バンダイナムコエクスぺリエンスが展開するプロジェクト「ポラポリポスポ」。本格バンドサウンド×生演奏で魅力的なキャラクターたちがその“生き様”を表現するこのプロジェクトが、“準備期間”を経て新たなフェーズへと突入する。そこで音楽ナタリーでは、プロジェクトに関わるプロデューサーや作家、アーティストたちにフォーカスした特集を展開。前半はプロジェクトの中心人物であるプロデューサーの福田未和、音楽プロデューサーの濱田織人、楽曲制作を手がけるベーシストの徳永暁人によるインタビューを、後半ではモーションアクターとして参加するヒダカトオル(THE STARBEMS)、柳原和也のコメントをお届けし、「ポラポリポスポ」とは何か?を音楽軸で掘り下げていく。
さらに特集の最後にはプロジェクトに関わるFender、ローランド、バンダイナムコエクスペリエンスのトップが「ポラポリポスポ」の取り組みについて語るインタビュー動画も公開中。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 山崎玲士
バンダイナムコエクスぺリエンスが展開するCGバンドプロジェクト。2023年に2次元世界のスターが目の前でライブをするイベント「CG STAR LIVE」の派生プロジェクトとして始動した。
登場バンドは3ピースロックバンドのWAKAZOと、5人組ポップロックバンドchirp×chirp。横浜を舞台に、それぞれの“夢”の実現を目指して音楽活動を展開する2バンドの物語が、「中学時代」「アカデミー時代」「現代」という3つの時間軸で展開される。YouTubeを中心にミュージックビデオやボイスドラマを公開し、各バンドの音楽をリアルアーティスト同様に発信していく。
なお、単なるメディアミックスプロジェクトにとどまらず、各キャラクターたちの魅力を最大限に引き出すため、プロジェクトには多くのプロフェッショナルが参加。ほとんどの楽曲をB’zやZARDの楽曲制作に携わる徳永暁人(doa)が手がけ、演奏およびモーションアクターには音楽シーンの第一線で活躍するアーティストたちが起用されている。さらにモーションアクターたちが撮影で���奏する楽器は、Fender、ローランドの協力を得て特別に開発されたもの。サウンド面でも徹底的にこだわる本格“音楽プロジェクト”だ。
KYOSUK(Vo, G / CV:武内駿輔)、SO(Vo, B / CV:律可)、AKARI(Dr / CV:川島零士)の王道ロックバンド。作曲はSO、作詞はKYOSUKが担当し、ツインボーカルも務める。まっすぐで清涼感のあるサウンドが特徴。中学時代からの仲良しトリオで、強い絆と信頼関係で結ばれている。

──まずはお三方の役割を教えてください。
福田未和 「ポラポリポスポ」プロジェクトの総合プロデューサーをしている、バンダイナムコエクスペリエンスの福田と申します。
濱田織人 ベーシストで音楽プロデューサーの濱田織人です。このプロジェクトでは音楽のプロデュースと、いろんな技術者さんとの技術開発の部分も一緒にやらせていただいています。
徳永暁人 作編曲家、ベーシスト、ボーカリストの徳永暁人です。今回のプロジェクトのほとんどの楽曲を書かせていただいていまして、WAKAZOの曲に関してはアレンジとベース演奏も担当しています。
福田 モーションアクターも(笑)。
徳永 そうです。「やらせて!」ってお願いしました(笑)。この取材のあとにモーションの撮影があるんで、今もこうしてボディスーツを着ていますけど。

徳永暁人
──そもそもこのプロジェクトはどのように始まったものなんですか?
福田 もともとはバンダイナムコで「CG STAR LIVE」というCGキャラクターのライブコンテンツをやっていたんです。お客様からも大変好評だったんですが、コロナ禍に入ってリアルイベントができなくなり、その一方で世の中ではバーチャルライブが非常に流行りました。「このまま終わってしまうのはもったいない」ということで、バンドの新規キャラクターを作るところから始まったのがこのプロジェクトです。

