水曜日, 5月 7, 2025
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「木」と「トウモロコシ」で油汚れを落とせる洗剤を作ることに成功!


毎日の洗濯や食器洗いに欠かせない洗剤ですが、その有効成分である合成界面活性剤などは分解されにくく、水域で藻類の異常繁殖(いわゆるアオコや赤潮)を引き起こす環境問題が指摘されています。

中国の天津科技大学(TUST)で行われた研究によって、木材から得た極細のセルロース繊維とトウモロコシ由来のタンパク質を組み合わせて作った環境調和型の新しい洗剤が報告されました。

この「天然素材」洗剤は衣類や食器の油汚れを市販の合成洗剤に劣らないほど効果的に落とせることが示されています。

この完全な生分解性で肥料にもなりそうな洗剤は私たちの日常をどこまで変えてくれるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年02月18日に『Langmuir』にて発表されました。

目次

  • 生物由来の洗剤はできるのか?
  • 木とトウモロコシから生まれた「土に還る」洗剤
  • “油を鎧う粒子”が示した脱・化学洗剤の道筋

生物由来の洗剤はできるのか?

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Credit:Canva

市販の洗剤には石油由来の合成界面活性剤(アルキルフェノールエトキシレートやアルキルベンゼンスルホン酸塩など)が含まれ、リン酸塩などの助剤も配合されています。

これらの製造工程や使用後の排水は環境への負荷が大きく、特にリン酸塩は水辺の富栄養化を招いて水質悪化の原因となります。

また、近年問題視されているマイクロプラスチック汚染にも、洗剤や柔軟剤に含まれる香料のマイクロカプセルなどが一因となりえます。

例えば衣料用洗剤に使われる微細なプラスチック製マイクロカプセルは、香り成分を放出した後も環境中に残留し、生態系を汚染し続けます。

こうした背景から、家庭用品の環境影響に対する関心が高まり、合成界面活性剤やリン酸塩を含まない天然由来の洗浄剤が求められてきました。

しかし従来の「エコ洗剤」は生産が難しく洗い流しにくいものも多く、製造コストや価格が高かったり、洗浄対象の素材(衣類や食器など)を傷めてしまうケースもありました。

実際、市販されている天然系の洗剤は植物由来のサポニン(界面活性剤)など限られていますが、生産性の低さやウール・シルク製品へのダメージ、皮膚への刺激性など課題も指摘されています。

そのため低コストで大量生産でき、環境や洗浄対象に優しい効果的な代替洗剤の開発が望まれていました。

近年、界面活性剤を使わず固体粒子で油と水の混ざりにくい液体を安定化させる「ピッカリングエマルション」と呼ばれる技術が注目されています。

微細な粒子(ナノ粒子)は油水界面に自己集積して堅固な膜を作り、油滴の再凝集を防ぐことができます。

この原理を利用すれば、化学合成の界面活性剤を使わずに汚れを乳化・除去でき、低コストかつ環境への負荷が小さい洗浄剤につながると期待されています。

実際、粘土由来のハロイサイトナノチューブを用いた研究では、布や食器の汚れ落とし性能が市販洗剤を上回るという報告もあります。

セルロースナノ繊維は植物から得られるバイオナノ材料で、親水性と疎水性の両面を持つことからピッカリングエマルション用の粒子として有望視されてきました。

しかし単独のセルロース繊維では表面に親水性の官能基が多く油とのなじみが足りないため、従来は化学修飾で疎水性を付与する必要がありました。

そこで中国・天津科技大学のPengtao Liu氏ら研究チームは、化学薬品を使わず“物理的”な方法でセルロースナノ繊維の表面特性を変え、ピッカリング効果によって油汚れを落とす新たな洗浄剤の開発に挑みました。

木とトウモロコシから生まれた「土に還る」洗剤

木とトウモロコシから生まれた「土に還る」洗剤
木とトウモロコシから生まれた「土に還る」洗剤 / Credit:Wenli Liu et al . Langmuir (2025)

研究チームはまず、木材パルプ由来のTEMPO酸化セルロースナノ繊維(繊維径数ナノメートル程度)と、トウモロコシ由来の疎水性貯蔵タンパク質であるゼインを組み合わせました。

ゼインはアルコールに溶ける性質を持つため、エタノール溶液中でセルロースナノ繊維と混ぜてから水中に徐々に希釈することで、セルロースナノ繊維表面にゼイン粒子を吸着・複合化させたゼイン/セルロースナノ繊維複合ナノ粒子を調製しました。

この複合粒子水分散液は界面活性剤を含まずとも安定な油水エマルションを形成でき、いわばセルロースナノ繊維が油汚れに“吸着しやすく”、ゼインが油滴を捕まえて閉じ込める役割を果たします。

その結果、油汚れを水中に取り込みやすい洗剤となるのです。

研究チームはこのゼイン/セルロースナノ繊維洗剤の洗浄メカニズムについて、「洗浄中、複合粒子が徐々に油と水の界面に集まり、油汚れが素材表面から引き剥がされる。いったん油滴が粒子で安定化されると、再び素材に付着するにはより大きなエネルギーが必要になるため、汚れが再付着しにくくなる」と説明しています。

従来の界面活性剤とどうメカニズムが違うのか?

