ついつい「ちょっとの運動で健康になれる」なんて甘い言葉に惑わされてしまうかもしれません。
しかし、現実はそんなに甘くないようです。
オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)の研究チームが、7万人以上を対象にした研究で、座りっぱなしの負債を軽減するために必要な「毎日の歩数」を明らかにしています。
この研究の詳細は、2024年3月8日付の『British Journal of Sports Medicine』誌に掲載されています。
目次
- 長時間座りっぱなしの現代人たち――健康リスクが高まっている
- 座りっぱなしに対抗するには「毎日9000歩」必要だった!?
長時間座りっぱなしの現代人たち――健康リスクが高まっている
現代社会では、デスクワークで仕事をしている間も、ソファでドラマを見ている間も、通勤で移動している間も座っています。
多くの人が一日の大半以上を座って過ごしているのです。
しかしこうした「座りっぱなし」の生活を続ける人は、肥満、糖尿病、心疾患の割合が高いことで知られており、死亡リスクを大幅に上昇させることが指摘されてきました。
では、座りっぱなしの負債を軽減するためには、どれほどの運動が必要なのでしょうか。

シドニー大学の研究チームは、英国の大規模研究データベース「UK Biobank」を用い、7万2174人を対象に、座り時間に応じた1日に必要な歩数を調査することにしました。
参加者には「Axivity AX3」というデバイスを手首に着用してもらい、7日間連続して歩数や座り時間を記録。
その後、歩数、座り時間、死亡率、心血管疾患(CVD)発症率との関係性を精密に分析したのです。
分析には、年齢や性別、食習慣、健康状態の情報も考慮されています。
さて、どんな結果が待っていたのでしょうか?
座りっぱなしに対抗するには「毎日9000歩」必要だった!?
研究の結果、座り時間の1日平均は10.6時間でした。
そのため、この時間を基準として、座っている時間が長いグループと短いグループに分けられました。
そして研究チームは、「座りっぱなし」の生活習慣に対抗するには、毎日9000~1万歩歩くのが最適だという結果を提出しています。
これにより座りっぱなしの人たちは、死亡リスクが39%、CVD発症リスクが21%も低下したのです。

また、1日4000歩~4500歩程度でもある程度の効果が見られ、これらの運動で上記の50%のメリットが得られることも分かりました。
ちなみに、座り時間が短い人でも、同様の運動により、死亡率やCVD発症リスクを低下させられることが分かっています。
この研究により、「健康になるための近道はない」ことが分かりました。
もし自分が座りっぱなしだという自覚があるのであれば、毎日9000~1万歩を目指すべきです。
これは、毎日1時間40分歩くことを意味します。
たとえ、これだけの時間歩くのが難しいとしても、毎日1時間でも歩けるよう通勤方法などを工夫できるかもしれません。
それだけでも確かな効果はあります。
さっそく今日から、「歩く」ことを意識してみませんか。
参考文献
Study Reveals The Optimal Number of Daily Steps to Offset Sitting Down
https://www.sciencealert.com/study-reveals-the-optimal-number-of-daily-steps-to-offset-sitting-down
元論文
Do the associations of daily steps with mortality and incident cardiovascular disease differ by sedentary time levels? A device-based cohort study
https://doi.org/10.1136/bjsports-2023-107221
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部