福田未和
濱田 その話を福田さんからもらって、僕も混ぜていただくことになりました。そのときに僕が自分で曲を作る選択肢ももちろん浮かんだんですけど、音楽プロデューサーとして音楽面だけに特化するというよりは、もうちょっと福田さん寄りで全体を考えなきゃいけない立場だなと思ったんですね。そこでソングライターは別にいてくれたほうがいいという判断で、徳永さんにお声がけしました。
徳永 僕はこのプロジェクトが始まるちょい前ぐらいに織人くんと知り合ったんですけど、たまたまそのタイミングで思い出してもらえたみたいで(笑)。
濱田 これは拡張性の高いプロジェクトだなと直感的に思ったんで、1人で抱え込むよりはチームで作り上げたほうが、きっと音楽業界的にもインパクトの大きなものになるだろうと考えまして。

濱田織人
徳永 そういう熱いプレゼンを受けて、すっかりノックアウトされました。「ぜひぜひやらせてください!」という形で入れてもらい……。
福田 今に至る(笑)。最初は技術研究から始めました。当時は“CGキャラクターが楽器を弾く”って、まだ世の中の誰もやったことがないものだったので、まず技術的に可能なのかというところからですね。ただ、最初はことごとく「“歌って踊る”まではできる。楽器は弾けません」といろんな開発会社さんに断られたんです。
濱田 技術的には本当に難しいんですよ。人物と楽器の位置を違和感なく合わせるだけでも相当難易度が高い。ましてそれが動くとなると余計ですよね。
福田 「こんなにできないものなんだ?」と途方に暮れていたところに、唯一ユークスさんだけが「できるかもしれない」と言ってくれたんです。そこからいろんな人が集まって、Fenderさんやローランドさんにモーキャプ専用の楽器を開発していただけることにもなり、ようやくキャラクターがリアルに楽器を生演奏することができるようになった。やっと今、スタートラインに立ったところ、という感じです。

CGキャラクター制作風景
──CGキャラクターが楽器を弾く、しかもリアルタイムのモーションキャプチャーでそれができるというのが本コンテンツの肝になっているわけですよね。
福田 はい。モーションキャプチャーで動くCGキャラクターが楽器を弾くコンテンツはこれまでにもあったと思うんですけど、たいていは楽器を弾いている演技をして、あとからアニメーターさんが細部を修正することで“弾いてる映像”に仕上げているんです。それってすごく手間も時間もかかる作業なのに、ミュージシャンの方々から見ると、違和感のある映像になりがちでした。膨大なコストをかけているのに“本物”にならない……!
濱田 鳴っているフレーズに指が追いついていなかったり、クラッシュシンバルのタイミングでドラマーが全然違うとこを叩いていたり……もちろんリアルとアニメーションは違う表現なので、そこにズレが生じるのは仕方ないものなんです。それは頭ではわかってるんだけど、心のどこかで違和感が否めないというのは正直ありましたね。

CGキャラクター制作風景
福田 どうやったらキャラクターたちが本当のバンドになるかを考えて、「実際に楽器を弾ける人にモーションを担当してもらえばいいのでは?」と仮説を立てました。そして、本当に楽器を弾ける人にモーションを頼むのであれば、使う楽器も本当に音が出て、演奏できる“楽器”である必要があって……というのも、それっぽい動きをキャプチャーするだけなら音が出なくてもいいし、なんなら楽器っぽい形さえしていれば十分なんです。でもミュージシャンの方々にお願いするからには、楽器がちゃんとしてないと、私たちの目指す“本物の演奏シーン”にはならないと思っています。
徳永 このプロジェクトのすごいところは、“中の人”のプレイスタイルまで反映されちゃうところです。体の姿勢とかギターを持つ角度とか、その人のクセや個性がそのまま出る。「ゼロエディットモーションキャプチャー」という名称のとおり、作為的にエディットして作られる映像じゃないんですよ。本当にライブでやるものが映像になるということで、時代を変えるぐらいの画期的な技術なんじゃないかと思いますね。