従来の界面活性剤は、油が苦手な水に“潤滑剤”を差し込むイメージで、両端が油好きと水好きの分子が油膜に潜り込み表面張力を下げて汚れを溶かします。対して木由来セルロースとトウモロコシたんぱく質を合わせた新洗剤は、米粒より小さなナノ粒子が油滴の表面にビッシリ貼りつき、硬いコートを作って水中に浮かべてしまいます。つまり前者は化学的に「油を溶かす」のに対し、後者は物理的に「油を包んで引き剥がす」ため、界面活性剤を使わずに済み環境への残留も最小限で済むわけです。

開発した洗剤の性能を評価するため、綿布および食器に付着した頑固な汚れを使った比較実験が行われました。

綿布試験ではインク、チリソース、トマトペーストで染色した布を用意し、ゼイン/セルロースナノ繊維洗剤(水中濃度1%および5%、温水超音波洗浄40分間)で洗った場合と、市販の洗濯用洗剤(濃度1%)で洗った場合を比較しました。

その結果、濃度1%では新洗剤の布のシミ除去効果は市販洗剤にわずかに劣る程度でしたが、濃度5%まで増やすとインク・油汚れとも市販洗剤(1%)を上回る洗浄効率が得られました。

例えば布に付いたこれらのシミを定量評価したところ、新洗剤5%ではすべて約95%以上除去できたのに対し、市販洗剤1%では90%前後の除去率にとどまりました(インク汚れで顕著)。

洗浄後の布地を電子顕微鏡で観察すると、新洗剤5%で洗った場合でも布の繊維表面に洗剤粒子の残留は確認されず、繊維構造へのダメージも見られませんでした。

これはすすぎ時に複合粒子が布から完全に洗い流されていることを意味し、新洗剤が布地を傷めにくいことを示唆します。

台所用洗剤としての効果も調べるため、同様に陶器、ステンレス鋼、ガラス、プラスチック製の皿に付着させた頑固なチリ油汚れでテストが行われました。

こちらも新洗剤1%と市販食器用洗剤1%では汚れ落ちの程度はほぼ同等でしたが、新洗剤5%では明らかに洗浄効果が向上しました。

特にステンレス製の皿では、新洗剤5%液で油汚れの92%が除去され、市販洗剤1%液の87%を上回りました。

複合粒子による油汚れの物理的な除去効果が、通常の合成界面活性剤を用いた洗剤と同等以上に発揮されたことになります。

さらに布地の場合と同様、複合粒子は洗浄後に皿表面へ残らず洗い流され、洗浄後の皿に目立つ跡は残りませんでした。

実験では布の「白さ」の保持効果、つまり汚れの再付着防止効果についても評価されています。

市販洗剤で洗濯した場合、わずかに布がくすんで白さが損なわれる現象が見られましたが、新洗剤5%で洗った場合は白度の低下が市販品より小さく抑えられました。

これはゼイン/セルロースナノ繊維粒子が汚れをしっかり捕捉し再付着させないためで、汚れ移りによる布のグレー化(黄ばみ)が起きにくいことを示しています。

以上の結果から、十分な濃度で用いることで本開発の天然系洗剤が布地や食器に対して総合的に市販合成洗剤と同等かそれ以上の洗浄性能を示すことが確認されました。

“油を鎧う粒子”が示した脱・化学洗剤の道筋

“油を鎧う粒子”が示した脱・化学洗剤の道筋
“油を鎧う粒子”が示した脱・化学洗剤の道筋 / Credit:Canva

木材由来のセルロースナノ繊維とトウモロコシたんぱく質という再生可能資源から作られた本洗剤は、生分解性が高く環境中に残留しにくい点で大きな利点があります。

万一洗浄後に微量が下水中に流出しても、天然の繊維素や蛋白質であれば最終的に微生物によって分解され、従来問題となっていたような難分解性の合成化学物質や微小プラスチックを環境中に残す心配がありません。

また本洗剤は油汚れを物理的に浮き上がらせて除去するしくみのため、化学的な界面活性剤に比べて素材表面へのダメージが少なく、衣類の色落ちや繊維劣化、肌への刺激を抑えられる可能性があります。

実際、洗浄後の布に複合材料の残留が見られず繊維構造へ影響しないことが確認されており、安全に使用できることが示唆されます。

加えて原料が豊富で安価に入手できる点も重要です。

セルロースナノ繊維は木材パルプから大量生産が可能で、日本を含む各国で実用化研究が進む素材です。

ゼインもトウモロコシ由来廃棄物から得られる副産物として工業利用されています。

研究チームは、これら身近な生物資源から作った新洗剤は「安全で費用対効果が高く、持続可能な市販洗浄剤の代替となり得る」と述べています。

一方で課題として、本洗剤は十分な洗浄効果を発揮するため比較的高い濃度(本研究では5重量%)が必要だった点が挙げられます。

市販の合成洗剤は通常0.5~1%程度の希釈濃度で使われることが多いため、同等の条件で性能を発揮するにはさらなる改良が望まれます。

例えば、セルロースナノ繊維とゼイン複合粒子の比率やサイズを最適化することで、より低濃度でも汚れへの付着力を高める工夫が考えられます。

また今回は超音波洗浄機や静置による実験でしたが、実際の洗濯機や食洗機などの動的な環境での性能評価も今後の課題です。

今後は酵素や他の天然洗浄成分との組み合わせによる相乗効果の検討や、ゼイン以外の生分解性粒子との組み合わせなど、実用化に向けた発展も期待できます。

環境に優しく、しかも汚れ落ちのよい洗剤は多くの消費者が望むところであり、本研究で提案されたピッカリングエマルション型の天然洗剤はその有力な候補となりそうです。

研究チームの成果は、合成界面活性剤に依存しない次世代の洗浄技術の可能性を示すものと言えるでしょう。

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元論文

Physical Cross-Linking of Cellulose Nanofibrils with Zein Particles as an Eco-Friendly Detergent
https://pubs.acs.org/action/showCitFormats?doi=10.1021/acs.langmuir.4c04398&ref=pdf

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

フラッグシティパートナーズ海外不動産投資セミナー 【DMM FX】入金

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