トランプ関税が二転三転している。
今後、もしアメリカで売れているトヨタやホンダに対して「競争を促進したいから、両社が持つハイブリッドの知的財産権をフォードやGM、クライスラーに開放しろ」とトランプ大統領が言い始めたら、どうなるだろうか。こんな非常識、さすがに自動車メーカーだけでなく、日本政府も納得はしないはずだ。
いま、似たような暴論が日本のスマホ市場でまかり通ろうとしている。年内に施行される“スマホ新法”に向けて知的財産権が脅かされそうになっているのだ。
スマホ新法とは「スマホソフトウェア競争促進法」のことであり、アップルと子会社のiTunes、グーグルの3社が対象となっている。3社に対して、スマートフォンのOS上での競争を促進するともに、スマホアプリの配信や決済などで他社の参入を阻害することが禁じられる。
同様の法律は、すでに欧州でDMA(デジタル市場法)として施行されている。しかし、アップル以外の事業者がアプリストアを開設できる、いわゆる「サイドローディング」が認められたことで、ポルノアプリがiPhoneに流通するようになるなどの問題点が早くも浮上している。
日本のスマホ新法においては、DMAの過ちを日本で犯さぬようにと慎重な議論が進んでいる模様だ。しかし、DMAとは異なる「懸念材料」も垣間見えるようになってきた。
アップルが心配しているのがiOSにおける「機能開放」だ。
iOSで提供されている、さまざまな機能を、第三者も利用できるようにするというものだ。一見すると、他の事業者もiPhoneの機能が使えるようになるため、競争が促進され、ユーザーの利便性も向上するように思われる。確かにすべての事業者が正しく利用すればいいのだが、中には当然のことながら機能を悪用する輩も出てくる。
iPhone上で扱われるユーザーのプライバシーが脅かされる可能性がゼロではないのだ。
DMAでも機能開放を求めているのだが、考え方としては「アップルと競争をするため」という目的がしっかりしている。しかし、スマホ新法の場合は機能開放する範囲が広く設定するため、事業者が好き勝手にやれるようになっている。
かつて、コロナがはやり始めた際、「COVID-19接触通知機能」がiOS上で提供された。iPhoneに搭載されたBluetoothなどを使い、コロナに感染した人と過去に近づいたことがあったどうか、ログによってわかるという機能だ。
仮にこうした機能が開放されると、iPhoneのなかにある個人情報を紐付けて、特定の人とどれだけ近づいたかといったアプリも提供することが可能になる。
AirTag関連の機能が開放されれば、ユーザーが大事にしているものを第三者が見つけるといったこともできるかもしれない。
アップルとしては、これまで莫大な投資をして開発してきたiOSのさまざまな機能をなぜ第三者に開放しなくてはいけないのかという忸怩たる思いがあるようだ。
これまでアップルはスティーブ・ジョブズが存命のころから「ユーザーのデータはユーザーのもの」というスタンスを貫き、多くの製品を開発してきた。これが日本の公取委によって、iOSに穴が開けられ、ユーザーのデータが軽視されることに納得がいっていないようだ。
機能開放を実現させる上で、一つの解決策として出始めているのが「カネ」だ。
アップルが培ってきた機能を、第三者が使える代わりに「使用料を支払う」ことで落とし所をつけるというわけだ。
確かに収入が得られることになるアップルにとっても悪い話ではないだろう。ただ、この金額設定もアップルが決められるわけではなく、公正取引委員会が妥当な金額がチェックしていくようだ。
これではアップルとしても金額に泣き寝入りせざるを得ない状況に追い込まれかねない。また、アップルが納得できる金額が実現できたとしても、いずれ数年で第三者から「金額が高すぎる」とクレームが入り、公正取引委員会がしゃしゃり出てきて、金額を引き下げるという流れが目に見えている。
公正取引委員会がアップルに機能開放を迫ることでユーザーのプライバシーが脅かされるとなると、アップルとしては「日本市場では新機能を提供しない」という自衛手段を取らざるを得なくなってくる。
欧州でも、AI関連機能の提供が遅れたといったことがあったが、日本でもiPhoneの新機能を塞ぐといったことも出てきそうだ。
まもなく、アップルの開発者向け会議「WWDC」の季節だが、来年のWWDCでは様々なOSアップデートが発表されたあと「残念ながらこれら機能は日本で提供しません!」なんて宣言が飛び出すことだってあり得るのだ。
それで本当に日本のスマホ市場は活性化されるのだろうか。
🧠 編集部の感想:
スマホ新法は、日本のスマホ市場に新たな競争をもたらす可能性がある一方で、ユーザーのプライバシーを脅かすリスクもはらんでいると思います。特に、Appleの機能開放に関する懸念は、適切な規制の重要性を示しています。この法律が実施されることで、果たして真の意味での市場活性化が達成されるのか、注視が必要です。
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