スタジオに設けられたチェック用モニタ。

スタジオに設けられたチェック用モニタ。
──“「ポラポリ」以前・以後”みたいな。
福田 そうそうそう(笑)。そうなったらうれしい。
濱田 僕らとしてはそのくらいの心意気でやっています。
徳永 本当にね。音楽史に残るぐらいのインパクトを起こせるんじゃないかな。
福田 「その時、時代が変わった」(笑)。

左から徳永暁人、福田未和、濱田織人。
──“本物の演奏シーン”を目指したとお話ししているように、やはり音楽ファンに訴求していきたいコンテンツになるわけですよね。
福田 そうですね、その通りです。
──ただ、こういう2次元コンテンツに親しみのない層からすると、テレビアニメでもなくゲームでもない本プロジェクトは概念からしてつかみづらいかもしれません。「要するにこれはなんなの?」と聞かれた場合、どのように答えますか?
福田 “本当のバンド”として接してもらえたらいいなと思っています。見た目がキャラクターなだけで、楽曲にはちゃんと彼らの生き様を込めています。ミュージシャンを好きになるように彼らを好きになってくれたら一番うれしいです。
濱田 それこそ“「ポラポリ」以前・以後”じゃないですけど、これをきっかけに2次元と3次元の境界が溶けてしまえばいいと思っています。今回、Fenderさんやローランドさんに楽器の開発をお願いしていることは、その点でも意義があると思うんですよ。好きなバンドのギタリストがどこのギターを使っているかって、音楽ファンなら興味あるじゃないですか。それと同じ見方をプロジェクトに登場するWAKAZOやchirp×chirpにもしてもらいたいし、それが「Fender」であり「ローランド」であるというのはインパクトが大きいですから。

「ポラポリポスポ」収録で使用されているベース。
福田 コンテンツに登場するギターやベースのヘッドに「Fender」のロゴが入っているのは珍しいと思います。私たちのは正真正銘のオフィシャルです!
徳永 だから作曲担当の僕としても、いわゆるアニソンのようなアニメ作品の世界観に寄せていく作り方とはまったく違うスタンスで、WAKAZOやchirp×chirpという“実在するバンド”に楽曲提供するつもりでやろうと。これまでの音楽系アニメなどとは、またちょっと違うフェーズに入っている感覚がありますね。
福田 「ポラポリ」が描いている物語は、彼らがバンドを始めるきっかけ、バンドとして成長する過程、そして今どんな音楽をやっているか……という流れに沿っているんです。だからこそ、楽曲では「そういう子たちが実際にどんな音を作るのか」というところをリアルに表現したい。

「ポラポリポスポ」収録スタジオの様子。

「ポラポリポスポ」収録スタジオの様子。
徳永 キャラクターがみんな完璧な人間じゃなくて、どこか足りない人たちなんですね。そんな彼らが「なんで音楽をやるのか」「なんでバンドなのか」をすごく突き詰めて考えている。そこに僕も共鳴した部分があったので、このプロジェクトの楽曲に関しては「詞先でやりませんか」と提案させてもらいました。作業的にはもちろん曲先のほうがラクなんですけど、彼らの“本気”を表現するために、あえて詞先というスタイルをとらせてもらって。それがうまくハマって、いい曲ができているなと思ってます。
福田・濱田 うんうんうん。
徳永 わりと挑戦的なやり方だとは思うんですけど、福田さんも織人くんもそこをちゃんとわかってくれる人なんですよ。作業効率とかじゃなくて、WAKAZOやchirp×chirpの表現としてふさわしいかどうかを第一に見てくれる。きっとお二人も音楽に助けられてきた人たちなんだろうなと感じたし、目指す方向が一緒だなと。

