JIDで見えた生成AIネイティブ世代の発想力
北島:今年の「JID 2025」はどうだった?
ガチ鈴木:7年目で展示も100社を超え、今回はやはりAI関連企業が多かったですね。その意味でも僕が担当した「スタートアップショーケース 若手、学生起業家編」のピッチはすごく面白かったと思います。若い世代は生成AIを前提に起業を考えているんですよね。サービスを始めるならまず生成AIを組み込む、というのが当たり前になっています。
北島:そうだよね。ただAIを使うサービスというよりも、AIを自然にサービスの一部として組み込まれている感覚が強くなっている。
ガチ鈴木:生成AIが普及したことでサービス実装のハードルが下がり、プロトタイプ作成も容易になっています。JIDのオープニングでも「生成AIを単体で語る段階を越え、誰もが使いやすいユーザーインターフェースとして提供するのが次のフェーズ」と話しましたが、若手起業家はそれを自然にやっていました。
学生ピッチでも一番印象的だったのが「子どもたちの疑問に答える人形を作りたい」というアイデアです。子どもが「なぜなぜ期」に抱く質問に対し、人形というインターフェースを通じて答える仕組みで、すごく素敵だと思いました。発案者の若者は、「人形が話せたら面白いよね」と自然に発想していて、生成AIが当たり前になっているからこそ、チャットボットをイチから開発する必要性を感じないんでしょうね。これから生成AIネイティブの起業家がどんどん増えていくと思います。
北島:既存業務をDX化するサービスが多い中で、こうした発想は本当に新鮮。「日本は技術があってもプロダクト化が苦手」と言われるけど、若い世代が技術をショートカットしてサービスを先にイメージできる思考を持っているのは楽しみだよね。
熱気あふれる大学発ベンチャーの現場
北島:近年、我々はディープテック系にも注力していて、日々いろいろな方々にお会いしているけれど、ガチさん、最近参加したイベントで特に印象に残ったものってある?
ガチ鈴木:3月13日に東大の本郷キャンパスで開催された、若手研究者向けの研究とビジネスをつなぐイベント「Science Hive 2025」に行ってきました。大学発のベンチャーでも学生たちが中心のイベントで、派手さはないけど、すごく熱気がありましたね。参加者のほとんどが研究主体で、いわゆるスタートアップ界隈とは少し違う雰囲気でした。ビジネスと結びつけるというところで参加者は企業の方もいましたが、学部生や院生など研究に専念している方々が圧倒的に多かったですね。
北島:なるほどね。積極的に事業化したいっていうより、研究を続けるためにビジネスの要素も考えているってことかな。それでも、そういう若者がこういうイベントに関わっている時点で成功と言えるかもしれないね。
ガチ鈴木:確かに、そのあたりはすごく感じましたね。
北島:こういうイベントを通じて支援者とつながって、参加者の中からひとりでも研究をビジネスに活かして社会を変えたいと思う人が出てきたら最高だね。ちなみに、ピッチ登壇者の中で特に印象に残った企業や人はいた?
ガチ鈴木:いましたよ。ピッチはバイオやヘルステック関連が多かったんですが、東京科学大学の千葉のどかさんの発表が特に面白かったです。「腸内細菌を調べて、その人に合った美味しい食事を提案する」という仕組みで、クラウドファンディングもしているんです。
北島:目標金額も達成しているね。でもスケジュールを見ると2027年に「個別最適食のサービス化」ってあるから、今はまだ研究段階ってことかな?
ガチ鈴木:そうですね。ピッチの10分間では研究がどの程度進んでいるかまではわからなかったですけど、クラウドファンディングをしているくらいなので意欲は感じました。最終的にはBtoBtoCになると思います。例えば、コンビニと提携してお弁当を開発する、とかそんなイメージですかね。
ディープテックを支える新たなエコシステムの必要性
ガチ鈴木:ちなみに、このイベントにシード投資家のTHE SEEDが協賛していたんですよ。
北島:IT系の出資が多いイメージだけど、ディープテックにも興味を持っているのかな?
ガチ鈴木:ディープテックは時間軸も長く、既存のVCが投資するのはやっぱり難しいと言われる中、興味をもつところは多いみたいです。
北島:大学発ベンチャーはIPは持っているけど活用しきれていない。資金だけじゃなくて、必要な支援をどうするかとか、既存VCのノウハウ拡充も課題だね。ディープテックはもっと盛り上がるべきだけど、支援体制が足りていないのは確かだね。
ガチ鈴木:そうですね。全国の自治体や大学のエコシステムを取材していると、地域ごとの支援体制の差を感じることが多いです。イベントでもディープテック、大学発のセッションも増えてきています。ただ制度や取り組みは多くなって、関わるプレーヤーも増えている中で、大学発ベンチャーを成功させるには、まず支援者層をアップデート、成長していく必要がありそうですね。
北島:今期はASCII STARTUPでもディープテックのイベントを企画しているけど、現状から考えられる一つの方向性はどう思う?
ガチ鈴木:ディープテックそのものより、支援者、サポーターを含めて業界全体を底上げするイベントにしていきたいですね。
北島:ディープテックの支援者のための目線だね。もちろん、研究開発系スタートアップの楽しさ、おもしろさも紹介しつつ、サポーターの皆さんにとっても学びが多いカンファレンスを提供できるといいね。(9月にディープテック関連の新規イベントを開催する予定です。ご期待ください!)