病死という避けがたい現実も含む厳しい現実と向き合いながら、どうすれば心の安定を得られるようになるのか。その具体的なヒントを、気鋭の若手住職である仁部前誠氏、 仁部前叶氏が新刊『やわらか仏教』(青春出版社)から教えてくれます。
苦しさの原因となる「満たされない欲望」の扱い方
「苦しみ」はなぜ生まれるのでしょう? 人は誰にでも欲望や煩悩があり、腹が減れば「おなかいっぱい食べたい」と思い、欲しかったものが手に入れば「これは自分のものだ」とうれしくなります。
ただし、この世は諸行無常、諸法無我。喜んだのもつかの間、手に入ったモノはスルリと逃げていくし、形あるものは必ず壊れます。
それなのに、私たちは都合のいいことは見たがり、見たくないことは見ようとしません。いざ見たくないことに直面すると、あわてたり苦しくなったります。
人生最大の“都合の悪いこと”といえば、「四苦(=生老病死)」です。必ず誰の身にも起こる「老病死」ですが、多くの人はこれを遠ざけたがります。死の話題を「縁起でもない」と忌み嫌う人もいますね。
科学や医学の進歩が著しいこの時代、老病死が不変の理であることが見えづらくなることがあります。でも、私たちの肉体も「諸行無常、諸法無我」なので、いつか必ずなくなります。その真実から目を背けていると理想と真実とのミゾが広がり、結果として苦しみは深くなります。
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