金曜日, 5月 16, 2025
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−269〜1126℃の間で「熱膨張ゼロの素材」とは?【偶然発見される】


グラスに熱湯を注ぐと割れてしまいます。

これは物体の熱膨張によるものであり、材料の種類によっても膨張の程度には違いがあります。

オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(UNSW)に所属する化学者ニーラジ・シャルマ氏ら研究チームは、-269〜1126℃(4~1400ケルビン)の間で熱膨張ゼロの材料を発見しました。

これまで発見された中で最も熱安定性の高い材料となる可能性があります。

研究の詳細は、5月6日付の科学誌『Chemistry of Materials』に掲載されました。

目次

  • -269〜1126℃の間で熱膨張しない新材料
  • 熱膨張ゼロの材料は、航空宇宙工学や医療インプラントに役立つかも!

-269〜1126℃の間で熱膨張しない新材料

新材料「Sc 1.5 Al 0.5 W 3 O 12」 / Credit:ANSTO News(Youtube)_Advanced material has zero thermal expansion(2021)

新しい材料「Sc 1.5 Al 0.5 W 3 O 12」は、スカンジウムアルミニウムタングステン酸素で構成されています。

当初研究チームは、バッテリー関係の研究を行うためにそれらを扱っていました。

ところが偶然にも安定する組成を発見。しかもそれは「非常に熱膨張しにくい」という性質があったのです。

そこでチームは、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)の解析装置を利用することにしました。

その結果、「Sc 1.5 Al 0.5 W 3 O 12」は、-269〜1126℃の間で熱膨張ゼロだと分かりました。

これは絶対零度に近い環境でも、マッハ5で飛行する超音速航空機に加わる熱を受けたとしても、全く同じ体積を維持しているということです。

これまでに発見された最も熱的に安定した材料の1つだと言えるでしょう。

熱膨張ゼロの材料は、航空宇宙工学や医療インプラントに役立つかも!

新材料は航空宇宙工学に役立つかもしれない
新材料は航空宇宙工学に役立つかもしれない / Credit:Depositphotos

通常、材料は温度の上昇に応じて膨張します。

それは温度の上昇が、原子結合の長さの増加に直結するからです。

さらに温度上昇が原子を回転させ、構造が変化する場合もあります。

ところがこの材料では、温度が上昇しても「結合」「酸素原子の位置」「原子配列の回転」にはわずかな変化しか見られません。

研究チームによると、この熱安定性の正確なメカニズムは完全には解明されていないとのこと。

しかし、「おそらく結合の長さ、角度、酸素原子の位置が互いに協調して変化し、全体の体積を維持している」と予測しています。

この材料は、将来的に航空宇宙工学の分野で役立つかもしれません。

スペースシャトルは打ち上げ時や大気圏再突入時、また宇宙空間で極度の熱と寒さにさらされるため、熱膨張ゼロの材料が大きな助けになるのです。

また医療用インプラントのように、温度変化の範囲は少ないものの、わずかな熱膨張で重大な問題を引き起こすケースでも重宝されます。

「Sc 1.5 Al 0.5 W 3 O 12」は、さらなる研究が進められており、大規模製造に向けた製造方法やコスト削減法が検討されています。

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参考文献

Extraordinary new material shows zero heat expansion from 4 to 1,400 K
https://newatlas.com/materials/thermally-stable-zte-advanced-material/

元論文

Sc1.5Al0.5W3O12 Exhibits Zero Thermal Expansion between 4 and 1400 K
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.1c01007

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部



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🧠 編集部の感想:
この「熱膨張ゼロの素材」の発見は、航空宇宙工学や医療分野において革命的な影響を与える可能性を秘めています。特に、極端な温度変化にさらされる環境での安定性は、今後の応用において大きな期待が寄せられます。また、偶然の発見が新しい技術の扉を開くことを改めて実感させられました。

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