「ポラポリポスポ」収録で使用されているドラム。
濱田 僕は音楽プロデューサーという立場なので、それこそ効率を考えて勝手知ったる人たちばかりを集めて滞りなく進めるやり方も、選ぼうと思えば選べたんです。もちろんプロジェクトによってはそのやり方が望ましい場合もあるんだけど、今回に関しては常に新しいものに挑むことが前提になるので、ちゃんと腹の底から意見を戦わせることができる人じゃないといけなかった。流れをストップしてでもおかしいことはおかしいと言える人じゃないと、クオリティに直接影響するなと思っていて。そんな中、ちょうどいいタイミングで徳永さんと出会えてしまい(笑)。
徳永 ははは。
濱田 それは非常にラッキーでしたね。このプロセス自体がバンドっぽいというか。
福田 そうなんですよ! この3人でもバンドを名乗っていこう(笑)。
濱田 バンド名考えましょうか(笑)。
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──このプロジェクトをやっていて、一番楽しいのはどういうところですか?
徳永 このプロジェクトって、全員が未来しか見ていないんです。モーキャプの技術にしても、さっき福田さんが「やっとスタートラインに立ったところ」と言っていたように、まだまだ全然100点ではない。体にマーカーを1個付けるだけでも「こっちがいいですかね? それだと楽器が弾きづらくなるかな」とか毎回、細かく話し合うんですよ。そうやって僕らも1個1個成長していくし、物語の中のバンドも成長していくし、技術も成長していく。いい大人が一緒になって成長していけていることが僕は一番楽しいです。
濱田 年齢を重ねて、ある程度「やったことがないものはない」くらいになってきていたところに、いいタイミングでお声がけいただいたなと思っていて。音楽業界的にもずっと閉塞感のようなものが続いている中で、これはひとつのブレイクスルーになり得ると思うんです。世界で初めてエレキギターやシンセサイザーができたとき、そこで音楽史のパラダイムが変わったわけじゃないですか。それと一緒で、この「ポラポリ」の技術もいずれ“珍しいもの”ではなくなっていくはずだと考えています。その瞬間に当事者として立ち会えている喜びは日々感じていますね。

「ポラポリポスポ」収録時の様子。
福田 私は単純に、最初は妄想でしかなかったものが、次々に現実になっていっていることが毎日楽しいです。このプロジェクトは、楽しさしかない!
濱田 この技術を早く海外に見せたいなと思っています。今向こうでチャレンジングなことをしている最先端のトップミュージシャンたち、絶対に食いつくと思うんですよ。
徳永 WAKAZOとchirp×chirpを海外のフェスで演奏させたいですよね。
福田 させたーい!
徳永 そのときはぜひ僕もモーション係で(笑)。
濱田 もちろんでございます(笑)。大きなことを言っているように思われるかもしれませんが、これだけの技術を持っているのはたぶんここしかないんで、僕らとしてはけっこう地に足のついたことを言っているつもりなんです。もちろんWAKAZOやchirp×chirpでコーチェラとかのステージに立てたら最高ですけど、仮にキャラクターとして立てなくても、この技術でそこに関わることは全然夢ではないと思っていて。
福田 このプロジェクトの発足当初から、世界は視野に入れていたんです。キャラクターと技術とセットで、日本から世界を変えていけたらすごくいいなと思っています。
濱田 この記事を読んで「その技術、自分たちのプロジェクトで使ってみたい」とか「自分も開発に参加したい」と思った方がもしおられましたら、ご連絡お待ちしています!
福田 一緒に世界を変えましょう!

左から徳永暁人、福田未和、濱田織人。
🧠 編集部の感想:
「ポラポリポスポ」の新展開には、本格的な音楽プロジェクトとしての意欲が感じられ、CGキャラクターがリアルな演奏をする技術には驚かされます。各プロフェッショナルの協力が色濃く反映されており、音楽ファンにとっても新たな楽しみとなるでしょう。次元を超えたバンドとして、未来の音楽シーンに大きな影響を与えることが期待されます。
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